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1話 プロローグ 1

全てはここから始まります。

よろしくお願いします。



 ここは、北関東にある、とあるキャンプ場。


 11月、という普通のキャンプには向かない季節にも関わらず、キャンプ場の片隅にある4人用のコテージの前で、キャンプ用の調理器具やテーブル等を嬉々として準備している男。


 相田誠人、通称ナベ、27歳。


 ボードウェアの上着を防寒具として持ってきたのであろうか、椅子の上に放り出したまま、手際よく準備を進めている。

 一見、気の良いアウトドアフリークだが、こう見えて普段の仕事は刑事であり、キャリア組として警視庁に勤務している。

 もうすでに、この仕事に就いて4年目の半ばを過ぎた。

『新人だから、若いから』という類の言い訳が出来なくなってきているからだろうか、最近は仕事が圧し掛かってくる様な錯覚を覚えることがある。


 そんな、ナベのストレスの解消法として、圧倒的に優先度が高いモノ、それがこういった自然の中で、ゆったりしたキャンプに来ることなのであった。

 バーベキューグリルに火を熾し、仕込みの終わった豚バラ(バックリブ)を放り込み、蓋をして一息吐きながら缶ビールを開け、ゆったりと椅子に座って煙草に火を点ける。

 周りの景色を見渡しながら、一服した煙を燻らせお気に入りのビールを一口。


「至福の時間、ってやつだな・・・」


 ナベはしみじみとそう思い、湧き出してくるように笑みを浮かべながら、無意識につぶやいていた。


 それにしても、さっきバーベキューグリルに入れた肉の量は、圧巻であった。

 仕込んだ肉の量が、普段の四倍ぐらいになっていたのである。

 いつもなら、バーベキューグリル一つあれば調理道具なんぞというモノは、それだけで事足りるはずなのだが、今回のキャンプはいつもと違っていた。

 見たことも無いほどの、大荷物になっていたのである。

 そもそも、ナベにとっての息抜きキャンプとは、ソロのデイキャンプの事を言うはずだった。

 それが、どうしてこんな事になったのか?


 実は、今回のキャンプは、久しぶりの“友人三人連れ、飲み明かそう”キャンプなのである。

 今ここには居ない、都内で同じ寮に住んでる、古くからの友人達。

 その内の一人は、このキャンプ場からさほど遠くない山の中で、とあるワークショップの真っ最中だった。


 ---


 キャンプ場から車で10分ほど走った山林に彼は居た。


 斎藤芳俊、通称トシ、27歳。


 三度目(・・・)の大学生活を楽しむ学生である彼は、午前中からナベとは別行動を取り、趣味に勤しんでいたのである。

 最初の大学生活でFXを皮切りに、株も含めて相場にのめり込みつつ何とか無事に一財産築いた、ある意味で自活(・・)している学生であった。

 その金で、トシは都内に寮を経営している、と言っても古い友人同士で、勝手気ままに暮らせる環境が欲しかった、という程度の理由だが、実際の寮そのものは、トシの凝り性ゆえか、非常に快適なものとなり、寮の仲間内での評判は高い。

 そして、今はエンジンチェーンソーという物騒なモノを両手に握りしめ、それなりの大きさの大木の根元に、切り込みを入れている真っ最中だ。

 もちろんだが、トシ一人で林業もどきをやっている訳ではない。

 周囲には、彼を含めて二十人程の人影が、同じように大木の伐採に勤しんでいる。


 彼らは、『たたら製鉄復興体験会』と称するワークショップのメンバーであった。

 その、製鉄と木々の伐採作業の関係だが、製鉄用の木炭確保のためという、実に現実的で切実な理由が存在している。

 メンバー全員分の材料を自分達の手で伐採しているが、よくよく数えてみると、製鉄作業より伐採作業の方が回数が多かったりする。

 その辺り、昔ながらの方法の再現度は無駄に高いのである。

 今回は、今年最後の伐採会であり、今回の分を含めて全量を炭にして、来年の3月から始まる製鉄作業に備えるのだ。

 そんな、一見製鉄とは無関係に見える重労働も、今回でひとまず完了であり、それぞれに達成感を感じつつ作業に励んでいる。


 お昼を過ぎて、午前の伐採作業が終わり昼休みとなった。

 三々五々、主催者の用意したイベント用テントにメンバーが入ってくる。

 ここは、椅子付きの休憩スペースとして用意され、今は昼食の用意が整っていた。


「皆さん、良い時間になりましたのでお昼にしましょう。」


 主催者側から声を掛けられ、メンバーが席に着いていく。

 年齢もバラバラで、女性も数人混じっている。

 仕出しの弁当と出来たての豚汁を受け取り、トシは


(今回の製鉄量はどのぐらいイケるかな〜?、前回の採れ高よりは多く出来るとうれしいよな〜、、、)


 等と、希望に胸を膨らませつつ、皮算用の算盤を弾いていた。

 すると、顔見知りの男が声をかけてくる。


「いや〜、山の気温だと、豚汁がホントに有難いですねぇ〜」


 前回も一緒だった、同年代の男性だ。

 確か地元からの参加者で、坂上とか言ったかな?

 一瞬の遅れと共に名字を思い出し、掛けられた声に応える。


「都内だとまだそうでもないんですが、山の上はやっぱり寒いですねえ。寒さが本格的になってきてますよ。」


 トシも苦笑いを交えつつ感想を述べ、豚汁をすすり始める。

 そのまま雑談を楽しみながら昼休みは進んでいく。


(午後の作業で、あと五本か六本ぐらい倒せれば、今回の作業も終わりだなぁ・・・)


 そんな事を思いつつ、トシは他の参加者との会話で盛り上がっていった。


 昼休みも終わり、時間的には一時半過ぎといった辺りで休憩場所のテントを後にし、午後の伐採作業を再開するため作業場所へと向かう。

 主催者から印をつけられた六本の木に向かって、他のメンバーもそれぞれ歩き始める。


(帰りは、またあいつに迎えに来てもらわないとなあ・・・。終わりが見えたら、連絡入れよう。)


 トシは帰りの段取りを考えながら、エンジンチェーンソーのスターターを引いていた。


 ---


 日が傾き始めた頃、キャンプ場に向かう県道を、ゆったりと走るクロカンタイプのステーションワゴン。

 アウトドアショップの袋がいくつか積まれた車内で、男が一人、運転に没頭している。


 竜沢弘樹、通称タツヒロ、26歳。


 ナベ、トシと一緒に今回のキャンプにやってきた医者の卵で、現在はインターンの真っ最中。

 山に行くということで、もし猟が可能なところが近くにあるなら、と愛用のアーチェリーと共に久しぶりのキャンプ参加である。

 トシを乗せて、ワークショップの開催場所まで送っていったあと、山を降りて、県庁所在地のアウトドアショップまで買い物に行った帰りだった。


(こんなに寒くなるなんて、全然聞いてねえよ・・・)


 一人、心の中で愚痴を吐く。

 ナベにキャンプの話を聞き、トシも行く予定だった事から、何とか休みの都合をつけて参加してみたのだが、11月のキャンプというのは生まれて初めてで、その“見ると聞くとじゃ大違いな現実”に、色々と対応を余儀なくされていたのだ。


 幸いにも、県庁所在地まで車で40分ぐらいだったので、そこの駅前まで戻り、(タツヒロに取っては当たり前の行動である)ナンパ(・・・)を開始し、三人目で成功。

 アウトドアショップに案内して貰い、一通りの買い物を済ませた後、昼食を共に楽しむ。

 その後、しばらくその辺をぶらついてデートらしきモノを楽しんで、ついさっき駅前でその娘とは別れた。

 なかなか可愛い娘で、連絡先を貰って別れているが、登録はまだしてない。


(今回はパスかなあ・・・、都内からじゃちょっと遠いしなぁ・・・)


 ちょっともったいないかな?などと考えつつ、買い物に来る途中で目星を付けておいたドラッグストアまで戻って車を停める。

 指定のモノと合わせて、好きな飲み物を買ってきてくれと頼まれていたので、三人分の飲料関係を買いに来たのだ。

 余ってもどうせ寮に持って帰れば同じ事か、などと考え、どう考えても多過ぎる量を次々とカゴの中に放り込んでいく。

 寮への備蓄品をも補給しようと目論んでいるのが、見え見えなカゴの中身になっていた。

 それこそ備蓄用の食料品からタバコの果てまで、買ったものでパンパンになった袋を五つ、カートに積み込んでタツヒロは駐車場に向かう。

 車に買い込んだ荷物を全て詰め込むと、そのまま車で一服を始める。

 どうやら、ちょっと休憩でも、ということだった。

 が、二本目に火を点けようとした時、トシから連絡が入る。


『伐採、残り1本 あと3~40分ぐらいで合流可能』


 メールの文面を見て、タツヒロはエンジンを掛ける。

 ここからなら、およそ30分ぐらいで、午前中にトシを降ろした場所に行けたはずだ。


『了解、こっちも買い物完了 さっきの場所まで向かう 30分ぐらいかな?』


 メールに返信を出し、二本目に火を点けてからドラッグストアの駐車場を出る。

 一路、午前中に別れた場所へ向かった。



20170603:前書きの内容を変更しました。ずっと公開当時のままでした。校正が行き届かず失礼致しました。

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