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ひねり~自殺志願者殺害計画~  作者: 愚童不持斎
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4 狼少女達の奔走

 ――迎えた昼休み。

 私達は再び部室に集まっていた。

 ホノ先輩は友達と昼食だそうで、この場には来なかった。まあ昼休みは人も多いし、友達と一緒なら大丈夫だろう。

 私達はあれから、授業の合間の休み時間までフルに使って、できる限り話を広めた。

 その結果は――。

「いやー、面白いくらい全く信用されなかったねー」

 いっきが笑いながら言う。

 ――そう、私達の話は誰からも信用されなかった。特に教師には。それどころか説教されそうになって、逃げ出さなきゃならない始末だ。

「笑いごとじゃないよ、いっき……」

 私はため息をついた。

「さすが狼少女の巣窟、探偵部ね」

 ユイさんが勝ち誇った表情で言う。

「殺人をもくろむ無法者より信用されてないなんて、あんたたちも大概たいがいね。怪文書のほうがまだ信用性があるんじゃない? まあこれも日頃の行い、当然の報いよ」

 心の底から満足そうに語るユイさん。

「……探偵部が信用されない原因に最も貢献していらっしゃるのが、唯さんだと思いますけれど」

 愛子がユイさんを白い目で見ながら言う。

「新聞部の記事は、デマばっかだもんねー」

 そう呟いたいっきを、ユイさんがびしりと指さした。

「いつきち! あんたがなんでもないことをいちいち騒ぎたてて事件と言い張ったり、そのうえ的外れな推理を展開して誤認逮捕を多発させてるせいでしょ!」

 いっきはやれやれとため息をついて、肩をすくめた。

「わかってないなー。真実にたどり着くには、多少の犠牲はつきものなんだよ」

 ……犠牲ばかり出して、真実にたどり着いてないのが問題なんだと思うけど。

「蛙の面に水ね。まあいいわ、そんなことよりあんたたちが無意味に駆けずり回ってる間に、一応倉畑先輩とホノ先輩の経歴をざっと調べといたわよ」

 なんだかんだ言いながら、やる事はやってくれるユイさんが好きだ。

「プロフィールを確かめてみたけど、二人が言ってたことは全部正しかったみたい。ホノ先輩の自殺未遂の件も、二人が恋人同士だったって話も事実よ」

「倉畑先輩ってどんな人なの?」

 私が尋ねると、ユイさんは――。

「詳しく調査しないと私生活まではわからないけど、学校じゃ一応優等生で通ってるわ。そりゃ信用度で言ったら、問題児のあんたたちの分が悪いのは当然ね」

「あの二人、どんなトラブルがあって別れたのかな?」

「それももっと調査しないとわから――」

 私の質問にユイさんが答えかけた時、突然扉がノックされた。

「どうぞー」

 いっきの声に招かれて入ってきたのは、きれいな黒髪を長めに伸ばした女子生徒だった。

「お邪魔します。私、一年七組の倉畑くらはた 寧位ねいっていいます」

 自己紹介によると、どうやら私達と同学年……えっ、『倉畑』?

「えっと、倉畑さんって、もしかして……」

 言いかけた私の言葉に頷く。

「はい、倉畑牧之の妹です。――あ、名字だとお兄ちゃんのことと間違っちゃうので、ネイって呼んでくださいね」

 そう言って笑う。

 顔立ちは大人っぽい美人だが、その表情は子供のような明るさだ。

「それで、あの……お兄ちゃんの例の噂、本当ですか?」

 ネイさんの質問にユイさんが答える。

「ええ、本当よ。でも珍しい人種ね、こんな連中の言うことを真に受けたわけ? それとも『根も葉もない噂を流すな』って苦情?」

「いえ、実は私も心当たりがあって……多分お兄ちゃん、殺害計画の事、本気なんだと思います」

「もしかして、倉畑先輩がホノ先輩を殺そうとする理由を知ってるの?」

 私が訊くと、ネイさんは頷いた。

「二人はもともと恋人同士でしたが、ホノ先輩が浮気したのが原因で別れたんです。お兄ちゃん、それでかなり恨んでました。突然彼女に裏切られた上、そのことを問い詰めたらあっさり捨てられてしまったので……」

 え……そんな事があったんだ。

「そのショックでお兄ちゃん、あれ以来人が変わっちゃって……ホノ先輩をずっと憎み続けてるんです」

「なるほど、それが動機だったのね……」

 呟いて早速メモを取るユイさん。

「探偵部のみなさんは、お兄ちゃんの計画を阻止するつもりなんですよね?」

 そこでいっきが胸を張る。

「もちろん! 探偵部は正義の味方だからね」

 いや、そうでもない気が……。

「自分のことを正義だと思いこんでる悪ほどタチの悪いものはないわよね……」

 ペンを走らせながら、ぼそっと感想を漏らすユイさん。

「それで相談なんですが、殺害計画を止めるのに私も協力したいんです。お兄ちゃんに人殺しなんて絶対させたくないけど、私がいくら説得しても聞く耳をもってくれなくて……このままひとりでお兄ちゃんを止められる自信がないんです」

 ネイさんが今にも泣き出しそうな表情で懇願する。

「望むところだよ! あたしたちもそうしようと、計画を立てたとこだしね」

 いっきが快く請け負う。

 当然、私も愛子も反対する理由はなかった。妹という立場なら、倉畑先輩を説得するのにも効果的なはずだ。

 私はネイさんに、放課後の護衛と説得の件について説明した。

「説得ですか……お兄ちゃんはあれ以来、私と話すことさえ避けるんです。家に帰ってくるのもいつも深夜で……。だけど、今日からつきまとってでも説得してみます」

 いっきはびしりと親指を立てた。

「頼んだよネイちゃん! あ、あたしたちのオペレーションは今日の放課後から開始だからね!」

「わかりました。じゃあ、授業が終わったらまたここに来ますね」

 放課後の再会を約束すると、ネイさんは部室から出て行った。

「――さて、私達はどうしましょう」

 愛子の言葉に私は首をひねる。

「うーん、とりあえずお昼ごはんを食べて教室に帰ろっか。周知作戦は白い目で見られるだけだし」

 その意見を、いっきが全力で否定した。

「あきらめちゃだめだよ! 世間の偏見に負けたら終わりだよ!」

 ――いっきの不屈のメンタルには頭が下がる。私はすでに世間の偏見に負けそうだ。

「そりゃ、いつきちはどのみち日常的に白い目で見られてるから同じだろうけど……」

 ユイさんが呆れ顔で言う。

 結局いっきに背中を押され、私も愛子ももう一度周知作戦に出かけることになった。

 ……どうやら昼食は抜きになりそうだ。

 私達は三人そろって、二年生の教室前廊下で噂を広めた。

 ……正直周りの視線が痛い。

 そして、昼休みもそろそろ終わるという時間。

 いわゆる『世間の偏見』に完全に心が折れてしまった私の前に、ひとりの男子生徒が立ちはだかった。

「おい、例の噂を流しているのはお前らか?」

 私達三人の進路を阻む形で廊下に仁王立ちしたその人は、がっちりした体格でかなり強面の男子生徒だった。

 私は少し戸惑いながら答えた。

「あ――はい。あの、どちらさまですか?」

「俺は張西はりにし がいだ。あんな噂を大々的に流したりして、もしデマなら許さないぜ」

「もしかして、倉畑先輩のお知りあいですか?」

 私の問いに張西先輩は首を振った。

「いや、妹のネイと話している時に一度顔を見ただけだ。だが、根拠のない中傷で他人の名誉を傷付けるのは、許されない悪だ」

「嘘じゃありません、本当です!」

 私が言うと、先輩はあごをなでながら考える様子を見せた。

「……それが本当であれ嘘であれ、どちらかの側が悪人なのは間違いないな。それをはっきりさせるためにも、俺も今回の件を調べよう。もし殺害計画の話がデマだったら、女とはいえ容赦しないぞ」

「お、じゃあいっそ探偵部の捜査に参加したらどうかな、張西先輩?」

 恐れを知らないいっきが、嬉しそうに言う。

「ガイでいい。なら俺も加わって、どっちが悪人か見極めさせてもらおう」

 ……人手が増えるのは助かるけど、正直不安だ。

 私達が改めて自己紹介をしていると、髪を後ろになでつけた男子生徒が近付いてきて、ガイ先輩に話しかけた。

「おいガイ、もう昼休みは終わるぞ。教室に入ろうぜ」

原納はらのか。たまには昼飯くらいつきあえ」

「君が美少女に転生したらね。その時はこっちからお願いするよ」

 この人は、どうやらガイ先輩のクラスメイトらしい。

「で、こちらの美少女達は誰だい?」

 そう言って私達の前までやってくる。

 ――漂う香水の匂い。きれいな顔と肌。

 ……正直、キザすぎる感じがする人だ。身だしなみに過剰に気をつかっているというか……。

「僕は原納はらの 阿久根あくね。よろしく」

 私達も、順番に自己紹介をした。

「ちょうどいい。原納、お前も手伝え」

 ガイ先輩はそう言って、原納先輩に事情を説明した。

「――話はわかったけど、なんで僕までそんな事を手伝わなきゃならないんだ?」

「もしあいつが本当に殺人犯なら、とっとと駆除すべきだからだ。善良な人間として、野放しにはできんだろう」

 しかし原納先輩は――。

「悪いけど断るよ。僕も色々忙しくてね」

「お前は友達や正義のために協力できないって言うのか?」

 ガイ先輩が原納先輩をにらむ。

 ……どうも正義感が過剰に強い人みたいだ。

 だがそんな威圧に慣れているのか、原納先輩はひょいと肩をすくめただけだった。

 それを見ていっきが確認する。

「それじゃ、放課後の護衛と説得には、ガイさんとネイちゃんがゲストで参加ってことでいいかな?」

「ネイちゃん?」

 原納先輩が、最後の名前に反応して聞き返した。

 ガイ先輩がニヤリと笑って言う。

「なるほど、妹も捜査に参加してたのか。――おい原納、お前の好きな子もいるそうだぞ、どうする?」

 ――え、そうなの?

「ま、まあ、顔見せ程度なら僕もちょっとだけ参加してもいいかな」

 わかりやすく態度を変える原納先輩。

 ――と、そこで昼休み終了のチャイムが鳴った。

「じゃあみんな、放課後に探偵部の部室に集合ってことで!」

 いっきの言葉を合図に、私達は教室へ駆け戻るのだった。


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