1 宣戦布告
中等部になって初めてのゴールデンウイークも、とうとう終わりを告げてしまった。
そして、やってきた月曜日の朝。
早めに登校した私は、探偵部の部室に寄っていっきと話をしていた。
「連休明けって嫌だよね。何もかも通常に戻っちゃうって感じで」
私の意見に、いっきも頷いて言った。
「うんうん。通常って、言葉の響きからしてつまらないよね。やっぱ異常が一番だよ」
いや、それはさすがにどうかと思うけど。
私は苦笑して言う。
「あはは……でも、いつも異常だったら、それが通常になっちゃうかもね」
「おっ、なかなかテツガクテキなこと言うねー」
「そんなんじゃなくて、ただの体感だよ」
ここのところ、私のまわりに普通でない事が増えているせいで、なんだかそれらの異常がだんだん通常のように思えてきたところだ。
「ひねりさん、いっき、おはようございます」
控え目なノックと共に入ってきた長い黒髪の少女が、部室の入口でおじぎする。
顔を上げて微笑んだのは、やっぱり愛子だった。
部員の中で丁寧にノックをするのは愛子くらいのものだ。まあ本来それが『通常』なのだが、ノックすらしない異常がはびこると、それが通常としてまかり通ってしまういい例だ。
愛子もテーブルに加え、私達は休暇中にあったことの報告で盛り上がった。
……と、その最中に異常が起きる。扉が再びノックされたのだ。
もうそんなことをする部員はいないはずなのに――。
「はいはい、いつでもどうぞー」
不審に思う私をよそに、ひとかけらの警戒心もなく呼び入れるいっき。
扉を開けて入ってきたのは、学ランを着た男子生徒だった。
――優しそうな顔立ちだが、やつれて顔色が悪い。さらに、なんだかかなり思いつめたような表情をしている。
「あっ、仕事の依頼かな? 殺人事件の解決なら、わが探偵部におまかせだよ!」
相手の様子も気にせず、いっきが冗談を言う。
「それは困るな。だって――」
男は呟いて、弱々しく微笑んだ。
「僕がこれから人を殺すんだから」