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ひねり~自殺志願者殺害計画~  作者: 愚童不持斎
13/20

12 旧校舎の決闘

 翌日の放課後、私達探偵部員はホノ先輩とネイさんをマークするため、大急ぎで二人の教室に直行した。

 人手が必要なので、渋るユイさんもむりやり連行する。

「――ホノ先輩も、もういなくなってますね……」

 教室を覗きながら呟く愛子。

 ここに来る前に見てきたが、ネイさんも既に姿を消していた。

「この早さで来たのにいないってことは、二人とも明らかにあたしたちを避けてるよね」

 いっきの言う通り、意識的に急いで立ち去ったのは間違いないだろう。なにしろ教室内には、いま帰り支度を始めた生徒もいるくらいだ。

 私は少し考えて提案する。

「じゃあ私といっき、愛子とユイさんの二チームに分かれて探そうか」

「そうですね。では私達は一年生の下駄箱を見に行って、ネイさんの靴があるか確認してきます」

 愛子がそう言ったので、私といっきはホノ先輩の方の下駄箱を見に行くことにした。

「――おっ、ホノ先輩の靴があるよ。まだ校内にいるみたいだね。んじゃ、早速捕獲しにいこうか!」

「あ……待って、いっき。ここで待ち伏せしておく必要も――」

 私の言葉が終わるより早く、いっきは駆け出していた。

「――じゃあ私はここにいるね! 何かあったら来て!」

 走り去るいっきに私はそう呼びかけた。

 そしてそのまま、下駄箱の陰に隠れてひたすら待つ。

 ひたすら……。

 ……うーん、なかなか来ないなあ。

 まさかとは思うけど、外には出ずに校舎内で殺人を行うつもりだろうか?

 待つのに退屈した私は、ふと廊下の方を覗いてみた。

 そのまましばらく見張っていると、こちらに向かってくるホノ先輩の姿が見えた。

 だが私と目が合った途端、先輩はいきなり背を向けて逃げ出した。

「えっ――ホノ先輩!」

 予想外の行動に驚いたものの、すぐ我に返って追いかける。

 私は走りながら、ホノ先輩が逃げる理由を考えた。

 ――周りには他の生徒もいたし、姿を見られること自体がまずかったわけではないだろう。

 ならばおそらく、私にそばにいられてはまずい事をこれからするつもりなのだ。

 それも、あわてて逃げなければならないほどの事を。

 ――そんなの、正直言って殺人に関わる行動以外に考えられない。

「先輩、待ってください! 話だけでも――」

 私はそう叫ぶが、ホノ先輩は速度を緩めない。

 スタートから既に差があったため、結局階段前の分岐点ですぐに姿を見失ってしまった。

「先輩はどっちへ――」

「あれ、ひねりちゃん。どうかしたの?」

 キョロキョロする私にそう声をかけてきたのは、ちょうど階段の踊り場に姿を現した原納先輩だった。その後ろにはガイ先輩もいる。

 一階に下りてきた二人に、私は駆け寄って尋ねた。

「あの、ホノ先輩が上に行きませんでしたか?」

 ガイ先輩が首を振って答える。

「いや、来なかった。俺達もあいつを探してる所だ」

「えっ、どうして――?」

「これを見つけたからだ」

 そう言ってガイ先輩は懐から封筒を取り出し、私に手渡した。

 それは、放課後にホノ先輩を旧校舎へ呼び出す内容の手紙だった。

 差出人は書いていないが、文面からしておそらくネイさんだろう。人気のない旧校舎に呼び出すということは、どうやら互いに相手の命を狙っているのを知った上で決着をつけるつもりのようだ。

「あれ、でもガイ先輩、どうしてこの手紙を持ってるんですか?」

「たった今、教室に忘れてあったホノのカバンを調べたらこの手紙が出てきたんだ」

「えっ、もしかして勝手に開けたんですか?」

 無断で女の子のカバンをあさるのは、さすがにどうかと……。

 原納先輩も苦々しい顔をして言う。

「こいつがひとりで勝手にやってたんだよ。まったく、恥を知るべきだね」

大行たいこう細謹さいきんかえりみず、というだろう。大きな正義のためなら、小さな悪は見逃されるべきだ。パトカーも緊急時にはスピード違反に問われんだろう?」

 ……まあ、それで殺人を防いだり真相を暴けるのなら、確かに安いものなのかもしれない。

「そんなことより今は一刻も早くホノを捕まえて問いたださねばならん。お前もくるか?」

 ガイ先輩の誘いに乗って、私も一緒に旧校舎に向かうことにした。二人の殺し合いを止めなければならない以上、ガイ先輩と原納先輩がいた方が心強い。

 私達は校舎内を駆け抜けて上履きのまま外に出ると、最短ルートで旧校舎を目指した。

「……ん、入口に誰かいるな」

 遠くに旧校舎が見える位置までくると、ガイ先輩はそう言って足を止めた。

 私達三人は急いで身を隠すと、入口前の人影が誰なのかこっそりうかがった。

「あれはホノ先輩……ですよね?」

 私が言うと、ガイ先輩も同意した。

「そうだ。間違いない」

 ホノ先輩は旧校舎の扉を開けると、そのまま中に入っていった。

 ――どうやらガイ先輩の手紙は本物だったようだ。だとすると、ネイさんももう来ているのだろうか?

 旧校舎は木造三階建で、外も内もかなりボロくなっている。当然今は使われていないし人も来ないので、標的を殺すのにはもってこいの環境だ。

 私達は見つからないよう少し迂回うかいして旧校舎の裏に回ると、窓から中を覗いて様子を窺った。

「――おっ、ネイちゃんが来たよ」

 建物の角に身を隠して校舎正面を見張っていた原納先輩が、手招きしながら言った。

 私とガイ先輩も駆け寄って、向こうから歩いてくるネイさんの姿を確認した。ネイさんはやはり、そのまま旧校舎に入ったようだ。

「あいつが密会相手か――」

 ガイ先輩が呟く。

 私達三人はその場にしゃがみこみ、相談を始めた。

「で、これからどうする?」

 原納先輩の問いに、ガイ先輩が即答する。

「もちろん突入だ。いつまでもこんなふうにコソコソしているのは性に合わん。密会の証拠となる手紙はもう握っているんだ、このまま押しこんで吐かせればいい」

 ――確かに、慎重に様子を探っている間にどちらかが殺されてしまっては元も子もないし、どのみち突入はしなければならないだろう。

「……そうですね。でも、できれば静かに――可能な限りあの二人に気付かれないように密会現場を押さえましょう」

「いいだろう。何か決定的な密談を聞けるかもしれんしな」

 さいわいガイ先輩はすぐに私の意図を察してくれた。猪突猛進するばかりの人ではないようだ。

 それに、あまり早い段階で私達の存在に気付かれてしまうと、外に逃げ出されて対決場所を変えられたり、思い詰めたネイさんの捨て身の殺人を誘発してしまう可能性もある。

 ここは気付かれることなく迅速に二人の居場所を特定し、それから不意打ちで取り押さえる方がいいだろう。

「ちょうど三階建に対して三人いるな。よし、突入したら各階を一人ずつ分担して捜索するぞ。まず一階は俺が受け持とう」

 ガイ先輩がそう指示すると、続いて原納先輩が言う。

「じゃあ僕は一番上から見て回るよ。ひねりちゃんは二階をお願い」

「わかりました。もしホノ先輩とネイさんを見つけたら、殺人が起きないように隠れて見張っていてください。空振りだった階の人は、すぐにその階へ合流しに向かいましょう」

 私の言葉に、二人は頷いた。

「さて、それじゃ行くぞ」

 ガイ先輩のかけ声を合図に、私達は静かに行動を開始した。

 まず入口付近に人がいないのを確かめ、素早く中に侵入する。

 一階はガイ先輩に任せ、私と原納先輩は途中に人がいないのを確認しながら、足音を立てないよう小走りで廊下の突き当たりにある階段に向かった。

 私はそのまま二階へ行き、捜索を始める。

 ――付近は静まり返っていて、声や音が漏れてくる気配はない。

 私は二人に気付かれないよう、忍び足で慎重に廊下を進んだ。

 耳をそばだてながらそっと教室の様子を窺い、気配を殺して中を調べて回る。念のため掃除用具入れや、トイレの個室まできっちり開けてみた。

 だが結局二階には誰もおらず、私は何の収穫もないまま最後の教室を出た。

「二人は別の階ってことか……」

 この場所は廊下の端っこで、階段はすぐ近くにある突き当たり――つまり、いま教室を背にしている私のすぐ左にある。

 そこから上に行くべきか下に行くべきか迷ったが、とりあえず三階から覗いてみることに決めた。

 私は階段を上がり、そっと三階の廊下を窺った。

「――あ、ひねりちゃん!」

 すると、すぐ近くの教室からひょっこり顔を出した原納先輩と、ちょうど目が合った。

「先輩、三階はどうでしたか? 二階のほうには誰もいませんでした」

 こちらに駆け寄ってきた原納先輩に、私はそう尋ねた。

「こっちも空振りだったよ。てことは――」

「ホノ先輩とネイさんは、一階にいる――ってことですね」

「だね。なら、急いでガイの応援に行かないと」

 私と原納先輩は、音を立てないようにしながら大急ぎで階段を駆け下りた。

 だが一階の踊り場を回ったところで、ガイ先輩と鉢合わせる。

「え、ガイ先輩!? 一階の捜索はどうしたんですか?」

 私は驚いて尋ねた。

「もちろん終わったぞ。だからこうして上に向かっているんだろう」

「えっ……でも、上にも誰もいなかったんですが――」

 私の言葉に、ガイ先輩が声を荒げた。

「なんだと!? じゃあ、ホノとネイは消滅しちまったとでも言うのか?」

 原納先輩がそれに答える。

「――あの二人は、確かにこの旧校舎に入ったはずだよ。それがいなくなってるってことは、消滅したというより、もう出て行ったんじゃないかな」

「なるほど、俺達と入れ違いで出て行ったのか――いや、むしろ俺達が来たせいで逃げたのかもな」

「でも、どうやって逃げたんでしょう?」

 私の疑問に、原納先輩が少し考えて答えた。

「二階と三階からは無理でも、一階からなら廊下の突き当たりの入口とか、教室内の窓とか、どこからでも外に出られるからね。もしこっちの存在に気付かれたら、すぐに窓からでも逃げ出しただろうね」

「あ、そっか。そうですよね……」

 結局、一階から二人に逃げられたと判断した私達は、諦めてそのまま旧校舎の外に出た。

 ガイ先輩が入口に立って、大きな両開きの木製ドアをバタンと閉める。

 ……私はどこか釈然としない気持ちのまま、それを眺めていた。

 ――果たして、このまま当てもなく外を探すのが正しいのだろうか?

 ――本当に、ホノ先輩とネイさんは、いま旧校舎の中にいないのだろうか?

「……あの、やっぱりもう一度、全員一緒に旧校舎の中を調べましょう」

 迷った末に考え直した私は、先輩達にそう訴えた。

「――それはつまり、俺達の捜査など信用ならんということか」

「ちが……」

 否定しかけた私を、ガイ先輩が怒鳴りつける。

「違わん! そうでなければ、再捜査などと言い出さんだろう!」

 私は誤解を解こうと必死に弁解した。

「そうじゃありません。探した場所自体には見落としがなくても、教室を調べている隙にホノ先輩やネイさんが移動したり隠れたりすることもありうるという意味です」

 だがガイ先輩の怒りは収まらなかった。

「要するにこの俺を、すぐ近くを移動している人間二人にすら気付かないほどの鈍感呼ばわりするわけだな。とんでもない侮辱だ。これも正義のためと思って捜査に協力してやっているのに、まさかこんな小娘にコケにされるとはな!」

 なだめ続ける私の言葉も届かず、ガイ先輩は激怒したままこの場から去って行った。

 原納先輩はそれをやれやれといった様子で見送った後、私のほうに顔を向けた。

「ひねりちゃん、どうする? やめるかい?」

「……いえ、行きます」

 私は原納先輩を伴って、再び旧校舎の中に入った。

「校舎のどこかに、隠れやすい場所や死角になりそうなところはなかったですかね……」

 私は半ばひとりごとのように呟く。

 旧校舎はシンプルな造りだし、屋上もないから入れ違いになることなんてまずないはずだけど――。

「二人が隠れられる場所――あっ、そういえば!」

 原納先輩が突然手を打つ。

「僕が三階で最初に調べた教室は、鍵がかかってて入れなかったんだ。後回しにしてそのまま忘れてたけど、もしかしたらそこに潜んでたのかもしれない!」

 そう言って、階段の方へ走り出す。

「ひねりちゃん、行ってみよう!」

 私達は全速力で階段を駆け上がり、三階に向かった。

「――ここだよ」

 原納先輩が親指で示したのは、廊下に出て一番最初の教室だった。

 私は入口にそっと近付き、扉の窓から中を覗いてみた。

 が、山積みの机と椅子にさえぎられて、教室内がよく見えない。

 ――どうやらここは、机と椅子の倉庫にされているらしい。

「短時間でこれだけたくさんの机を積みなおすのは難しいでしょうし、まさかここにはいないと思いますけど……」

 原納先輩も私と同じ考えだったようで、頷いて言った。

「うん、僕もそう思って後回しにしたんだけど――でも、僕達の目を逃れて人間が二人も隠れられるような場所は、ここしかないよ」

 ……確かにその通りだ。私自身ガイ先輩に入れ違いながら逃げられたのではないかと指摘したものの、仮に二階か三階にホノ先輩とネイさんがいたとして、こっそり捜索する私達の存在にいち早く気付いた上に、私達三人の誰の目にもとまらずに上手くすれ違って逃げられたなんてとうてい思えなかった。

 やはり可能性としては、もともと一階で密会していて窓から逃げたか、この教室に鍵をかけて会っていたかくらいしか考えられないだろう。

「わかりました。いずれにしても、この教室は調べておいたほうが良さそうですね」

 私はそう言って、まず教室後方の扉、次に前方の扉を調べてみた。

 だが案の定、どちらにも鍵がかかっている。

「うーん……仮に扉が開いたとしても、机や椅子が隙間なく積んであるし、それをかなり引っ張り出さないと中に入れませんね……」

 私は途方にくれて考えた。

「とりあえず先に他の場所を全部見て回って、それから職員室に鍵を借りに行きましょうか」

 私の案に、原納先輩は首を振った。

「いや、それは余計な手間だよ。このさい扉を壊そう。他の場所を探すにしても、ここに二人が入ってないかどうかはっきりさせたほうがいい。――ひょっとしたらまだ中に隠れてるかもしれないし」

 そう言って原納先輩は、扉から少し距離をとった。

 そこから助走して、扉を教室内の机ごと思いきり蹴倒す。

 積んであった机と椅子は、勢いよく倒壊した。

「よし、入ろう!」

 ――と先輩は叫んだものの、入口付近は倒れた机などで足の踏み場もなかった。

 私達はまず、外れた扉と邪魔な机を廊下に引きずり出して通り道を作った。そして改めて教室内に踏みこむ。

「ホノちゃん、ネイちゃん、いるかい!?」

 しかし中には誰もいないようだ。

 壁際には、ずらっと並んだ山積みの机。部屋の中央部分は机がいくつか倒れている程度で、意外とがらんとした印象だった。

 私はふと、カーテンのない窓に目をやる。窓際には机は積まれていなかった。

 ――ここは三階だし、まさか窓から逃げるはずもないだろうけど――。

 それでも念のため、窓を順に調べてみる。

 が、やはり不審な点はなく、鍵も全てかかったままになっていた。

 私は窓を開けて、外の様子を確認してみた。

 ……付近にはロープも何もないし、やはりここからの出入りは無理だろう。

「何もないですね……じゃあ急いで他の場所を調べましょうか」

 そう言って窓を閉めかけたが、そこで一瞬何かの気配を感じた私は、改めて下の様子を窺った。

 すると、視界の端でちらりと動く影。

 ……誰かいる。

 直後、旧校舎の正面入口から飛び出した人影が、全速力で走り去る。

 それは――間違いなくガイ先輩だった。

 我に返った私が呼びかけようとした時には、ガイ先輩の姿はもう見えなくなっていた。

 ――状況が飲みこめない私は、どうしていいか分からず振り返った。

 教室内では、原納先輩が掃除用具を入れるロッカー開けて、中を調べているところだった。

 少し落ち着きを取り戻した私は、これからどうすべきか考えた。

 ――果たしてガイ先輩を追うべきか、旧校舎の捜索を済ませてからにすべきか――。

 私は迷った末、旧校舎の捜索を急いで終わらせることにした。

 ホノ先輩とネイさんが消えた事といい、なぜか今さらガイ先輩が戻ってきて逃げ去った事といい、この旧校舎にはまだ何かあるような気がしてならなかった。

「原納先輩、早く他を調べに行きましょう!」

 私のあわてた様子を察したのか、原納先輩が尋ねてくる。

「ひねりちゃん、どうかしたの?」

「たった今、旧校舎から逃げるガイ先輩を見かけたんです。急いで捜索を済ませて、ガイ先輩に事情を聞きましょう」

 私は急いで教室を出ようと、入口に向かいかけた。

 ――が、私はすぐに足を止める。

 教室の中央付近、倒れた机のすぐ横の床に、何か落ちているのが見えたからだ。

 私はそれを拾い上げる。

 ――それは、いわゆる『きんちゃく』と呼ばれる、白い小袋だった。

 袋の口が長い紐で縛られていたので、私はそれを緩めて中を覗いてみた。

 そこには、ビー玉がぎっしりと詰まっていた。それ以外には何も入っていないようだ。

「これ……ビー玉袋かな?」

 そう呟いて、改めて袋をよく見てみると――。

「血――!?」

 袋の外側に、血痕らしきものが少し付着していた。

「しかもまだ乾いていない、ついたばかりの血……」

 私が呆然と呟くと、隣にいた原納先輩が、はっとした様子で言った。

「――ということは、やっぱりここで誰かが争ったってこと?」

「……もしホノ先輩かネイさんがこの教室にいたのなら、もう少し念入りにここを調べないといけませんね……」

 私達は見落としがないよう、室内を細かい所まで調べてみた。

 だが人が出入りした痕跡なども見つからず、新たな収穫はなかった。

「ここにはもう何もないみたいですね……それじゃ、他の教室も急いで調べましょう。この袋は、旧校舎の捜索が終わってから警察に届けますね」

 私は急ぎ足で教室を出ると、原納先輩と一緒に三階を調べて回った。

 ――しかし結局、この階では何も見つからなかった。

 私達は奥の階段を下りて、二階の廊下に出た。

 ここは、最初の捜索の時に私が最後に調べた教室のすぐそばだ。

 私はまずそこを調べようと、開いたままの入口に近付いた。

 ――そういえば私、扉は閉めなかったっけ。

 そう思いながら、廊下から教室内に目をやる。

 すると、開けっ放しの扉の向こう――教室の中に、何か大きなものがあるのが見えた。

 最初、それが何であるか認識できなかったが……一瞬の間をおいて、私はその正体を知った。

 それは、仰向けに倒れた、セーラー服の少女だった。

「ネイさん!」

 それが見知った顔であることに気付き、あわてて駆け寄る。

 ――だがもう息がない。死んでいる。

「だめです……殺されたみたいです……」

「えっ、ネイちゃんが!? どうして――」

 そう言って駆け寄ってきた原納先輩が、死体を見て絶句する。

「やっぱりホノ先輩が殺し――」

 私はそう言いかけ、そして気付く。

 ――さっき私が調べた時は、この教室はおろか、二階のどこにも人はいなかったはずだ。

 ――なのに、いったいどうしてこんなところに突然死体が出てきたのだろう?

 ――まさか……死体が歩いた?

 混乱する頭に、そんな馬鹿げた考えが浮かんだ。


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