プロローグ
「うわあああああああっ!?」
少年の絶叫が昏く深い森の中で木霊する。
少年以外に人影は無く、その代わりに三匹の魔物に退路を塞がれていた。蟹のような蜘蛛のような、目にしただけで怖気が走る姿をした化け物に。
ゆっくりとじっくりとねっぷりと、魔物が距離を詰めていく。少年の恐怖を煽るように。
少年は武器らしい武器を持っておらず、それどころか腰を抜かしてへたり込んでいた。まるで戦う意思を鼻から放棄しているかのように。
とその時、前方にいた魔物が少年目掛けて飛びかかってきた。あんな熊並みの巨体に押しつぶされたらただでは済まない。トマトのように潰れて無惨な姿と化すのは必死だ。
数秒の間に、様々な記憶が脳裏を駆け巡る。
家族。数少ない友人。パッとしない学校生活。
そして──
自分を何度も助けてくれた、大切な同級生。
その姿を思い浮かべて。
少年は奮起したように、頭上にいる魔物をキッと睨みつける。
こんな所では終われない。役立たずで足を引っ張るだけだった自分を、文字通り救ってくれた彼女のために。
今度は彼女を救うために。
少年は両腕を掲げる。生き残るために、眼前にいる魔物と戦う事を決意する。
そうして、少年は。
最強の低級回復魔法を唱えた。
「きゅ──キュアっ!!」