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1-3(旦那様視点)

ディートリッヒ様☆崩壊w


とりあえず完結登録します。

「アリーシャ様は、もしやお話をご存じないのでは?」


 シャルロッテからそう言われ、そう言えば面と向かって『この件』について話したことがないことに気がついた。

 執事も知っていることだが、余計なことは言わないで黙って見てくれている。

 だが、いつまでも良い返事がないので、『あちら』も強硬手段に乗り出そうとしている。その証拠に、最近は日に二度も使者がやってくる。


「どうなのですか?」

「そ、そうだな。正直言えばきちんと話したことはない。断片的にはある……と、思う」


 言葉を濁しつつそう言えば、シャルロッテはあからさまに目を細めて眉を寄せる。


「思う、ではありません。ディートリッヒ殿。あのお方が明日も朝から『まだなの?』と微笑まれるのですよ? 一度、じかにあの微笑みをお受けになってください」

「いや、それは勘弁」

「いいえ。 明日は一緒に登城していただき、あのお方々の前で申し開きしてもらいます!」


 腰に手を当て、きっぱりとシャルロッテは言い切った。

 冗談ではない、と俺も女性相手に目をつり上げる。


「嫌だ。 明日の朝こそアリーシャと話す!」

「遅いです。やるなら、今! 決めたら、今です! とっととお行き下さい」


 そう言って、俺以上に怒ったシャルロッテに蹴り出される勢いで部屋を追い出された。


 ――ここは俺の屋敷なはずなんだが。


 釈然としないまま足を動かす。

 自然豊かな土地で暮らし、都会の生活に不安を抱いていた彼女にどう説明しようかと、俺は云々悩みながら、彼女の部屋へと歩いた。


◆◆◆


 彼女の部屋は夫婦の寝室を挟んで右隣りだ。

 本当なら毎日この寝室で眠りたいと言うのに、俺は別の部屋で眠っている――いや、眠らされているのだ! 監視付きでな!! 寝れるかよ!

 同僚は生暖かい目に見てくるが、お前たちの想像通りならどんなにだっていいものか。実際は真逆だ。地獄だ。同じ家にいるのに監視という鎖でつながれて、手すら握れないんだぞ。 俺は病原菌かっ!

 あの日、初夜をすっぽかしてしまい――いや、俺は悪くない。同僚と上司が羽交い絞めで俺を飲ませたせいだ。浮かれていた俺に隙があったのは否めないが……。

 翌朝、全員冷たい床で目が覚め、むせ返るような酒の匂いが漂う室内で、うちの執事がえらく怖い笑顔で見下ろしていた。

 すぐに酔いがさめて、頭も痛かったが寝室に走って行ったら――もぬけの殻。

 うちの(新婚)奥さん、食堂で朝食中。そうメイドにも冷ややかに言われ、急いで走ろうとしたら執事がドアを封鎖。


『匂うので湯をお使いください』


 本来、初夜時に使うはずだった湯だろう。常温水になっていた。


 そんな湯を使って俺は泣いた。

 何年もかけて彼女の周りにいた『害虫』を駆除し、仕事で誠意を見せて厳しい親を説き伏せ、ようやく彼女の家へと縁談を出してくれた。

 彼女から了承を貰って有頂天になっていたら、なぜか顔合わせ後の親達が真剣な顔をして『式はささやかにしよう』と言ってきた。

 別に良いけど。変な『虫』いらないし、しばらくお披露目したくない。

 そんなふうに思っていたのに、なぜか噂が広まり、うちの親に『ご結婚されるんですね。おめでとうございます』と、第二王子(八才)が夜会で声をかけてこられた。


 ――そこからは親が大変だったらしい。


 これまたなぜか第二王子が「結婚式を見たい」と珍しく駄々をこね、それを国王陛下も王妃様もあっさり了承。親に頼みに来た。

 と、同時に他の王族や公爵家、国の重鎮と言われる家からも直接だったり、遠まわしにだったりと「出席したいんだよね~」と圧力。


 あなた方、他人の結婚式なんて面倒~とか、裏で言ってるじゃないか!

 王子がくるからなの? 主役は俺と彼女のはずなんだけど!?


 両家の親は青い顔で「断れないっ!」と、ささやかな式は大幅に人数増加で盛大な式へ……。

 そのうち仕える王太子殿下から呼び出され「無理を言って参加させてもらうからって、母からアリーシャ嬢へ」と、王族御用達の純白の光沢布地を賜り、急きょウエディングドレスを作り直すことになった。

 あの時のアリーシャの顔色の悪さは、そのまま倒れるんじゃないかと思うほど青かった。

 その後「ドレス作り直してくれているんだって? 時間ないだろう? うちのお針子を貸すよ。母があの布地をあげたから迷惑かけられないって」と、これまた王太子殿下からのお申し出。

 確かに頼んでいる仕立屋では大急ぎでやってもらっている。だが、あの賜った布地は扱いが難しいらしい。

 そこへ王妃様のお気づかいで派遣されてきたお針子達は――あの布地の取り扱い専門職だった。おかげでドレスはすばらしいものができた。本当に一国の姫でも嫁にもらったんじゃないかと思ったくらいだ。

 ――ただ、当初のデザインと違ったものになっていたが、アリーシャが何度も試着しているうちに、優秀なお針子達がアドバイスしてくれたらしい。

 アリーシャの母もそのアドバイスに感激していたらしく、積極的にお針子達と意見交換していたそうだ。

『ディートリッヒ様にも、当日まで内緒にして驚かせましょうと言われまして……』

 恥ずかしそうなアリーシャだったが、ドレスは大変彼女に良く似合っていたし、こんなサプライズなら大歓迎! と俺はお針子達に感謝していた。


 まさか、お針子のアドバイスの大部分が王妃様の要望だったなんて知らずに。


 今思うと、うちの親は知っていたんだな――


 アリーシャが亡くなられた第一王女様にうり二つなことに。

 

 結婚五年目で授かった第一王女様は、十二才の時に流行病でお亡くなりになった。その頃すでに天啓を授かっていた八才の末王女様が、悲しむ陛下と王妃様に予言したのだ。

『お姉様は今、もう一度肉体を得ました。死にそうな彼女の魂と融合したのです』

 また会える、という言葉を信じて国王陛下夫妻だけでなく、当時十才の王太子殿下もその日を楽しみにしていたらしい。

 王妃様は毎年成長する第一王女様を想像で描かせ、彼女に似た令嬢を必死に探していたらしい。

 だが、アリーシャは侯爵家とはいえ地方にいた。しかも彼女が死にかけたのは三才の頃。王妃様が探していた年代の娘に比べ、アリーシャはずいぶん下の世代だったのだ。

 それから十六年。

 俺と同じ年の王太子殿下、結婚をしないと公言し、聖女と謳われる二十四才の王女。そして後年生まれた第二王子。 彼らはそろって、王家特有の輝くストロベリーブロンドの髪を持っている。

 アリーシャもまた、十代に入ってから髪色が変化を見せ、今はなんとか誤魔化せるが、あと少しで完全なストロベリーブロンドへと変化するだろう。

 手入れを怠っていたというアリーシャだったので、輝く髪質に見慣れた俺は『別物』と思っていた。むしろ同一視する概念がなかった。

 だが、末王女の言葉を知っていた高位貴族であるうちの両親は、アリーシャを見て腰を抜かしそうになったらしい。だからこその「ささやかな式」をということだったそうだ。


 が、どうしてかバレた。

 あれだな。王太子殿下にはどうしても結婚するって言わざるを得なかったから。だけど姿絵まで見せてはいないはず。確かに「地方の侯爵家令嬢です」とは言ったが。


 で、王太子殿下は近衛隊も出席できるようにと、ご自分の予定をいれないでくれた。

 ものすごくありがたかったが――

「弟は未成年だから、俺も保護者代理で出席するよ」

 と、王太子殿下の参加も決定。

 王子二人の出席ってだけでも大盛り上がりだったのに、披露宴中に、ぐ・う・ぜ・ん・通りかかった国王陛下と王妃様、そして末王女様が顔を出した。


 ――飛び入り参加はやめてください。

 

 やっと場の雰囲気になれたアリーシャの顔が凍りつき、もう卒倒寸前だった。

 王妃様には布地やその後のお針子の手配など、ずいぶん良くしてもらっていたから、アリーシャも緊張しながらもお礼を言っていた。そんなアリーシャを俺はしっかり抱き寄せて支えてあげた。

 ここでアリーシャが倒れたら、この後の初夜がっ! と、思ったが、結果的に俺が倒れるハメになった。

 そういえば――陛下とご一緒に退席される王太子殿下が、去り際に見せた笑みが黒かった気がしたなぁ。


 でも、本当の悪夢はこれからだった。


 まず急に夜勤倍増。


 なんで? どーして? え、王太子殿下のご指名? ――いらん!

 あの、俺って新婚なんです。昨日結婚したのに、軽い二日酔いのままいきなり呼び出されて勤務表の変更言い渡され、隊長の気の毒そうな目が心にイタイ……。

 そういえば隊長は昨日ちゃんと帰っていたんですね。あの同僚も一緒に引きつれて帰って欲しかったです。


『お前……知らなかったんだな』

『え?』

『これ以上知らないのは気の毒だ。よく聞けよ?』


 なにかを悲痛な面持ちで確認されたが、まったく心当たりはない。

 隊長はため息をつきながら、ぽつりぽつりとお葬式並みに重苦しい声で説明してくれた。


 知・ら・な・い・し!

 

 アリーシャが第一王女様の生まれ変わり!? それをずっと探していた王家。やっと見つけたのは、俺が王太子殿下に結婚報告した時。

 王太子殿下の近衛の妻になる人物なので、王家独自に情報収集が行われ、それに携わった人間が腰を抜かさんばかりに驚いて陛下へ報告したらしい。

 するなよ、バカ。お前が元凶か!

 俺の親は顔合わせの時になんとなくそうかなと思っていたが、陛下から呼び出しくらって話を聞くうちに「やっぱり!」と確信したらしい。

 だけど、もう婚約告知していたからいまさら破棄にできないし、アリーシャの両親も呼ばれて卒倒したらしい。

 いや、そうだろうよ。

 毎日見ていた娘だからあまり変化に気がつかないし、そもそも末王女様の予言自体が王城内でだけささやかれていただけなんだから……。

 

 で、俺の評価。

 王太子殿下をはじめ、最初俺はアリーシャのことを隠していた極悪人だと思われていたという。俺が何年も隠れるように彼女の周りで動いていたのが、隠匿行為とみなされていたわけだ。

 ――王太子殿下、俺泣きそうでしたよ。

 だけどいろいろ調べていったら、たんなる俺の一目ぼれから執着して害虫駆除しているだけで、王家への隠匿ではないと分かったという。マジでよかった。

 

 ――いや、よくない。


 王家ではアリーシャをこっそりお城に招いて、第一王女を偲んでちやほやしたかったらしい。

 要するに、俺はお邪魔だったわけだ。

 が、早い者勝ちだ!!

 と、割り切った俺に、新婚早々の呼び出しと勤務変更。そして――


『アリーシャちゃんに怪しまれないように連れて来なさい』


 どうやって? と首を傾げるような命令が王妃様から下った。

 情報収集で、アリーシャが人見知りだと知った王家では「無理に会って恐縮されたらショックで寝込む!」と、誰もが口をそろえて言いだし、そのくせ俺に緊張感なくアリーシャと会わせろと言ってきたのだ。


 もちろん――その間、王妃様と王女様付きの女性近衛による監視付き。


 よって、俺が日勤である日は必ず監視がつくのだ。

 そして、アリーシャがうなずけばすぐさまお城に連れていけるように正装し、また、アリーシャの様子をじっと観察して、最後に俺が近づかないように部屋に閉じ込める役目まで仰せつかっているという。


 俺は犯罪人か!!


 一度反論したら、エリカだったか、悪びれもせず言った。


『あなたは無駄にモテますので、アリーシャ様のためにもあなたの監視をしているのです。とっとと、アリーシャ様を王妃様方にお会いさせ、あなたに横恋慕するあまりおかしな行動をとろうとするバカな娘から守るのです。王家がかわいがる令嬢を害するなんて、そんな愚かなこともなくなるでしょう』


 実際、結婚式のアリーシャは飲まなかったが、勧められたグラスにいろんなもんが混じっていたらしい。

 あの場にいた給仕の何人かは王城から派遣されていたらしく、彼らがそのすべてを阻止し、いろんな証拠を持ち帰り検分して知らせてくれたのだ。

知らされたうちの執事やメイド長は怒り、俺も頭にきたが、


『旦那様!』

『なんだ!? 俺は今から抗議文を書かねばならんのだ。本当なら乗り込んでやりたいのに、邪魔をするなっ!!』

『……王太子殿下からお呼び出しです』


 俺の怒りは、一瞬で鎮静化した。

 家同士の問題もあるし、対面もあるが、本当は怒鳴りに行きたかったのに、その気持ちも根こそぎ奪われる。

報告を受けた王太子殿下から――俺はものすごく冷ややかな言葉を受けた。


『お前、バカなの?』


 ごっそり頭髪が抜けるくらい、背筋が凍った。

 アレはもう二度と聞きたくない!


◆◆◆


 長い廊下を歩きながら、今までのことを思い出しているうちに、アリーシャの部屋の前にたどり着く。

 このままノックをして中に入り、この複雑な問題を人見知りのアリーシャにどういえばいいのだろうか?

 時間をかけたいと必死にじらしてきたが、王家の方々の我慢も限界。

 このままだと夜勤専門となってしまう危機がある。いや、すでに王太子殿下が検討中だ。交代のあいさつ時にそれとなくつぶやかれたし……。

 はあっと重いため息をついて、ゆっくりとドアを見上げる。

 こんなにこのドアは重そうに見えたか?

 このドアの向こうには愛しいアリーシャがいるというのに――まてよ? 二人きりで話せるチャンスじゃないか! 結婚後初めてじゃないか!?

 そうだ、話をしながらいい雰囲気に持っていけば――


「ディートリッヒ殿」

「チッ。なぜいる、シャルロッテ」


 さっきの部屋で待機しているはずのシャルロッテの固い声が背後から聞こえ、俺は盛大に舌打ちする。

 冷たく睨みつけ振り返ると、シャルロッテは動じることなく懐中時計を右手にぶら下げ俺に見せる。


「制限時間は三十分。また、その前でも異変を察しましたら――踏み込みます」


 クソッ、俺に自由はないのか!!


 忌々しい奴目め、と俺はシャルロッテをさらに睨みつける。


 ―― 一分後 ――


 ドアの外の異様な雰囲気に気がついたのか、不安げな顔をしてアリーシャがおそるおそるといった感じでドアを開けた。

 ハッとして俺は振り返ったが、その時アリーシャは唖然とした顔で「……修羅場」と、つぶやいて慌ててドアを閉めて鍵をかけた。


「あ、アリーシャ!」


 あわてて俺はドアに噛り付いたが、叩けど呼んでも返答はない。

 俺は必死にドアの外から語りかけた。


「……あと十九分」


 背後から薄ら笑いするシャルロッテが告げる。


「うるさいっ!」


 お前のせい、というか王家みんなのせいだ! 新婚の夫を差し置いてアリーシャと仲良くしたいなんてあんまりだ。

 だから、もうしばらくアリーシャには会わせるものかっ!


 そんな決意を胸に、俺はアリーシャの部屋のドアの前で懇願し続ける。




 ――悲しいかな。これが俺ができる精一杯の仕返しだ。




(ひとまずEND)


読んでいただきありがとうございました。


やっぱ最後はディートリッヒ様崩れなきゃね!


あ、ディートリッヒ様の夜勤専門のお話は「そうなるかも、と話したらアリーシャが悲しみました」と言ったら、あっさり消えたそうです。

一矢報いたディートリッヒ様ですが、あとからバレます。

王太子殿下の冷たい目と王妃様と末王女様が「近衛隊の奥様全員参加のお茶会」を催すと宣言したり、王様も「(アリーシャの故郷)視察に行くから、一緒に里帰りしてみる?」と誘ったりしますww


頑張れ、ディートリッヒ様! お前の「残念」がわたしのモチベーションをあげるのだ!!


また書ける日が来たら投稿したいと思います。

一週間、ありがとうございました。


上田リサ




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