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モチベーションをあげるためにちょこちょこ書いていたものです。
すでに書き終えております。全3回投稿です。
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笑っていなさい、アリーシャ。あなたの真顔は――怖いわ。
これを言ったのは母です。
別につり目ではないけど、大きな青い瞳はわたくしの唯一の自慢。真顔になると少し目が閉じるらしく、その目が怖いらしい――わたくしは知らなかったけど。
普通に幸せな地方侯爵家の令嬢として、のんびりとした環境で育てられた。そんなわたくしに縁談が来たのは十九の誕生日の直前。
ええ、けっこう遅めね。でも、一度婚約はしたのだけど、相手の方にいろいろあって流れてしまったの。迷惑料はしっかり頂きました。
母譲りの栗色の髪は、なぜか十代に入ってどんどん色素が薄くなってしまった。まさか老化現象!? と戦慄したものの、色以外に代わりはないのでほっとしている。
あと、腰もお尻もほぼ平均。だけど無駄についた胸のせいで、かなり細いと思われがち。見た目詐欺が発生中。
胸を隠そうと猫背になってしまって、それを直すために背中補正のコルセットを特注されて、無駄に堂々とした態度に見られて「高嶺の花」と思われているんですって。友達から聞いてびっくりしたわ。
そんな噂を知ってからは赤面するのをおさえるべく真顔になっていることが多くなり、母から冒頭の言葉を言われる始末。
それがわたくし、アリーシャ・エル・マルグリード。
あ! そうそう。わたくし先月結婚したの。
だから今はアリーシャ・エル・フレバール伯爵夫人。
夫は侯爵家次男で、王太子様の近衛隊のディートリッヒ・フレバール様。わたくしとの結婚を機に、お父上様から侯爵家のもつ伯爵位をもらったのです。
そんなディートリッヒ様は二十五才。
正直地方の侯爵家じゃなくて、王都に立派に幅聞かせている侯爵家やら伯爵家から縁談山ほどあったでしょ! と言いたくなるくらいのイイ男。少なくとも、頭の中でペラペラしゃべって猫被っているわたくしにはもったいない。
そういえば、友人からは「見た目詐欺悪化中」とのお墨付きをいただいたわ。お高くとまっている、ですって。
だって、十九で伯爵夫人なんてできるわけがないじゃないの。
今日も自室で日課の愚痴日記を書き込んでいると、メイドがやってきてディートリッヒ様のご帰宅を教えてくれた。
「……すぐ行くわ」
ため息をつかないように、日記を閉じてゆっくりと立ち上がる。
実はね、夕刻お帰りになる時は決まって憂鬱なの。
念のために言っておくけど、わたくし先月、詳しく言うと十九日前に結婚したばかりの新婚よ。
「おかえりなさいませ、旦那様」
玄関ホールで迎えたディートリッヒ様は、近衛隊の隊服姿。紺色を基調とした凛々しい姿。
近衛隊って汗かかないんですか? 訓練とかしないんですか? と失礼なことを聞きたいくらいにサラサラの肩までの金髪に、切れ長の青い目。細身ながらしっかりと鍛えこまれた体躯だが、手先は意外とごつごつしていて剣士らしいの。
とにかく笑えば優しげな顔立ちになり、結婚式でも花嫁のわたくしそっちのけで囲まれていたわ。
さすが侯爵家。幅広いご出席者です。
旦那様に群がりながら、しっかりわたくしに意味深な笑みを浮かべてきたご令嬢様もおいででした。
ケンカ上等。田舎育ちなめんなよ? 自然を武器にさりげなく攻撃してあげるわ。
そんなふうに思っていたのですよ、その時は。
一応侯爵家で育ちましたし、ある程度は上流の躾をされて考え方も教わっているのです。後継ぎを設けた後の「お遊び」も、両親には無縁でしたが理解はしたつもりでしたよ。
「変わりはなかったか、アリーシャ」
「はい、ございません」
「そうか。では、その……」
言いにくそうに、ディートリッヒ様は目を左にそらす。
ディートリッヒ様がそのそらされた左後ろに、今日のわたくしの憂鬱の原因が立っていた。
茶色の髪を結い上げ、しっかりおしゃれしている二十代前半の女性。今日はキリッとした顔つきの美女。
「お久しぶりでございます、アリーシャ様」
「お元気そうで、シャルロッテ様」
ディートリッヒ様を無視し、女二人でさっさと挨拶をかわす。
ええ、これくらいいつものことですわ。そりゃあ、最初の一週間はどもるディートリッヒ様の言葉を待ち、それから叫びたい動揺を抑えながら動揺を隠しきれないまま挨拶をした。
結婚後すぐ、日勤の帰宅時に女連れとは恐れいったわ! と。
ちなみに記念すべきお一人目はエリカ様。次はマリア様。そしてシャルロッテ様の後にもう一度マリア様が来て、エリザ様という方もいらしたような……。
と、まあ、日勤帰りには必ず女性同伴なのよ。それも毎回、別人。
あまりのことに先週わたくしを「見た目詐欺」と呼ぶ友人に手紙を出したのだけど、帰ってきた言葉は「洗礼!? 都会はすごいわね!」と興奮していたわ。
都会がすごいんじゃない。うちの旦那様がすごいんだと思う。
この人(旦那様)婚約前も後も一切そんな噂なかったわ。ただモテる。そう聞いてはいたし、会って納得したけど、こんなに手広く愛人をこさえているなんて!
しかも堂々と新妻に見せつけるのよ!?
遠慮ってものがないのかしらね、遠慮ってものがっ! ボケナスアンポンタンの旦那様! あなたにときめいたわたくしの純情を返せ!! あとわたくしとの初夜より愛人かいっ!! こっちこそ願い下げよ、バーカ!
……おちつくのよ、アリーシャ。わたくしは正妻。
今にもせり出してきそうな愚痴の数々を、今夜も何度唱えるかわからない魔法の呪文をそっと心の中で囁いて止める。
「ディートリッヒ様はお着替え下さい。シャルロッテ様はお部屋にてお待ちください」
「ご案内いたします」
うちから連れて来たメイドのメリーが、真顔でシャルロッテ様を案内する。
シャルロッテ様は名残惜しいのか、こちらを何度か振り返り寂しそうに目を細めて去っていく。
その姿をディートリッヒ様も見つめる。
あの、隣にわたくしがいますが覚えていますか? いませんよね、そうですか!
「ではわたくしはこれで」
部屋に一度戻ろうとすると、慌てた様子でディートリッヒ様がわたくしの腕をつかむ。
「アリーシャ、今日こそ話があるんだが」
真剣なディートリッヒ様の目を見て、わたくしは「げっ!」と心の中で毒を吐く。
初夜すら酔っぱらった旦那にすっぽかされ、新婚なのに夜勤の多い旦那様が日勤で帰ってくると女連れ、というわたくしは新婚十九日目にして離婚宣言されるらしい。
想う人がいるなら最初から結婚するなよ! 旦那様の実家都合ってことで盛大な式挙げてし、困るじゃないのよ。汚点だわ~。誓いのキス返せ。
「アリーシャ?」
「あ゛?」
汚点、とばかり呟いていたら、思わず眉間に皺を寄せて睨み返していた。
「!」
しまった! と思った瞬間に、勝手に口が動く。
「! あ、いけない。シャルロッテ様のお部屋ご用意できたかしら!?」
わたくしの眉間に皺を寄せた顔に驚いたディートリッヒ様が、思わずつかんでいた手の力を抜いたので、適当な言い訳をしてサッとその場を離れて足早に去る。
背後でディートリッヒ様が呼んでいたようだけど、思いっきり無視しました。
ちなみにシャルロッテ様のお部屋なんて必要ないの。
今までの方も全員そう。もちろんお夕食後にお帰りにってわけじゃない。
みなさんお夕食後はディートリッヒ様とともに、どこかのお部屋に入って朝まで出てくることはありません。
けれど、とりあえずお部屋を用意する。余裕ぶった妻のせめてもの抗議。
翌朝使った形跡のないお部屋を見るたびに、――敗北感に打ちひしがれる。
おちつくのよ、アリーシャ。わたくしは正妻。
魔法の呪文を何十回と呟きながら、羽毛詰めされて天日干しされてふっくら膨らんだクッションを拳で殴るの。
実害がクッション一つですむんだから軽いわよね。
そう笑顔で言ったら、メリーがもっと大きくて細長いクッションを用意してくれた。黄色いカバーに黄色い飾り紐がワサワサついていたけど、きっと深い意味はないのよね、うん。
読んでいただきありがとうございます。
次回6/26(金)予約投稿済みです。