FIRST CONTACT
よーし勢いで書いちゃうぞー
あーやっと終わった。
パソコンに向かっていた目を上げ、時計を見ると午後10時23分だった。社内を見渡すと、自分以外誰も残ってなかった。一人でこのフロアにいると、広く感じる。しかも酷く静かだ。シーンという音が聞こえる気がする。
集中しすぎて目がチカチカする。彼女は瞬きをした。
久野楓はパソコンの電源を切り、さっと荷物をまとめて退社した。
夏が終わり、秋が始まったこの時期は、夜がとても涼しい。駅からアパートまで歩いてると気持ちがいいものだ。楓の最寄り駅は会社から三駅と近い。だから割とすぐに帰れるので助かっている。
そういえば、家にビールあったっけな。ふと、自分の家の冷蔵庫の中身を思い出そうとした。たしかきれてた気がする。コンビニへ寄って行こう。
楓は、社会人には有難い24時間営業のお店に寄ることにした。大学卒業後、一人暮らしを始めてからは、お世話になりっぱなしのこのお店。日付が変わった時間でも店は明るく、欲しい物を手に入れられるからありがたい。そう思いながら、店に入った。
店の中は冷房が効いていた。いらっしゃいませ、と店員のやる気のない声が聞こえる。
早速、お酒コーナーへ向かい、お目当てのビールに手を伸ばした。
と思ったら、横からビール掻っ攫われてしまった。
むっと思ったので、相手の顔を見てやろうと顔を上げたら、
「久野さん」と呼ばれ、そこにはなぜか同僚の顔があった。
「え、目黒さん…?」
目黒 光、27歳で開発部所属。身長は180くらいだそうで、いつも仕立てのいいスーツを纏っている。頭は茶色で少し髪を遊ばせている。その外見から社内女子は、顔が整っていて最高!ともてはやされている。なんでも笑顔が素敵だそうだ。自分が所属する経理部とは違うので、めったに会わない人だった。新人研修のときに顔をあわせた程度だ。
そんな男がなぜここにいる。
「久野さん、はいビール」
「え、ああ…ありがとうございます」
楓はまごつきながら受け取る。ちょっとびっくりして意識が飛んでしまった。慌てて自分の顔を外用に変える。
「では、これで」と目黒がレジへ向う。
「あ、おつかれさまです」と私も返しながら、引き続きおつまみを探しにいった。
ありがとうございましたーという店員の声を後にして店を出た。
早速、袋からビールを取りだし、アパートまで飲みながら帰る。
しかし、さっきはびっくりした。ビールに口をつけながら思う。
まさか会社の人をここら辺で見かけるとは思わなかった。入社してから4,5年経つが、会社の人を見たことがなかった。まあ、会社から近場なので、今まで会わなかったことが幸運だったのだろう。とどうでもよいことを考えながら、夜道を歩いた。
翌朝、いつもどおり通勤ラッシュに見舞われながらも出社する。会社に入った途端に、後ろからおはようございますと挨拶された。
誰だと思い、後ろを振り向くと目黒がいた。
「おはようございます」と返しておく。
「昨日ぶりですね。そういえば、久野さんってあそこらへんに住んでいるのですか?」
「あーはい。そうです。目黒さんもですか?」
「はい。実は、こないだ越してきたばっかりでして…よろしくお願いします。」
「ああ、そうだったんですか。こちらこそよろしくお願いします」
なるほど引っ越ししてきたのか。これで昨夜の謎が解けたとすっきりし、目黒と並んで職場へ向かった。
「ちょっと楓!!」
お昼どき、ドンッと机を友人の永見亜紀に叩かれた。ちょっとびっくりした。
「いつのまに、目黒さんと仲良くなったのよ!?朝にあんたと目黒さんが並んで歩いてたって噂、持ちきりよ!!」とすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。
「お、落ち着いてよ亜紀。とりあえず偶然なんだって!」と言い、亜紀に昨夜の出来事を話した。
「なっるほどねー。それで今日は偶々だと。羨ましいすぎる!」
「そんなに?」
「あったりまえよー!なんたって出世頭No.1のお買い得男よ!社内女子は、お近づきになりたいと狙ってる人ばっかりよ」
たしかに歓迎会やらなんやらの飲み会で、一部に女子が群がっている場所があったことを思い出す。もしかしたら、あの中心に目黒が居たのだろうか。哀しいかな女の性でいろんな人から噂を聞いたことがある。しかしそこまでの人気なのか。感心を超えて同情を覚える。
「というわけで、狙う人は多いから楓にその気がないならあまり関わらないほうがいいかもね」
「そうだね…女は怖いもんね」この歳になるまで嫌というほど体験しからな。
「でも、よかったら私に紹介してくれてもいいのよ」
ふんふんと鼻息を荒くする友人に少し引き、
「いや仲良くないし、無理だからね」と否定する。
ブーイングする友人をひっぱり、お昼を買いに行った。