神製黄金雨(ゴッド・ピス)
大阪、阿倍野。
府内でも有数の繁華街が広がるその中心に、大阪阿倍野駅が存在する。この駅ビルとして近年完成した超高層ビル、“あべのミハルカス”が、ピロリンピック出場選手権争奪戦、第二試合の舞台だった。
300メートルをゆうに超える最上階のさらに屋上に、特設リングが設けてある。特設会場は中央のリングと、周囲を取り巻く大規模な観客席で構成されている。観客席の周囲を組み合わさった無数の柱が壁のように囲んでいた。特設リングの球体はビルの面積を上まわり、棒つきキャンディのような姿でビルの上に乗っている。特設リングでの試合をライブ中継するため、ビルの壁には巨大モニタが設置されていた。
試合開始時間直前、“あべのミハルカス”の周辺は人ごみでごった返していた。歩道から人があふれかえり、車はほとんど進めない状態にまでおちいっていた。中には車を止めてモニタを見上げている者すらいた。
モニタに投影されているのは、ライトの光につつまれた白い八角形だった。
「映ってるよ~」
リングへ続く通路の裏で待機しているLKが1000にささやいた。床にしゃがんでいる。観覧席の背後にも中継モニタが貼り付いている。通路の奥からわずかにのぞけるのだった。
「ほんとでえ」
いっしょにしゃがみ、モニタを垣間見る。
「Jさんは?」
LKはわずかに機嫌を悪くしたようだった。昨日に修道士IXという旧知の人物とあってから様子がおかしくなっていた。唇を尖らせて言う。
「先にセコンド席で準備してるってさ」
「マメじゃ~。わいらも負けとれんでな」
LKは憮然として言う。
「そーだけどさ。あいつ、きっと観客席にいるはずのIX姉を探してるに決まってんだ」
「昨日の、派手~えな修道士さんで?」
IXを目の当たりにしたJの動揺ぶりにただ事ではないと思ってはいたが、LKとJがこれほどまでに険悪な雰囲気になってしまうとは意外だった。
LKは怒ったようすで言う。
「チケットを付き人に持って行かせたんだって、わざわざ昨日! 修道院の人数分調達してただで置いてきたってさ」
思わず苦笑をもらした。
「気合はいっとんな~Jさんらしい行動力じょ」
「嬉しくない時もある。おかげで昨日はずっとケンカ。あたしおこなの」
ほおをふくらませたLKが言った。なんとかとりなそうと話しかける。
「まあまあ。昔の知り合いやけん、懐かしかったんと違うで? 秘書さんやったということは、ずっと一緒に仕事しよったけん、当時がなつかしかったんやろ」
LKは頭を左右に振った。
「それだけじゃない。それだけじゃない気がするんだ!」
「なんでで?」
「カン。女のカンだね」
「あてになるんで?」
いくぶん意地悪い喜びを感じつつ言った。LKは言葉に詰まる。
そのとき、背後のスタッフから声がかかった。
「そろそろ入場でーす!」
ぎくりと体がこわばる。
通路から入場テーマソングが聞こえてきた。AGP48の“ヘビーコーテーション”だった。1000の選曲だった。
二人は打ち合わせどおりに縦列に並んだ。背の低い1000が前で、後ろがLKの順になった。伸ばした背筋の後ろからLKの声が聞こえた。
「えがお、えがお」
暗いトンネルを抜けるとまばゆい光が目を射た。全身を歓声がおしつつむ。
緊張で縮み上がっていた心臓が安堵したように鼓動を再開する。数え切れない人々から声援を浴び、世界を所有しているかのような全能感が胸のうちにあふれる。脳髄が喜びでしびれるようだった。
光ファイバーで織り上げられたガウンがきらびやかな光を放つ。
ゆうゆうと両手で観客に応えつつ、“二人の女神”はリングへの通路を歩んだ。通路の左右は柵で囲まれている。鉄柵の向こうから突き出ている観客の手をかいくぐった。
ドーム上の天上に釣り下がった複数のライトから降り注ぐ強烈な光線がリングを白く輝かせている。自分たちが待機すべきリングの角でJが待っていた。
戦闘用の金属製マスクをつけ、見た目が普通の手足と区別のつかない義肢を装着していた。隆起した筋肉にTシャツが貼りついている。“二人の女神”とロゴが印刷されていた。
Jは二人を激励する。
「悔いのないようにな!」
「わかっとるわよ」
そっけなく挨拶した。LKは勢いに欠けた声音を出す。
「全力で行ってくる」
二人はリングに飛び乗った。観客席からの声がいっそう高まった。意気揚々と両手をあげる。
が、声援は“二人の女神”に送られたものではなかった。
重低音の重々しい曲が場内に響き渡る。“極限兵団”の入場テーマソングだった。
戦闘服に身を固めた二人は肩に武器を抱えていた。それぞれアサルトライフルとロケットランチャーを担いでいる。派手な格好に会場全体が湧いた。喝采を受けた二人は堂々とした足取りでリングに近づいてくる。
背後にZOが背中を丸めて忠実な手下であるかのような身振りで突き従っている。
“極限兵団”の二人は軽々とロープを飛び越した。
リング上で対峙した二組のタッグは鋭くにらみ合う。
球体の内部のような壁面にぽつんとボックス席が設置されている。実況アナウンサーと解説者、そして特別ゲストとそのボディガードがリングを見下ろしていた。実況アナウンサーがナレーションを開始した。
「日本中のパラレスファンのみなさま、こんにちは! 本日は大阪はあべのの象徴とも言える現代のバベルの塔、“あべのミハルカス”の特設会場よりお送りしております! 司会の和林と解説の……」
後を引き取り、解説者が自己紹介する。
「解説の府佐です。よろしく」
「で、お送りいたします。そしてなんと! 本日はオドロキのゲストをお呼びしております。……国民の支持率100%の記録を樹立した建国以来ダントツの人気を誇るあの方、野部田首相をお招きしております!」
元歌舞伎役者という経歴を感じさせる低く渋い声で首相はあいさつした。
「野部田です。以前からパラレスには興味がありました。今日は久々に公務を忘れて試合観戦に没頭したいと思います」
「どうやらリングのほうが熱くなっているようですね。いかがでしょうか、府佐さん」
「第一試合はベテラン勢である“極限兵団”が完勝してしまいましたからね。“二人の女神”はココは絶対落とせません。ここで勝を繋がなければ、第三試合はありえませんからね」
「なるほど~! だからあのように敵意をむき出しにしているのは無理ないというところでしょうか。どちらもここは絶対に落とせない勝負どころです! “二人の女神”がここで敗退するということは自動的に“極限兵団”がピロリンピック出場のパスポートを手に入れてしまうことになるのですから!」
リング状で二組のタッグは視線を交わす。たびたび位置を変え、腕を振り回し、足を踏み鳴らして、相手を挑発する。
冷静な視線を1000とLKに投げていた“極限兵団”のUQがぼそりとつぶやいた。
「お前ら、今日戦うのはわれわれではないかも知れん」
「なあんだってぇ?」
LKが聞きとがめた。UQは首をひねりながら言った。
「なぜかはわからないがそんな気がしたんだ……信じられないようなことが起こるのもまた戦場だ」
LKは意地悪くせせら笑った。
「びびったんじゃないの~? あたしたちと戦いたくないってことでしょう? だいぶ強くなったからね」
UQはさげすんだ目つきでLKを見た。
「AVあがりがなめた口きくんじゃない。今後マトモに本業ができなくなるように歯を全部ぶち折ってやるぞ?……や、歯がないほうがいいんだったか?」
「なにを無駄口をたたいている」
“極限兵団”のリーダー格、HDだった。がっちりした筋肉に全身が引き締まり、屈強な戦士の理想像そのものだった。
以前試合した時よりもはるかに肉体の完成度が高まっていた。よほど厳しい訓練をこなしてきたことを想起させる。肉体の奥底からただよってくる自信が、苦しい特訓を耐えてきた人間がもつ独特の押しの強さになっていた。
「や、こいつらがわれわれがどういう死に方したいか教えてくれと言うもので」
UQが話をまぜ返す。HDが冷淡な口調で言う。
「どんな死にかたをしても死は一緒だ。冷たい、暗い、臭い、そして来世に進むトンネルだ」
「はぁ? またヘンな発言だよ。この人たちとぜんぜん会話できたことないよね。どう思う? 1000?」
「あんまり係わり合いになりとうないな」
LKと1000は明らかにアガーデーから距離を置くように後じさりした。
HDは凶暴そうな顔付きとは裏腹の静かな口調で言った。
「妙なのは貴様らだ。死に対する嫌悪感がなければ何故今生きることができる?」
LKとともにきょとんとする。
ほどなくリングの外に待機していたレフェリーの指示で二組はそれぞれのコーナーへ向かった。
パラレスラーは常人をはるかにしのぐ腕力と頑健な肉体を持ち、レスリングの投げ技は飛翔する巨大な鉄球と等しい。リング内は非常に危険なため、複数のレフェリーがリング外に待機するのがパラレスの習慣だった。
レフェリー団はリングの外で試合の準備を進めていた。本日の試合は前回と同じく工夫を凝らしたものだった。
“風神雷神ガン無視バトル! 無責任体質、落雷ティアラ押し付け合いデスマッチ!”
オクタゴンリングの八本ある角には太い鉄柱が立っている。その柱に設置された人工稲妻発生器によって生成された落雷を、リングの内部に持ち込まれた伝導率の高い金属製のディアラでうけるルールだった。
解説者がよく通る声を張り上げた。
「青コーナー! 身長166センチ、体重115パウンド、紅桃井1000!」
観客に両手をあげて応える。前回の試合でマイクパフォーマンスが多数の反感を買ったためか悪罵もかなり混じっているようだった。多少、胸に痛みを感じたような気がするが強いて押しつぶす。
「身長175センチ、体重133パウンド、蜜柑崎LK~!」
LKは青い目を輝かせてリングを飛び跳ねる。全方位に愛嬌を振りまく。パラレスラーになる前はストリップ劇場に出演していただけあって実にサマになっていた。
「赤コーナー! 身長177センチ、体重178パウンド、檸檬前UQ~! 身長181センチ、222パウンド、葡萄本HD!」
入場の時に薄々気付いてはいたが、明らかに“極限兵団”は“二人の女神”よりはるかに大きな声援を浴びていた。
「わいら、そんなにいけとらんので」
愚痴をこぼした。LKがなぐさめる。
「気にしないことにしよ。勝ったらあれはみんなあたしらのもの!」
Jが角の鉄柱越しに言葉を投げてくる。
「今のオマエラならいける! あのぱっとしない地味なミリタリーマニアの男女どもをマットに沈めてやれ!」
“極限兵団”のセコンドを勤めるかつて相棒だったZOへの対抗心か、いつになく攻撃的なJの言葉だった。
きらびやかなマントを“二人の女神”は投げ捨てた。
胸部の先端と大腿の間には強靭なシールを貼り付けて隠してはいるがほとんど裸に近かった。素肌を目の覚めるような鮮やかな色彩が飾っている。LKが得意とする“ネヘネヘロア”だった。1000は赤と黒、LKは橙色と群青色の塗料を使用している。黒髪でおかっぱの1000と波打つ長い金髪のLKの髪色に色を合わせてあった。
“極限兵団”の二人は銃器を振り上げ、まるで紙でできたおもちゃのように頭上で真っ二つにへし折った。
ゴングが鳴った。
“極限兵団”が素早く接近してくる。以前にも見た、完全に息の合った速攻だった。
ふわりとLKの体が宙に浮いた。ネコのように体を丸めて空中で回転する。
LKの跳躍に目を奪われたUQに、1000は低い姿勢で組み付いた。強引に腰にしがみつく。UQの腕が押し返そうともがいた。
足を上にしてLKの長身が空中で伸びた。
UQの頭にLKの頭突きが炸裂した。UQの動きが止まる。
LKはUQの首に腕を巻きつけた。王冠をくわえた栓抜きのようにUQの頭の上に倒立する。下からも1000が腕でUQの首を挟みこんだ。
実況アナウンサーが叫ぶ。
「あ~っと、早々に飛び出しました! 連携技です」
解説が説明する。
「“断頭時計”ですね。上下から二人の選手が相手の首を関節技で絞める。首を支点に時針が回ることで敵の首を徹底的に破壊することが可能です。実に見事なチームワークですね。前回の試合ではろくに連携することもできずあえなく敗退していたことを考えると、とてつもない進歩です」
「ゴホ!」
頭上のUQから苦悶のうめきがもれた。上下から二人に首を極められて窒息していた。
ミサイルのように飛来したHDが、LKの胴体に両脚で両脚蹴り(ドロップキック)を放った。マトモに食らったLKが吹っ飛ばされる。
腕にのしかかる重みが減少した。
UQがリングに倒れる。ジャンプして体を叩きつけた(ボディプレス)。素早く起き上がり、さらにもう一度ボディプレスの追い討ちをかけた。UQの体がぐったりと伸びる。
レフェリー団からリングにティアラが投げ込まれた。手を伸ばし、キャッチする。今回も連携技を決めたと判断されたチームに試合を左右する道具が与えられるルールだった。
「カミナリがどんなもんか、うたれてみない!」
UQの頭部にティアラを飾る。
「待て!」
1000に向ってきたHDをLKが食い止めた。
「あんたの相手はあたしだろ!」
「このザコめが!」
LKとHDが取っ組み合う。その様子を横目にしながらティアラをつけたUQから離れた。
その瞬間、リングの八方に立つ鉄柱の上からまばゆい光が走った。
雷鳴が轟然とリングを震わせる。高圧電流が空気を貫通し、熱せられた空気が急速に膨張、発生させる衝撃波だった。
よじれた糸くずのように枝をもつれさせた光の束が交錯する。
「うおおおっ!」
ティアラに稲妻が落ちた。UQは驚愕の声をあげる。落雷直前にティアラを投げ捨てていた。
猛烈な熱量を浴びたティアラは四散する。リングに落ちた破片は、ほとんど融解していた。
「こ、こいつやべぇ~」
これが、“風神雷神ガン無視バトル! 無責任体質、落雷ティアラ押し付け合いデスマッチ!”の仕掛けだった。ティアラを敵に装着させ、落雷させることで大ダメージを与えることができるのだった。
恐れを隠せないUQを背後にかばい、HDが油断なく“二人の女神”を睨みすえた。
「どうやら、前みたいに一ひねりとはいかないようだな」
LKが笑い声をあげる。
「今度はこっちがひねってあげる」
UQが叫んだ。
「やかましい! ぽっと出がなめた口利くな、うつけどもが!」
1000が言い返す。
「ぽっと出はおまはんらじょ!」
二組のタッグチームははげしく敵意のこもった表情でにらみ合った。
***
第一ラウンドが終了した。
数回の小競り合い以降はリング上に落雷はなかった。
金属製のティアラを粉々に吹き飛ばす稲妻の威力を目の当たりにし、ファイトスタイルが互いに慎重になったためだった。
ゴングが鳴り、LKと1000はコーナーに引き返す。
Jがタオルを持って二人を迎えた。
「いいぞ! リードしてるじゃないか」
「まーね。で、会場はどうなの?」
「“K+Vアソシエーション”か? 今のところそれらしい姿はないそうだ。もう観客の入場は締め切ったから不審者はいないはずだよ」
「ほうで。まあ、首相さんが来よるくらいじゃけん、安全にしよるんやろうけんどな」
一段高い場所の貴賓席を見上げると、首相の周りに護衛(SP)が並んでいる様子がかすかに見える。
「今は、試合に集中していてくれ。警察もそうだしプロダクションの者もいつもの三倍くらい会場に入って警戒してくれてる。これでは何も起こりようがないよ。で、首尾よく試合を終えたら国外脱出さ」
「それはJさんだけでしょ」
LKが皮肉っぽく微笑んだ。Jはすねたように言う。
「ついてきてくれないんだな」
「なんかそんな気にならないもん」
「Jさんまた振られとるんと違うで?」
「またかよ……まあいい、故郷で新しい彼女を見つけてやるさ」
「はあ? 浮気とか絶対すんなよ?」
LKが気色ばんでJに詰め寄った。Jはたじろぐ。
「待て待て、冗談だって」
Jの言葉にもLKは信じた様子を全く見せない。無言のまま疑いの眼差しを向けていた。
ゴングが鳴る。
二人はリングに飛び出した。
そこにはすでにさきほどとはすっかり様子を変えた“極限兵団”が立ちはだかっていた。安易な速攻は避け、じりじりと将棋で駒を進めるように着実に地歩を占めてゆく。
同じように、“二人の女神”も慎重になった。
互いに距離をとり、相手の出方を計る。
リング外からはヤジが飛んだ。
《おめーらなに固まってんだよ~》
《さっさと動け!》
《銅像見に来てんじゃねーんだからな!》
実況が入る。
「互いに警戒し合っているようですね。これが続くのでしょうか?」
「落雷の威力がすごすぎたんでしょうね。あんなの一回でも受けたらしばらくは入院ですよ。いや、いくら鍛えられたパラレスラーといえども死んでしまうかも」
解説が補足した。実況が肯定する。
「確かにわたしも絶対いやですね、あんなの。首相はいかがですか?」
野部田首相はよくとおる甘い声で答える。
「公約に掲げたことは命がけでやらなければなりません。掲げてないことはやりません。それがルールです」
「おっしゃるとおりでございます。おっ、動きがあるようですね……とはいってもなんだか妙な……」
するどく対峙していた四人の態勢に異変が生じた。
“極限兵団”は、背後の声に振り向いた。
セコンドのZOが声を荒げていた。
ZOの側に真っ赤な服を着た人物が立っている。ZOは相手に早く観客席に戻るよう促していた。
相手は頭から赤い布をかぶっている。色をのぞけば服装は尼僧だった。温厚そうに笑顔を浮かべている人物は修道士IXだった。
「なんでこんなとこいんの?」
呆然とLKがつぶやいた。全く同意見だった。まじまじと赤コーナーの妙な光景に見入る。
ZOの怒鳴り声が止んだ。IXを手で押そうとした瞬間、崩れるように地面にしゃがんだ。まっすぐに伸ばした腕をIXが握手するように握っていた。
ZOがわめき声を上げている。それ以上身動きできないようだった。IXが関節技をかけているようだった。
UQとHDがコーナーに駆け寄る。
レフェリー団を押しのけ、会場スタッフの服装を着た人間が二人、リングに飛び込んできた。
ロープを飛び越え、“極限兵団”の背後に着地する。
UQが振り向いた。
「お前らなにやってんだ? 素人は散れ!」
強烈な一喝をものともせず会場スタッフは嘲笑を浮かべている。
HDの口から驚愕の呟きがこぼれた。
「貴様らまさか“公的怨敵”ではないのか?」
HDの問いには答えず、会場スタッフは高々とジャンプする。まばゆいライトの光に二人は溶け込んだかのように見えた。
UQとHDの頭上に二人が落ちかかる。
容赦のない膝蹴り(ニーパット)が炸裂した。UQとHDは体勢を崩す。
パラレスラーにダメージを与える攻撃を行う二人組が一般人でないことは明らかだった。
哄笑しながら乱入者はそれぞれUQとHDを抱えた。
「悪夢の交流、Vol.1(ヴォリュームワン)!」
一人がUQをかかえて高々と跳躍する。
空中でUQの頭部を下に向けた。さらにドリルのように回転を加えて落下する。スクリューパイルドライバーだった
その下でHDが乱入者の背中に持ち上げられていた。
二人の身体は空中で衝突した。UQの頭がHDの腹部にめり込んだ。
屍のように“極限兵団”はリングに伸びた。完全に意識を失っていた。
“二人の女神”は仰天したまま見守るばかりだった。
Jの声が聞こえてくる。
「“九本脚”! なにをやってるんだ?」
シスターは目を細めて笑みを浮かべる。
至近距離で向き合っているのはZOだった。緊張しているのかいかつい傷だらけの顔をひきつらせている。全身が汗で濡れていた。皮膚から血の気が失せ、墓石のようにくすんだ色に変貌している。
ひねりあげた乾いた雑巾からわずかに水滴がこぼれるのように声がしたたった。
「おめぇは……あの“九本脚”なのか」
春の微風のような闘争心を溶かしてしまうような声でシスターはZOの敵意を迎えた。
「お久しぶりです。今までご挨拶一つできず……」
ZOは激しく頭を振った。
「もういい! もういい!」
シスターは柔らかいほほえみを唇に漂わせたまま口を閉じた。細めた目からのぞく瞳は針のような鋭い光をたたえている。
ZOは油断なくシスターを見つめる。
「Jの愛人じゃねーか。なにをたくらんだんだ? え? わしらをつぶそうとしているのか? 謙譲者からレスラーを出すまいと……」
「いいえ。わたしたちのチームはJと闘いに来たのです」
「なぜ?」
シスターの背後から威勢のいい声が飛んだ。
「そんなの、きまってんじゃん!」
「Jがパラレス界の首領だからだよ!」
ZOの灰色に色あせた丸い顔がゆがんだ。
「じゃあおれは……邪魔者ってことか?」
シスターは落ち着いた様子で答えた。
「そうですね。このままどちらかへお出かけになったほうが言いかと思いますわ」
胸をなでおろし、ZOはつぶやいた。
「胸糞悪いがそうさせてもらうよ。こんなボロボロの体じゃあ、ケンカなんてもうできやしねえしな。おとなしく消えるさ」
うつむいてコーナーから離れた。
「申しわけございません。このお詫びはいつかきっといたしますわ」
IXは頭を下げた。あきらめたように何度もうなずきながらZOは床に下りた。
「じゃあな……病院を手配せにゃならん。せっかく創り上げたわしの作品が……」
ぼやきながら歩み去るZOにIXは背を向けた。
その瞬間、ZOの体がひるがえる。
病身とは思えない敏捷さだった。
丸く膨れあがった腹がゆれる。細く伸びた両手脚が稲妻のように空を貫いた。宙を高く舞った。
一方的な不意打ちだった。
空を引き裂く鈍い音が周囲の空気を震わせた。
なめらかな赤い僧服の背中へZOは飛び掛った。至近距離からの高空ドロップキックが炸裂した。
誰もが息を呑んだ。
すでにわかっていたかのようにIXは体をかがめた。頭上をZOのするどい足先が貫通する。
ZOの高度が下がり、IXの背中が触れた。
突然、ZOの体が床に押し付けられた。上にIXが座っている。一瞬で二人の場所が入れ替わってしまった。
赤い布を体の上に敷き詰められたZOは叫んだ。
「離せ!」
IXは微笑む。
「残念ながら……あなたは私どもの敵となりましたわ。でも選手がセコンドに暴力を振るわけには参りません。だからわたくしめがお相手して差し上げます」
ZOは口角に泡を飛ばして反論する。
「よせ! ここまでなったらこちらの負けだ! 降参するから痛えのだけはカンベンしてくれ! オレは心臓が弱ってるんだ」
IXは密かに眉をひそめた。困ったよう菜表情を浮かべる。
「しかし、一応かたちだけでも、ということもありますので」
蒼白になったZOが叫んだ。
「よせっよせっ」
IXが組み敷いていたZOの手足から枯れ枝を折るような音が立て続けに鳴った。体の中でも太い骨を何度もへし折っていた。
何度かの骨折でついにZOの口から悲鳴が上がらなくなった。
IXは一仕事終えてコーナーに戻った。
主のいなくなった “極限兵団”のコーナーに陣取ったIXは余裕のある様子で答える。
「お仕事ですのよ。神に仕える身ゆえ、みだりにお金の勘定にうつつを抜かすわけには参りませんが、この世知辛い世の中ではいたしかたありませんわね」
「仕事だと? なにをするつもりだ」
「ピロリンピック出場権は、こちらのお二人におゆずりいただきたいの」
IXが指し示すのは、“極限兵団”をKOした二人組の会場スタッフだった。
LKが非難の声をあげる。
「ひどーい、IX姉ぇ! パラリンピックはあたしが行きたいのに!」
「急に出てきたって、資格があるわけないでえ!」
LKに同調する声にJが加わる。
「すでにわれわれ“二人の女神”は日本ピロリンピック委員会(JPC)の認可も得て、規定数の試合もこなしつつあるんだぞ? それに、現状、日本で試合可能な女子パラレスラーは“二人の女神”(おれたち)と“極限兵団”(彼女たち)しかいないはずだ! いきなり出てきて出場権をよこせなんてできるわけないだろ!」
「実績と試合数ですが、プロレス時代の戦跡を加味すれば彼女たちも充分に満たしているはずですわ。あと、協会への登録ならすでに済んでおります」
澄んだ声でIXは語った。気色ばんだJが反論する。
「バカな! そんな話は聞いてないぞ?」
IXは鈴の音を転がすような笑い声をあげる。
「あなたの運営なさってるパラレス協会とわたくしどもで立ち上げた“ネオパラレスユニオン”は直接関係ありませんもの。むろん、日本ピロリンピック委員会に私どもの組織は認められております」
「選手権獲得前にパラレスとしての実績がなければならない規則になってるんだぞ」
乱入した不審者たちはせせら笑う。
「おっさんよォ、規則きそくっつってもよォ、出場できる選手がうちらしかいなきャァよォ、うちらが出るしかねェじャねェかよォ」
もう一人が言う。
「そーだぜーえ? 日本ピロリンピック委員会がピロリンピックに参加をあきらめると思うかーあ? なことねーえ、どんな馬の骨でも良いからよーお、とにかく出場させるに決まってんだろーお?」
LKが聞きとがめる。
「どーゆーこと?」
挑発的な口調で不審者は言う。
「つまりよォ、そこでねそべってる先輩たちもよォ、オメェらもピロリンピックにャ絶対出れねェ。なんでかっつゥと」
もう一人が後を続ける。
「うちらが足腰立てなくなるまでぶちのめすからさーあ。やたらえらそーおだったアホどもは片付けたからーあ、次はオメエーらに死んでもらおーかーあ。ギュフフフフフ」
「そォだぜ。死ぬぜェ? にききききききき」
下卑た笑いをあげた。
侮辱的な態度に怒りを覚える。LKも同じ気持ちのようだった。
「そんな簡単にやられると思う? 間違ってるから!」
「ほんまじょ。勘違いせられんでよ!」
――非常事態です。直ちにリングから降りてください。
――これよりレフェリー団による協議によって本試合の結果を
取り決めます。選手の方はセコンドとともに控え室にて待機
してください。
――繰り返します。非常事態です……
会場に女性のアナウンスが流れた。レフェリー団の裁量による緊急事態宣言だった。こののち、レフェリーたちによってKOされた“極限兵団”や乱入者の処遇が決まるはずだった。
「おーっとーお、やべーえ、やべーえ! ギュフフ」
「にききっ、よけェなこと言っちまったねェ」
乱入者たちは素早くリングの外に飛び出した。
暴風がレフェリーたちの間を駆け抜けた。レフェリーたちは一度に上空に弾き飛ばされ、観客席に叩き込まれた。いずれも五体満足でいられた者はいないようだった。
観客が動揺し、会場に悲鳴が渦巻いた。
席を立とうとする者が続出する。かごのような特設リングの形状のため観客席から外部へ通じる道が狭く、ほとんど身動きできなかった。かろうじて非常口まで到達したものの、外部への扉は開かなかった。会場スタッフや警備員の必死の制止にもかかわらず、恐慌があちこちで起こり始めた。
ミハルカスあべの特設リングは、怒号と悲鳴が渦巻く混沌へと変貌した。
想像だにしなかった光景にあっけにとられる。まさかレフェリーたちに危害を加えるとは考えもしなかった。彼らは脆弱な肉体をもつ一般人だった。
「あいつらおかしいわよ……」
「まともじゃないね……レフェリーなんかに手を出したら、もうパラレスとかそんなレベルじゃなくなっちゃうじゃん。ケーサツだよ、ケーサツ」
「まずいな、何が始まるんだ……?」
青コーナー付近に集まり、三人は頭を寄せ合った。
「こーゆーときどーすりゃいーのさ?」
詰め寄るLKにJは首をひねった。
「わっからん……こんなことなら昨日のうちに国外脱出しとけばよかったかな」
「J!」
LKがとがめた。開き直ったようにJは答える。
「冗談だよ。でも、いざこうなっちまうと、もうここにはだれもパラレスラーに対抗できるものなんかいないんじゃないか?」
「まじで? それは大げさでしょ」
けげんそうにLKは言う。その意見に賛成だった。
「ケーサツおるでないで!」
考え込むようにJはマスクを傾けた。
「でもな……ここは超高層ビルの屋上だし数箇所のドアを閉鎖するだけで普通には出入りできない空間になっちまう。観客を人質にしたら、もう警察なんか下手に手出しできなくなるかもな。
おれも何とかしてやりたいが、今日の義肢が見てくれだけでパワー出ないんだ。謙譲者よりちょっと強いくらいだから、あいつらを抑える役にはたたんだろう」
Jは騒然とした場内を眺めた。
観客席は多数の群衆の頭がひしめいて目の粗い芝生のようだった。狭い通路は人で埋め尽くされ、席から移動した者は立ち往生していた。スタッフや警備員の誘導は全く功を奏していなかった。
リングに二人の乱入者が舞い戻る。
凄まじい声量で叫んだ。
「オメェらがココから出ることはできねェ!」
一瞬静まり返った観衆がふたたびざわめく。
右往左往するようすを堪能するように乱入者はゆっくりと周囲を見回す。言葉を続ける。
「ドアは誰も出れねェように閉じてある。もちろん入ってくることもできねェ。つまりお前らはァ……えェっとォ」
一人が言葉に詰まる。相棒を見た。
「なんだったっけェ?」
「あ? しょーおがねーえなーあ、おーいい。人質だろーお? ヒトジチーい」
「そゥそゥ! 人質だァ! 下手に逃げようとするとヒデェ目にあうぜ? レフェリーさんたちみてェによォ? にききき」
「ギュフフフ! あとそれからよーお、ここには爆弾仕掛けてっから、いつでも爆発できっから、抵抗すっとヤベーから」
会場からいくつかの金切り声があがった。完全に理性を失った人々が我先にと逃げようと試みる。閉じた非常ドアを何人もが殺到した。
警備員がIXを取り囲む。乱入者を指さした。
「何が目的なんだ? あいつらの言ってる爆弾というのは本当なのか?」
「とにかくやめさせろ! こんなことをしたらタダじゃすまないぞ?」
IXは周囲に愛想をふりまいた。
「あらあらまあまあ。ただじゃすまないとおっしゃるなら、どうなさるのでしょうか?」
IXの体がゆらゆらと揺れたように見えた。
警備員たちは互いに絡み合うように倒れた。いずれも体のどこかを手で押さえ、苦痛の声をあげた。
乱入者がIXのそばに寄った。リング下の警備員たちに声を掛ける。
「シスターにむやみに近づくんじャねェぜ。オレはシスターを心配してんじャねェ。オメェらの安全の為に教えてやってんだ」
もう一人が観客に向かってわめいた。
「オメエーらいつまでもうろちょろしてんじゃねーーーえよ! ボケどもがぶっ殺して欲しいのかーあ? あーあ?」
徐々に声が収まる。すでに会場から出ることは無理だと悟ったようだった。
不安そうにおびえた無数の顔がリングを仰ぐ。
IXは上空のボックス席を見上げた。手を上げて合図を送る。
実況アナウンサーの声が寒々と静まり返った会場にうつろに響く。
「え、え~。中断いたしまして申しわけございません。ついさきほどこちらに指示がありまして……」
キレの悪い口調でアナウンスされた。
IXが言う。
「ココに来る少し前に渡しておきました」
乱入者たちはほくそえんだ。
「……ええ~、ココで突然のお知らせです。ただ今、あらたに試合に参加するタッグが急遽決まりました。“神製黄金雨”です!」
声にあわせて二人は会場スタッフのジャンパーを脱ぎ捨てた。
「身長197センチ、体重200パウンド! モスケンクラーケン!」
観衆にアピールする為に宙へと差し上げた腕は六本あった。四本の義手を余分に装着しているようだった。いずれも通常の腕のように滑らかに動いている。
黒く波打つ長髪に、鮮やかな緑色のボディスーツをまとっている。むき出しになった肌は青白かった。死人のように蒼白に染料を塗りたくった顔面には虚ろな笑みが浮かんでいる。
「身長179センチ、体重145パウンド、ライトニングイーグル!」
背中からはばたきの音が聞こえる。鳥のような大きな羽根が生えていた。義手を改造したもののようだった。
体中に光を反射する金色の装飾を施していた。申しわけ程度に局部を隠している。虹色に染めた髪が渦を巻いて垂れ下がっている。目元をきらびやかな仮面が覆っていた。
圧倒的な異形に、観客たちは強引に説得されたように押し黙った。
「どォだァ? 特等席でうちらを見れた気分はよォ?」
モスケンクラーケンが大声で話しかけてきた。負けん気を刺激され、強気に言い返す。
「目立ちたがりなんはわかったわよ。いろいろオマケをつけて大変じゃな」
ライトニングイーグルがうなずいた。
「それがうちらの狙いだぜーえ。今の発展した科学力を駆使すりゃーあ、もっとすげーえ格闘が見れんだよーお。パラレスは勝凱者たちだけのもんじゃねーえぜーえ。今はクスリとか、義肢とか、謙譲者が使うのは規制されてっけどよーお」
「そォそォ! うちらのバックにャ“K+Vアソシエェション”がついてるんだ。勝凱者だけが特権階級として扱われるのはパラレスの世界じャもうおわりだぜェ!」
モスケンクラーケンが大声で言った。
会場全体が静寂に凍りついた。
寒々と凍えきった空気に震えを抑えきれなくなったかのように、そっとLKが質問する。
「“K+Vアソシエーション”? じゃ、あたしたちを殺すってのは……」
モスケンクラーケンとライトニングイーグルが哄笑する。
「あたりィ。オメェらはここで死ぬゥ! 三人ともなァ」
「うちらの売り出しとオメエーらの抹殺もかねた一石二鳥の作戦だぜーえ。うちらの顧問にマチガイはねーえんだ、な、シスターあ!」
様子を眺めていたIXはうなずく。
「“K+Vアソシエーション”は投資先ですもの。大仕事なのですから、修道会としてもお手伝いの一つもいたしますわ」
LKは蒼ざめた。怒りに震えているようだった。鋭い視線をIXに向ける。
「IX姉! こいつらの味方なの?」
「おれを敵に回すってのか?」
同時にJも叫んでいた。LKとJは互いに顔を見合わせ、IXへ向き直った。
IXは温かみのあるほほえみを全く崩さず答える。
「はい」
LKは絶句した。傷ついたような表情でうつむいた。
Jはさらに言い立てる。
「二人の仲じゃないか! あの時のことを思い出してくれよ」
LKが勢いよく顔を上げた。Jを睨みつける。
「ちょっと! どーゆーこと? IX姉とカレカノだったの?」
「待ちない。今はガマンせんで」
怒り心頭のLKをなだめる。
全く同ずる様子もなくJは落ち着き払って答えた。
「それは想像に任せる」
「あのね!」
LKがわめき声を上げた。IXの声が刺すように響いた。
「昔のことですわ。今には関係ございませんのよ。きっと未来にもね」
「冷たいな」
Jは肩を落とした。
「なんなんだよ、JもIX姉も……」
LKはひとり愚痴っていた。力づけてあげようと、肩をたたく。すねたように唇を曲げたまま、LKは1000に眉をしかめて見せた。
「お~っと、ここで解説の府佐さんから貴重な情報です」
実況アナウンサーの声が会場に流れる。解説の声が入れ替わる。
「“神製黄金雨”の前歴ですが、若手女子プロレスラーの“公的怨敵”かと思われます。
かれらの体格に覚えがあります。全く同じ身長、体重でしたから。それに、体の動きも非常に似ていますね。モスケンクラーケンが葉奈々瀬VIII、ライトニングイーグルが壱後屋Fだと思います」
「“公的怨敵”というタッグはあまり聞きませんが……」
「ほとんど知られてはいませんが、数年前、若手の中でも実力は一番と噂されていたことがあります。確かに実力は天才的とも言われたのですが、同時にトラブルが頻発することが業界でも知れ渡りましてね……
干されてたんですよ」
「トラブルというのは、人間関係のでしょうか?」
「そうです。とにかく人の言うことが聞けない上にすぐに暴力を振るうと評判だったそうです。あと、不穏なハナシですが……
二人とも殺人を犯した疑いがもたれているんですね。Fは道場破りを何人か死に至らしめたという噂を聞いたことがありますし、VIIIはスパーリング中に何人も死に至らしめているそうです。
その中には、実の妹も含まれているとか」
「とんでもない話ですね~」
「確か、現在は“極限兵団”の所属する団体に入って下積みからやり直していたとの噂を聞いていましたが、まさかこんなところで復活するとは驚きましたね」
「いわば、下克上ですね。先輩たちを倒して我こそがいちばんだと名乗りをあげたと。非常にプロレスらしい展開で、わたくしとしてはかなり魅了されますが、首相はいかがでしょう?」
「なんと申しますか……怠けアリを倒して働きアリのための国を作ることに邁進する所存でございます」
「おっしゃるとおりでございます!」
そのとき、ゴングが打ち鳴らされた。女性の声でアナウンスされる。
――さきほどの試合結果は“極限兵団”の怪我による試合放棄
と判定されました
――“極限兵団”に代わり、“神製黄金雨”がパラリンピック選手
権争奪戦に参加します
――これより“二人の女神”と“神製黄金雨”の選手権争奪戦が
開始されます
失神した“極限兵団”はリングから運び去られた。
リングの下では数人のレフェリー団が負傷した体をひきずりながら動いていた。機嫌をうかがうようにIXを仰ぎ見る。
「結構です」
IXのかぶった赤い髪覆いが揺れた。
「準備ができました」
モスケンクラーケンとライトニングイーグルは歓声を上げた。
「サンキュゥな! シスター!」
「この一戦で決めてやるぜーえ! オメーえらの寿命をなーあ!」
“神製黄金雨”がまっすぐLKと1000に向かう。
試合開始のゴングが鳴った。