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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
9/51

勝ち組の中の負け組

 坂田一喜は親友の戸宮雄太といっしょに行動していた。第三部隊の二人は大勢の生徒といっしょに、K大学方向に進みながら、敵基地のF公園に向かっていた。

「なかなか敵が現われねーな」

 坂田がイラつき、銃の引き金を引いて遊びながら言った。

「そうだな」

 戸宮雄太も退屈していた。

「お前、絶対リタイヤなんかすんじゃねーぞ。リタイヤするぐらいなら自爆した方がマシだし。あんな偏差値の低いやつらなんかに負けるわけがねー」

 坂田はわざと大きな声で言ったため、何人かが二人のほうを向いた。

「そうだね」

 戸宮は同じことを言った。

 戸宮はいつも同じことしか言わない。前回のテストでよくこちらのチームに入れたなと思う。カンニングするにしても周りは馬鹿ばっかりだったはずだし、先生が見回っているから、うかつにカンペを使うことも難しかったはず。いつもの成績は中の下ぐらいだったのに。ま、別にいいけど。どうせ俺には勉強勝てないんだし。

 今は大学の正門に来ている。今日は休講なので平気で出入りできる。このゲームを高校で行うのは非常に珍しいので付近に住んでいる人たちは外でレーザー銃を撃ちかました戦争ごっこをしていても気にしない。もちろん、レーザー光線と言っても実際に熱があるわけではないし、人体には無害である。

 一団は正門を通っていった。

 坂田は五階建てくらいの各校舎を見たが、高校とは比べ物にならないほど大きく感じた。

右側には駐車場があり、道の奥のほうの左側には自転車小屋がある。

 すると、レーザー光線が道の向こう側から来た。

「うわ、」

 味方の生徒が攻撃を受け、消えるように転送された。

「戸宮、そっちいけ」

 坂田が戸宮に命令して、建物の角の奥にある自転車小屋付近に隠れた。

 敵はこちらに接近してくる。坂田は角を利用して攻撃を開始した。その上に長身の戸宮が同じように銃の引き金を引いていた。先ほどの敵も隅に隠れながら攻撃を続けていた。すると、他の敵もやってきたので、本当に試合が開始されたんだなと実感が沸いてきた。

「馬鹿が動物の群れみたいに出てきたぜ。戸宮」

「そうだね」

 数分間、同じ状態が続いたために、坂田はイラつき始めていた。

 これじゃ、敵が倒せない。

 そうはいっても何かいい考えが浮かんだわけではなかった。

 敵が一人やられた。同じメンバーの一人が攻撃した光線によって。

 くそ、俺はまだ一人も倒していない。ああ、ムカつく。

「ねえ、自転車小屋から敵がいる向こう側に回りこむことができるんじゃないの」

 戸宮が作戦を考え出した。そんなうまくいくものか。

 坂田は自転車小屋を見渡した。

 本当だ。回り込むことができるぞ。どうして俺はそんなことに気づかなかったんだ。

「ああ、お前に言われなくても今そうしようと思ってたところだ」

 坂田は嘘をついて、戸宮をねじ伏せ、二人で自転車小屋の奥に向かった。とにかく、早く敵を倒したかった坂田は走りながら、右折した。その後ろに戸宮もついてきた。

 回りこむのに意外と時間がかかったが、角を曲がる前に、いったん止まった。

「止まれ、敵がいる」

 坂田は、左手で戸宮を押さえつけ止めさせた。

 建物の塀から顔を出すと、敵が壁などを盾にして俺たちの味方と戦っている。

 坂田は銃をその生徒に向けて、引き金を引いた。すると、慌てていたせいで、至近距離にも関わらずレーザー光線は外してしまった。それに気がついた敵がこちらに銃を向けてきたので、坂田はもう一度攻撃を試みた。今度はレーザー光線が敵の胸辺りに命中し、その生徒は消えていった。

「ふ、ザコが」

 坂田は敵を倒したことに快感を覚えた。

 もっと、敵を倒したい。皆、俺には勝てないんだ。

「いくぞ、戸宮」

「うん」

 二人は先ほどまで敵がいた所に移動して、戦況を確認した。

 レーザー光線が飛び交っているのでうかつに移動できない。敵の方面にばれないように移動するしかない。

「戸宮、来い」

 二人は再び、敵軍が集まっている所に回りこむため、自転車小屋の通路を再び使うことにした。坂田は小柄で体力があるので全速力で走ったが、戸宮は息使いが荒くなってきた。

 この、うすノロが

 坂田は戸宮を無視して先に進んだ。

 校舎の裏側に到着した。そこにも自転車小屋があり、直線状に連なっていたが、敵がその付近に存在することも分かった。敵に気づかれずに攻撃できる。

 戸宮が到着し、二人で敵の背後から攻撃することにした。

「いいな、他の敵にばれないように攻撃するんだ」

 坂田は戸宮に対して、命令口調で言った。

 二人は銃口を戦いに夢中になっている敵に向け、引き金を引いた。レーザー光線がその男子生徒の体に直撃し、それに気がついた時にはその生徒は消えていた。

「もっと、敵を倒すぞ」

 調子に乗り出した坂田は、その後も敵を二人、三人、四人と敵を一掃し始めた。

 戸宮は坂田の命令どおりに動くだけであったが、それなりにこのゲームのコツを掴んでいたことを、坂田は知る由もなかった。

 しかし、敵を多く倒していった坂田には一つだけ引っかかることがあった。

 哀川の姿が見えない。やつはどこにいる。C地区の公園でリーダーを守っているのか?

それとも、攻撃にまわって、学校に迫っているのだろうか? 少なくとも、やつはまだリタイヤしていない。やつがそう簡単にリタイヤするわけがない。

 俺はやつが嫌いだ。何ものにも縛られず、勝手気ままに過ごしているあいつが。嫌がらせしたって、あいつは気にも留めない。今日だって、やつに足を引っ掛けたはずなのに、こけるどころか俺の足を蹴飛ばしやがった。

 坂田は、大学に潜伏していた敵をほぼ一掃したと確認したが、敵の一人が慌てて逃げ出しているのを目の当たりにしたため、集中して引き金を引いたが外してしまった。しかし、戸宮が放ったレーザー光線が敵に命中し、その生徒の体が転送されていった。

「お前、俺が倒そうとしてた敵を倒すなよ。この馬鹿」

 戸宮にいいところを取られるのは正直ムカつく。戸宮のぶんざいで。

 それにしても、哀川は今どうしているんだ?


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