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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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独断行動

 スクリーンの生徒が

「後五分で試合が開始されます。」

 と言って再び映像が消えた。

「もうそろそろか。緊張してきたな」

 高倉が銃を弄びながら、テンションを上げて言った。

「まあ長生きしろよ、高倉」

 哀川が皮肉を言ったので、林も調子に乗った。

「短い人生だったな」

 それを訊いた高倉は

「お前ら、俺がすぐに負けるかのようなことを言うな」

 と言ったが、説得力に欠けていたため、林が反撃した。

「来年・・頑張れば・・いいさ」

 林が止めの一言を言ったので高倉は腰を下ろしてしまった。

 哀川は自転車にまたがって司会開始を待っていたが、五分間を長く感じていた。すると、スクリーンの映像が再び映りだした。

「皆さん後一分で開始されます。ベルトの電源を入れてください。」

 それを聞くと多くの生徒が一斉にベルトの電源を入れた。すると、ベルトの中央の丸い形をした部分が青く光り始めた。また、水色だったジャージの色も青になった。

「敵はベルトの中央が赤いので間違っても味方に攻撃しないように。ではカウントダウンを開始しますので、指定の位置から始まるまで絶対に出ないでください」

 そう言うと、スクリーンの映像が変わり、三0の数字のマークが出てきた。そして、一ずつ数字が小さくなっていった。カウントダウンの開始である。

 哀川は周りの生徒が静かになったことに気づくと同時に誰かノリのいい生徒が大きな声でカウントダウンを言っていたので他の生徒も釣られてカウントを言った。

「一0、九,八」

 高倉も皆といっしょに数字を言っていたが正一と林は何も言わなかった。

「七、六,五,四,三,二,一、0」

 スクリーンに大きくスタートと表示されると同時に大きなピーと言う音が放った。

 攻撃担当の生徒たちは一斉に走り出しながら公園を後にしていった。あまりに人数が多いので正一はしばらく待ってから自転車を進めようと考えた。しかし、走って進んでいく生徒もいれば友達といっしょに歩きながら進んでいく生徒もいたので正一は少しだけイラついた。

「哀川もいっしょに戦えばいいのに」

 高倉がしつこく言ってくるので正一は完全に無視して、人ごみが減ったのを見計らってペダルを漕ぎ始めた。

「じゃあ、また後で」

 正一はそれだけ言って、その場を離れた。前方にいる生徒たちをうまく曲がりながら、避けていった。どの生徒も武器を片手に持って進んでいる。正一は銃を腰のベルトに納めたまま、公園を後にした。

 ブライトフューチャーズの陣は戦闘範囲の北にあるA地区にある。しかし、進んだところで、敵の陣営が待ち構えている。だから、戦闘を回避するために、俺は南に向かう。D地区には川を挟んだ橋を渡らなければならない。ここで、敵に見つかればアウトだが、距離があるので合うことはないだろう。

 正一は、敵陣に向かう生徒たちとは逆方向に向かっていった。何人かの生徒は正一の不審な行動に顔をしかめていたが、正一は人の顔色を伺うことはしないので、無視して進んでいった。

 もちろん、全員が北に向かうわけではない。C地区内の南西方向に二番の転送装置がある。そこを使うとA地区よりも南にあるC地区に存在するもう一つの二番転送装置があり、直接向かってもいいし、装置を使っても問題は無い。B地区の東に入るだけなら徒歩の方が早いが、B地区のぎりぎり範囲内の東側に行きたければ転送装置を使った方が早い。

 正一は自転車のスピードを上げてペダルを進めた。

 移動した時の疲れは残っていないので、足が軽い。このゲームは体力と射撃が必要とされるスポーツだ。特別射撃の腕がいいというわけではないかわりに、体力と逃げ足の速さは誰にも負けない自信がある。このことを言っても誰にも信じてもらえないだろう。普段、不真面目に授業を受けていたため、体育のスポーツテストも手を抜いて受けたら、体力テストの結果がABC評価のうちのCであった。Cだけなら気にしないが、高倉と林がAだったので、少し悔しかったが別に死ぬわけではないし、ま、いいかと自分で納得してしまった。

 五分ほどペダルを漕いだが、橋に着くまでに時間がかかる。何度か橋を渡ったことがあるため、道を間違えることはない。決して。

 正一は、警戒をするどころか、殺風景な景色を眺めていた。

 大きな建物はなく、田んぼと使われていない土地。遠くには山と雲が見える。つまらない一本道。砂利が多くて進みにくい。車は走っていない。

 正一は、今までにも何回か見たことがあったけれど、殺風景な景色が好きだった。正一は去年の大会の時もここへ来たのである。その時は一人ではなかったけれど。休日は一人でいることが多く、高倉たちと遊んだことが一度も無い。自転車で人が少なく、建物がない場所に来ては一人でこの殺風景な場所を楽しんでいた。正一はこのことを高倉や林、高橋には一度も話したことはなかった。友達には理解できないと思ったからである。

 自分だけの場所に自分一人だけしかいない。この気持ちは誰にも理解できないだろう。普通の生徒なら寂しくて耐えられないだろう。でも俺には耐えられる。耐えられるというより、楽しんでいるんだけれど。もちろん、今はゲームをしている。このまま、ずっと南にいるつもりはない。ある程度の時間を見計らって、北に戻って敵を不意ついするつもりである。このまま戦っていたとしたら、いくら腕がいい生徒でも倒される可能性が高い。だから、生徒が少なくなった頃を見計らって戻るつもりである。しばらくは橋を渡ってD地区すべてが草原で隠れているつもりだ。他の生徒にしてみれば、そんなことしてねーでとっとと戦えと言われるだろうがそんなことは気にしない。俺は自分のやりたいようにやるだけだ。

 ようやく橋に到着した正一はいったん止まって自転車を降りた。下から見える川を、両手で体を橋に置いて下を見下ろした。涼しい風が吹いてきて、正一の髪の毛がなびいた。

 しばらくそうしていたかったが、再び自転車に乗り込んで橋を渡り始めた。



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