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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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緊張感の中で

学校でも、緊張感が漂っていた。学校の正門をシールドとレーザーハンドを装備した生徒がいつでも出撃できるようにしていた。後ろには銃を持った生徒。

 さらに、別部隊には優等生の上田弘樹と親友の島田裕也が銃をポケットに装備しながら立っていた。

 リーダーの鮎喰は学校の中で敵チームにいるスパイに電話を掛けていた。

 その生徒は万引きを鮎喰に目撃され、脅されたために、ルーズドッグの状況を知らせる約束をしていた。また、場合によってはルーズドッグの生徒を銃で不意打ちするように命じていた。

 数分後、鮎喰は携帯電話をポケットに閉まって、教室のベランダに向かった。

 先生から渡されたマイクを使って、鮎喰はベランダに立って言った。

「全生徒の皆さん。リーダーの鮎喰です。今から、もう一度作戦を説明します。ミーティングで話しましたが、確認のために説明します。まず、第七部隊はA地区の西にある三番の転送装置に行って、そこから転送してきた敵を倒してください。第六部隊は学校の警護およびその周辺で待機、第五部隊はB地区に向かってください。第四部隊はB地区の西に向かい、その周辺及び一番の転送装置を確保してください。第一から第三部隊までは敵陣を一気に向かって襲撃してください。」

 鮎喰はマイクのオフにして深呼吸した。半分の生徒のリーダーなので緊張していた。

 もし、試合に負けたら皆から責められる。だから、絶対に負けられない。負けたりしたら、友達といっしょに修学旅行に行けなくなる。まして、偏差値の低いやつらに負けでもしたら私の一生の恥じだ。

 ベランダから下を見下ろすと、生徒たちがざわめき始めた。彼らも緊張しているのだろう。相手が強い敵だと案外プレッシャーは感じないが、逆に相手が弱いと、余裕だと思う人に負けた時の悔しさを想像してしまい、緊張する人もいる。私の場合は両方だけれど、プレッシャーが余裕を少し勝っている感じ。

 人を見下ろすと、まるで女王様にもなった気分でいられて楽しい。私の家来たちが私のために働いてくれる、なんてね。

 私は学校で指揮を取らなければならないから、ずっと学校にいなければならない。これは苦痛である。何かいい作戦を思いつけたらな。

 しばらく外を眺めていると、携帯電話が鳴った。相手は坂口優子からだった。

「もしもし」

 鮎喰が電話に出ると、

「あ、友子。さっきはお疲れ様、まるで映画に出てくる軍曹みたいだったよ」

「うそー、私そういうタイプじゃないんだけど」

 軍曹って。優子は何を言ってるのよ? 確かに軍隊みたいに部隊を分けたし、敵チームにスパイを送り込んだけれど。

「ま、いいじゃん。こっちは緊張している人とテンションが上がっている生徒に分かれてる。白けてる人も若干いるけど」

 行事になると大抵の人は盛り上がるが、白ける人もマイノリティーながらも必ず存在する。私は盛り上がる方なので、白ける人の気持ちが分からない。今回の行事は緊張しているけど。白けている人は去年の経験から大半がリタイヤする。しかし、向こうのチームに比べればこのチームはいい方だ。彼らルーズドッグは名前からしてすでに負けている。やる気のある人はいるだろうけれど、チームワークや頭脳に欠けている。それでも、運動神経だけはいい生徒がいるのは確かなので、若干やっかいでもある。けれど、学校生活を送っていて分かった事は、賢い生徒は案外運動神経もいいということである。実際に私のチームの中にも頼りになりそうな生徒はいくらでもいる。

「それにしても、まだ始まらないのかしら」

 テンション高めの優子が言った。

「そうね、前もって時間を指定しないから困るわよね」

 去年は決められた時間に始めようとしたのであるが、先生方はスケジュールどおりにはならなかったらしく、大変だったらしい。そこで、ある程度の時間指定だけでことを運ぶことになったらしいの。そのことは生徒たちには公表されてないけど。

 すると、学校のスピーカーから

「後一五分で始まりますので準備してください」

 と言う声が流れてきたので、校庭の生徒たちがざわめき始めた。


 スピーカーの音を聞いていた島田裕也はざわめきの中一人無言であった。

 第一部隊の島田は校門の近くにいた。C地区の公園にはとりあえず親友の上田とよくいっしょにキャッチボールをしに行ったり、人数を集めて野球の試合をしたりした。最近は野球部の練習があるので行っていないが、場所はしっかり覚えている。なぜか、あの場所を思い出すと懐かしくなってきた。

「島田、何ボケーとしてるんだよ」

 上田が島田を馬鹿にするように言った。

「ちょっと考え事をしていただけだよ」

 島田は少しムカっとしたが必死にその感情を押さえ込んだ。

「何緊張してんだよ。俺なんか負ける気なんて全然しないし。つーか余裕」

 島田はますますイラついてきたため、右手のこぶしを握り締めた。

「さすがじゃん、上田」

 島田は本心とは違うことを言った。

「後、一五分も待たなきゃなんねーのかよ」

 上田は生徒の人ごみの中で一番テンションが高かった。上田が憎くても試合には勝ちたい。この第一部隊は部隊の中で一番強いだろう。けれど、戦闘が起きたときは正直他の人と戦いたかいから、こいつから離れよう。こいつといるといつもうまくいくが、こんなにムカついてはどうしようもない。離れたいなこいつとは。

「よ、二人とも久しぶり」

 そう言って背後に現れたのはサッカー部の竹井であった。一年生の時同じクラスであった竹井と話すのはしばらくぶりである。

 竹井も上田とどうようにテンションが高く、自信に満ちていた。リタイヤするキャラではない。長身で誰と会話しても上から目線になってしまう所も変わっていない。

「お前ら銃使うの?」

 竹井が大きな声で言ったので

「そうだけど。何か文句でもある」

 上田が少しだけけんか腰な言い方だったが竹井は気にしなかった。

「俺のを見ろよ。シールドとレーザーハンドだぜ。やっぱ接近戦でしょ」

 上から目線の竹井に対して、上田はムカついたのかどうかは分からなかったが反論した。

「その武器じゃ接近戦しかできない。シールドだって完璧に体を守るだけの面積はないし、それに接近戦って疲れるでしょ」

 二人の口論は何分間か続いた。二人とも、自己主張が強すぎるのだ。しかも彼らは頭がいいのでなおさらたちが悪い。これで俺だけリタイヤなんてしたら溜まったもんじゃない。こんな二人より絶対に長く生き残ってやる。

 島田は周りを見渡すと、後ろの方に坂口優子が携帯電話で誰かと話している。

 坂口とは同じクラスで、上田といっしょによく鮎喰のメンバーとしゃべったりする。最近になって坂口を見るとなぜか緊張したり、妙に気になるようになった。

「どこ見てんだよ、島田」

 上田が竹井との会話を中断して島田を呼んだ。

「何でもない」

 島田はあわてて言ったので上田と竹井に怪しまれた。

「島田、最近ボケーとしてるけど大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

 島田は気持ちを落ち着かせようと、一呼吸した。

 早く試合が始まって欲しい。皆もきっと同じ気持ちだろう



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