表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
5/51

第21回SFサバイバルゲームの開始

教室中に放送が流れた。

「全生徒は転送した装備品を身につけて校庭に集まってください」

 正一たちはこの放送を待っていたかのようにすでに武装していた。もちろん、他の生徒たちも。

 三人はクラスの皆が全員外に出るまで待った。三人とも、あまり人ごみは好きではないのだ。人が減ってきた隙を突き、三人は教室を出て、下駄箱まで急いだ。しかし、大勢の生徒が靴を履き替えている最中だったので、そこでも待たなければならなかった。

 数分後、三人はクラスと合流して、適当に一列に並んでいた。

「おい、いよいよ始まるぜ」

 高倉が興奮しながら、足踏みをしていた。

「ふ、ふ、ふ」

 林が相変わらずニヤニヤしているがきっと本人も興奮しているに違いない。

 正一は周りを見渡すと、右方向には友達の高橋勉がいた。

 高橋勉は一年生の時に三人と同じクラスで仲が良かったが、クラス替えで、最近は会話をしていなかったが、同じチームのはずなので会話をする機会は今日に限ってはいくらでもあるだろう。

「偏差値の低いやつらを倒せばいいんだろ」

 小柄の坂田一喜がわざとか知らないが大きな声で、長身で筋肉質の戸宮雄太と話している。戸宮雄太は坂田を見下ろしながら、頭の悪そうな顔で返事をしていた。

 正一は二人があまり好きではなかった。アベコベコンビなのは大変結構なことなのだが、坂田の嫌みには腹が立ち、それに従っている戸宮にも腹が立っていた。ひ弱そうな生徒に絡んでは嫌みを言いまくる坂田には飽き飽きしていたのである。一度だけ、坂田が林を馬鹿にしてきたことがあったのでけんかに成りそうになったことがある。林はあんまり相手にはしていなかったが、あの時の二人の顔といったら、悪意に満ちていたのを今でも思い出す。

「あいつら、またあんなこと言ってるぜ」

 高倉がイラつきながら二人に話してきた。

 高倉があの二人が嫌いな一番の理由は、成績が二人より悪いこと。劣等感を抱いていることは明らかだった。特に、デカ物の戸宮が成績優秀な敵チームにいることが不思議でならなかった。カンニングをしたに違いないが、同じチームになりたくはなかったのでそれはそれでいい。

「こうなったら、勝つしかないでしょう」

 林が笑いながら、調子の良いことを言ったので林を正一は思わず笑ってしまった。

 全生徒たちがようやくクラスごとに並び終えると、校長先生がマイクを持って生徒たちに挨拶した。

「今回、わが高校の伝統であるSFサバイバルゲームも二一回目を無事、向かえることができました。私は皆に、このゲームを通して、多くのことを学んで欲しい」

 約三分間話し続けた校長の後に、生徒会代表の生徒がゲームのルールについて説明し始めた。

「今回のゲームでは、二チームに分かれて試合を行います。勝敗は各チームのリーダーが先に倒されたチームが負けになります。レーザー銃等の攻撃を体に受けると皆さんが付けているベルトが感知して、体全体が体育館の隣にある転送装置に転送されます。つまり、リタイヤになるわけです。次に、ブレスレットについて説明します。ブレスレットの青いボタンを押すと、今回のステージの地図が立体映像になって現れます。」

 すると、周りの生徒のほとんどが腕に付けているブレスレットの青いボタンを押すと、立体映像が飛び出すように出てきた。高倉も皆と同じ行動をしている。

「ブレスレットやベルトを絶対に外さないでください。もし、外したりすると、即リタイヤになります。また、地図内に示されている地区から外に出た場合も反則となり、リタイヤです。移動手段は、基本的には徒歩になりますが、自転車での移動や、各地区に配置されている転送装置を使った移動も可能です。武器は、皆さんがベルトのポケットにしまっている無尽蔵のレーザー銃、もしくはシールドとセットになったレーザーハンドを持っていると思われますが、今から、その説明をします。レーザー銃は引き金を引けばレーザーの光が発射されます。シールドは赤いボタンがあるのでそれを押すと、楕円形をした映像膜が現れ、レーザーの光を遮断することができます。レーザーハンドはグリップ上の引き金を押し続けることで、約一メートルの長さで板状の光が出ます。この光を敵に当てれば、倒せます。最後に、開会式の後にルーザーズの皆さんはC地区の公園に移動してもらい、試合が始まるまでそこで待機していてください。試合開始までにはベルトの電源を入れてください。電源を入れると、ブライトフューチャーズはベルトの中央が赤色となると同時にジャージの色も赤になります。ルーズドッグは逆に青くなります。腰に二つのボタンがあるのでそれを同時に押すと電源が入ります。ベルトの右腰にゲーム専用の携帯電話があります。」

 正一はベルトの腰についているポケットからボタンを外し、携帯電話を手に取った。色が青で、変形機能がない長方形をしている。表面のほとんどがディスプレイになっており、指でディスプレイ上のボタンを適当に押してみると、画面は変わったが何も起きなかった。

「画面の空欄にチームのメンバーの連絡先を開会式終了時に入れてください。入力方法は始めに、一番上の太枠に、自身の親指を押し付けてください。指紋を認証し、名前が表示されます。他のメンバーのアドレスの登録方法は、普通の携帯電話の赤外線送信と同じ要領で行います。この携帯では側面にあるボタンを押しながら、お互いの携帯電話を向け合えば、送信が完了され、空欄内に相手の名前が入力され、以後通信をやり取りする際は名前の欄を押すと通話が可能になります」

 ルール担当の生徒が一息入れて言った。

「試合会場の説明ですが、この学校が属するA地区、その南にありK大学があるB地区、さらに南に位置し、ルーズドッグのスタート地点であるF公園や森が存在するC地区、そして一番南に位置し、野原が広がっているD地区の四つの地区で行います。それ以外の地区に入るとリタイヤになりますので気をつけてください。また、住宅のレプリカがありますが今回は入室禁止にします。最後になりますが、この試合に勝ったチームの生徒だけが、修学旅行に行くことができます。以上です」

 ルール担当の生徒はほっとしたかのように一瞬だけ肩を落としたのを正一は見逃さなかった。

 周りは修学旅行の話で騒がしくなっていた。正一は修学旅行に興味が無かったので高倉と林の会話には入らなかった。

「最後に、各チームのリーダーは前に出てきてください」

 司会者がマイク越しに大きな声で言うと、辺りは急に静まり返り、リーダーの二人が前に出てきた。

「リーダーは一人ずつ今日の抱負を言ってください」

 司会者に言われるとおりに、先に橋本健二が壇上のマイクを使って発言した。

「僕は、今日の試合をリーダーとして最大限に勤め、悔いの無いように頑張りたいと思います」

 かなり緊張気味の橋本はマイクを鮎喰に渡した。

「私は絶対のこの試合に勝って修学旅行に行きます。そのために、敵チームであるルーズドッグを叩きのめし、勝利することをブライトフューチャーズのメンバーたちに宣言したいと思います」

 鮎喰の自信満々の発言のおかげで、歓声の声がどことなく聞こえてきたのを期に、周りが一斉にうるさくなった。もちろん、ルーズドッグの生徒たちも今の発言に対して執念を燃やしているに違いないが。

「やべー、勝利宣言されちまったよ」

 高倉がテンションを上げて言った。

「やっぱり、倒すしかないようだな」

 林がニヤニヤしながら、芝居がかった言い方をした。

 二人のリーダーは壇上を下りて、自分たちのクラスの列に戻って行った。

「以上で開会式を終わりにします。この後、ルーズドッグの生徒はC地区の公園に向かってください」

 正一たちは、C地区の公園に向かうために歩き始めた。生徒の半分はルーズドッグなので前に進むのがひと苦労であった。レーザー銃で遊んでいる生徒や、携帯でアドレスを登録し合っていた。

 正一は、自転車小屋が目に入ったので、自転車小屋まで走った。他の生徒も自転車小屋に向かって自転車に乗って公園に向かう者がいたが、正一は自転車を引きずって高倉と林の元に戻ってきた。

「お前、自転車で試合するつもり?」

 高倉があきれた顔で聞いてきたので、

「俺の自転車走行をなめるなよ」

 と正一は調子に乗って言った。

「俺は乗ってみたいな。哀川、俺に貸せよ」

 自転車登校とは無縁な林が言ったが、正一は誰にも貸すつもりはなかった。自分勝手に行動したい正一にとって自転車は絶対だった。

「乗ってる時に攻撃されたらどうすんの?」

 高倉が、いちいち突っ込んでくるので

「お前じゃないんだから俺はそんなへまはしないよ」

 高倉は正一に言われたので急にテンションが下がって自転車の悪口を言わなくなった。

 ルーズドッグの一団はのろのろしながら進んでいたが、近くの転送ドアまで行くと、そこから順番にC地区に行った。もちろん公園は転送してもまだ先にあったので歩かなければならなかったが、それでも転送しないで歩くよりは楽だったので大勢の生徒が転送ドアに並び始めた。高倉と林は案外体力があるので装置を使わない選択をした。正一は自転車があるので、いざと言うときは自転車に乗って公園に向かおうと思っていたが、登校してきた時の疲れは、残っていなかったので、自転車を両手で押しながら、三人で行くことにした。

「今年こそは長く生き残るぞ」

 高倉が自分に言い聞かせるかのように高い声を出しながら、一定のペースで歩いていた。

「それはどうかな」

 林が高倉の不気味なことを言ったので高倉は一瞬ビクっとしたが、すかさず反論した。

「俺だってやるときはやるんだよ。そういう林だって去年は中盤辺りでリタイヤしたじゃないか」

 高倉は少し興奮しながら、反論したが林には効いていないようだった。

 去年の大会では、高倉は調子に乗って瞬殺され、林は中盤に攻撃され、リタイヤした。 一年生の時に同じクラスだった高橋勉はあと少しで終わる時に倒された。

「そういえば、哀川は生き残ったんだっけ?」

 高倉が会話の相手を林から、正一に移した。

「もちろん俺は生き残ったよ。逃げ隠れが得意なもんでね」

 正一は少し自慢げに話したので高倉がムッとしたような顔になったが、前に顔を向けてもくもくと歩いていた。

「林、そういえばお前は去年誰に倒されたの?」

 正一が聞くと、

「誰だかは分からなかったけど、不意打ちされた」

 林は笑いながら言ったので、正一は少し怖くなった。

「今日は勝てるか不安だな」

 高倉が悲観的なことを言い出したので

「勝てるわけないじゃん」

 と正一が本音を言った。

「おい・・・それを言っちゃー・・・おしまいだよ」

 林がナイスつっこみを言ったので三人は笑ってしまった。

 三人は数多くの人ごみの中で歩きながら、くだらない会話を続けていると、C地区に到着していたことに三人は気がつかなかった、公園に妙なスクリーンが立っていたために気がついた。

「何だ、あのスクリーンは?」

 高倉が指を指しながら言ったが、正一と林もなぜそのようなものがあるか分からなかった。

「それにしても、C地区に来るまでにカメラがやたらと多かったな」

 正一が言ったので、

「放送部が・・映画のために・・・使うんでしょ」

 林が答えた。

「放送部も大変だね」

 正一は人事なので少し無責任なことを言ったが、放送部は周りにはいなかったので少し安心した。

 カメラを持って試合を取るのは楽しいのだろうか、俺には疑問に思えるが、まあ、本人たちがそれでいいならいいのか。放送部に入らなくて良かった。

 三人は公園の端の方にいながら、携帯電話の空欄を埋めていったが二人分しかないのは不安だったので一人になって学校の知り合いや友達の連絡先を携帯電話に取り込んでいこうとしたが、正一は一人になって友達が他にいないことに気がついた。

 やべー、高橋勉以外に知り合いがいないこと忘れていた。誰か知ってる人いなかったっけな。こういう時、人間関係が広い人は便利だ。

 正一は、適当にぶらぶらしていると、高橋勉が他の生徒と話をしているのが見えたので、早足でそこに向かった。

「高橋、アドレス交換しようぜ」

 正一は、高橋といっしょにいる友達を完全に無視して、高橋に頼んだ。

「哀川じゃん。いいよ」

 高橋は携帯電話をベルトのポケットから取り出して、正一に携帯電話に高さを合わせて交換した。

「サンキュー」

 正一はそれだけ言ってその場を離れた。

 しかし、三人のアドレスだけではどう見たって足りないけれど、他に中のいい友達はいないからどうしようかな。

 正一は歩きながら、悩んでいると一年前の試合を思い出した。

 そういえば、前回もそんなことあったっけ。前は人間関係の希薄さをどうしたかな?忘れちまったな。ま、別にいいけどね。

 正一は三人でいた最初の隅に戻り始めた。周りに人が多かったので進むのにはだいぶ時間が掛かったが、なんとか着いた。

 二人はまだ帰ってきていなかったので、アドレス交換に時間がかかっているんだなと正一は思った。

 二人は部活に入っているので人間関係は正一よりも広い。それで時間が掛かっているのだろう。

 正一は持ってきた自転車のサドルの後ろに座ってじっとしていた。周りは興奮してざわめいている。スクリーンにも何も出てこない。リーダーが公園の真ん中付近で友達としゃべっているが、落ち着きがないのか、踵が一定のリズムで弾んでいる。

「哀川、お前早いよ」

 高倉が少し驚いた顔で言ってきた。

「何人のアドレス手に入れた?」

「ええと、お前と林入れて五人くらい。高橋が見つからなかった」

 思ったほどの人数ではなかったけれど、俺よりは多い。

「哀川は何人くらいだった?」

 高倉が聞いてきたので、

「高橋だけ」

 と正直に答えた。

「一人だけかよ、まあいいや、林はまだかな」

 その後も、林はなかなか帰ってこなかったが、七分くらいで帰ってきた。

「遅かったじゃん。どれくらいの人とアドレス交換したんだよ。」

 高倉が大声で林に訊いた。

「十人くらいかな」

 ニヤニヤ顔で答えた林だった。

 林は誰にでも好かれる性格をしてるから十人いてもおかしくはないが、俺が少しなさけなく感じるのが嫌だ。でも、十人はやっぱり多いかな。

 三人は始まるまで公園の隅の方で世間話をしながら時間を潰していた。周りの生徒も早く始まらないかイラついている。

 その時だった。巨大なスクリーンに映像が流れたのである。スクリーンにはマイクが一つ置いてあるだけの映像であった。学校の放送室みたいだ。実際に本当かは知らないが。

 すると、生徒会の生徒らしき人が出てきた。

「後、一五分で始まるので、公園から出ないようにして戦闘態勢に入ってください」

 そう言うと、スクリーンの映像が消えた。

  リーダーの橋本健二は先生に渡された小型のマイクを使って、生徒たちに指示を出し始めたが、人数が五百人近くいるので誘導するのにかなりの時間が掛かったが、前回のミーティングで誰がどこの場所に着くか決まっていたので少しずつではあったが、陣の形にはなってきた。公園がとても広かったので圧迫感がないのがいい。リーダーはシールドとレーザーハンドをセットで持った生徒たちといっしょに、妙に高い丘の上に立って、生徒たちを見下ろしていた。リーダーが立っている丘を取り囲むように生徒たちも立っており、岩や木に隠れて陣を守る体制になってきた。

「自転車で旅する準備でもするか」

 正一は銃をベルトのもう一つのポケットに銃をしまい、自転車のサドルにまたがった。

「俺たちはここを守るように指示されたからここに残って戦うよ」

 高倉が気合の入った言い方で銃をポケットから取り出した。

 周りも次第に緊張感に包まれてきたために静かになった。先生たちはもうどこにもいない。生徒だけになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ