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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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思い出は語るもの

「ね、そろそろあの話をしてもいい?」

 氷川は正一に言った。

「何だよ?」

「草川さんのことよ」

 正一は心臓に締め付けられるような感覚に襲われた。

「嫌だ」

「何で」

「話したくないから」

 正一は氷川が本当に知り合いかどうか見定めたかった。

「お前さ、本当に草川の知り合いなの?」

「ええ、そうよ。友達よ」

 氷川は笑顔で答えた。

「証拠は?」

 正一はしつこく訊いた。

「分かったわよ」

 氷川はジャージのポケットから白いカメラを取り出して正一に見せた。

「これが証拠よ、草川さんが持ってカメラを私がもらったの」

 正一はよく見ようと氷川に近づいた。

 草川が持っていたカメラだ。間違いない。

「何で持ってんだよ、それ」

 正一は少し怒鳴った。

「それは・・・写真を撮るために決まってるでしょ」

「でも、お前一枚も写真撮ってないだろ」

 すると、氷川はカメラを正一に向けてシャッターを押した。

「何撮ってんだよ」

「これで一枚撮ったから」

「意味分かんねーよ」

 いや、本当は分かっているつもりだ。草川はD地区の草原の写真を撮っていた。でも、転校してその写真が撮れなくなったから代わりに氷川に写真を撮ってもらいたかったんだろうと。本当かは知らないけど。

「じゃあ、何で草川と知り合ったか教えろよ」

「分かったわ」

 氷川は一呼吸置いてから話した。

「私ね、小学時代からあまり友達ができなかったの」

「うん、分かる気がする。お前、空気読めなさそうだからな」

 正一は理解していた。

「うるさいわね」

 氷川は怒り出したが続けて話してくれた。

「それでね。別にいじめられてたわけじゃないんだけど、中学時代になるとますます孤立したの。皆、私に話しかけてくれないし、私が話しかけても誰も適当な返事だけで会話が長続きしないの」

 氷川は悲しそうな顔でしゃべったので哀川も少し感傷的になった。

 ここで問題なのは意図的に孤立させられたのか、それとも本当に会話する相手がいなかっただけなのかという問題になる。いじめが入っていないシカト、いやシカト自体がいじめの可能性は十分あるが、純粋に誰も氷川と話したくなかったのだとしたらどうしようもない。

「だから私、高校に入ればきっと友達ができるって信じてたの。でも、入学してからもしばらくは友達ができなかった。部活にあまり興味がなかったから私は図書委員会に入って貸し出しの受付をしてた時に草川さんに会ったわけ」

 氷川が笑顔になった所を正一は見逃さなかった。

「彼女も図書委員会だったからいっしょに受付をするうちに仲良くなったの」

「なんか分かる気がするな」

 正一は本当にそう思った。

「その時の彼女も友達が少なかったらしくて、好きな小説や映画、ドラマなんかの趣味も同じだったから意気投合しちゃったわけ」

 氷川の声が妙に明るくなった。

「それからは放課後、二人で残って日が暮れるまでしゃべりまくったの。とても楽しかった。少しうるさいくらいだったけど」

「一つ聞いていい?」

 正一は気になる箇所を見つけた。

「何?」

「どうして、友達ができなかったと思う?」

 正一は少し意地悪な質問と分かっていたが気になってしまった。

「え、そうね、何でかしらね?」

 正一は、氷川は難しい顔をしながら考える姿を思い浮かべたが、実際の氷川は違っていた。何かに思いつめているような、理由は分かっているが言うわけにはいかないという顔をしたのを正一は確認した。

「さあ、分からないわ。別に私悪いことしてないもん」

「どうだろうね?」

 正一が調子に乗った。

「私が何かやったとでも言うの?」

「別に」

 正一は顔を背けた。

「まあ、いいわ・・・えーと、どこまで話したっけ?」

「放課後にしゃべりまくった所まで」

「そうそう。で、しばらくそんな学校生活をしてた時に彼女が転校するって言い出したの。私は驚いて、理由を聞くともう耐えられないって言い出したの、彼女が」

「はあ?」

 正一は何のことだかさっぱり分からなかった。

「最初は私も何を言ってるのか分からなかったけど、彼女が説明してくれた」

 氷川は悲しそうな表情に変わった。

「彼女、母親」

 その時、敵の攻撃が飛んできた。誰にも当たらなかったがさらに別方向からもレーザー光線が飛んできた。

「逃げろ」

 高倉が大声で正一に向かって言ったので正一は走りだした。隠れる場所がなかったために、正一は全力で走ったが、攻撃もした。しかし、動きながらの攻撃は敵には当たらない。正一といっしょに氷川も逃げていた。

「どこに逃げる気よ」

「知るか」

 二人は皆と別れて果てしなく続く一本道を走り続けた。正一が後ろを振り返ると、林が足を怪我した高倉をかばってその場を動かなかった。しかし、高倉が無理に林を押しのけたので、林は高倉を置いて一人別方向に逃げ出した。高倉は一人腰を下ろして敵に攻撃したが、光線を受けて転送されてしまった。

「高倉がやられた」

 正一は大きな声で氷川に言った。

「え、そんな」

 氷川はそれが本当かどうか分からなかったので後ろを振り返ったが、高倉がいなくなっていることで理解した。敵の攻撃は当然続いていた。ばらばらに攻撃されなければ皆いっしょになって戦えたのにと正一は思っていた。

「くそー俺ついてねー」

 正一は大声で叫んだ。

「日ごろの行いが悪いのよ」

 氷川は知ったかぶっていった。

「うるさい」

 二人はひたすら逃げた。次第に氷川が正一より早いスピードで走ってきたので二人は並列しながら走り続けた。正一はなんだか逃げるのがいつも以上に楽しく感じていた。

 氷川といると、草川を思い出す。なぜだろう。同じような境遇だからか。俺の単なる妄想か。どことなく二人は似ている。変わり者って所はいっしょかもな。

 敵の攻撃は止むことはなく、レーザー光線が二人に襲い掛かる。

「ねえ」

 氷川が正一に話しかけた。

「なんだよ。今逃げてんだから」

「あなたどうしてそんなに逃げるのが早いの?」

「そんなことどうでもいいだろ」

 正一は呆れてしまった。

「逃げるのって案外楽しいんだね」

 正一は氷川が自分と同じ気持ちになっていることに気づき、少しだけうれしくなった。

「そうだな」

「でも、疲れてきたわ」

 走りながらしゃべるのは案外体力を消耗するため、氷川は次第にスピードが落ちてきた。正一はどこか隠れる場所がないかと走りながら辺りを見渡したすと、神社が見えてきた。

「あそこに逃げるぞ」

「でも、逃げ口がなかったらどうするのよ」

「それは運しだいさ」

 二人は右に曲がり、鳥居を潜って、名前の分からない神社に入った。

「何か、神社で戦ったら罰が当たりそう」

 氷川は少し心配していた。

「気にしない、気にしない」

 正一は神様や仏様を信じていなかった。そのため、罪悪感など微塵も感じなかった。

「裏に回るぞ」

 二人はおさい銭箱には目もくれず、いっしょに建物の裏側に向かった。しばらくして、敵も神社に入ってきた。二人は敵には目もくれずに走り続けた。すると、登りの階段があり、二人はそのまま駆け足で上り始めた。敵は二人の攻撃を警戒しながら、探していたので二人に逃げられてしまった。

「何とか逃げ切ったぜ」

「そうね」

 二人は階段を上りきり、上から敵のことを眺めていた。

「階段を上ろうとは考えないのかね」

「面倒なんでしょ、きっと」

 正一はたらたらしている敵を見て少しだけイラつたが安心もした。

「とりあえず、歩くかな」

 正一は別の階段がある方向に向かった。

「で、草川の母親が何だって?」

「あ、その話ね。その母親が家に帰ってこないんだって」

「どういうこと?」

 正一は理解に苦しんだ。

「草川さんの母親が家に帰ってこなくなったらしいの」

「それって何、男がいて遊びほうけてたとか」

「違うわ、家出したんだって母親が」

「何だそれ、娘じゃなくて母親が家出か」

 正一はいまいちピンとこなかった。

「草川さんのお父さんは事故で亡くして母親と二人暮らしだったんだけど、母親が家出して一人になっちゃったんだって」

 そんな話初めて訊いた。俺にはそういう話一切しなかったのに。

 正一はそのことを知っていた少しだけ氷川に嫉妬した。

「そんなことがあったなんて、俺知らなかったぜ」

「じゃあ、何も聞いてなかったのね」

「何で俺に話してくれなかったんだ、あいつ?」

 正一は階段を探しながら考えた。

「私にはいろいろ話してくれたけど・・」

 氷川は黙り込んだ。

「俺って信頼薄いのかな」

 正一は氷川に訊いた。

「そんなこと言われても、私あなたのこと少ししか知らないから」

「草川が俺について何を話してたんだよ」

「草川さんの退学が決まって父親の両親に引き取られる少し前に訊いたの」

 正一は少しだけ恐怖した。

「一度だけ二人でD地区の草原に行ったときに話してくれたの」

 氷川はその時の会話を細かく正一に話し始めた。


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