孤独の剣士
宮本は一人、B地区を一人さまよっていた。仲間が皆倒されてしまい、孤立した気分になっていた。
「はぁ・・・」
宮本はため息をつきながらこれからどうすればいいか迷っていた。
あれから茂みをがむしゃらに走って逃げ切ったけど、木下さんたちが心配だ。それに敵リーダーを倒すにしても守りが堅すぎて学校には入れない。だからといって、新リーダーになった哀川を守るにしても連絡先が分からないからどうしようもない。それに、この武器じゃ接近戦しかできないから辛い。
宮本は近くにあったバス停の椅子に腰をおろした。周りを確認すると、今の所敵はいなかった。すると、携帯電話が鳴ったので宮本はポケットから取り出して電話に出た。
「もしもし」
「もしもし」
林からの連絡だったので声が小さかった。
「どうした? 林」
「あの・・・その・・・」
あいかわらずはっきりしないやつだ。すると、電話から雑音が聞こえたので誰かと電話を換えたらしい。
「哀川だけど」
「え、リーダーの哀川」
「もちろん」
哀川は妙に明るかった。
「お前、今どこにいるんだ?」
「それはどうでもいい。お前は今どこにいる」
「え、今A地区の西側にいるけど」
「本当、さすが宮本。じゃあお願いがあるんだけど、A地区の転送装置付近にいる敵をひきつけて欲しいんだ。もしくは全員倒してもいい」
「どうして?」
「今からそこに行くためにだよ」
「転送装置まで行くのに少し時間がかかる」
「そうか・・・じゃあ、装置の場所についたら教えて」
「分かった・・・そういえばお前よく生き残っていられたよな」
「それはお互い様だ」
哀川が言った。そして二人は同時に電話を切った。
もう少しだけ頑張ってみるか。勝てる気はしなけど。
宮本は地図を確認して転送装置の居場所を確認した後、椅子から腰を上げた。そして、武器を持って再び歩き始めた。敵がいないか確認しながら、進んでいった。しかし、敵らしき生徒が一人もいなかったので宮本は少し退屈してしまった。
そういえば、ここまで来るのにいろいろなことがあったけど、大和のカミングアウトには驚いたな。あいつがまともに恋愛してたんだから。俺はSF映画や剣道で頭がいっぱいだったからあんまり考えたことはなかったけれど、少しだけ大和がうらやましい。好きな女子生徒のことをなかなか忘れられない辛さを今日まで我慢していたなんて思いもしなかった。気持ちを伝える前に学校を去る女子生徒。その生徒が忘れられない男子生徒か。何か青春映画みたいだ。いいな。
宮本は大和に嫉妬しながらもムカつきがない妙な気持ちになっていた。それからしばらく歩いていると、十字路の道が見えてきたが、宮本は慌てて地下トンネルの入り口に体を隠した。何十メートル先で敵が四人いたのである。宮本は地下トンネルに入って先に進もうか、それとも引き返そうか悩んでしまった。宮本は顔を少し出して敵の様子を見た。四人組は宮本には気づいていない様子であった。宮本はしばらく彼らの動向を探ることにした。すると、彼らは地下トンネルに入っていったので、宮本は急いで十字路の道を渡り始めた。途中でこけそうになったが、道を渡り終え、もう一つの地下トンネルの入り口を覗くと、敵は階段にはいなかったので入り口前に立ったまましばらく様子を伺った。
早く出てきてここを立ち去ってくれ。
すると、四人組が入り口から話しながら出てきた。宮本は彼らが離れるまで腰を下ろしながら動かなかった。そして、彼らが遠く離れた後、宮本は再び立ち上がり、目的地に進み始めた。
早く行かないと、哀川たちがこちらに転送できない。
宮本は走り出した。
敵はいない。誰もいない。奇跡だ。俺はついてる。そうだ。俺は運が強い男だ。
宮本は今までの人生を振り返ってきた。剣道で何回も優勝したことを最初に思い出していた。小学校では負け知らずであった宮本は中学に入り、大会で初めて負けたことやSFネタにはまったこと、高校に入って剣道部とSFクラブを掛け持ちし始めたこと。自分の趣味を大和や尾崎たちに理解してもらえた時の感動などあらゆることを思い出していた。
今、俺はSFクラブで最後の一人だ。生き残ってこれたのは仲間と運のおかげだ。やっぱり俺は恵まれてるのかな。時々考えるけど、剣道はともかくSFネタ好きなやつってそうそういないと思う。ましてやクラブで存在する所はそんなにないだろう。この高校に入った理由だって剣道で活躍したから推薦で入れただけだ。推薦で受かった時は残りの中学生活を楽しく送れたな。でも、UFOとかの話ができる人間が一人もいなかったのはちょっとさびしかった。
宮本は少しスピードを落としながらも早歩きで目的地に急いだ。そして、三番転送装置が見える所までたどり着いた。すると、転送装置の前に、敵が二人地面に座って銃を構えていた。
くそーやっぱり敵がいるか。周りには隠れる所はないし、うかつに接近しても勝てるかどうか分からない。どうする?
宮本はポケットから携帯電話を取り出し、林に電話をかけた。
「もしもし」
林の声だ。
「宮本だけど今から敵を引き付けるから、こっちに来て」
「分かった」
宮本は急いで電話を切って武器を持ち敵に向かって叫んだ。
「おーいこっちだ、こっち」
すると、二人組は宮本の方に顔を向け、銃を構えた。宮本はシールドの膜を開いてレーザーを避けた。少しずつジグザグに接近し始めた。
「どうした、俺はまだ死んでないぞ」
宮本は、敵が転送装置から離れ始めたのを確認すると、後退し始めた。シールドを敵に向けながら二人組を引き付けた。
後は彼らがやってくるのを待つだけだ。早く助けに来て欲しいな。
宮本は疲れた足に無理をしながら走った。しかし、彼らが来る気配がなく、敵との距離も縮まってきていた。そして、体力の限界がやってきた宮本は足を止めて敵の正面に体を向けた。
こうなれば、戦うまでだ。でも、足が動かないからきついな。
宮本は左手に盾、右手に光る剣を持って戦いを挑もうとした時、二人組は後方からの攻撃に遇い、消えていった。転送装置から何人かのルーズドッグのメンバーが来ていた。
「遅いよ」
宮本は武器を下ろして叫んだ。
「ごめんなさい」
女性の大声が聞こえた。
誰だ? あの女性は
大和は五人の生徒を目撃した。女子生徒が一人、表情が暗い鈴木、足を怪我している高倉に、彼に肩を貸している林、そして新リーダーの哀川が宮本に迫ってきた。
「林、彼大丈夫か」
宮本にとって気軽に話せる林にしゃべりかけた。
「足を痛めただけだから大丈夫」
高倉が言った。
「そうか、それにしても皆よく生きていたな」
「それはお互い様だろ」
哀川が言った。
「お前がリーダーになったと聞いてかなりびっくりしたもんな」
「なった俺が一番びっくりだったよ」
哀川は笑いながら答えた。
「そちらは」
宮本はよく知らない女子生徒の名前を訊いた。
「ああ、誰だっけ?」
哀川はわざとらしく訊いた。
「人の名前ぐらい覚えなさい。馬鹿が」
うわ、きつ。馬鹿は無いと思うけどな。
「私は氷川って名前。宮本君よろしく」
「よろしく、氷川さん」
「そういう名前だったか」
哀川はまだとぼけている。
「そうです。私が氷川です。ちゃんと覚えなさい」
氷川は怒っていた。
哀川め、気まずい雰囲気を出さないようにわざと調子に乗ってるな。まあ、メンバーがメンバーだからな。でも、このテンションに俺はついていけないな。
宮本は表情が暗い鈴木に顔を向けた。
「鈴木さんも無事で」
宮本は顔を鈴木に向けた。
「え、うん、ありがとう」
そういえば、鈴木とは昔小学生の時よく外でいっしょに遊んだっけな。なんか懐かしい。でも、中学校に入ると完全に疎遠になったし、同じクラスにならなかったから話をしなくなった。でも、こうしてまた話をしていると、新鮮な感じだ。
「とりあえず、学校まで行こう」
哀川が言い出した。
「敵の守りは固いぜ、どうすんの?」
高倉が訊いた。
「別に何も考えてないけど」
哀川がノープランだったことが分かった。
「何、なんか作戦とかないのかよ」
高倉が足の痛みを堪えながら言った。
「俺がそんなこと考えてると思ったか、甘いぞ高倉」
「お前・・・・」
高倉は呆れてしまった。
「でも、鈴木の誘導のおかげで敵の大群はこっちにこないぜ。当分は」
哀川は満足そうな顔で言った。
「とりあえず、学校近くまで行ってみよう」
宮本が促し、一同は歩き始めた。宮本は鈴木の隣、その後ろに高倉と林、さらにその後ろに哀川と氷川が並んで歩いていた。




