負け犬が負けた
負けた、俺が。
坂田は学校の体育館付近に設置されている転送装置に転送され、その場所から体育館に背筋を丸くしながら向かっていた。
「でも、俺たち頑張ったよ」
「うるせー」
坂田は戸宮に向かって怒鳴った。
悔しい、マジで悔しい。哀川になんて負けるなんて。リタイヤしてもいいからせめてあいつだけには負けたくなかった。
坂田はこの苛立ちを誰かにぶつけたかった。
「いつまでうじうじしてるのよ。いいじゃない、負けたって」
佐藤は言葉とは裏腹に悔しそうな顔で言ったことを坂田は気がつかなかった。
「くそー」
坂田は持っていた武器を地面に叩きつけた。
「もう、見てらんない」
佐藤は走って体育館に向かってしまった。
「ごめん、役に立たなくて」
戸宮が申し訳なさそうな顔になった。
「何でお前が謝るんだよ」
坂田は戸宮のせいにはしなかった。
あの時、俺と哀川は正々堂々と戦った。しかも、俺はあいつよりいい武器を持っていた。そして、あいつと対峙して俺は負けた。言い訳のしようがない。いつもの俺なら言い訳している所だけど、言い訳できない。ましてや、戸宮は俺なんかよりずっと多く敵を倒していた。それで、哀川に負けたのだ。しょうがないのかもしれない。俺はあいつにはかなわないということなのか?
「どっちが勝つかな?」
坂田が戸宮に訊いた。
「分からないよ。だって、哀川しぶとそうだし」
「俺もそう思う」
体育館の下駄箱付近に来るまで二人は無言のままであった。すると、坂田がその沈黙を破った。
「なあ、戸宮。来年は頑張ろうぜ」
坂田はその言葉を言った後に後悔した。恥かしくなったのである。
「え、うん。来年は最後まで生き残れればいいよね」
「でも、同じチームになれるかなんて分からないぜ。だって、お前頭悪いし」
「そうかもしれないね」
「おい、何認めてんだよ。ばーか」
二人は下駄箱の近くに箱といっしょに置いてあったビニール袋を取り出して、靴をその中に入れて体育館に入っていった。




