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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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マドンナの優越感

私は皆の人気者。だから、皆私にしたがっていればいいのよ。

 鮎喰友子はそんなことを思いながら、口にしないように気をつけていた。

 人前では自分はいい子で、誰からも好かれる生徒を演じなければならない。そして、皆を引っ張っていくリーダー的存在。だからこそ、全生徒を見下したくても仕方が無い。学校は勉強する所じゃなくて、自分の存在を示すところ。存在が薄ければいじめられる、もしくは相手にされない。この大会はリタイヤしたら、体育館で試合を見続けなければならない言わば屈辱が待っている。まあ、私はリーダーだから、そう簡単に負けるわけがないし、仮に負けたら試合が終わる。しかし、私は絶対負けない。もし、ここで負ければ、皆から馬鹿にされて今までの学校での地位が無駄になってしまう。

「友子、何考え事してるの?」

 親友の坂口優子が明るい声で話しかけてきた。

「別に。ただ、今日の試合について考えてたのよ」

 鮎喰も明るく振舞った。

 親友の優子とは中学校の頃に仲良くなった生徒の一人だけど、本当は小学校も同じ学校で同じクラスにもなったことがある。でも、あの頃の私は・・・

「友子といっしょのチームで本当に良かった。だって、あのルーズドッグってダサいチームに友達一人もいないんだもん」

「私もあなたと同じチームでうれしいわよ」

 二人はこのゲームに勝たなければならないプレッシャーと戦ってはいたが、意外とこのゲームが気に入っていた。

 この学校ではSFサバイバルゲームの勝敗に対して条件がある。皆をやる気にさせるために先代の校長先生が考えた条件。それはこのゲームで勝った生徒だけが修学旅行に行けるというものである。とんでもないこと条件ではあるが、運が良ければ在学中に三回修学旅行にいける。逆に考えれば、負け癖のついた哀れな生徒は在学中一度も修学旅行に行けない人も出てくる。各学年での成績別に半分に分けてのチーム戦なので一年生の半分、二年生の半分、三年生の半分の生徒たちが合同で修学旅行に行くのである。そのために、成績が大きく離れている友達同士がいっしょに修学旅行に行けることはほとんど無い。これは残酷なことではあったが、私の友達は皆、成績がいいほうなのでいっしょに修学旅行に行ける。

「このゲームに勝って皆で修学旅行に行こうね」

 優子が明るく言った。

 絶対に負けるわけにはいかない。一年前の修学旅行はとても楽しかったし、今回も試合に勝って、優子たちといっしょに遊びたい。

 一年前は前リーダーが優秀な人だったのでゲームに勝てた。今回は私が皆を引っ張ってゲームに勝利しなければいけない。

 鮎喰は少し緊張していたが、勝つ自信もあった。

 敵チームの二年生のリーダーである橋本健二とは一年生の時に付き合ったことがある生徒の一人であるが正直、頭はそんなに良くないし、辛いことがあるとすぐに逃げ出す性格だ。しかし、意外とリーダーとしての資質はあるので少しだけやっかいかもしれない。

「全力で私たちがサポートするから」

 優子の隣にいる長身の神田瞳が持ち前の明るさで言ったので、場がさらに盛り上がった。

「前回の大会は誰が敵チームのリーダーを倒したんだっけ?」

 瞳が聞いてきたので

「確か、誰だったか分からないまま終わったんじゃなかったっけ」

「そうそう、誰か分からないまま終わったのよね」

 前回の大会では、誰が敵リーダーを倒したのか分からないまま終了した。もちろん私ではないけれど。まあ、今さらそんなことを知っても意味は無いけど。

「先生に訊いたんだけど、今回は誰が倒したかが分かるようにするって言ってたわよ」

 鮎喰はその話を担任から教えてもらった。本当はのちの各プレイヤーの成績発表まで秘密なんだけど、先生は私の言うことを何でも従うから聞き出せたの。

「え、ていうか誰が誰を倒したか分かるってこと」

「そういうことね、大量のカメラを設置するって言ってた」

 別に驚くことではないけれど、そこまでするのかとツッコミを入れたくなる。

 それにしても、まだ放送が流れない。私は早く戦いたいのに。

「まだ放送が流れないね」

 鮎喰の気持ちを優子がしゃべってくれた。

「何か緊張するんだよね。このゲームって」

 神田瞳は緊張している割には落ち着いている。

 そんなことを考えていると、携帯電話からメールの着信音が流れてきた。

 鮎喰はポケットから携帯を取り出すと、メールの送信者は今、付き合っている関口直紀からであった。

 彼とは二年生の四月頃から付き合いだしたが、何か刺激が欲しかった私はある生徒とも付き合いだした。つまり、二股をかけているわけだけど、正直、罪悪感は感じない。高校生の恋愛なんてそううまくいかないもの。だから、今までは飽きたらすぐに男を棄てたけど今は二股を楽しんでいる。私が二股をしていることは誰も知らない。だからこそ、スリルがあっておもしろいし、関口君ともまだ付き合っている。

 携帯を開くと、メールには

「今日は君を頑張ってサポートするからいっしょに頑張ろうと」

 と書いてあった。

 何か、ありきたりなメール。他におもしろいこと言えないのかしら。

 鮎喰はメールを送信することも無く、携帯電話をポケットにしまった。

「メール、誰から?」

 優子が聞いてきたので

「関口君から」

 と無理やり笑みを作りながら言った。

「私も彼氏欲しいな」

 優子は人生で一度も彼氏ができたことがない。別に顔が悪いわけでもないし、男子ともちゃんと会話ができる。

「大丈夫だって、優子にもいい彼氏ができるって」

 私がいうのもなんだけど、言っていることに嘘はない。

「友子は、顔はいいし、成績抜群で、お金持ち。なんでも持ってるからそんなことが言えるのよ。」

「私だって、完璧な人間じゃないのよ」

 鮎喰は優越感に浸りながら、無駄話を続けた。



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