哀れな者同士
ちょっと前に同じチームの生徒から訊いた話を聴くと、ルーズドッグの基地は占拠され、リーダーは逃亡を謀ったと聞き、また森に隠れてるとその生徒が言った。そして、話が終わると、私はその生徒を後ろから銃で撃った。ばれないように遠くから。私は最低な女。やな女。これはただのゲームだけど私は白けることをしてる。皆の楽しみを壊してる。私はどうしようもない馬鹿だ。もっと行事を楽しみたいのに。
鈴木はC地区の森近くの人気のない小道を歩いていた。疲労のために足がいつもより重く感じる鈴木はまた、小道の草の上で腰を下ろした。少し離れた所ではわずかではあるがレーザー光線の光が見える。
私も皆みたいにくだらないことに興奮したい。皆といっしょに戦いたい。でも、それはできない。私は裏切り者。仲間を平気で倒してしまう嫌な女。
鈴木は被害妄想に囚われているような顔つきになってきた。ブレスレットを見た鈴木は近くに誰もいないことを確認すると、もうしばらくここにいることにした。
でも、この戦いももうすぐ終わる。ブライトフューチャーズの勝利でこの試合は幕を閉じる。そしたら私の役目も終わる。解放される。
鈴木は腰を下ろしながら、空を眺めていた。雲が濃い白をしながら少しずつ動いている。風が強くなってきたため、雲の移動速さが増してきた。鈴木はそのまま空を眺めていたが、首が痛くなったので正面に向き直った。
そういえば、さっきシークレットアイテムが起動したって言ってたっけ。確か、チーム変更ができるとか。チーム変えでもしようかな。
鈴木は再びブレスレットに目をやると、青の点がこっちに迫っていることが分かった。
誰かしら、森の方向からは外れてる。どっちにしてもここを離れなくちゃ。
鈴木は立ち上がり、敵から離れるために走った。森から遠ざかるように走り続けた。すると、一軒家を見つけた鈴木はその家の塀の角に隠れて様子を見ることにした。
数分後、そこに現れたのは金田であった。下を向きながら、ただ歩いている。ゆっくりと。小道の石を蹴りながら歩いている。鈴木は銃を右手に持ちながら、攻撃する機会をうかがっていたが、あることに気がついてしまった。金田が武器を持っていないことに。
何で銃を持ってないの。両手にも腰にも銃はない。どこかに捨てたのかしら。
塀の角から金田の様子をうかがっていた鈴木は自分と似た境遇の金田に同情していた。
彼も私と同じように皆から馬鹿にされて、上野みたいな不良にいいようにパシられてる。彼の性格はよくは知らないけど、決して性格が悪いわけじゃないのに理不尽ないじめを受けてると私は思う。私だって皆に悪いことしたわけでもないのにいじめの被害に遭っている。世の中って本当理不尽なことばっかり。先生たちは学校生活が一番楽しかったってよく言うけど私はそうは思わない。というより思えない。誰かが楽しんでいればその分誰かが苦しんでる。学校にもちゃんと格差がある。悲しいことだけど。今歩いている彼にも私と同じような暗いオーラを感じる。
金田は少しずつではあったが鈴木に近づいている。鈴木は武器をしまい、そのまま彼の動向を見守っていた。鈴木はブレスレットの地図を確認すると、彼以外、敵も味方もいないことが分かった。金田は少しずつではあったが、近づいていた。そんな時、一本の電話が鈴木の携帯を鳴らした。鈴木は携帯電話を取り出した。
「もしもし」
鈴木は低い声で返事をすると
「もしもし、鮎喰だけど戦況はどうなってる?」
鮎喰は威張り腐った言い方だった。
「えーと、分からない。私今森にいないから」
鈴木は次第に不安になってきた。鮎喰に酷いことを言われるかもしれないと考えたためである。
「使えないわね。まあ、始めから当てにしてないけど。じゃあさ、森に行ってリーダー倒してきて。もうそろそろ終わりにしたいし。終わるのは早いにこしたことはないから」
「そんなこと言われても、私無理よ。だって今森に行ったらあなたのチームの仲間に攻撃されるのよ」
鈴木は少し興奮しながら言った。
「そうだったわね。じゃあ、死ねば」
鈴木はその言葉を訊いたとき、恐怖と悲しみを感じた。
「え、どうしてそんなこと・・・」
鈴木は次第に涙が出てきた。
「だって、もうあなたいらないし、勝手にリタイヤでもしたらどうなの?」
鮎喰の言い方には毒があった。
「もう用済みのあなたに用はないのよ。でも、あなたがリタイヤしたらあのこと話しちゃおーかな。万引きは立派な犯罪だし、それが学校やあなたの親にでもばれたらどうなるのかしら」
鮎喰は勝ち誇ったような声で話した。脅しを楽しんでいた。
「え、お願い。それは言わないで、鮎喰さん」
鈴木は必死で鮎喰に頼み込んだ。
「じゃあ、リーダー倒してきて。味方のあなたなら攻撃されずに倒せるでしょ」
鮎喰はなお楽しそうにしていた。
「わ、分かった」
鈴木は小さな声で言った。
「聞こえないんですけど?」
鮎喰はわざとらしく言った。
「分かりました」
「そう、じゃあ頑張ってね」
鮎喰は電話を一方的に切ってしまった。
「もう、嫌だ。・・・こんなこと」
鈴木は電話を切りながらもポケットに入れようとはしなかった。そのまま腰を下ろしてしまった鈴木は目の前に金田がいることに気づいた。
「あの・・・」
金田ははっきりしないことを言った。
「もしかして・・・・」
鈴木は恐怖した。金田に電話の内容を聞かれたかもしれないからだ。少しの間が空き、鈴木がしゃべりだした。
「あなた、敵でしょ、私を攻撃しないの?」
鈴木は、金田が武器を持っていないことを分かっていながら、鈴木はポケットから銃を取り出して金田に向けた。
「僕を見てよ。武器なんて持ってないよ」
金田は両腕を少しだけ広げた。鈴木は金田の体全体を確かめると確かに武器らしき物はなかった。
「何で武器がないのよ?」
鈴木はどうでもいい質問をした。
「いや、その・・・いろいろあって」
金田ははっきりしない態度であった。鈴木は電話の質問を、勇気を出して聞いてみた。
「もしかして、さっきの電話の内容訊いた?」
鈴木はその話題に恐怖した。
「うん・・・僕と同じチームの鮎喰さんとでしょ?」
「何で聞いてるのよ」
鈴木はつい大声で叫んでしまった。
「鈴木さんが誰かと話してたことは知ってるけど、何の話をしていたかなんて知らないよ。ただ、鈴木さんの叫ぶ声が聞こえたから心配になって・・・・」
金田は鈴木の顔を見ずに下を向いていた。
ああ良かった。私が裏切ってることが気づかれなくて。
鈴木はため息をついた。
「お互いに大変だね」
鈴木はつい金田に同情してしまった。
「え・・あ・・うん」
金田は下を向きながら慌てて返事をした。
「じゃあ、私森に行くからこれで」
鈴木はそう言って、金田を横切って森の方面に歩き出した。金田も鈴木とは反対方向に歩いていた。すると、ブレスレットから音声が流れた。その内容は衝撃的だった




