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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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守るべき人々

 ついに一人になってしまった。

 宮本は武器を持ちながら歩いていた。敵がいなくなったのでポケットから携帯電話を取り出して二人の無事を確認した。すると、尾崎と大和の欄にLOSTと書かれていた。

 そんな、二人ともリタイヤしてしまったのか。SF研究部のメンバーはこれで俺一人だけ。何やってんだろう。仲間も助けられないで一人ぶらぶらと歩いている俺。

 宮本は次第に持っている武器にイラついてしまい、地面に叩きつけようとしたが、それを必死で抑えた。

 なに武器に当たろうとしてんだろ。俺がもっと強かったら研究部の仲間たちと楽しく戦えたはずだったのに。皆に白兵戦用の武器を勧めなきゃ良かった。後悔先に立たずとはこのことだ。

 宮本は責任を感じながら悩んでいると、前方を横切って敵から逃げているルーズドックのメンバーを目撃した。

 あれは・・・木下さんと青木さんだ。

 木下香織と青木桃子は二年生の間では有名なコンビである。青木さんは中学時代の事故で歩けなくなったらしい。それ以来、車椅子になった青木さんを木下さんがいつも付き添っているということだ。とても仲がいいのか木下さんがよく青木さんの車椅子を押しながらおしゃべりをするのをよく見かける。その光景を他の生徒はどう思っているのかは知らないが車椅子で動く青木さんを快く思っていない生徒はいるだろう。あと、不思議なことに青木さんは旧式の車椅子を使っている。自動式の車椅子を使えばもっと楽に移動できるものを。

 宮本は車椅子を押しながら敵に攻撃している木下をただ呆然と見ていた。というより木下に見とれていたのである。しかし、敵に攻撃されている二人をほおって置けなかったのでレーザーハンドのスイッチを入れながら二人に向かって走った。二人は左方向に逃げていたために、その後ろから迫ってくる敵の一人が前方を通り過ぎる前に宮本が道から体を出し、一人を切り裂いた。

「宮本じゃん」

 宮本と同じクラスの生徒が二人やってきた。そして同時に攻撃してきたので宮本はシールドを盾にして体を守り、すばやく前進して一人をレーザーハンドで突き刺した。立体映像の光は敵の体をすり抜けたために手ごたえは無かった敵は転送されていった。最後に残ってた敵が攻撃しようとして銃口を向けてきたので宮本は態勢を低くしながら回転させて敵を切りつけた。

「やったー」

 宮本は疲れがたまってしまい、腰を下ろしてしまった。

「大丈夫?」

 木下が青木を置いて宮本の所まで近づいてきた。宮本は一瞬緊張してしまったが、自制心を取り戻して対応した。

「え、ああ大丈夫だよ」

「さっきはありがとう」

 優しそうな顔をした木下は宮本に手を差し伸べてくれた。

「どうも」

 宮本は照れくさそうにその手を取ると全身に電流が走ったかのような感覚に陥った。それでも、みっともないかっこうはできないと思った宮本は頑張って立ち上がった。

「おねがいがあるんだけど・・・そのいっしょにいてくれないかな」

 木下が遠慮がちに言った。

「俺は・・・別にいいけど。青木さんにわるいんじゃないのかな?」

 どうしてだろう。木下さんといっしょにいられると思うと妙にうれしい。大和や尾崎たちといっしょにいるのとはまったく違う感覚。これは・・・もしかして。

「私一人じゃ桃子守れないから。それに男子がいたほうが頼もしいでしょ」

 宮本は木下を見ると恥かしくてどきどきしたので目線を青木の方に向けた。すると、青木は宮本を害虫でも見るかのような目をしていたので宮本は少し驚いてしまった。

「ごめんなさい。桃子ってすごく人見知りなの。本当は優しい子なんだけど」

 木下が申し訳なさそうな顔で言った。

「気にしなくていいよ。さっき似たようなやつといっしょにいたから」

 哀川のことだ。

「で、これからどうするつもりなの?」

 宮本が木下に訊いた。

「そうね。私は学校まで行って戦いたいんだけど。でも、桃子を連れてここまで来ただけでも奇跡だったから最後まで戦えればいいかなって」

「うん、分かった」

 宮本は二人のボディーガードになることを承諾した。その後、三人は当ても無く動いていた。宮本はシールドのグリップスイッチを押したまま二人を守れるという使命を与えられたことを喜びにしていた。すると、二人の会話が聞こえてきた。

「草川さんといっしょに戦いたかったわね」

 木下さんの声だ。

「あんなやつ、忘れよう」

 青木が言った。

 草川って確か大和が好きだった相手のことだよな?

「そんな言い方しなくてもいいじゃないの。友達だったんだから」

「あんなの友達じゃない」

「あのさ」

 宮本が不意に二人に話しかけてきた。

「草川さんって何者?」

 しまった、言い方が悪かった。

「え、何者って言われても・・・」

「部外者は黙っててよ」

 青木の怒鳴られた。

「いやさ、その草川さんっていう人を好きだった男がいたからさ・・・さっきまで」

「うそー」

 二人同時に言った。

 息が合ってる。大和たちだとこううまくはいかない。

「草川さんって結構謎の多い人だったけどちゃんと青春してたんだ」

 木下さんがしゃべるとなぜか緊張するな。

「嘘よ。この人適当なことしゃべってるのよ。きっと別人よ」

 青木が怒鳴った。

「嘘じゃないよ。よく、D地区の草原に行ってた人でしょ」

「え、そうなの?」

 木村が驚いた。

「え、違うの?」

 宮本も驚いてしまった。

「やっぱり別人よ」

 青木が自信満々に答えた。

「でも、草川って名前一人しかいなかったと思うけど」

 木下が言った。

「まあ・・・そうだけど」

「俺もよく知らないんだけど友達が急にその人の話をしたから聞いてみたくなったの。で、そいつの話によると、D地区の草原で哀川っていうやつといっしょにいたんだって。まあ、付き合ってたかは知らないけど」

 草川って人は一体何ものなんだ?

「え、哀川ってチョコ貰ったことの無い人だよね?」

「そ、そうだよ」

 かわいそうなやつだな。チョコ貰ったことの無い人で覚えられてるなんて。

「聞いたことある、私。あの変な感じの人でしょ」

 青木が意味不明なことを言った。

「でも、草川さんがその生徒と知り合いだったなんて、初耳よ」

「そうなんだ」

「でも、それ本当の話なの?」

 青木は宮本の話を信じていないようだった。

「そうだと思うけど」

「少しははっきりしなさいよ」

 青きがまた怒鳴った。

 口の悪い人だ、青木さんは。

 宮本は敵がいないか周りを確かめた。

「草川さん、元気かな」

 木下は青木の車椅子を押しながら言った。

「二人は草川さんと仲が良かったの?」

 宮本が訊いた。

「うーん、ちょっと違うかな」

「え、違うって」

「何て言ったらいいのかしらね。うーんと、そう。彼女は私たちにとってのヒーローよ」

 宮本には理解できなかった。

 ヒーローって言ったら、映画の中で悪者を倒して世界を救うキャラクターのことだよな。俺にとってのヒーロー像って男だからいまいちしっくりこない。

「草川さんってとってもいい人だったの。私たちは周りから浮いてたから陰で悪口言われたり、嫌がらせを受けたりしたの。そんな時に助けてくれたのが草川さんだったの」

 木下さんはなつかさいそうに言った。

「クラスの皆からいやな目で見られても、草川さんだけは私たちをちゃんと人間として見てくれてたの。でも、普段はあまり話さなかったし、いっしょにどこかにでかけたこともなかったから友達ってほどじゃなかったんだけど」

「いろいろあったんだ」

 宮本が同情した。

「知ったかぶらないで」

 青木に怒られた。

「そっか、去年のサバイバル大会で草川さんが私たちといっしょに戦ってくれなかったのってその哀川って人といっしょだったのかな?」

 今日は哀川に対しての会話ばかりだ。あいつとは友達じゃないからよく知らないけど、他人の話って妙に新鮮な感じがする。人ってのは見た目や噂だけじゃ計り知れない歴史があるのかもしれない。ってその考えはオーバーかな。

「その哀川君って今どこにいるのかしら?」

 木下が宮本に訊いて来た。

「さっきまでいっしょにいたんだけどはぐれちゃったんだ」

 その時、宮本は敵が攻撃してきたのを察知してシールドで二人を守った。

「攻撃されたの」

「されてるの」

 敵は四人いた。その内二人は鮎喰さんの友達で有名な坂口さんと神田さんだ。一本道の周りに草木があるので隠れることはできるが、車椅子の青木さんをそんな場所に行かせるわけにはいかない。

「君たちは逃げて」

 宮本はシールドを敵に向けたまま、まっすぐ走って行った。

「ありがとう」

 木下は青木の車椅子を押しながらその場を離れようと一本道を走った。

 何だろう? すごく興奮してる。木下さんたちを助けることを。リタイヤしてもいいとさえ思う。誰かのために戦って死ぬ。男にとって、それはかっこいい死に方だからなのか。俺が興奮してるのは。

 レーザーハンドを力強く握り締めて敵に向かって行った。すると、別方向から攻撃が飛んできた。その攻撃は敵の方に飛んだが当たらなかった。

「助太刀するぜ」

 草木を掻き分けながら、そこに現れたのは高橋さんだった。彼の武装はレーザー銃一丁だったが、俺にとっては心強い味方だ。

 敵はその攻撃に驚いたのか両脇にある草木に隠れた。

「君はあのお二人さんを守ってるのかい?」

 高橋は木下と青木のことを訊いた。

「そうだよ」

「すばらしい。青春だね」

 何を言ってんだろう、大丈夫かなこの人。

 宮本は道を走っている木下たちを守るために草木に隠れることができなかったが、宮本を盾にして高橋が敵に攻撃していた。

「すまんね。盾にして」

「気にしないで」

 木下さんが離れていく・・なんか寂しい気持ちがする。なぜだろう。

 宮本はシールドを構えながらも後ろを振り返って木下が次第に遠くに行ってしまうをただ眺めていた。

「大丈夫かーい」

 高橋が調子に乗った声で言った。

「あ、あー 大丈夫」

 宮本は顔を敵に向き直した。

「好きな人でもいるのかい。宮本さん」

 高橋は笑顔で宮本に訊いた。

「え、何を言ってるの?」

 宮本は言葉と裏腹に心臓の鼓動が速くなった。

「宮本さんってすぐ顔に出るんだ。ごまかしても駄目だよ」

 宮本はすごく恥ずかしくなった。

「いいなあ。俺も恋愛してー」

 高橋は大きな声で言った。

 この人、本当に大丈夫か?

「そんなに恋愛したいの?」

 宮本が笑いながら、高橋に訊いた。

「だって、高校生だぜ。恋愛ぐらいしたいよ。君みたいに」

「俺が・・・」

「そういう顔してるぜ。まあ、例外を除いて高校生は皆、恋愛してるって。後は本人がそれに気づいているかどうかだけど」

 戦闘中にそんな会話されてもな・・・

 宮本は木下さんたちが一本道から別の道に曲がったことを確認した。

「彼女たちは非難したし、俺たちも逃げますか?」

 高橋が言った。

「いや、俺は戦うよ。高橋さん」

「しょうがないな。じゃあ俺も戦う」

 宮本の後ろに高橋がついていく形で敵に向かって走り始めた。しかし、敵が増援を呼んだために二人は後退せざるを得なくなった。

「逃げろ」

 高橋の大きな声で宮本は後退し始めた。

「せっかく、気合入ってたのにさ」

 高橋が無念そうに言いながら、追ってくる敵から逃れようと必死になって走った。

「二手に分かれよう」

 宮本が言い出した。

「高橋さんは彼女たちを守ってあげて」

「え、それは君の役目でしょ」

「俺がおとりになるから」

 宮本は走りながらしゃべったので息が苦しくなった。

「何かっこいいこと言ってんの。それは俺の役目だろ」

「盾を持ってるほうがいいって、絶対」

「分かったよ。宮本さん」

 宮本は逃げるのをやめて盾を構えた。その間に高橋は木下たちが曲がった方向に向かって行った。

 本当は俺が木下さんたちを守りたかったがしょうがない。それに木下さんの前だと緊張して正直辛い。でも、少しだけ大和の気持ちが分かった気がする。いや、理解したんだ。恋という物を。

 敵が少しずつ宮本に迫ってきた。宮本がぎりぎりまでシールドを使って身を守ると、一本道の端にある茂みの中に入っていった。


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