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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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つながりのつながり

「哀川、白状するんだ。お前は草川のことが好きだったんだろ?」

 尾崎が哀川に向かって話していた。

「恋愛感情はないって言ってるだろ。俺とあいつは友達だ」

 哀川はこの会話のうんざりしていた。

 ったく、この尾崎って男は恋愛話が相当好きなんだな。オタクのくせに。そうか、オタクだから女に飢えてるのかもな。ああやだやだ。

「男と女が友達になれるわけないだろう。もし、本当に仲が良かったら絶対に下心があるって」

「おい、そんな話俺の前で言うなよ」

 大和が尾崎に注意した。

「そうだぞ。その話が本当だったら傷つくのは大和なんだぜ」

 宮本が調子に乗って言った。

「あ、そうか。ごめんよ大和」

 あーもううんざり。この集団から早く離れたいな。お前たちに俺の何が分かるんだ。

「じゃあ、三人ともそういうことで。俺は一人で行動したいから」

 正一は三人とは別方面に向かおうとするが

「そういうのって困るんだよね。もし、お前が誰かに見つかったりでもしたら、俺たちまで見つかるから」

 大和が言った。

 はぁ、何言ってんだ、こいつ。それはこっちのせりふだぜ。

「固まった方が今はいいと思うんだけど」

 宮本が丁寧に言った。すると、レーザー光線がどこからともなく飛んできた。

「なにぃ」

 四人はそれに驚いて、走り始めた。哀川は誰よりも早く走った。次に、宮本、大和、尾崎の順番であった。

 こいつらと無駄話が過ぎた。くそーだから他人と行動するのは嫌なんだ。

 正一は全速力で走った。走りながら後ろを向いた。尾崎一人は走りながらも重そうなガトリングキャノンで攻撃していた。

 敵は五、六人くらいいる。もっと多いかもしれない。ここじゃ、D地区の草原のようにはいかない。隠れる場所がないんだから。

 一、二分間くらい四人は走り続けたが、敵もしつこく追ってきた。

「おい、一か八か戦ってみないか」

 大和が大声で叫んだ。

「やだよ。敵がどんどん増えてるし」

 尾崎が言ったので哀川は再び後ろを振り返った。すると、一0人くらいに増えていることが分かった。レーザー光線が飛んできたので、哀川は道角を曲がると、それにつられて三人もやってきた。

 駄目だ。こいつらといっしょじゃやばい。どうにかしないと。

「四人ばらばらになった方がいいと思うんだけど」

 哀川は顔を後ろに向きながら必死になって言った。

「それいいかもしれない」

 宮本が賛成した。

「わ、分かった」

 大和も賛成してくれたために、三人は十字路になっている所で分かれた。哀川は右に、宮本は左、大和はそのまままっすぐ進んだ。一人遅れていた尾崎は哀川と同じ方向に向かっていた。

 何でついて来るんだ。せっかく敵との距離をおこうと思ったのに。これじゃ、尾崎を追って敵がやってくるじゃないか。

 正一は尾崎を振り払おうとした角を曲がる寸前で、尾崎が、哀川が曲がった道を確認していたため、敵も尾崎の後ろを追っかけてくる。

 これじゃあ、駄目だ。逃げ切れるはずなのにあいつのせいで無意味だ。こうなったら、あの手しかない。

 正一はポケットから銃を取り出し、道角からやってくる尾崎を待った。

 すまん、お前の犠牲は無駄にはしない。許せ。

 数十秒後、ガトリングキャノンを持った尾崎がやってきた。哀川は狙いを定めて引き金を引いた。すると、尾崎が哀川の放ったレーザー光線に気がついた時には体が消えていた。

 哀川は再び全速力で走った。銃は右手で持ったままである。ただひたすら走った。何も考えずに角があればそこを曲がる。家の多き所にやってきたために、角はどこにでもある。しかし、哀川はどこか心が沈んでいた。また、哀川のスピードが落ちてきた。

 何だ。この感覚は。罪悪感を感じているのか。そんなはずはない。だって俺だし。

 正一はできれば宮本と大和には合いたくないと思っていた。しかし、今は逃げることを考えなければならない。しかし、正一は味方である尾崎を倒したことに罪悪感を抱いていた。

 別にこのゲームに負けたって映画みたいに命が奪われることはないし、誰も死なない。でも、なぜだ。尾崎を倒したとき、あいつを思い出した。草川を。俺の前から消えてしまった同級生。消えてしまった親友。俺がいけなかったのだ。俺は鈍感で他人の気持ちを分かってあげられない。さっきだってそう。気がつけばいつも自分のことばかり。だから、あいつは消えてしまった。気づけなかったのだ。俺は。いつもそうだった。今もそうだ。だから、あの時以来、俺は草原には行かなかった。逃げたかった。本当は現実が嫌で草原に行っていたのに。あそこなら俺の邪魔するものはいなかったから。そこで俺は草川と出会った。そこが俺の本当の居場所だった。学校にはない魅力。学校では味わえない感覚。そしてあいつがいた。草川がいた。唯一心許せた友達。俺と同じような感性をもった友達。親友。けど、気がつけばあいつはいなくなっていた。そうだ。あいつは俺の前から消えたんだ。俺はさびしかった。居場所を共有できる友達を失った。俺みたいな変わり者を理解してくれた親友。今はもういない。俺はそれに耐えられなかった。確かに彼女は生きてるし、合おうと思えば合えるのかもしれない。けど、俺の前から消えてしまった。あの草原も捨てて。俺はその現実に耐えられなかった。だから、あの草原にはいかなくなった。彼女がいないことが受け入れられなかったからこそ二度といかないと誓った。けど、そのことが頭から離れられなかった。ずっと。だから今日何ヶ月ぶりに行ったのである。そしたら、俺と草川が草原にいたことを知ってる人間がいた。俺は我慢した。他人に自分の思い出が犯されてる感じがした。踏みにじられてる感じが。あいつは違う町で生きているし、いつだって合えるのかもしれない。でも、あの時俺は存在を否定された気がしたのだ。俺に何も言わずに消えたのだから。

 正一は体力に限界が来たのでどこかの家の壁に寄りかかった。

 息が苦しい。こんなに苦しかったのは体育の時間のマラソンくらいのものだ。後、どのくらいで終わるのだろうか。なんだか悲しくなってきた。孤独を感じる。自分からそれを望んだ。分かっていた。俺は弱い人間だってことに。

 正一は次に何をすればいいのか分からなくなっていた。正一は混乱していたし、学校を攻撃するチャンスがないことも分かっていた。

 いくら俺の足でも守りが厚すぎて学校に潜入できないだろう。何かないのか。そういえば、尾崎が持っていた武器は明らかに通常の武器ではなかった。シークレットアイテムってやつか。それを見つけたら戦えるかもしれない。しかし、どうやって探せばいい。しかも、もう味方が宮本、大和くらいしかいない気がする。

 正一は敵に見つからないように注意しながら歩き始めた。それからしばらくはただ当てもなく歩き続けていた。すると、角を曲がった所で、大和が三人の敵と戦っているのが見えた。哀川は敵の背後にいたので容易に攻撃することが可能だったので、道角から体を出し、一人に向かって攻撃した。至近距離だったためにレーザー光線は命中し、それに気づいた二人は哀川のほうを向いたが、大和が一人を切りつけ、哀川がもう一人を倒した。

「援護、サンキュー」

 大和は上機嫌だった。

「あ、どういたしまして」

 正一はわざと陽気に振舞った。

「二人は大丈夫かな。携帯で確認してみるから、これ持ってて」

 大和は哀川にシールドを渡した後、ポケットから携帯電話を取り出した。

 あーやだな。知られたくないな。尾崎がリタイヤしたこと。

 大和が携帯の見ようとした瞬間レーザー光線の発射音が鳴り響いた。そのすぐ後に、大和が転送されていった。

「まだ、ここにいる生徒がいるんだ。すごーいね。でもさようなら」

 鮎喰の坂口優子と神田瞳が哀川の少し前にいた。

 何でこの二人がいるんだよ。お友達の鮎喰、女王蜂を守る兵隊に二人がいてもおかしくはないが、会いたくなかった。

「本当だ、すごいじゃん。ここまで来れて。でもそれが変人君じゃ白けるかも」

 坂口が銃口を正一に向けたので哀川は大和から渡されたシールドを向けてボタンを押した。すると、それと同時に坂口と神田が同時に攻撃してきたが、シールドの立体映像みたいな膜が正一をレーザー光線から守った。そして、右手の銃を二人に向けて攻撃した。しかし、二人はうまい具合に避けたが、体勢を崩した。その隙に哀川は走り始めていた。

 大和もやられた。しかも、女二人に。これは逃げるしかない。手ごわそうだし。体力が持てばいいが。

 哀川はただひたすら道角を曲がって追っ手から逃れることにした。体力が持つまでひたすらに。しかし、正一には次に何をすべきか分からなかったために、何の計画もないままただ走っていた。

 こんな時、自転車があればどんだけ助かるか。今までの人生を振り返って俺にとって一番役立ったものは自転車であったのに。草原に置いて来てしまった。

 正一は自転車を持ってこなかったことを後悔し始めた。敵は今のところ後ろにはいなかったが、哀川はそれでも走り続けた。すると、今度は前方から敵が攻撃してきたので、シールドの膜で体を守り、レーザー光線を放って一人を倒した。しかし、後ろから坂口と神田が迫ってきた。

 くそーやばいぞ。逃げるのがきつくなる。どうすればいい。戦うにしてもこの場所じゃ住宅しかなくて隠れる所がないし、数で圧倒されるだけだ。

 正一はまた別の道角を右に曲がり、走り続けた。正一は現在位置が分からなかったのでブレスレットの立体映像型地図を開いた。自分の印が光ってるのが確認できた正一は今どこにいるか場所を確認すると、B地区で、大学方面に向かっているのが分かった。

 ここに来ても何もすることはないのだが。どうすればいいんだ俺は。

 正一は足に限界を感じて走るのをやめた。敵をうまく撒いたようだった。すると、携帯電話が鳴っていることに気がついた。

 誰だ。って三人しか知らないか。

 正一は携帯電話を取り出したて画面をクリックした。

「高倉だけど哀川、お前今どこにいるんだ」

 高倉が怒鳴りながら聞いてきた。

「今はB地区にいる」

 正一は高倉の声を訊いたのは久しぶりのような気がした。

「お前、何でそんな所にいるんだよ。いいから戻って来い。今こっちが大変なんだよ」

「何で大変なんだよ?」

「基地だった公園は占拠されたから」

「えーそうなの。大変だねぇ」

 正一はわざとらしく言った。

「人事みたいな言い方すんなよ。ったく、今はリーダーたちはC地区の森に逃げ込んだと思うけど、いつまで持つか。なにせ味方があんまりいないし」

「大変だったんだ。そっちも」

 正一はC地区に戻る気力があまりなかった。

「いや、ここはお前たちが俺の所に来い」

 正一は行くのが面倒だったので逆のことを言った。

「はぁ、何言ってんだよ。こっちは守りで精一杯だよ」

「だって面倒なんだよ、そっちに行くのは」

 正一は本心を言った。

「こっちに来て欲しいのは他にも理由があるんだ」

「何だよ理由って」

「俺に話してないことはないか哀川」

 高倉は人を疑ってるみたいな口調で聞いてきた。

「別に何もないよ」

 哀川には高倉の言ってる意味が理解できなかった。

「本当に?」

 高倉は引かない。

「本当だよ。俺がお前に嘘でもついたっていうのか」

 高倉に嘘をついたことはいくらか合った気がするが、別にどれもたいして重要なことではなかったはず。いったい何を聞き出したいんだ俺に。

「一年生の時の友達について話して欲しいんだけどな。哀川君」

 正一はそのことを聞いて、再び草川のことを思い出し、悲しくなった。

 何で今日は草川のことばかり皆話したがるんだ。なんで高倉まで知ってる。

「お前、一年生の時の友達って言われてもな。知ってるだろ。俺が友達少ないってこと。話すことなんてないんだよ」

 とりあえずごまかしてみたが、高倉はどう出る?

「お前ってやつは俺に話してくれたっていいのに。お前、女がいたんだろ」

 やっぱり草川の話か。なんで高倉が。それにしても、人間ってどうして恋愛に結び付けたがるのだろうか。今、高倉は女って言った。友達とは言わなかった。俺は恋愛話に興味ないのに。

「何で、お前までその話をするかな?」

 正一は逆に聞き返した。

「そういう話好きなの知ってるだろ。しかも、その対象がお前ってのがおもしろいんだよ。まったく、お前に女がいたなんて気がつかなかったぜ」

 高倉は完全に勘違いが入っていた。

「そんな仲じゃないよ。俺とあいつは。ただの友達」

 正一は電話を切りたくなった。

「そんなつまんないこと言うなよ。本当、素直じゃないんだから。まぁいいや。どっちにしてもだ。助けに来てくれないか。守りが弱いから」

 正一はすでに答えが決まっていた。

「やだ、だって面倒くさい。そこまで行くのに」

「分かったよ。お前は強情だからな。もし、お前が助けに来てくれなかったら、その話を他の生徒にばらすぞ。それでも来ないってのか。さぁ、どうする?」

 くそー 高倉ごときにこの俺が脅されてるだと。馬鹿な。

「お前、それは卑怯だぞ」

「卑怯はどっちだ。俺の話を散々してやったのに、お前はいつも自分の話は隠してばかり。そろそろ年貢の納め時ってわけだよ。哀川君」

 高倉は調子に乗って言った。

「分かったよ。そっちに行けばいいんだろ。でも、俺がリタイヤしたら話は無効だからな」

「オッケー」

「で、どこに行けばいい?」

 哀川はイラつきながら訊いた。

「C地区の森に来い。きっと仲間がいるから」

「ずいぶんいい加減だな」

 哀川は、電話を切ってC地区を目指した。

 くそーあいつも知ってるなんて。なぜだ。なぜ高倉が知っている。俺は一度も口にしたことはないのに。

 哀川は再び歩き始めた。


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