優勢状態
「あと少しだぜ、どっちがリーダーの橋本倒すか競争しようぜ。負けたら夕飯おごりな」
上田は調子に乗ったことを言った。
「じゃあ、もう一回透明になるわ」
上田はボタンを押して、再び透明になった。
「今回は負けないよ、上田」
島田は次第に自信を取り戻していた。C地区での戦いで多くの敵を倒したからである。しかも、透明にならないで戦っているため、上田に対して優越感を感じていた。
今まで賭け事や勝負事すべて、上田に負け続けた。しかも、そのことを他人によく自慢のネタにされていたから本当に腹が立っていたが、上田は透明にならないと案外強くないことが分かった。さっきだって、透明になるまで時間まで誰一人として倒していなかった。けれど、あいつにそういうことをいうとうまい具合に言い訳される。あいつはいつも自分の自慢しかしない。すべて自分の話。自分は誰よりも優れていると言いたいために。だから、あいつがムカつく。一発殴りたくなってくる。けど、あいつの生徒間での味方はたくさんいるから、そういうことすると、すべて俺のせいになって、学校で浮くからしない。いや、できないといった方がいいかもしれない。
島田は上田との賭けなどどうでもいいと思っていた。上田が勝つに決まっているからだ。
透明になれなければ、俺が勝つだろうけど、透明になれるあいつは無敵だろう。けれど、俺だって活躍はできるし、もしかしたら勝てる可能性もかすかに残っている。ただ、今一番重要なことは敵を多く倒すことではない。誰がリーダーを倒すかだ。透明になれなければ人より楽している分、基本的な戦闘能力は俺より低いから、運が良ければ俺が敵リーダーを倒せるはずだ。可能性は低いけど。
上田のおかげで敵が少しずつ少なくなり、その分島田も敵を倒しやすくなった。島田は木に隠れて攻撃してくる敵生徒の死角に体勢を低くしながら移動して攻撃した。レーザー光線は命中し、敵がまた一人消えていった。
「よし」
島田はつい喜んでしまった。
「一人倒したくらいで喜ぶなよ。俺なんか・・・」
始まった。また自分の自慢話。もう聞き飽きたって。
島田は無視して戦いを続けた。それと同時に島田は、自衛隊の隊員が低姿勢で移動する理由が分かってきた。
いかに目立たないで敵を動くか。こつを掴んできたぜ。早くリーダーを倒したい。上田よりも先に倒してやる。それにしても、リーダーの橋本はどこにいるんだ? この戦闘に加わっていないのは確かだけど、近くにいあるはずだ。早く見つけなければ。
島田は、南の方にリーダーがいると考え、少しずつ進んでいった。すると、レーザー光線が飛び交ってる所に三人くらいの生徒がシールドを使って攻撃を回避しながら移動している。
馬鹿なやつらだな。何であんな所にいるんだ。まあ、いいけど。
島田はこのまま南に進んだ。敵の数が減ってきたために、移動しやすくなっていた。
このままだったら本当に勝てるな。後は、誰がリーダーを倒すかだけど。
島田はもう試合に勝った気分でいた。しかし、数分後、島田はあることに気がつくのである。島田が上田より先に丘にたどり着いた時のことである。
数分後、敵はほとんど消え去り、島田が上田よりも先に丘に向かって走っていった。そして、到着してみると、予想していなかった結果になっていた。
誰もいない。何でだ。戦闘には加わっていなかったし、ここ以外に考えられない。もしかしたら、ここら辺に隠れているかもしれない。
島田は木に隠れながら、丘の周りを探したが、誰もいなかった。
そんな、馬鹿な。せっかくここまで来たのにこれかよ。くそーどこに行ったんだ。始めからいなかったのか。それとも脱出したのか。知らねーよそんなの。
島田は悪態をつきながら、地面を蹴っ飛ばした。敵はほぼ壊滅し、公園で生き残ってるルーズドッグたちは無意味な悪あがきをしていた。
「どうした、島田」
上田が少し遅れて丘の前に到着した。
「誰もいない。リーダーも」
島田は低い声で言った。
「マジかよ。くそーしくじったぜ」
上田はなぜか上機嫌だった。きっと、俺においしい所を獲られなかったからだろう。
「隠れてる場合もあるからもう少し探す」
島田は辺りをもう一度よく探した。丘の裏や木の陰などに。しかし、誰もいなかった。上田もいっしょになって探したが、結果は島田と同じだった。
「ここにいる者だと思ってたのに、やられたな」
上田は自信満々だった。彼はいつでも自信に満ちている。
「他を探すしかないか。ったく」
島田はその場を後にした。残党狩りを始めなければならないからだ。その後でも、リーダーを探す時間はいくらでもある。
このゲームは楽しいけれど正直面倒くさくなってきた。せっかく早く終わると思っていたのに。まあ、そう簡単に早く終わってもスリルが無いのは事実だが。
「いくぞ、上田。ここにいる残党を倒すんだよ」
「分かってるし」
島田はイラつきながら言った。二人は走りながら、北の方角に進んだ。残っている敵生徒は必死でもがいていたが、島田には滑稽に見えた。




