復活
坂田は戸宮といっしょにC地区を離れていた。
「あーあ、やる気なくしたぜ」
坂田は上を見上げながら、言った。
「ねえ、戻って戦おうよ」
戸宮が本音を言った。
「もう決着はついたよ。上田や島田みたいな優秀なやつが敵のリーダー倒して試合終了。俺の出番はなし。もう終わりだろうし、俺は学校に帰るよ」
坂田は自分に対してムカついていた。
悔しい。頭の悪い人間だってことは、俺が一番よく分かっている。だから、今回ぐらいはもっと活躍したかったが、上田や島田みたいな文武両道の生徒に俺は負けたんだ。せめてあいつらが来る前には公園に侵入できたらよかったんだ。くそー、俺は弱い人間だ。くそだ、ちきしょう。
二人は転送装置一番を目指して歩いていた。少し遠くに敵と味方が戦っている光景が目に入った坂田であったが、無視して先に進んでいった。すると、大きな黒いボックスと転送装置のような物体が、二人が歩いている道沿いに置いてあった。
「あれ、何かな?」
戸宮が指を指しながら言った。
「どうだっていいよ。そんなこと」
坂田は持っている銃で自爆すら考えていた。しかし、それでは負けた気分になると思い、銃には触れなかった。
戸宮は走ってそのボックスの所まで移動した。
「これ、どうやって使えばいいのかな?」
戸宮は機械にはめっぽう弱い。しかも、説明書きをちゃんと読まないくせがある。
「簡単だし、こんなもん。ディスプレイの画面に自分のクラス番号を入力すればいいんだよ。ま、どうでもいいけど今となっては」
戸宮は坂田に言われたとおりにボタンを押したが、二回間違えた。それでも三回目でやっとボックスが反応してくれた。
「シークレットボックス作動、チームブライトフューチャーズのリタイヤした生徒の中から十名を再試合する権利を与えます」
これはボックスからではなく、ブレスレットから音声が聞こえる。
「今から、自動抽選で十名の生徒を選びますので、リタイヤした生徒はベルトおよびブレスレットを再度装着し、結果をお待ちください」
そう言うと、ボックスのディスプレイに十個の空欄が表示された。
「なるほと、ここに表示された人だけが再び戦いに参加できるってわけだな」
今さら蘇っても意味ないけど。
二人はその画面を見て、誰が生き返るのか少しだけ気になった。
「自動抽選が終わったので、発表します。一人目は三年四組の・・・」
五人目まではまったく知らない赤の他人であったが、六人目で知ってる名前が出た。
「六人目は二年五組の佐藤結衣さん」
やべーあいつリタイヤしてたんだ。
坂田は笑ってしまった。坂田と戸宮にとって佐藤は、唯一会話ができる女子生徒であり、友達である。
女子に人気が無い俺たち二人にとって、佐藤は大変貴重な存在だ。もちろん、俺は佐藤に恋愛感情を抱いてるわけではないが、男子ばかりとしゃべっていると、ときどき空しくなる。その点では哀川も同じはずであるが、あいつはそういうことには疎そうだ。
その後は坂田とは何のかかわりもない生徒たちの名前が挙がっていた。
「最後は二年一組の上野達也君」
こうして、十名の生徒が発表され、ボックスの画面に名前が表示された。
「これから、抽選で選ばれた生徒と一人ずつ転送します」
この自動音声はブレスレットではなく、ボックスから聞こえた。
「ここに転送されるのか」
坂田はボックスの隣にある転送装置に目をやった。
今さら十人の増援が来たって意味ないけど。
坂田は援軍を待たずにそのまま帰ろうとした。
「待ってよ、坂田」
戸宮は坂田の後についてきた。
今頃、上田たちはリーダーを追い詰めてることだな。いいよな。優秀なやつは。それに比べて俺はこの頭の悪いデカ物といつもいっしょだ。もちろん、こいつのことは嫌いじゃない。頭が足りない戸宮にイラつくことはあるが、信頼している自分がいる。
二人は一番の転送装置へと向かおうとすると、
「二人とも待って」
と聞き覚えのある声が聞こえた。
二人は後ろを振り返っていると、小柄の佐藤がこちらに向かってきた。
「二人ともまだ生きてたんだ」
佐藤は二人を見上げながら言った。
「お前、リタイヤしてたんだな」
坂田は低い声で言った。
「うん、哀川にやられたの」
坂田はその名前を聞いて、坂田はちょっとした怒りとやる気が出てきた。
何、哀川にやられた。くそ、やっぱりあいつを倒したい、この手で。
「哀川・・そうか、やっぱり生きてんだな」
坂田はさっきまで失われていたやる気が戻ってきた。
「ところで二人は今何してたの?」
小さな佐藤が二人を見上げ、ニヤニヤしながら二人に聞いてきた。
「お前を助けてやったんだよ。あのボックスで」
坂田は右手で黒いボックスを指差した。
「あ、そうだったんだ。とりあえず感謝しとくね」
佐藤は目線をそらした。
「ねえ、これからどうするの? ここって公園からすぐだからいっしょに戦おう」
佐藤は少し照れくさそうにしながら言った。
「もう決着つくのに今頃行ったってしょうがないし」
「え、そうなの。本当に?」
佐藤は不細工な顔で坂田を見上げた。
坂田はその不細工な顔が嫌いじゃなかったが少し顔を引いて言った。
「公園に仲間は皆侵入できたし、上田や島田みたいな強そうなやつらもいたからもう終わりだって」
坂田はしらけながら言った。
「じゃあ、まだ決着はついてないってことじゃない。二人とも何やってんのよ。加勢に行くわよ」
佐藤は二人の肩を押した。
「何で? いいじゃんもう。終わりだって」
坂田はなげやりな態度をとった。
「俺もまだ終わってないと思うよ」
戸宮がでかい図体をしながら小さな声で言った。
「お前まで何言ってんだよ。ったく二人で行って来て加勢でもしたら。俺は帰るよ」
坂田は二人に背中を向けようとしたら
「何ふて腐れれるの。あ、もしかして上田君や島田君においしい所でも獲られたとか」
坂田は痛いところを佐藤に言われたのでムカついてしまった。
「うっせーよ。ったくお前は速攻で哀川に倒されたくせに」
坂田は冷たく言った。すると、
「坂田さ、もっと大人になったら」
佐藤はあきれた顔で言った。
「三人で公園に行こう。ここで終わるなんておもしろくないよ」
戸宮が言うと
「ね、だから三人で戦おう。こんなくだらないゲーム、来年以降二度とないと思うし」
佐藤は優しく坂田を説得したので、三人は公園に向かった。公園に向かう道に敵はいなかったので三人は余裕を持って歩いていたが銃を手から離すことは無かった。
「二人はよく生き延びたね」
佐藤は二人を褒めた。
「何で哀川なんかにやられたん」
坂田はあきれ顔をしながら訊いた。
「だって、まさか学校に近くの林にいるとは思わなかったのよ。あいつったら、私と友達二人を不意打ちしたんだから。でも、よくあそこまでたどり着いたわね。本当、不思議なやつ、今度遭ったら叩き潰してやる」
佐藤は少し怒った口調で言った。
「俺もあいつは嫌いだから、他の生徒に倒されてもいいからその前に必ずあいつは倒しておきたい」
坂田は本音をついしゃべってしまったが、気にしなかった。
「そういえばお前って、去年この大会に参加しなかったんだっけ?」
坂田は不意に思い出した。
「そうなの。だから友達二人が私にこの試合で長く生き残って楽しんで欲しかったのに哀川にやられたの。なんか、あいつに倒されたことを思い出すとムカついてくる」
坂田にはその怒りが理解できた。
あいつに遭って決着をつけたい。あいつを超えたい。あいつなら超えられると思うから。
三人は歩きながら公園に向かっていたが、敵がいないので坂田は退屈してしまった。すると、公園から外に飛び出している生徒が出てくるのを目撃した。
「あれ、リーダーの橋本君じゃないの?」
坂田は佐藤の顔が向いている方向に顔を向けた。
「本当だ」
坂田より先に戸宮が発見した。
「撃たなきゃ」
佐藤は右手に持っている銃で敵リーダーを撃った。坂田と戸宮もレーザー光線を発射したが、遠すぎたので、当たらなかった。




