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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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狼青年の思い出

 正一はその名前を聞くのは久しぶりで新鮮さと不思議な感覚に陥っていた。

 なぜ、草川について知っているんだ。ていうか氷川もそうだが今日は草川のことばかり話してる気がする。

 正一はついうろたえてしまった。自分の一番の親友である彼女の話をされたからだ。正一と草川が知り合いだってことは誰も知らないはずだからである。それが氷川という女子生徒や大和のようなオタクに知られていることに。

「誰だか知らないよ、そんな人」

 哀川はごまかしても無駄だということは分かっていた。しかし、他人にその話をしたくは無かったのだ。

「はあ、とぼけんなよ。二人いっしょにいるところ、俺はこの目で見たんだ」

 大和はしだいに興奮してきた。

「知らないものは知らない。もう行っていいかな。俺は一人で行動したいんだ」

 早く一人になりたい。ここでもし攻撃でもされたら溜まったもんじゃない。

「うそつけ、何で本当のことを話してくれないんだよ」

 大和の興奮は止まらない。

 何でそんなに草川のことが聞きたい。別に訊いたって得なんてないのに。分からない。こいつの考えが理解できない。

「もし仮に俺が知ってるとしてその人のことを知ってどうなるの?」

 正一は逆に質問することで自分への質問と摩り替えようとした。

「それは・・・その」

 大和はうろたえた。顔は赤くなって目が泳いでいる。

「それは・・・知りたいからだよ、草川さんのこと」

「何で」

「それは・・・」

 大和は黙り込んでしまった。

「おい、大和。草川さんのことが好きだってどうして言えないんだよ。俺たちの前でははっきり言ったくせに」

 尾崎が大声で言ってしまった。

「ばか、尾崎なんでお前が言うんだよ、」

 宮本は尾崎の注意したが、正一は尾崎が言った言葉をしっかり聞いてしまった。

 何だと、草川を好きな男がいたとは、びっくりだ。

 正一は少しため息をついた。

 できれば草川とのことは俺だけの思い出にしたかったし、他人に話すと新鮮味が無いというか何か思い出が壊れるって言うか分からないけどそんな気がする。でも、草川が好きだという珍しい生徒がいたのだから話してもいいのかもしれない。でも、やっぱり話したくないな。

 正一は悩んだ末、一つだけははっきりさせたいと思った。

「俺と草川は付き合ってなんかいなかったよ」

 とそっけなく言った。すると、大和がかすかに笑ったのを正一は逃さなかった。

「じゃあ、何でD地区の草原に二人でいっしょにいたんだよ」

 大和ではなく尾崎が質問した。

「別に」

 正一はこれ以上話したくなかったので、適当な言葉で言った。

「別にって、何だよ。やっぱり付き合ってたんじゃないの?」

 尾崎はしつこく聞いてきた。

 こいつ、関係ないのにしつこいな。

 正一はこのメンバーと早く別れたいと思い始めてきた。

「お前には話してない。だまってろ」

 正一は尾崎にビシッと言って黙らせた。

「とにかく、俺は草川とは付き合ってないし、ただの友達だったから」

 正一は少しだけ丁寧に答えた。

 もう話したくない。いい思い出は自分の胸の中に収めておきたい。しかし、草原のことを知ってるとは思わなかったな。大和はそうとう草川に惚れてんだな。青春だね。

 少しだけ正一は大和をうらやましく感じた。

「お前、あんまり草川さんのこと話したくなさそうだけど、俺あんまり彼女のこと知らないから教えてくれないかな。性格とかさ」

 大和は顔を赤くしながら言った。

 こいつ、よくそんなことが言えるな。感心するぜ。

 正一は、一途な大和に少しは話していいかなを思った。

 四人は当ても無くただ歩き続けていた。敵は近くにはいなかった。

「草川を一言で言うなら変人・・かな」

 正一は少し戸惑いながら言った。

「えー変人って何だよ」

 尾崎がつっこみを入れてきた。

「じゃあ、相当の変わり者だったのか」

 大和は驚いていた。

 もしかしたら、大和は、変人と聞いて草川に対するイメージが変わるかもな。人ってのはその場の印象やイメージで判断するからその人の本質をが見えなくなる。人間て全然論理的じゃないな。

「どこら辺が変人だったの」

 三人の中で一番落ち着いている宮本が聞いてきた。

「そうだな」

 正一はここで一瞬迷ってしまった。草川のことを全部話してしまいそうで怖くなったのである。正一は落ち着いて話を続けた。

「いい意味で変わり者だったよ。何ていうか、普通の女子生徒にはない性格って言うか、まあそんなとこだよ」

「そっか、普通の女子生徒にはない性格か、他には、部活とか交友関係は」

 大和が真剣に聞いてきたので正一は答えた。

「部活には入ってなかった。交友関係は・・・分からない」

 正一は彼女の交友関係が分からないことに初めて気がついた。

「友達とかいなかったの?」

 大和は興味津々だ。

「さあね。あいつあんまり自分のこと話さなかったしな」

 正一は顔を上に上げて、あの頃のことを思い出していた。

「学校とかでは話さなかったの?」

 大和の質問は続く。

「クラスが違ったから学校ではほとんど話さなかったな」

「そうか」

 大和は下を向きながら少し悲しそうな顔をしていた。

「どうした、何か悲しそうな顔をしてるけど」

 正一は気になってしまったので聞いてみたのだ。

「いや、せっかく好きになったのに彼女のことをほとんど知らないのが悲しくて」

 正一は自分に対して罪悪感を抱いてしまった。

「草川さんって今この学校にはいないよね。転校なの?」

 気まずくなりそうなところで宮本が正一に質問してきた。

「転校だよ。理由は知らないけど」

 分からないことが多いな、俺。

「そうか」

「ところで、大和はどうして草川のことが好きになったの」

 気まずくなりそうだったので正一は痛いところを突いてみた。

「え、それは・・・・・その」

 大和は下を向きながら、また顔が赤くなった。

「俺が言っちゃうよ。大和」

 尾崎が悪ノリしそうになったので大和は答えた。

「草原で彼女見たときに、何か・・そのきれいでさ、それでときめいたって言うか」

 大和が顔に似やわないことを言ったので正一は笑ってしまい、それに釣られて宮本と尾崎も笑ってしまった。

「何で笑うんだよ」

 大和は顔を赤くしながら怒った。

「ときめいたって・・・お前その顔で言うなよ」

 尾崎が調子に乗ったので大和は尾崎の首を右腕で締め上げた。

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

 宮本は笑いながら二人をなだめた。

「まあ、確かにきれいな顔はしてたけどな。でも、俺はときめかなかったぜ」

 正一も調子に乗ったので、大和はますますむきになった。

「哀川は草川さんとどのくらいいっしょにいたの」

 宮本からの質問だった。

「どこくらいって言われても。漠然とした質問だからな」

 正一はこの三人に草川の話をしても平気だと思い始めた。


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