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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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負け犬の遠吠え

「くそー、どうして当たらないんだ」

 坂田は自分の射撃のセンスの無さに怒りを感じていた。

「当たれ、当たれってんだ」

 坂田は何回も引き金を引いてはいるものの、敵には距離があればあるほど当たらない。

 くそー、せっかく敵基地まで来たってのに包囲するだけで精一杯とは。やつらの悪あがきに苦戦するとは。リーダーの所に行くまでに、数多くの木に隠れた敵が邪魔でなかなか前に進めない。フェンスに囲まれていて、しかも数少ない入り口は彼らに守られている。これでは無駄に時間を費やしてるだけだ。

「これじゃあ、前に進めないね」

 隣で攻撃を仕掛けている戸宮が言った。

「だったらいいアイデアでも考えてみろよ」

 とは言ったものの坂田はこのこう着状態を打開する案は浮かばなかった。

 俺はいつもそうだ。勉強だって、勉強した箇所以外はまったくできない。その場に対応したことが苦手だ。本当は、俺は頭が悪いのによさそうな振りをしてきた。今の高校には偏差値は中の上といった所だったから入って、成績トップに成りたかった。しかし、この行事があるからかは知らないが、本当は頭のいいやつがわざと高校のランクを下げて入ってきた。鮎喰や上田を筆頭に成績トップテンの中には、俺は入れなかった。

 坂田は劣等感を抱いていると、体が余計に疲れた。

「あーなんか疲れたし、少し休むは」

 坂田は高さのあるフェンスから体勢を低くしてしゃがんでしまった。

「僕も」

 戸宮も同じように腰を下ろした。

 坂田は腰を下ろしながら考えていた。

 哀川はどこへ行ったんだ。俺は優等生の上田も嫌いだが、哀川はもっと嫌いだ。たいして頭がいいわけじゃないし、人気者でもない。しかし、妙に自信に満ちてるというか、周りに一切振り回されることがない行動力、というより単にひねくれてるだけかも知れないが、強烈な個性があいつにはある。中学の時いっしょだったから分かる。一番印象に残っているのが、中学時代にイジメが先生に発覚した時のことである。俺と同じクラスのある男子生徒がいじめられていた。両親から無理やり勉強させられたストレスから、俺はそのいじめに加担してしまったのだが、男子と女子との間でイジメに関して大喧嘩したのである。そのいじめられっ子は女子からの人気があり、それを一部の男子生徒が嫉妬したことからいじめが発生したのである。正直、俺もその生徒に嫉妬した。男なら嫉妬くらいするだろうと思っていたが一人だけ例外がいた。もちろん、哀川のことだが。男子と女子とのテレビドラマのような大喧嘩、というより互いを罵り合ってただけだが、哀川一人は椅子に座ったまま窓の外を見ていたのだ。すると、男子の一人が、哀川が喧嘩に加わっていなかったのを発見し、彼に話を振ったのだ。すると哀川が

「俺には関係ないから話かけるな」

 と言ったのだ。当然男子や女子から変な目で見られ、罵声が飛び交った。すると、哀川が再び女子たちに向かってしゃべったのだ。

「話が大げさなんだよ。もっと簡単に考えたらどう。どうみたって、女子に人気者の生徒に嫉妬したお馬鹿な男子生徒のみみっちい対抗心なんだよ」

この発言で全ての男子生徒を敵に回したのである。罵声の声は高くなったが、そんなことはお構いなしに哀川はまた問題発言を言ったのだ。

「いちいち騒ぐな。お前らが何で嫉妬するか俺にはわかんねーよ。だってよく見ろよ。女子たちを。皆ブスばっかだぜ。こんやつらなんかに好かれたいと思うか普通」

これは男子ばかりでなく、女子からも反感を買った。その後は、皆馬鹿馬鹿しくなって喧嘩は終わったが、哀川が嫌われたことは間違いなかった。それからしばらくは、哀川はクラスから浮き始めたが、本人は一切気にしていなかった。というより、むしろ楽しんでいたようにみえる。変態かと思ったし、不気味だと思った。でも、気がついた。それがあいつの強さだって。俺にはそれは許せなかった。俺にはない強さ。俺には無い個性。俺は悔しかった。その時、俺はあいつが嫌いになった。

「どうかした、坂田君」

 戸宮が考え事をして一言も話さなかったので話しかけてきた。

「何でもねーよ、ちょっと考え事してただけ」

 戸宮が話しかけてこなかったら、もっと嫌な過去を振り返ってたな。いい思い出なんて何にもないや。いつも劣等感にとらわれてて辛かった思い出しかない。

 坂田は、銃を右手に持って戦況を確認した。

 特に何も変わっていない。一体どうしたら中央突破できる?

 坂田が迷っていると、上田が島田と話している姿が目に入った。二人は何やらこそこそ話をしている。一体何の話をしているんだ?

 すると、上田はベルトに何かを取り付けていた。そして、何かのボタンを押すと、急に体が消えた。

 え、さっきまでいたのにどうして急にいなくなった? 今のは明らかに転送じゃない。一体何が起きたんだ。

 坂田が混乱していると、味方の攻撃が少なくなってることに気がついた。

 何で皆、攻撃をやめてるんだ。

 坂田はますます混乱してしまったが、その理由がすぐに分かる。

 敵の攻撃は依然、続いていた。こんな状態で攻撃を止めるなんて。

 それから、しばらくして、敵の攻撃は弱まったことに坂田は気がついた。少しずつ攻撃がなくなり、坂田は訳が分からなかったが、攻撃がほとんどなくなった頃を見計らってか上田の親友の島田が

「今だ、皆いくぞ」

 と大声で叫んだので、仲間の大部分が一斉に中央の道に駆け出し始めた。

 坂田は呆然として、動かなかった。その隣にいた戸宮も坂田と同じように呆然としていた。公園を包囲していたブライトフューチャーズの味方は数を減らし、中央の入り口に足を運んでいた。

「一体何が起こったんだ?」

 坂田は戸宮に訊いたわけではなく、独り言を言った。

「ねえ、僕たちもいっしょに行かない?」

 戸宮が坂田を思って、丁寧な口調で言ったが、坂田には聞こえていなかった。

 俺が一番に侵入して、敵を蹴散らして、それで敵リーダーを倒して活躍するはずだった。そうしたかった。でも、上田が何かしてこう着状態を解いた。やつにおいしい所を獲られた。いつも、そうだ。いつも上を目指してきたのに必ず誰かに先を越される。

「やってらんねー」

 坂田はしらけた言い方で公園の入り口には向かわず、公園から去ろうと距離をとり始めた。

「どうしたの? 坂田君」

 戸宮は公園から去る坂田の後を追いかけた。

 坂田はため息と舌打ちをしながら、その場を離れ始めた。


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