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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
22/51

一匹狼を気取る狼青年

哀川正一は氷川といっしょにD地区の東に向かっていた。さっきまでいた四人組が通ってきた隠し転送装置を探していた。

「たぶんここら辺だけどな」

 正一は隠し転送装置がブレスレットの地図内に隠し転送装置の印があったことに気づいたために、二人でそこに向かっていた。

「それにしても今日はいい天気だね」

 氷川は顔を上に傾けて言った。

「あれじゃねーの」

 正一は氷川の言葉を無視して、その方向に指を刺した。

「あの黒いボックスみたいのかしら」

「だな」

 二人は敵が周りにいないことを確認しながら、落ち着いてその転送装置に向かった。

 風が少しだけ、強くなってきた。俺の少し前に進んでいる氷川の髪がなびいている。

 あいつも、あんなふうに髪がなびいてたっけ。

 数分後、目的のボックスの前に二人は立っていた。

「お前、先入れよ」

 正一は氷川に言った。

「どうして。哀川から入ったら」

 数分前から、この女は俺を呼び捨てで呼ぶようになった。

「いや、ここはレディーファーストと言うことで」

 二人は誰が先に入るかで言い争いをしてしまったが、結局じゃんけんで決着をつけることにした。

「負けたほうが先に入る。いいな」

「いいよ」

「最初はグーでいくからな」

 二人の顔つきが真剣になっていた。

 もし、転送された所に敵が待ち伏せでもされていたら、その場でリタイヤしてしまう。だから、誰かが生贄になる必要がある。

「最初はグー」

 二人が同時に言った。

「じゃんけんポン」

 正一はグーを出した。すると、彼女もグーを出していたので、あいこになった。

「あいこでしょ」

 正一はまた、グーを出したが、氷川はパーを出していた。

「うわあ、マジかよ。俺が負けるなんて」

「じゃあ、哀川行ってらっしゃい」

 氷川は嫌みな笑みを浮かべながら、正一を餞別した。

「くそー。転送された瞬間にリタイヤされたら、堪ったもんじゃねー」

 正一は、いやいや転送装置に向かったので

「だらだらしないで早く行きなよ。みっともなよ」

 氷川は正一を完全に馬鹿にしながら言った。

「後、もし敵がいなかったらここに戻ってきて私に知らせて」

「分かったよ」

 正一は転送装置のボックスの中に入り、ボタンを押して転送された。

 正一は、転送後にボックスを降り、自分がB地区にいることを理解した。林が多いのがB地区の特徴であるので正一は地図を見なくてもすぐに分かった。正一は辺りを見渡し、誰もいないことを確かめた。

 しょうがない。もう一度戻って、氷川の所に戻るとするか。う、待てよ。このまま戻らなければ、氷川は俺が倒されたと思って、一人で行動するに違いない。これはチャンスだ。携帯のアドレス交換をしてないから、俺がリタイヤしたかどうかも確認できないし。よし、このまま帰らなければ、うっとうしい氷川から解放される。あいつの話ができなくなるがまあしょうがない。

 正一は、ボックスから離れてしばらくこの林の中を進んでいくことにした。すると、レーザー光線の光が見えたので、正一は見つからないよう注意して向かった。木に隠れながら、様子を見た正一は敵の生徒の何人かがC地区の公園方面に向かっている姿だった。正一は彼らにばれないように木に隠れたまま動かなかったが、後ろから攻撃したかった正一は後をつけることにした。

 知らない生徒ばかりだけど、敵に変わりは無いからとりあえず倒すかな。

 正一は木と木の間を最小限に音を出さないように進んで、後をつけた。

 女子生徒三人か。余裕だけど気づかれたら面倒だから、ばれないように倒さなければ。しかし、これじゃあストーカーしてるみたいでやだな。早く倒すしかないか。

 正一は銃口を三人の女子生徒の中で一番でかいやつに向けた。そして、引き金を引いた。どでかい女はレーザー光線に当たり、消えていき、攻撃に気がついた二人の生徒は後ろを向いた。

 あいつ、佐藤かよ。

 平均的な身長をしている女子生徒の隣にいる小柄な生徒。正一とは仲がいいのか悪いのかよく分からない関係であったが、坂田や戸宮と仲がいいので最近はあまり会話をしなくなった。

 あの女、こんな所にいたのか。とりあえず消えてもらう。

 正一は再び引き金を佐藤に向けて引いた。すると、隣にいた女子生徒が彼女の体を突き飛ばして、レーザー光線がその生徒に当たった。

 自分を犠牲にして佐藤を助けただと。泣かせるねー 俺には絶対できないファインプレーだ。いや、しないだけだけど。

 佐藤は消えていった生徒に

「ありがとう」

 と言ってその場から逃げようとした。

 逃がすか。

 正一は佐藤の後を追いかけた。佐藤は必死で逃げていたが、正一の方が、足が早かったので徐々に距離が縮まってきたが、佐藤はまるで死にものぐるいで逃げていた。

 どうして必死になって逃げるんだ? そんなにゲームに勝ちたいのか。興味なんてないだろう。こんなゲームに。

 正一は佐藤の性格をそれなりに知っていたので仲間に助けられ、その上必死になってか逃げている佐藤のことを理解できなかった。

 それにさっきのお友達の行動も理解できない。たかがゲームであそこまでやるかどうか。まあ、俺だったら味方を盾にしてでも助かろうとするが。

 正一は走りながら、銃口を佐藤に向けて、引き金を引いた。すると、佐藤に命中し、彼女の体が転送された。

 追いかけて人を撃つのってあんまり好きじゃないな。

 正一はブレスレットの地図から、現在位置を確かめた。

 どうしようかな。南に行くか、それとも親玉がいる学校に行くか。

 正一は数分考えた後、学校へ向かおうと決めた。

 別に、敵リーダーを倒したいわけじゃない。ただ、近くにいれば不意打ちできそうだと何の根拠も無く思っただけだ。

 正一は北にある学校に向けて歩き出した。正面は林だらけで、抜けるのに少し時間がかかる。正一は、敵がいないか辺りを見渡しながら進んで行った。

 しかし、草や木がうっとうしい。俺はこういう暗くて、植物がうっとうしい所が嫌いなんだ。その点、さっきまでいたD地区は最高だ。何の圧迫感もないし、空はきれいだし。くそー あの女がこなければこんな所になんて来ないはずだったのに。

 草を掻き分けながらA地区がある北を目指していたが林から抜け出すのに数分懸かってしまった。

 そして、ようやく林を抜け出すことに成功した正一であったが、敵が近くをさまよっているのに気がついた正一は、一度林に戻り、草木に隠れた。レプリカの田んぼの道を六人固まって歩いていた。

 ここで攻撃してもいいが、敵に追われて面倒だ。逃げるのは得意だが、もっと人数が減ってから出ないと逃げられるものも逃げられなくなる。様子を見るしかない。

 正一は隠れたままであったが、銃口は敵に向けていた。すると、別の方向からルーズドックと思わしき姿の生徒が七人、敵に向かって走ってくるのを正一は目に入った。

「高橋たちか」

 正一は連絡先を交換して以降、高橋を見かけなかったために、ここにいることに少し驚いた。

 高橋は高倉と少し似てる所がある。それは勝負事に弱そうな所だ。成績は高倉よりは断然良いが、ドジで抜けてる所がある。それが彼の良い所であり、皆から好かれる理由だ。そんなあいつがよく生き残ってこれてかつ、A地区に来られたなと思う。まあ、いっしょにいるメンバーが助けたのだろうけれど。

 高橋たちは敵の六人に攻撃を仕掛けた。彼らから発射された閃光は敵の一人に命中した。目が良い正一は敵生徒の一人が転送されていくのを目撃することができた。敵も攻撃に気づくと、すかさず反撃を開始しした。互いに障害物がない道を走りながら攻撃し合う所を正一は眺めているだけであった。

 こう敵が動いてちゃ狙いが定まらない。とりあえず、ここまま様子を見るしかない。味方の方が多いんだし、勝てるだろう。

 敵生徒と味方生徒たちは次第に正一のいる林に近づきながら、攻撃しあっていたが、敵の生徒たちの方が、射撃がうまく、高橋たちの生徒たちが次から次へと消えていった。しかも、高橋たちは数を四人まで減らされ、自身たちの攻撃も当たらない。形勢逆転となってしまった。

 やばい、戦いに参戦しなきゃだめか。

 正一は近くにやって来る敵に向かって攻撃した。敵の一人に命中し、四人に減った。敵は別方向からの攻撃に驚いたために、足を止めてしまった。その隙に、高橋たちが攻撃をしてきたので、敵が減ったが、同時に敵も彼らを攻撃したために、相打ちのような形になり、最終的に残ったのは俺と高橋だけになった。

「そこにいるのはだーれ?」

 高橋のおちゃらけたしゃべり方を久しぶりに聞いた。

「哀川だよ」

 正一は林から顔を出した。

「哀川、お前もここに来ていたなんて、びっくりでしょう」

 高橋が笑顔で言った。

「こっちの台詞だぜ。高橋」

 正一も同じように笑顔になった。

 まともにこいつと話すのは本当に久しぶりだ。すごく新鮮な感じがする。クラスが変わってからは会話するどころが出会うことがなかったからな。

「哀川はてっきりK公園に残ってたかと思ったよ」

「高倉と林は残って敵と交戦してるけどね。それに、俺もお前がK公園に残ってると思ったぜ」

「だってぇ、守りはおもしろくないんだもん。友達とも話して作戦無視して戦おうって決めたんだ」

 高橋はレーザー銃の引き金部分を中指で回し始めた。

「そっか。ところでルーズドッグの攻撃隊はどうなった?」

 正一が訊いた。

「壊滅した」

「はぁ」

「皆倒されちゃったのよー」

「うそー」

 正一はあまりにも高橋があっさりと壊滅という言葉を言ったので驚いてしまった。

 マジかよ。偏差値が低いチームだからってそう簡単には負けないと思っていたのに。ここまで来ると重症だな。

「どうして、そうなった?」

「俺たちさ、一気に攻めようとまっすぐ進んでいったわけなのよ、学校に」

「ああ」

「なーんだけど、敵がそれを待っていたかのように左右から攻撃されたわけ」

 ここまで来ると笑いがこみ上げてくる。駄目だな俺たち。

「まあ、俺たちは何とか逃げ切ったんだけど気がついたらこのありさま」

 高橋は言葉とは裏腹に笑顔でしゃべった。

 今年の修学旅行は無理かな。まあ、いいけど。

「じゃあ、この辺りで生き残っているのは俺たちぐらいなのか?」

「じゃないかな。エッヘン」

 高橋は自分が生き残ったことを自慢したいのかそれとも調子に乗って場を盛り上げようとしているのか分からない。ただ、学校近くで生き残っているメンバーは少ないということである。

「じゃあ、そういうことで」

 正一は高橋といっしょに行動するつもりはなかったので学校まで一人で向かおうと考えていた。

「おい、せっかく久しぶりに話したんだからいっしょに戦おうぜ」

 高橋は笑いながら言った。

「俺は一人で行動したいの。だって、他のやつといっしょに行動するとそいつのペースに合わせなくちゃいけないだろ。お前が嫌いって言ってんじゃないけどさ」

 俺が弁明してる。

「そこが君の悪い所だよ。哀川君」

 高橋は正一の行動パターンを把握してるかのように余裕の笑顔で答えた。

「どうしてさ」

 正一は少しだけムッとした。

「俺たち高校生だぜ。もっと仲間といっしょに楽しまなくちゃ。一人でいるのは簡単だし、いつでもできるけどさ。皆といっしょにいる時間はそう長くはないんだぜ」

「そうだけどさ・・・」

 正一は言うことがなくなってしまった。

 テレビでもよく、一人だけで平気さとか言ってるキャラクターがいるけど、最終的には皆と力を合わせよう的なストーリーになる。でも、そういうキャラクターはだいたいは維持を張ってるだけでということが多い。どうせ、皆といっしょに戦うんだからうだうだ言わずに仲間と戦えっていいたくなる時がある。でも、俺はそういうキャラクターとは違う。だって、本当に一人で戦えるからだ。けれど、ここで一人宣言してもかっこ悪いし、高橋みたいないいやつといい争いをしたいとも思わない。だから、何を言ったら良いのか分からない。

「分かったよ」

 正一は承諾してしまった。

「分かればよろしい」

 高橋はいかにもわざとらしく言った。でも、悪意がないだけ全然ましだ。

「じゃあ、行きますか」

 高橋は笑顔で促したが正一がそれを否定した。

「いや、それはできないと思うぜ」

 正一はレーザー銃を強く握り締めた。

「あれを見ろよ」

 正一は指を指しながら言った。

「おい、マジかよ。敵がいるぜ」

 高橋も数人の敵の存在に気がついて銃口を敵に向けた。

「待て、敵はこっちに気がついてないから林に隠れるぞ」

「何でさ? 戦おうぜ」

「逃げることも戦いだよ」

 俺、良いこと言ったぜ。

 正一は自分の表現できる「逃亡」という言葉を正当化した。

「俺は逃げない。真っ向勝負だ」

「勝てないよ。お前じゃ」

「だったら手伝ってよ」

 正一は高橋を手助けする気はなかった。

 無駄死にしたくないし、真っ向勝負は俺のポリシーに反する。

「じゃあ、一人で頑張って」

 そう言うと、正一は一人で林に戻って行った。高橋が敵方向に向かって走っていった。

 何を迷っている、俺は。高橋を助けたい自分と無視して一人だけ助かりたいという自分がいる。くそー 俺は何がしたいんだ。

 正一は林を数歩進むと立ち止まってしまった。そして、向きを変えて高橋の所に向かって走り始めた。

 一度だけだからな。

 正一は攻撃をしている高橋の所に向かうと、敵が放ったレーザー光線が飛んできた。当たらずに済んだ正一は高橋に当たらないように敵に反撃し、走りながら、高橋の肩を掴んだ。

「ほら、逃げるぞ」

「離せよ、俺は戦いたいんだ」

「だから言ったろ、逃げるのも戦いだって。このままじゃ、無駄死にだぜ」

 高橋は数秒間考え込んで、その場を離れることにした。

「分かったよ」

 高橋は小さな声で言った。

「逃げるぞ」

 二人は急いで林の中に逃げ込んだ。そして、ひたすら走り続けた。正一が先頭に立ってその後に高橋が。しばらく、走り続けた二人は体力に限界が近づいたので走るのをやめた。

「何とか逃げ切ったんじゃねーの」 

 高橋が苦しそうに言った。

「ああ」

 しばらく、二人はそのまま突っ立っていた。

「あのさ、高橋ってそんなに熱い男だったっけ?」

 正一は高橋の機嫌を確認せずに訊いた。

「え、俺が?」

 高橋は少し驚いたような顔で答えた。

「俺はさ、悔いのないような青春を送りたいわけなの」

 高橋が次第に笑顔になっていった。

「青春・・・か」

「そ、青春」

「高橋、何かあったの?」

 正一は以前のクラスメートとは少し違うような感じがする高橋に訊いた。

 高橋から青春という言葉を聞くなんて。一年生の頃はそんな言葉なんて使うようなキャラじゃなかったはずなのに。

「何だと思う?」

「そんなこと言われてもな」

 分かるわけないだろう。

「分からねーよ」

「俺さ、昔からの夢を諦めたんだよ。その・・・漫画家になる夢を」

 高橋はテンションを下げて言った。

 そうだ、高橋は漫画家になりたいって言ってたな。何で忘れてたんだ俺。

「高校に入った時にさ、俺漫画のことしか頭になくてさ。でも、いざ漫画を描こうとした時になって気がついたんだ」

 正一はその後に何を言おうとしていたが分かってしまった。

「俺、絵を描く才能はあるかもしれないけど、物語を描く力が無いってことをさ」

 高橋は正一の顔を見ないで言った。

「そっか・・」

 正一はこういう時に何を言ってやればいいのか分からなかった。

「努力はしてみたんだけど、やっぱり才能無かったんだよな。どうしても、他の作品のパクリになったり、途中で話が思いつかなくなったりしてさ。それで二年生になって、夢を諦めたんだよ」

 数秒、沈黙という間があったが、高橋が再び話を続けた。

「だからさ、俺きっぱり漫画書くのやめて高校生活を楽しもうと考えたわけなの。でも、俺ってあんまり取り柄が無かったからどうやって楽しむのか分からなくなったんだよ。運動は苦手だし、頭の良くないし、おまけに顔だって不細工だからさ」

 そこまで言わなくても・・・

「とりあえず、テンションを上げていれば楽しめるかなと思った。だから、さっきも熱血に見えたんじゃないか」

「いろいろあったんだな。お前」

 高橋が悩んでいたとは思っていなかった。

 正一は、高橋が少しだけ大人っぽく見えた。

「でも、俺が青春に取り付かれたのはお前が原因だからな」

「はあ?」

 何を言い出すんだ、こいつ。俺は青春っぽいことなんて一度もしてないぞ。

「お前って本当に鈍感だよな」

 高橋が怒っているのか笑っているのか分からない表情で言った。

「何言ってんだよ、お前」

「まったく、お前は周りがまったく見えていないんだよ。まあそこがお前の良い所なんだけどさ。お前知ってる。女子からお前馬鹿にされてること」

「うそー」

 正一は知らなかった。

「お前が廊下を通るたびに一部の女子たちから馬鹿にされてるの知らなかったの?」

「へーそうなんだ」

「納得するなよ」

 高橋は完全に呆れていたが、どこかうれしそうでもあった。

「知らないものは知らない」

 正一は完全に開き直った。

「お前って独特なオーラ放ってるしな。でもさ、もう少し自分を知ったらどうよ」

 高橋にお説教されるなんて思っても見なかった。

「で、どうして俺のせいなんだよ?」

「お前の青春って、青春しない青春だろ」

「何言ってんっだよ。意味が分からないぜ」

 正一は高橋が何を言いたいのか理解できなかった。

「お前ってさ、女に告白されたことある。もしくはしたことがる?」

「無い」

 正一は自信満々に答えた。

「何偉そうに答えてーんの、普通は落ち込んだりするもんでしょ」

「そういうもんか?」

「良いよな、お前は。だってお前って青春って言葉が一番似合わない学生じゃん。俺もお前みたいに鈍感でいたいよ」

「よく、分かんねーけどお前は恋愛がしたいのか」

「うん、そう」

 高橋は少し照れくさそうに言った。

「だからさ、なんていうか俺に何かが残ってるとすれば恋愛することしかないと思ったわけよ」

「じゃあすれば?」

「くそー 簡単に言いやがってよ。お前は恋愛とかしないの」

「もちろん」

 正一はまた自身に満ちた声で言った。

「それがお前の青春だよ」

「俺を混乱させるなよ」

「お前は本当に痛いやつだよな。でも、それがお前なんだ。だから俺はお前がうらやましーの」

「おい、それ俺を褒めてる、それともけなしてる」

 正一は少しムッとした。

「お前はちゃんと自分らしく生活してるじゃん。でも、俺は自分らしく生きてる自信が無いし、やっぱり、漫画描いてる自分が一番自分らしいと思うしな」

 何だか話が難しくなってきて俺にはよく分からない。

「お前を見てるとさ。青春してるなって思うときがあるんだよ。周りはお前のことを痛いやつだって思うかもしれないけど俺はそういう青春もありだと思う」

「そうかな」

 正一は少し照れくさくなった。

「でも、やっぱりチョコは一つぐらいは貰っとなきゃね」

「え、チョコ?」

 正一は高橋の話について来れなくなっていた。

「哀川、二月十四日は何の日だ?」

 高橋は急に質問してきた。

「え、えーと。分かった節分の日だ」

 節分じゃないことは分かってるけど他に思いつかない。

「うわー マジ痛いわ」

「おい、さっきまで褒めてたくせに何だその態度は」

「バレンタインデーだよ」

「ああ、あれね」

 正一はまじめに忘れていた。

「やっぱり本当だったんだ。チョコ貰ったことが無いって噂」

「はあ?」

「うん、俺はうれしい。お前がそこまで痛い生徒だったなんて。俺はうれしい。青春だこれも」

 何か気分が悪くなってきたな。

「お前はそれでいいよ。噂の哀川君でいてくれよ。これからも」

「ちょっと待て。チョコ貰ってないことって噂にでもなってたの?」

「知らないのかよ。お前って意外と学校で有―名―人だよ」

「マジかよ」

「良い噂はゼロです」

 高橋は調子に乗って言った。

「でもさ、チョコって案外皆貰ってないもんじゃないの?」

「あーあ、言っちゃった」

「何がだよ」

「本当にお前は周りが見えてないのな。少しは周りを見るべきだよ。でもさ、案外本人が気づかないだけで恋愛してるってこともあるのかな?」

 気づかないだけで実は恋をしてるか。周りが見えない人間て自分のことを分かってないのかもな。確かに俺って周りを見ようとしてなかったかもな。特に最近は。

 二人は林を歩き始めていた。特に考えも無く歩く。すると、高橋が大きな声で恥かしいことを言った。

「恋愛してー」

「おい、そんなこと大きな声で言うなよ」

 正一は高橋の精神状態を心配してしまった。

「う、あれ敵じゃねーーの?」

 高橋は気がついて指を指した。

「え、あ、本当だ」

 その方向には敵チームの男子と女子がいちゃついているのが見えた。

「敵だけどさ、カップルじゃないの、ほっとけよ。邪魔しないでおこうぜ」

 と正一は言ったが心のどこかでは狙い打ってやるという気持ちがあった。

 こんな所でいちゃつきやがって、て別にいいけど。とりあえず不意打ちチャンス。

「くそー あんな所で。ちきしょう、いいな俺もいちゃつきたいな」

「お前・・・」

 こいつも十分痛いやつだな。

「くそー 倒してやる」

 高橋は銃を構えながら走ってカップルの方向に向かって走っていった。

「ちょっとま・・・・あれは」

 正一は別方向から敵が来ていることが分かった。それを高橋に言おうとしたがレーザー光線が飛んできた。正一には当たらなかったが。

 ここで高橋の所に言っても二人いっしょに倒されるかもしれない。俺が敵を引き付けた方がいいかもしれない。くそー 損な役だな。

 正一は適を引き付けるようにして林の中を走り始めた。


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