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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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オタクの青春

 宮本、尾崎、大和の三人は、敵の本拠地であるA地区の学校を目指していた。

「何か、作戦立てようよ」

 重そうに武器を持ちながら、尾崎が言った。

「宮本、何かいい作戦はあるか?」

 大和は作戦を考える気すらない様であった。

「特に無いから、敵が出てきたら倒すだけだ」

 宮本をだんだん体全体が疲労しており、考える力すらなかった。

 三人はだらだらと歩いていると、通り道の角を曲がった所で、敵が三人いたので、宮本は慌てて後ろに下がった。

「何だよ、宮本」

 大和が怒りながら言った。

「敵がいるんだよ。三人ほど」

 宮本が小さな声で言った。

「マジかよ」

 宮本が角から少しだけ顔を出した。すると、すぐに顔を元に戻し、

「あの三人どうする?」

 宮本は二人に向かって訊いた。

「倒しますか」

 尾崎が言った。

「だな」

 宮本はレーザーハンドのスイッチを入れて光る剣を出した。

「行くぞ」

 三人は一斉に角から飛び出した。ガトリングキャノンを持った尾崎を筆頭に宮本と大和がシールドを展開しながら、敵に向かって走っていった。

 こちらに気づいた敵も慌ててレーザー銃で応戦したが、連射のスピードが半端じゃないガトリングキャノンのレーザー光線の前に敵の一人があっという間にやられた。

「よっしゃーどんどん行くぜ」

 大和のテンションが高くなってきた。

 敵の一人がレーザー光線を回避して携帯電話を取り出して、誰かに連絡していた。

「やばい、俺たちのことが知れたら面倒だ」

 宮本は全速力で電話している生徒の所に向かったが、疲れが溜まっていたために、思うように足が動かず、敵にも逃げられてしまいそうだ。

「尾崎、やつらを倒せ」

 大和が大きな声で叫んだので、尾崎は走りながら、重そうなガトリングキャノンの引き金を引き続けた。すると、携帯電話を持っていた敵が攻撃を受け、転送された。最後の一人は尾崎を攻撃してきたが、宮本がシールドで守り、大和が接近して倒した。

「敵に俺たちばれたかな?」

 宮本が心配していることを二人に聞いてみた。

「大丈夫じゃねーの」

 大和の投げやりな言葉に対して、尾崎は

「心配だから、別の場所に移ろうか?」

「どこに移るんだよ?」

 大和が疲れのために少しイラつき始めていた。

「とりあえず、ここを離れようぜ」

 宮本が言ったので、三人はこの道を使わずに、別のルートから学校に行くことにした。

 三人は重い足取りで、学校を目指した。

「もしかして、学校に一番近い所にいるのってルーズドッグの中で俺たちじゃねーの」

 大和が沈黙の中、急に話し始めた。

「確かにそうかもしれないね」

 尾崎が言った。

 そうかもしれないし、違うかもしれないが確かなことは近くに味方が誰もいないことだ。

もしかしたら、俺たちしかここにたどり着いていないのかもしれない。これはまずいことだ。しかし、ここまで来たからには全力で戦うまでだ。

 それからは会話のネタがなくなってしまい、無言のまま歩いていた。いい感じの風が吹いてきて心地よかった。俺は疲れたので一番後ろを歩いていると、つい尾崎の頭のてっぺんを見た。すると、旋毛の所が妙に薄いことを発見した。昔、父親が言っていたが、禿げる人間は若いうちにその兆候が出始めると言っていた事を思い出した。まさか、尾崎が禿げるなんて。いや、それは考えすぎかもしれない。もし、それが本当なら男として同情する。頑張れ、尾崎。

 宮本は尾崎の頭が気になってしまい、大和のことを忘れていると、彼から予想外のことを言い出した。

「そういえば、お前たちって好きな人とかいるの?」

 大和が藪から棒に意外なことを言ってきたので二人は一瞬、間を作ってしまった。尾崎は驚きのあまり、口が開いたままだった。

 こいつ、急に何言ってんだ? 

「何、急にそんなこと言い出すんだよ。柄じゃないこと言うなよ」

 尾崎が少しだけ笑いながら大和を馬鹿にした。

「俺、本気で言ってるんだけど」

 大和がいつに無く真剣だったので、二人は驚いてしまった。

「お前に好きな人がいるなんて驚いたよ」

 大和はSF映画以外に興味なんて無かったと思っていたが、やっぱりちゃんとした男児なんだな。

「で、誰が好きなの。同級生、下級生、それとも先生とか?」

 尾崎がふざけた言い方で言った。

「その生徒は、今ここにいないし、別のクラスの生徒だったから君たちには分からないよ」

「話を振っといてそれはないだろう」

 尾崎は残念そうに言った。

「その人とはいつ知り合ったの?」

 宮本は丁寧に訊いた。

「話した事なんて一度もない」

 大和はそっけなく言った。

「ますます訳が分からないよ」

 尾崎は混乱していた。

「何でそこに行ったかは忘れたけど、ずっと前にD地区にある草原に行ったんだ」

 宮本は、大和が少しだけ大人っぽく見えた。

「俺さ、ときどき思うんだけど、俺このままでいいのかなって?」

 宮本には大和が何を言いたいのか分からなかった。

「なんていうか、俺さ、SF映画とかUFOみたいな存在にずっと憧れてたわけじゃん」

「俺たちSF研究部は皆そうだけど」

 尾崎が言った。

 その通りだ。近未来、タイムスリップ、ワープ、大宇宙、異星人、ライトセイバー、超能力、俺たちはこのワードを聞くと体と心が熱くなる馬鹿な男子生徒たちだ。

「でもさ。逆にいえばそれしかしなかったって言うか、他に熱中するものが無かったわけじゃん。でもさ、D地区の草原に行ったとき、その女の子がいたんだよ。白いカメラを持って、草原の景色や空を撮ってた姿が妙に・・・・きれいだった」

 大和がそんなことを思っていたなんて。俺は尾崎のことが分からなくなった。白いカメラ、女の子、一体何の話だ?

 宮本は頭が混乱していたが、尾崎は妙に興奮していた。

「で、告白しなかったの?」

 尾崎が興味心身で聞いてきた。

「しなかった、というよりできなかったって感じ」

 大和は空を眺めながら言った。

「なんで?」

 尾崎がしつこくなってきた。

「俺も、告白を考えたけど、あいつがいたからやめた」

「あいつって」

 二人が同時に訊いた。

「哀川」

 大和は下を向きながら言った。

 なぜ哀川が話に出てくるんだ?

「うそーあいつかよ。あいつって恋愛とかに興味ないって顔してるぜ」

 尾崎が言った。

「じゃあ、二人は付き合ってたの?」

「それは知らないけど。俺が、彼女が気になって草原に行ったら哀川と彼女が二人いっしょにいたんだ」

「でもさ、仲の良かった友達ってことも考えられるぜ」

 尾崎が冷めた言い方で言った。

「付き合ってたかどうかは知らないけど、何かその二人を見てると、何ていうか二人だけの世界みたいなのができてて、俺が入れる領域じゃなかった」

「そうか」

 大和は少し残念そうに言った。

「それから、彼女のことを忘れようとしたんだけど、なかなか忘れることができなくて、このままじゃいけないと思って、決着をつけようと思ったわけだ」

「じゃあ、告白しようと思ったの?」

「そう。だから草原に向かったんだけど彼女はいなくて、それから何回も行ったんだけど一度も現れなかった」

「じゃあ、その時には転校かなにかで、いなくなってたんだね」

 宮本がやさしく言った。

「その後も、彼女のことを忘れようとしてるんだけど、うまくいかなくて。だから、お前たちに話せば少しは楽になるかもって」

 大和は少しため息をついた。

「そんなことがあったなんて俺知らなかったぜ」

 尾崎は興奮が収まらないようだ。

「でも、その彼女と哀川が知り合いだったことが意外と言うかあいつらしくないというか」

 俺は哀川と言う男を少しだけ知っている。特別目立つ存在ではないし、成績優秀者でもないが、中学がいっしょだったので少しだけなら分かる。

「俺さ、中学時代あいつと同じ中学だったんだ」

 宮本が言った。

「へーそうなんだ」

 尾崎は哀川のことにはあまり興味を示さなかった。

「あんまり話したことは無いからよくは知らないけど、バレンタインデーてあるじゃん」

「それがどうしたの」

「それがさ、たまたま耳にした時に彼がおもしろいことを言ったんだ」

「何それ」

「彼って、バレンタインのチョコ、本命も義理ももらったこと無いんだって」

「マジかよ。俺だって一つか二つぐらいはあるぜ、義理だけど」

 俺もそんなにチョコをもらう方じゃないから偉そうなことはいえないけど。

「で、おもしろいのは彼がそれに対してまったく気にしてなかったってこと。逆にそれを自慢話にして少数の友達と笑ってたこと」

「それって、痩せ我慢ってやつじゃないの? なんか痛いやつだな」

「俺もそう思ったんだけど、彼がタダでチョコをもらえるっていったんだ」

「どういうことだよ?」

 尾崎が聞いてきた。

「そんなに細かいことは覚えてないけど、彼にとってバレンタインデーはタダでチョコが買える日って思ってたらしいんだ。その会話の内容から」

「うわあ、哀川ってそうとうひねくれてるな。じゃあ、今もバレンタインのチョコをもらったことはないのかな」

 大和が笑いながら聞いてきた。

「話さないから分からないけど、大和が言ってた彼女からもらってないならたぶん」

 宮本は少し疲れた。

「その前には彼女はいなくなってたと思うから、無いんじゃない」

 大和が言った。

「あいつって、俺たちと同じチームだよね」

 尾崎が言った。

「今、哀川はどこで何をしてるんだ?」

 三人は哀川の話でもちきりになった。


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