自分勝手な正一
正一は、偶然出合った謎の女子生徒といっしょに西を目指して走っていた。
さっきいた敵の生徒はもういない。逃げ切れたようだ。
正一はスピードを落としながら止まった。後ろについてきた女子生徒も哀川と同じように止まった。
「お前、無理に俺について来なくていいのに」
正一は膝を曲げて呼吸を整えながら言った。
「たまたまよ」
その女子生徒は息が苦しいのを我慢して言った。
「たまたまって、友達といっしょに戦闘してれば良いじゃん」
正一は少し冷たく言ったためか、彼女は少し落ち込んだような顔をしていった。
「だって、友達いないもん」
正一は彼女に酷い質問をしてしまったと後悔するつもりはなかったが、ちょっとだけ傷つけてしまったかもしれないと思った。
「ふーん、そうなんだ」
哀川はそっけなく言った。
二人はしばらくそのまま動かなかったが何分か経って、正一は足を動かしはじめた。
「C地区にでも戻ってみるかな」
正一が言うと
「えー、この地区にいる敵を倒そうとか考えないわけ」
女子生徒が不満な顔をして言ったので
「お前はここに残って戦えば。まあ頑張れよ」
哀川の冷たい言葉に対して女子生徒は反抗した。
「聞いてた以上にひねくれてるね。あなた。この試合に少しは貢献とかしないの?」
彼女は少し怒りながら言ったので正一は無視してC地区に進もうとした。
「彼女と接した時も、私と同じような態度だったの」
正一は今の一言で足を止めた。
この女、あいつのことを知っている。なぜだ?
正一は体を向き直して、女子生徒を見た。
「お前、一体誰だ?」
正一は女子生徒に訊いた。
「そんな言い方はないでしょ。普通、名前を聞かない。哀川君」
女子生徒は、正一を馬鹿にするような言い方で言った。
「お前の名前は何?」
正一は投げやりな言い方で訊いた。
「私の名前は氷川加奈子。よろしくね」
氷川はわざとらしい笑顔で言ったので正一は少し引いた。
「そんなに照れなくてもいいじゃない」
正一のしぐさを誤解した氷川は言ったが、正一はますます引いてしまった。
「まあ、名前なんてどうでもいいけど、俺はC地区に戻るよ。じゃあね」
正一は氷川が何ものかを知りたかったが、一人になりたい気持ちも残っていたので、再び体を向き直して歩き始めた。
「そんなに私が嫌い。ね、どうして、彼女の時は優しくしてたくせに」
氷川がニヤニヤしながら言ったので、正一はムカつくのと同時に動揺してしまった。
「別にそういうわけじゃなくて、俺は他人に興味はないし、一人で行動したいの」
正一なりにていねいに答えたが、それでも氷川は不満な様子だった。
「一匹狼でも気取ってるの。馬鹿みたい。そういうやつに限って本当は寂しがりやなのよね。彼女の時みたいに優しくしたらどうなの。哀川君」
本当に嫌みな女だ。でも、もしかしたら、俺は寂しいのかもしれない。いや、そんなことはないな。だって、この俺だし。
正一はそのまま無視しても氷川にまた何か言われるのがうんざりだったので、いっしょにいることにした。しかし、実際のところは氷川があいつと知り合いなのが、正一にはどうしても気になって仕方がないのが本音である。
「いっしょにいてやるから、これからどうする?」
正一は偉そうな言い方で言ったので、氷川から反感を買ってしまった。
「うわ、すごく偉そうでなんかムカつく」
氷川はわざとらしい怒り方だったので、正一は少し安心した。
「じゃあ、この地区にいる敵を倒せばいいんだね」
正一はいやいや言ったので、氷川の反撃を受ける。
「何でそんなにやる気がないの。男ってこういうゲーム好きでしょ」
氷川が、わざとらしさがない怒り方をしたので正一は
「俺は敵を多く倒すより、生き残っているほうが好きだし楽なの」
と本音を答えた。
「うわ、セコ、少しは男らしく戦ったらどうなの」




