哀れなスパイ
「いいわね、さっき言ったメンバーを後ろからでも何でもいいから倒して」
鈴木薫は携帯電話を切り、ポケットに閉まった。
私はこんなゲームどうでもいい。修学旅行だって別に行けなくたっていい。でも、味方を裏切るまねはしたくない。
鈴木は憂鬱でしかたがなかった。銃をポケットにしまいこんだまま、下を向きながら歩いていた。
どうして、私ばっかりこんな辛い目に遭わなきゃいけないの。
私は高校入学して間もなくいじめのターゲットにされた。科学が進歩しても、人間が変わることはない。同じように犯罪を繰り返し、ニュースのネタになる。机に落書きをされていたり、私物がなくなっていたりと、今まで言われていた基本的ないじめと同じ。それが一年以上続いたある日、いじめのメンバーたちに万引きしろと脅されて、仕方なく書店に入り、本を持ち出せたはいいけど、店員に見つかった。どうにか頼み込んで高校には連絡しないことにはなったが、その光景を見ていた生徒がいた。鮎喰友子である。彼女はいじめっ子たちのメンバーではなかったが、この大会が開始される一日前に連絡してきた。
「ねえ、あなたって私とは違うチームだよね。SFゲームのことだけど」
「そうだけど」
「お願いがあるんだけど、私のスパイになってくれない」
「え、どういうこと」
「だから、私の言うとおりに動いて欲しいのよ」
その時の彼女の言い方にはとてつもないプレッシャーを感じたことを今でも覚えている。
「チームを裏切ろって言うの」
「そういうことよ」
「嫌よ、私、そんなことできない」
「言うことを聞かないなら、高校にはいられないわよね。言ってる意味分かるでしょ」
万引きのことを学校側に密告するとことぐらい分かる。私の家は、母子家庭で母親が一生懸命働いて生活を維持している。だから、高校に入れたことにはすごく感謝してるし、そんな母親の前で、いじめのことや万引きしたことは言えなかった。
「分かったわ」
鈴木は鮎喰からの命令に従うことにした。このゲームにただでさえ興味がなくて、しらけているのに味方を裏切るなんてもっとやだ。もし、ルーズドッグが勝つなんてことがおきれば、私は一体どうなるのだろうか。いじめっ子たちは皆、ブライトフューチャーズに属しているから、修学旅行に行けなくなったその腹いせに私に対するいじめがエスカレートしてくるだろう。
私は今、森があるC地区の西にいる。森には入っていないけど。そして鮎喰さんが言っていたメンバーたちが敵と交戦しているのを目撃している。
鮎喰に言われた三人は、頭は悪いが、運動神経が高い運動部であった。鮎喰の言うとおり、三人は足を生かした攻撃を行っていた。
とても俊敏な動きとチームワークで、敵を倒していく姿を鈴木は少しうらやましく思った。彼ら三人の後ろに鈴木は近づき、銃を三人に向けた。
ばれないように攻撃しないと、試合が終わった後で、皆から攻められる。本当なら、ルーズドッグのリーダーを不意打ちすればいいのだろうけど、早い段階で攻撃すれば、仲間の誰かが攻撃したことが分かるし、私もそこまでする気にはなれない。
ごめんなさい。あなたたちには何の恨みもないんだけどこうするしかないの。別に死ぬわけじゃないんだしいいわよね。
鈴木は道の隅に身を隠し、引き金を引いた。三人の内一人にレーザー光線が当たり、その男子生徒は消えていった。残っていた二人は仲間が消えたことに驚いていた。そのため、鈴木はすぐに建物の角に隠れて、顔を出さないようにした。
どうか、二人がこっちに来ないように。
二人は、後ろを振り向こうとせず、敵を追いかけていった。
鈴木はしばらく隠れたままであったが、顔だけ角から出して、二人がこちらに気づいていないことを確認したので、後を追った。