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第21回SFサバイバルゲーム  作者: 野川太郎
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憂鬱な少年

この馬鹿馬鹿しい大会が二一回目を迎えることになるとは。

西暦二〇三三年、物体を他の場所に瞬時に移動できる転送装置や光の屈折を利用した透明機能の開発に成功した。かつてSF映画にしか出てこなかったこのような機器が、今の世界では当たり前になっていた。そして、この進歩は学校にも影響を与えたのだから。オリンピック競技にもなっているSFサバイバルゲームをこの学校は全生徒参加の学校行事にしてしまったのだから。SFサバイバルゲームとはサバイバルゲームで使うエアーガンを無害のレーザー光線銃(本物のレーザーではないが)を使って敵に攻撃するシューティングゲームである。俺が通っている高校は毎年、このくだらないゲームを、大金をかけて行う。運動不足解消や協調性を磨くためらしい。そもそも、高校が建設された場所には以前SFサバイバルランドと呼ばれていた遊技場があった。大金をかけて造られたその場所には住宅時や工場などのレプリカを用意して多くの来客者がサバイバルゲームを楽しめるアトラクションとして一斉を風びしたが、経営がうまくいかなかったためにつぶれてしまったらしい。そこに高校を建てたのでゲームをする場所はいくらでもある。まあ、住宅地のレプリカにホームレスが住んでいるのを別にすれば誰も住んでいないので生徒が大暴れしても迷惑を受ける人はいないのだ、たぶん。

 俺は学校の行事としてはくだらないと分かってはいたがこのゲームが大好きだった。退屈はしないし、エアーガンとは違って反動が少ないレーザー銃を使うため、誰にでもうまく使いこなすことができるからである。もちろん、道具を準備するのはとても費用がかかり、金持ちの人間が好むスポーツではあったが、学校の行事になったのだから、思う存分楽しみたいと考えていた。しかし、学校での費用の負担は相当なものであることは間違いないが、それがこの学校の伝統なのである。

「行って来る」

 全身水色のジャージを着た哀川正一は家のドアを静かに閉じて、置いてある自転車を引きずりながら、道路外まで自転車を出して、またがってペダルを漕ぎ始めた。今日はジャージで試合が行われるためにジャージ登校が許されたのである。

 普段の正一は決して明るい生徒でなければ良い生徒でもなかった。本当は学校の行事が嫌いで中学時代は文化祭や体育祭の準備を何回もサボっていたくらいだったが、このゲームだけは楽しみだったのだ。去年放送したオリンピックでのSFサバイバルゲームはとてもおもしろく、勝敗など気にしないでいろんな国の試合が見られたことからこのゲームに対しては愛着があった。

 交差点の道路の信号が赤になり、正一はブレーキを掛けた。

 本当は自転車など使わなくても学校には行ける。転送装置を使えば数秒で学校に着けるけれど、費用が数十万単位も掛かってしまい、とても払いきれない。

 信号が青になり、再びペダルを漕ぎ始めた正一は、少しだけ顔を上に向けた。

 今日は雲一つない快晴になるだろう。少し暑くなるかもしれないが、雨が降っている状態で、外でレーザー銃を撃ち合いたくはないし、前半は隠れてリタイヤせずに生き残りたいので大人しくじっとしていたいから。

 自転車をひたすら漕ぎ続けたが、なかなか学校には着かない。信号に捕まってばかりいた上に、家からの距離もある。二十分後には学校の校門にたどり着いたが少し疲れてしまった。  

 校門前では、生徒会や先生たちが今日の大会のために準備している。正一は彼らの邪魔にならないように通らなければならなかった。校門を通り、自分のクラスの自転車置き場を探していると、

「おはよう、哀川」

 友達の高倉秀雄が少し眠そうな顔で挨拶してきたので、

「おはよう」

 と低い声で返事をした。

 高倉は正一と同じクラスの生徒で、身長はそれほど高くないが妙に筋肉質で正一とよく話をしている。

 正一は自転車を小屋の一番端に置き、荷物を片手で持って、待っていた高倉の所まで早歩きで進んだ。

 もし、高倉が待っていなかったら、俺は高倉といっしょに教室には行かなかったであろう。人を待つのは嫌いだから。

「今日の大会はとっても疲れそうだよ。レーザー銃で自爆してリタイヤしようかな」

 高倉が弱音を吐くことは決して珍しくはなく、テストの時はいつも深刻な顔をしながら勉強に励んでいる。

「好きにしろよ。どっちにしても俺は単独行動を取らせてもらうから」

 正一は、前半は隠れてじっとしたかったし、なにより集団行動が嫌いだった。

「何で僕たちといっしょに行動しないの」

 高倉は眠そうな顔から一気に不満そうな顔に変わったが、正一は答えるのが面倒だったので無視して話題を変えた。

「お前、去年の大会の成績はどうだったのよ。」

 正一はその答えを知っていたが少し意地悪して質問をぶつけてみた。すると、高倉は不満そうな顔から今度は落ち込む顔になり、同時に背筋が少し曲がった。

「開始二分で瞬殺された」

 正一は落ち込んだ時の高倉を見るのが楽しくて仕方がなかった。なぜなら、人の不幸を見るのは嫌いではなかったからだ。特に、高倉は分かりやすい人間だったのでなおさら楽しかった。もちろん、顔には出さなかいように気をつけていたが。

 二人は靴を下駄箱の中に靴を入れながら、外の円柱形をした転送装置を眺めていた。すると、転送装置から一人の生徒が出てきた。転送装置は金持ちの生徒が使う通行手段で、維持費が掛かるために装置を使う生徒だけ使用金を毎月支払っている。高倉も正一同様にお金持ちではなかったし、家も近かったので自転車通学を選んだ。転送装置は一つだけではなく、いくつか違う所に配置してあるが、装置を使う生徒が多く、一度に一人しか出てこられないので少しだけ待たされるらしい。

「自転車は面倒くさいよな」

 正一は不満を漏らすと、

「以前に転送装置を使う生徒が多すぎて、遅刻した生徒がいたらしいよ」

 と高倉が言ったので正一が反論した。

「お前は学校から家が近いからからそんなことが言えるんだよ。俺の身にもなってくれよ。お前の二倍はあるぜ」

二人はしゃべりながら時代遅れの階段を上っていった。今の家庭にも小型のエスカレータがあるのだがなぜかこの学校にはないことに正一は不満を感じていた。決して疲れるわけではなかったが、とにかく面倒だった。

 正一は荷物を肩に背負いなおしながら、二人いっしょに教室に向かった。二学年は六クラスあり、二人はともに六組なので一番遠い教室なために、また歩かなければならない。廊下には今日の大会について離している生徒が大勢いた。興奮している生徒もいれば、不満そうな人もいた。人にぶつからないように器用に避けながら進んでいくと、あの女がいた。

 鮎喰友子は友達といっしょにしゃべっていた。鮎喰は大手企業の社長の令嬢で、頭と顔やスタイルが良いことから、男子だけではなく女子からも憧れの的であった。しかし、人前での性格は良いが、実際は自分に都合の悪いことが大嫌いで、しかも男子生徒をおもちゃのように扱う生徒であった。多くの男と付き合っているという噂があるが、彼女のせいで何人の男子生徒が泣かされたのか分からない。もちろん、一部の女子生徒の集団からは嫌われていたが、人気が勝り、その集団はいじめの餌食にされたというが本当のことは定かではない。また、鮎喰は人を仕切るのが好きで、同じ小・中学校だった正一は、彼女のリーダーシップと身勝手さを熟知していた。

 正一と高倉が鮎喰たちのそばを通った時、一瞬だけ彼女の冷たい視線がこちらを向いていたのに正一は気がついたがどうでもよかったので気にしないで教室に向かった。

「鮎喰さんたちは俺たちの敵だっけ」

 高倉が不意に聞いてきたので、

「あの女王蜂は敵だよ」

 正一は鮎喰のことをリーダー的存在で男を自在に操る性格を皮肉って女王蜂と呼んでいる。

 教室に着くと、生徒の半分は今日の大会で興奮していて、残りの生徒は、読書をしたり、立体映像が出せる新型の携帯電話を使ってニュースを見ていた。中には、ニュースの画面を大きくするために、携帯の立体映像画面を大きくしてかつ、大音量で聞いている生徒もいた。

 正一と高倉は自分の席に向かっているとき、席に座っていた坂口一喜の足が、正一の足とぶつかってしまった。

「あ、ごめん」

 正一は疲れているせいか彼の足を何度か蹴ってしまったことがあった。坂口は少し不満そうな顔をしていたが正一は無視して自分の席に向かった。

 窓際の机に荷物を脇のフックに掛けて席に座り、正一は自転車の疲れが少しだけ残っていたので体をうつ伏せにし、高倉も眠かったので同じ体勢になった。周りの声がうるさくて眠ることはできなかったため、あまり疲れが取れなかった。しょうがないのでうつ伏せのまま今日のSFサバイバルゲームの作戦を立てよう。まず始めに、自転車で決められた範囲ぎりぎりの所まで移動する。次に、良い隠れ場所があったら、しばらくそこにいる。後半になって敵を不意打ちしながら敵を倒す。後はその場の状況に応じて何をするかを考える。よし、これで行こう。

 数分間目を閉じながら、一日の計画を立てていると、先生の声が聞こえたので体を立ち上げた。

「皆、おはよう。」

 先生が不意にやってきたため、生徒たちが急いで席に戻っている姿が少しうっとうしかった。すると先生は

「皆、机の上に何も置くなよ。腕も駄目だ。今から、武器を転送するから」

 そう言うと、先生は持っていた転送装置のボタンを押すと、机の上からレーザー銃、SFサバイバル専用ベルト、立体映像の地図入りブレスレットの三つが出てきた。ベルトは体に攻撃を受けた時にそれを感知し、強制的に転送機能が働く機能を持っている。つまり、その場から別の場所に移されることにより、ゲームオーバーとなる。また、銃を入れるポケットも取り付けてある。

「時間になったら、放送で集まりの連絡があるからそれまでここでいてください」

 先生は慌てて教室を出て行ったので、きっと今日の大会の作業で忙しいのだろうと正一は思った。先生がいなくなると、再び教室が騒がしくなった。

 正一は机に置いてあるレーザー銃を両手で持って眺めた。

 銃の形状は至ってシンプルだ。ゲーセンのゾンビゲームで使う銃のおもちゃそっくりだからである。高倉はベルトに興味があるらしく腰に巻きつけてる最中であった。

 皆がゲームグッズに夢中になっている時にあいつが来た。林真がニヤニヤしながら教室に入ってきたのである。普段は遅刻寸前に登校してくる林は今日に限って少しだけ早い。

「林、おはよう」

 高倉が巻きつけたベルトに満足しながら、元気よく挨拶したので、林は

「ふ、ふ、ふ」

 と不気味でしかもニヤニヤしながら高倉の返事を返した。

 林の考えていることは正直よく分からない。いや、分からない方がおもしろいかもしれない。

 正一はそう思いながら、ベルトを巻きつけてみた。その後、周りを見渡すと、レーザー銃で遊んでいる生徒が何人もいた。

 もちろん、それは男子限定の現象であったが。

「林、銃を俺に向けるなよ」

 林が高倉に銃を向けていたのである。本人はニヤニヤしながら高倉に向かって銃を向けていたが、よく見ると人差し指が引き金に掛かっていなかったので、正一は少しだけ安心した。

「林、それは俺の役目だぞ」

 正一はそう言うと、銃を高倉の顔に向けた。もちろん、人差し指は引き金に触れていない。

「哀川までやめてくれよ」

 高倉はすぐマジになる。だから、からかいたくなるのだ。

「冗談だよ。何マジになってんだよ」

 二人が銃を下ろすと、高倉はほっとして、ため息をした。

 その後、三人で今日のゲームについて話し合った。

 正一は一人で行動し、高倉と林が二人かもしくは他の友達といっしょにリーダーを守ることになった。先週、チーム別の大規模な人数でのミーティングがあり、その際に、守りか攻めかを決める話し合いになった結果、二年生は全員守りにつくことになったのである。しかし、正一は守りにつくことが不満で一人だけ自分勝手に動き回ることにしたのである。

「哀川、皆で戦おうぜ」

 高倉が哀川を説得しようとしたので

「俺は自転車でいろんな地区を回って状況を把握したいんだよ」

 俺は嘘をついた。正直、勝ち負け関係なく、皆で生き残るより、自分一人が生き残る方が何かかっこいいと思うし、集団行動が嫌だ。もし、仮に皆いっしょに戦って自分一人だけ倒されたらたまらなく嫌なのだ。

「哀川が嫌なんだから好きにさせてあげれば」

 林がニヤニヤしながら言ったので高倉はその話を中断した。



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