表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

究極の一択

「それが本当に杏のためになっていると思うのか?」

「さあそれはよくわかりません。けれどもこうして先生と杏は一緒になったじゃないで

すか。その意味では杏のためになったのではないかと思います」

 智樹は杏に言い返されて、思わず黙り込んでしまった。しかしこのままでは危険な関

係が続くことに変わりはない。


「君のしていることは犯罪だよ。そのこと理解しているのか?」

「あはははは。今さらそんなことを私に言っても無駄です。自分で言うのも何ですが、

一度走り出したら止まらない性格ですから。でもある意味、加藤さんがしていることも

罪なんじゃないですか」

「どういうことだ?」

 二人きりでじっくり話したいということで、二人は智樹の運転で港へやって来ていた。

今は車の中で話していた。

「だって沙織さんとは三年も付き合ってきて、結局は別れてしまったじゃないですか。

私、沙織さんとあれから一度会ったんですけど、かなり落ち込んでいましたよ。一人の

女性を犠牲にしたんですよ。これは嘘でも何でもありません。そして加藤さん、杏のた

めに高校も辞めてしまったのでしょう。これでは教え子の皆さんがかわいそうじゃあり

ませんか。これで罪と言えませんか?」

 メグミの冷静な話しぶりに、智樹は再度閉口してしまう。さらに沙織と会ったという

事実に背筋が凍った。杏ではなく智樹のことまで調べ上げている。何のためにここまで

調べなくてはならないのか。全く理解不能である。


「随分とわかった口を利くじゃないか。僕だってこの決断をするまでに、色々と悩んだ

んだ。その気持ちが君にわかってたまるか」

 高校生の前で取り乱すのは恥ずかしかったが、つい感情的になってしまった。彼女の

存在は一体何なのだ。少し侮ってしまったかと、智樹は後悔していた。

「色々な策を講じて智樹さんを調査しましたが、あなたは杏にとってふさわしくない男

性なのです。杏から離れてください」

 メグミは二人の交際まで否定してきた。ここまで話が進むと、智樹も引き下がれない。

つい言葉が強くなってしまう。

「ふさわしくないかどうかは杏自身が決めることだ。君はもう少し頭を冷やしたらどう

なんだ?」


「私の言うことを聞き入れてもらえないんですね。とても残念です」

 メグミは持っていたカバンの中から、果物ナイフのような刃物を取り出してきた。彼

女は本気であった。殺意を持った目。サスペンスドラマでしか見たことのない光景が、

今目の前で繰り広げられている。智樹は慌ててドアを開けて飛び出そうとしたが、あい

にくロックされた状態であった。


「逃げるなんてあまりじゃありませんか。もう一度チャンスを与えます。あなたは杏か

ら完全に立ち去りますか、それとも?」

 彼女の選択肢は一択しかない。けれどもはいと答えられるはずがない。

「さあ、どっちですか。早く答えてください。何を血迷っているのですか。杏は私のも

のなんです。さあ、早く答えなさいよ」

 杏は智樹の顔にナイフを突きつけてきた。あと少しで智樹の頬に触れそうである。隙

を見て、智樹はそのナイフを取り上げるつもりでいた。


「君がいくら僕と杏を離したくても、その要求に応じることはできない」

 強くそう言って、智樹はメグミの持っていた刃物を取り上げようとした。激しく抵抗

するメグミ。格闘の末、運悪く果物ナイフは、智樹も右わき腹に刺さってしまった。メ

グミは血を見ると、その場に倒れ込んでしまった。どうやら意識を失ってしまったらしい。

智樹は出血を何とか片手で抑えながら、持っていた携帯電話で救急に連絡した。

やれやれとんでもないことになってしまった。智樹は自分の身が危険であるというのに、

妙に冷静になれていた。彼女の異常な愛が何とか別の形になればいいのにと、強く願った。


 智樹がメグミに刺されたというショッキングなニュースは、杏の元にもすぐに伝わって

きた。杏は顔面蒼白なまま、智樹がかつぎ込まれた病院に直行した。


「先生大丈夫かな?先生が刺されるなんて……」

「落ち着いて、杏。先生は無事そうだから」

「だって、麻耶」

 親友の麻耶に付き添ってもらって、杏は病院にやって来た。まさかメグミがこんな行動

に出るとは杏も考えていなかった。

 智樹の名札が書かれた個室に飛び込むと、智樹の姿をすぐに確認する。彼はベッドの上

でスヤスヤと眠っていた。腰の周りには何重にも包帯が巻かれていた。とりあえず杏はそ

の姿を見て安心した。

 しかしすぐに杏は我に返った。傍には元婚約者の沙織が座っていた。彼女は激しく杏を

睨み付けていた。その目はこちらが凍てつくくらいの冷たい視線だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ