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謎の多い人物

 教師の職を辞めたくて辞めたわけじゃない。智樹はあの学校に愛着もあったし、テ

ニス部のみんなも好きだった。けれど辞めなければならなかったのは、杏の存在だった。

綾を彷彿とさせる容姿、そして真面目で一途な所。綾の話を真摯に受け止めてもらえた

のは、感動的だった。一緒に涙を流してくれる人はそうはいない。

 ところで最終的に智樹と杏を結び付けたものは何だろうか。智樹はふと疑問が浮かん

だ。確か杏が髪型をショートにしたあたりから、潮目が変わった気がする。それまでに

意識したことはもちろんあったが、はっきりと意識するようになったのはあの出来事で

ある。そうなるときっかけを作ったのは、あの人物ということになる。


 その人物とは杏の親友、メグミである。何とも謎の多い人物である。智樹はもう一度

話をしてみたいと思った。杏とは親密な時間を過ごしていたと聞いている。杏とメグミ

の関係は切っても切れないようである。杏はメグミのことを非常に嫌がっている。この

ままではいい方向に向かうとも思えない。

 そこで智樹はメグミと会って、一度話しておきたいと考えた。彼女に連絡を取ると、

OKと返答してくれた。ただし今回は二人で会うということにした。

 このことは杏には黙っておくことにした。仮に話したら、メグミには会わないでと言

われるに決まっている。それであれば話さないでいたほうがいいだろう。そう智樹は判

断したのだ。


「あなたが加藤智樹さんですね?」

「ああ、そうです。今日は忙しいのに来てもらって悪いね」

 メールで待ち合わせた喫茶店に、智樹はメグミより遅れてやってきた。彼女は制服姿

であった。恐らく高校の帰りだろうか。


「いいえ、とんでもないです。智樹さんの誘いだったら、私断れないです」

メグミは穏やかに話した。しかし智樹はそれを真に受けなかった。前回会った時に乱

れたメグミを目の当たりにしているからだ。

「今日私を呼んだのは、私に用があるからですか?それとも杏のことをもっと知りたい

からですか?」

「うん、そうだね。だいたい君の言っていることは当たっている」

 メグミの察知能力は非常に高い。年下なのに警戒しなくてはならない。

「何からお話しましょうか。私から質問させていただいてもいいですか?」

「はいはいどうぞ」

 積極的にメグミは尋ねてきた。僕はサッカーのGKみたいに構える。


「なぜ沙織さんと別れたんですか。そして高校を辞めたのはどうして?」

 単刀直入に彼女は尋ねてきた。そしておそるべき調査力だった。誰かに詳しく話した

わけでもないのに、どうしてメグミは知っているのだろう。もしかすると彼女は智樹を

ストーカーのように、追い続けてきたのだろうか。これもすべては杏のため?そう考え

ると、さすがの智樹も身が震えてきた。


「よく知っているね。どこで調べたんだ?」

 明らかにわかる作り笑いを浮かべて、智樹はメグミに尋ねた。

「私が尋ねているんです。はぐらかさないでください」

「わかった。じゃー僕から話せばいいんだな」

 杏の強い口調に、智樹は従うほかしかなかった。勢いは向こうにある。別に駆け引き

したいと思っているわけではないのに、なぜかしているような気がする。智樹は仕方な

くメグミに事の顛末をすべて話した。話している間もメグミはメモを取っていて、その

光景はまるで警察で尋問されているようであった。

何もかもが異常。


「僕は相馬と真剣に交際するつもりでいる。それで沙織とも別れたし、あの学校も辞め

たんだ」

 まさか杏に伝える前に、メグミに話すとは思わなかった。しかし智樹は将来、杏と真

剣に交際する気があることを、メグミにはっきりと言ったのだ。これでメグミも杏との

異様な関係も改善されるかもしれない。

「ありがとうございます、わざわざ話していただいて。胸でモヤモヤしていたものが吹

っ切れました」

 そのわりには表情は全く変わっていない。むしろさらに厳しくなったのではないのだ

ろうか。


「次は僕の質問の番だ。なぜ僕や杏のことを徹底的に調べようとするんだ?」

 感情的にならず、なるべく心を落ち着かせて話した。

「それは簡単なことです。すべて杏のためです。あなたが杏にふさわしいのかすべて調

べさせていただきました。私にとって杏はすべて。彼女のためなら命を投げ打ってもい

いと思っていますから」

 杏が以前言っていたことはどうやら嘘ではなかったらしい。ショッキングな言葉が出

てくるたびに、智樹は全身の鳥肌が立っていた。まるで悪夢を見ている気分であった。


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