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一枚の写真

「沙織さん、とても綺麗な人だった。さすが先生の婚約者だね」

美しさと品の良さでは勝てそうにはない。杏は若さで勝負するしかない。

「褒めてくれてどうもありがとう。今日の花嫁姿を見て、僕らのことを理解してもらえ

ただろう。わかってくれるよな」

 智樹が言いたかったことは、この一言なのだと杏は思った。花嫁姿の婚約者と会わせ

れば、杏が身を引くとでも考えたのだろうか。確かにショックなことではあるが、これ

で諦めるのはまだ早い。先生が完全にノーと返事をするまでは。


「私はまだ諦めないよ。諦めの悪い女だと思われるかもしれないけど、無理なものは無

理なんだから。たとえ先生が結婚しても、同じ。だから今日みたいなことをしても、全

く効果はないんだから」

 踵を返して、杏は立ち去っていく。そんな杏を、智樹が呼び止める。

「僕みたいな男より、同世代にいい男はいくらでもいるだろう。杏ならいい男に巡り会

えると思うぞ」

「そうかな?恐らく無理なんじゃない。先生みたいな人はいないから」

 杏はあくまでも強気だった。しかし心の中では相当なダメージを食らっていた。近づ

きつつある結婚式。現実を受け止めなければならない時が、もう目の前にあることを認

識しなければならなかった。


 智樹の意志は固かった。杏のことなんて見向きもしていない。来月の結婚式に向けて

まっしぐらといったところか。起死回生のウルトラCだなんて、未成年の杏にできるは

ずがない。


「まだ諦めちゃダメだよ、杏」

 声の主はメグミだった。

「どうしてあなたがここにいるの?私の後を付きまとうのはいい加減に止めてと言った

じゃない」

 杏の声は震えていた。しかしそれに臆することなく、メグミは話を続けた。もう非難

されることは慣れたという感じだ。


「加藤先生が昔どんな女性と交際していたか知りたくない?ここに一枚の写真があるの。

杏それを見たらきっとびっくりすると思うよ」

 メグミに誘導されているとわかっていても、智樹の話題となると気になってしまう。

それに今日の彼女はとても強気である。けれども信じるわけにはいかない。

「あなたに用はないの。だから私の前から去ってよ」

「もうじれったいんだから。とにかくこの写真を見ればわかる。私、杏のために努力し

て色々なことを調べたんだからね。私が愛した人のためなら、何だってできるってこと

を証明して見せたかったから。はい、これがスナップ写真。あと写真の裏側も見てね。

そこに大事なメッセージが書いてあるから」

 メグミはそう言って杏に写真を渡すと、どこかへ行ってしまった。杏に配慮したのだ

ろう。

 目の前に置かれた二枚の写真。すぐに見てみたい気はするけど、何だか観てしまうと

すべてが終わってしまいそうな気がする。しばらく熟考したが、今の状態を考えるとメ

グミの言葉を信じるほかなかった。


 ドキドキしながら写真を見ると、智樹とその仲間と思われる複数の人物が写っていた。それぞれテニスウェアを着て、ラケットを片手に持っている。おそらくこれは高校の時

のものだろう。この中にどんな重大な事が隠されているのか。杏は写真をよく観察して

みた。

 智樹は今と変わらず、精悍なルックスをしている。この時杏と知り合っていれば、何

も問題は起こらなかったのに。どうして教師と生徒という立場で、二人は出会ってしま

ったんだろう。そんな感情に杏は浸っていた。

 さらに杏は隣に写っている女性を確認した。すると杏は目を疑った。その人物があま

りにも杏に似ていたからだ。髪型こそ杏がセミロングで、写真の女性がショートだとい

うことくらいか。この世に似た人物が一人くらいはいると以前耳にしたことがあるが、

ここまで似ていると真実だと思えてしまう。

さらにメグミに言われた通り、写真の裏側を見てみることにした。そこには黒いペン

らしきものでこう書かれていた。


(綾が亡くなってもう三年になるんだね。君を失ったことは、本当に辛い。君に代わる

人はいないよ。あの眼差し、笑顔、そして優しい明るい性格。僕の中で綾が一番であ

ることはこれからも変わりはない……)


先生にこんな辛い過去があったとは、全く知らなかった。それにしてもこの女性、

見れば見るほど杏に瓜二つである。メグミがこの情報源を私に知らせた理由が、よく

理解出来た。しかしそれにしてもメグミはこんなにも大事なはずの写真を、どこから入

手したのだろうか。彼女の行動は杏を必ずアッと言わせるようなことばかり。本当に不

思議な女性である。


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