プロローグ
女は死にかけていた。
身体中のいたるところに大小の傷が刻まれ、血は、もはや生命を維持するのが難しい程に失われていた。
特に致命傷なのは、二の腕の半ばから切断された左手と、剣に貫かれた腹だ。
こうして意識を保っていられるのが不思議なくらいで、もはや動く事も叶わない。
自分は死ぬ。
それは紛れもない事実。
もはや周りに味方はなく、あるのは自分が屠った死体のみ。今の状況を考えれば、助けは期待するだけ無駄だろう。
多くの命をこの手で摘み取ってきたのだ。それが今回は自分が摘み取られる立場になっただけのこと。
こうなればもう、神の加護とやらも自分救う事は出来ないだろう。いや、あれは呪いか……。もうすぐあの忌々しい声を聞かないで済むかと思うと清々する。
「……ふ…っ…」
思わず笑いがこみ上げた。
同時に、涙が頬を流れた。
最後に想うのは、―――――のこと。
愛する私の半身。
きっと自分の死は、―――――を苦しめるだろう。
声が、聞こえた。
懐かしい声。
愛しい半身の声。
ずっとずっと聞きたかった。
……ああ、でも、そんな。
その声に宿るのは、身を引き裂かれるような絶望と……狂気で。
女は何かを言おうとした。
しかし、それが発せられることはなかった。
その瞬間、闇が世界を覆った。