恋の劇薬 〜黄金の楽譜~
これは、乙女ゲーム『人の恋は蜜の味』に登場する攻略対象、レオナルド・シャーウッドの物語です。
王立学園の音楽室。
夕日が差し込む部屋で、レオナルド・シャーウッドはピアノを弾いていた。
悲しみを歌う旋律。
まるで誰かを待ち続けているような曲だった。
最後の音が消える。
「……どうだった?」
恐る恐る感想を求めるレオナルド。
隣に座っていたユアは立ち上がり、エメラルドブルーの瞳を輝かせる。
「すごく綺麗なメロディ。」
レオナルドの顔が赤くなる。
「そ、そうか……。」
辺境伯家の跡取りで成績優秀、容姿端麗。
そんな彼が、今だけは年相応の少年に見えた。
「でも、悲しい曲ですね。」
ユアが言うと、レオナルドは苦笑した。
「僕が作った曲だからかな?」
ピアノのベンチに無理に二人で座っているせいか、まるで心まで近づいたような錯覚を覚える。
気がつけばポツリポツリと話し始めていた。
父親のこと。
母親のこと。
辺境伯家のこと。
音楽を認めてもらえないこと。
「……僕は辺境伯になりたいわけじゃない。」
その声は小さかった。
「音楽が好きなだけなんだ……。」
ユアは静かに聞いていた。
「でも、無理なんだ。夢は寝る時だけにしろだって……。」
レオナルドは寂しそうに笑う。
「どうして、諦めないといけないのですか?」
ユアは首を傾げた。
「どうしてって……」
「音楽が好きなんですよね?」
レオナルドが黙る。
「人生って、みんな一回しかないんですよ。」
ユアは笑う。
「私なら例え誰かを不幸にしても後悔したくないなー。」
その言葉があまりに衝撃的で彼は忘れられなかった。
◇
数ヶ月後。
広場に集まる旅芸人達の演奏会。
レオナルドは心を奪われた。
平民も貴族も皆が笑っている。
(音楽に身分も国境もないんだ!)
「そうだ、自分の音楽が奏でられる場所は自分で作るんだ。」
◇
「ユア、僕は決めたよ。自分の楽団を作る!」
ユアは嬉しそうに拍手した。
「素敵。これからは、みんながレオナルドの曲が聞けるのね!」
レオナルドは笑った。
「そうだよ。悲しい曲だけじゃない喜びや感動を与える曲を届けたい!」
◇
深夜のシャーウッド家。
金庫の扉がゆっくりと開く。
積み上げられた金塊。
レオナルドはそれを見つめる。
「これは借りるだけだ。父上には後で絶対返す。」
誰にも届かない言い訳という独り言。
「成功して何倍にもしてみせる!」
そして、次の日、レオナルド・シャーウッドは消えた。
◇
数か月後、とある劇場。
『シャーウッド管弦楽団』演奏が終わる。
観客のスタンディング・オベーション、鳴り止まない拍手。
ステージ中央でレオナルドは泣いていた。
「ようやく、ここまできた。やっと、夢が叶った。」
観客の中にはユアがいた。
「レオナルド、おめでとう!」
レオナルドが笑う。
「ありがとう、ユア……。」
本当に幸せそうだった。
◇
翌朝の朝刊。
『シャーウッド辺境伯の横領罪の裁判。終身刑決定』
『フォレスト通貨価値暴落』
『国内失業者数過去最大』
『各地で暴動発生』
私は新聞を閉じた。
「あなたが幸せなら、それでいいの。」
そう呟いて、昨日、シャーウッド管弦楽団が演奏した『喜びの歌』を口ずさむ。
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
『恋の劇薬』シリーズ第五弾はレオナルド・シャーウッドのお話でした。
誰にでも夢があります。諦められない願い。手を伸ばしたかった未来。
もし誰かに「叶えていい」と背中を押されたら、人はどこまで進めるのでしょうか?
次の劇薬に触れるのは誰なのか……
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