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人の恋は蜜の味

恋の劇薬 〜黄金の楽譜~

作者: ヒロオカ トモエ
掲載日:2026/06/07

これは、乙女ゲーム『人の恋は蜜の味』に登場する攻略対象、レオナルド・シャーウッドの物語です。

 王立学園の音楽室。

 夕日が差し込む部屋で、レオナルド・シャーウッドはピアノを弾いていた。

 悲しみを歌う旋律。

 まるで誰かを待ち続けているような曲だった。

 最後の音が消える。


「……どうだった?」


 恐る恐る感想を求めるレオナルド。

 隣に座っていたユアは立ち上がり、エメラルドブルーの瞳を輝かせる。


「すごく綺麗なメロディ。」


 レオナルドの顔が赤くなる。


「そ、そうか……。」


 辺境伯家の跡取りで成績優秀、容姿端麗。

 そんな彼が、今だけは年相応の少年に見えた。


「でも、悲しい曲ですね。」


 ユアが言うと、レオナルドは苦笑した。


「僕が作った曲だからかな?」


 ピアノのベンチに無理に二人で座っているせいか、まるで心まで近づいたような錯覚を覚える。

 気がつけばポツリポツリと話し始めていた。


 父親のこと。

 母親のこと。

 辺境伯家のこと。

 音楽を認めてもらえないこと。


「……僕は辺境伯になりたいわけじゃない。」


 その声は小さかった。


「音楽が好きなだけなんだ……。」


 ユアは静かに聞いていた。


「でも、無理なんだ。夢は寝る時だけにしろだって……。」


 レオナルドは寂しそうに笑う。


「どうして、諦めないといけないのですか?」


 ユアは首を傾げた。


「どうしてって……」


「音楽が好きなんですよね?」


 レオナルドが黙る。


「人生って、みんな一回しかないんですよ。」


 ユアは笑う。


「私なら例え誰かを不幸にしても後悔したくないなー。」


 その言葉があまりに衝撃的で彼は忘れられなかった。



 数ヶ月後。

 広場に集まる旅芸人達の演奏会。

 レオナルドは心を奪われた。

 平民も貴族も皆が笑っている。

 

(音楽に身分も国境もないんだ!)


「そうだ、自分の音楽が奏でられる場所は自分で作るんだ。」



「ユア、僕は決めたよ。自分の楽団を作る!」


 ユアは嬉しそうに拍手した。


「素敵。これからは、みんながレオナルドの曲が聞けるのね!」


 レオナルドは笑った。


「そうだよ。悲しい曲だけじゃない喜びや感動を与える曲を届けたい!」



 深夜のシャーウッド家。

 金庫の扉がゆっくりと開く。

 積み上げられた金塊。

 レオナルドはそれを見つめる。


「これは借りるだけだ。父上には後で絶対返す。」


 誰にも届かない言い訳という独り言。


「成功して何倍にもしてみせる!」


 そして、次の日、レオナルド・シャーウッドは消えた。



 数か月後、とある劇場。

 『シャーウッド管弦楽団』演奏が終わる。

 観客のスタンディング・オベーション、鳴り止まない拍手。


 ステージ中央でレオナルドは泣いていた。


「ようやく、ここまできた。やっと、夢が叶った。」


 観客の中にはユアがいた。


「レオナルド、おめでとう!」


 レオナルドが笑う。


「ありがとう、ユア……。」


 本当に幸せそうだった。

 


 翌朝の朝刊。


『シャーウッド辺境伯の横領罪の裁判。終身刑決定』

『フォレスト通貨価値暴落』

『国内失業者数過去最大』

『各地で暴動発生』


 私は新聞を閉じた。

 

「あなたが幸せなら、それでいいの。」


 そう呟いて、昨日、シャーウッド管弦楽団が演奏した『喜びの歌』を口ずさむ。

 

 あとがき


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 『恋の劇薬』シリーズ第五弾はレオナルド・シャーウッドのお話でした。

 誰にでも夢があります。諦められない願い。手を伸ばしたかった未来。

 もし誰かに「叶えていい」と背中を押されたら、人はどこまで進めるのでしょうか?


 次の劇薬に触れるのは誰なのか……


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