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第7章   あのときの

放課後の教室に、西日が長く伸びている。 机の上に置かれた一枚のプリント。「進路希望調査票」という無機質な文字が、今の私には鋭いナイフのように見えた。

(今度こそ、あそこに行くんだ……)

 脳裏をよぎるのは、あの冬の記憶。合格発表の掲示板に、私の番号だけがぽっかりと抜け落ちていたあの絶望感。倍率は10倍を超えていたし偏差値だって全然足りなかったから落ちるのは当然だった。だけど、それなりの難関校に入った今でも、街中であの制服を見かけるたびに、すごく行きたかったなあってなる玲最大学。私にとってそこは、単なる大学ではない。過去の自分を救い出すための、たった一つの出口だった。

 うちの学校に割り振られた指定校推薦の枠は、わずか3つ。評定平均は死守してきた。欠席もしていない。だけど、みんなが狙ってる、言わないだけで。

「……ふーん、お前らしいな」

 不意に横から、低く掠れた声がした。心臓が跳ねる。見上げると、隣の席で不機嫌そうに髪をかき上げた花沢が、私の手元のプリントを盗み見ていた。

「な、なによ。勝手に見ないでよ」

「別に隠すことじゃねーだろ。小学校の時から狙ってたんだろ、そこ」

 図星を突かれ、言葉に詰まる。花沢はそのまま、自分のプリントを乱暴に鞄に突っ込んだ。そこには迷いのない筆致で、『某国立大学医学部』の文字。

「花沢くんは……やっぱり医学部なんだ。……妹さんのこと、あるから?」

 少しだけ踏み込んだ質問に、花沢くんの動きが一瞬止まった。彼は窓の外、遠くの空を見つめる。その横顔には、同い年とは思えないほどの色気と、それ以上に重い「覚悟」が滲んでいた。

「まあな、うちは私立に行かせる余裕ねーしマジ頑張らないと、早くあいつの病気を俺が治す」

 私の「憧れ」という動機が、急に子供っぽくて軽いものに思えて、私は小さく俯いた。だけど、花沢くんは教室を出る間際、振り返りもせずに呟いた。

「……動機なんて何でもいいんだよ。受かった奴が正義だ。お前は、そのまま必死に足掻いてろ。」

 その言葉は、突き放しているようでいて、今の私にはどんな慰めよりも力強く響いた。多分花沢くんは普通に受かる実力がある。なんでも卒なくこなしてしまう彼が羨ましくて仕方かない。そんな彼を見つめているとゆかりが一緒に帰ろうと戻ってきた。

「花沢くんってさ普通にかっこいいだけじゃなくて、将来のことも見据えてるかっこよさとかも備えてるんだね」

「…」

 同い年なはずなのになぜこんなにも違うのだろうか。

「ずっとあんなにしっかりしてるの?」

「うーん昔から勉強はできたけど、しっかりはしてないかも?荒れてた時期もあったし」

 そうだ、彼は今では誰もが認める完璧男子だけど、何も昔からそうではない。色々乗り越えて今があるんだ。隣で見てきたはずなのに、いつの間にか背中ばっかり見るようになってしまったなあ

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