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9 精霊アピール、そして一次審査の結果

 「精霊? 精霊とは、伝承などにあるあの精霊のことか?」


 長老が驚いたような顔で聞いてきた。トゥハンは、もう呆れた顔でずっとこっちを見ている。恥ずかしくなるから、その顔は止めてほしいなあ。


 「そうだと思います。大変強力な力で、戦いにも役立ちますし、それ以外にもいろいろなことが出来ます」


 とにかく、もう精霊の事をちゃんと話すことにしたんだから、こうなったら頑張ってアピールして評価を上げる作戦だ。実際、この世界の標準を知らないけど、さっきの話からしても、フウコの力はかなり強力なはずだ。


 ただ、フウコが渾身のどや顔をしているのがなあ。たちの悪いのが、長老たちにはフウコは見えていないから、フウコにリアクションしちゃうとまた僕が変な人に思われそうなんだよなぁ。なんか、「笑っちゃいけない」的なテレビ番組を思い出してしまった。


 「もしよろしければ、精霊の力を披露する機会をいただけませんか? そうすれば、皆様のお役に立てることがわかっていただけると思います」


 頑張ってアピールだ。こんなに一生懸命アピールするのは就活以来だ。就活も辛かったなあ。でも今は本当に命に関わるアピールだ。とにかく評価を上げるのだ。


 「ふうむ。とりあえず、精霊の事はおいておいて、我らの役に立とうという気持ちを持っているということだな?」


 とりあえず、熱意は伝わったらしい。「熱意は買うが」みたいな展開にはならないだろうな。もう緊張とか不安のせいだろう、心臓がドキドキしている。


 「だが、なぜそのように我らの役に立とうとする? 何が目的かな?」


 なんか、長老が引いてる気がするけど、気のせいだよね。熱意をアピールしすぎたか? トゥハンの方は、あいかわらず呆れた顔を浮かべたままだ。


 「しばらく、この村においていただきたいと思っています。もちろん飲食や宿泊費の分は働きます。魔石でお支払いすることもできます。この世界で生きていく基盤が整うまでだけでもかまいませんので、どうぞよろしくお願いします」


 「長老、やはりこの男は信用できんように思うぞ」


 トゥハンが呆れた顔のまま言った。やばい、流れは良くないか?


 「まあまてトゥハンよ。まだ聞きたいことはある」


 長老はトゥハンにそう言うと、こちらを向いて言葉を続ける。


 「ケースケ殿、そなたはアルイトム国のことを知っておるか?」


 アルイトム国? なんじゃそりゃ? 知らないと答えたが、その後も全く知らない色々な国とか人物の名前を聞かれた。この世界の国名や人名なんか、もちろん知るわけがない。


 「もう一度確認させてもらいたい。ケースケ殿、そなたはいずれかの国や何者かの指示や命令によってこの地を訪れたわけではないのだな?」


 「はい、何度も言っているように、突然、この荒野に来てしまいました。ですので、この世界のどのような国や人物とも無関係ですし、もちろん指示や命令も受けたことはありません」


 なんでこんなにこの世界の国の事とかを聞かれるのだろうと思っていたけど、少しわかってきた。僕は、どこかの国なり勢力なりの工作員か何かではないかと疑われているのだろう。


 これはこれで困った。僕はスパイでも何でもないけど、それはどうやったら証明できるんだ? 精霊の力を見てもらっても、それはスパイじゃない証明にはならないし、いい方法が思いつかないぞ。


 これはやばいと思っていたが、長老が助け船的な発言をしてくれた。


 「まあ、もしケースケ殿が何か目的を持ってこの地を訪れたのなら、もう少しもっともらしい言い訳をしそうではあるがな」


 そうでしょう! もし僕がスパイなら、異世界とか精霊とか言いませんよ! これはもしかして、正直に説明したことが良い方向につながったか?


 「また、ケースケ殿が悪事を企んでいるようにも見えん。だが、他の者たちの意見も聞いてみたいところではある」


 なるほど。ということは?


 「ケースケ殿には一旦下がっていただこう。後ほど、またお呼び立てしたい」


 うーん、微妙だ。一次審査通過といったところか? 「誠に残念ではございますが、今回はご期待に添いかねる結果」みたいな通知が届いたりしないだろうな。そんな馬鹿なことを考えていると、長老がとんでもないことを言い出した。


 「それから、一応確認しておきたいのじゃが、もし、この村から出て行ってもらいたいと言ったらケースケ殿はどうされる?」


 顔がゆがむのを感じた。血の気も引く。もう水も食べ物もあてもなく荒野をさまようのは絶対にごめんだ。


 「な、なんとかこの村に置いていただくことはできないでしょうか」


 「いや、結論はまだわからんが、この村も見ての通り豊かではない。そなたのいうように、優れた精霊の力を借りられるということであれば、この村を出てもやっていけるのではないか?」


 しまった、精霊アピールはやりすぎだったかもしれない。就活のコツをまとめたサイトにも「やりすぎた自己アピールは逆効果の可能性」とか書いてあったのを思い出したが、これは時すでに遅しなのではないか?


 「う、う、あ、ちなみに、この近くに別の村とかはあったりしないでしょうか?」


 この村がだめだから、他の村に行くというのも節操がない気がするが、この際、仕方がない。こちらは命がかかっているんだ。ただ、この周辺に他に人がどうかは、実はフウコに確認済みだ。


 「いや、ここから別の人の住むところまで行くのは、人の足では数か月はかかろう。船を使えば別だが、大海を渡ることが出来る規模の船はこの村にはない」


 うん、フウコから聞いた通りだ。もうこれは、一縷の望みも無くなりかけているのかもしれない。


 「お願いします。この村に置いてください。荒野で生きていく準備が出来るまでだけでもいいのです」


 気付くと、頭を床にこすりつけていた。こうなったら恥も外聞もない。もう、哀れみを乞う以外に方法はない。長老、僕は無害だし、けっこう村のお役に立てるかもしれない逸材ですよー!


 「う、うむ。そうか。まあ儂はそなたの状況に同情はしておる。悪くならんよう他の者に聞いてみるゆえ、そう気を落とさず待っているとよい」


 頭を上げると、長老が気の毒そうに僕を見ていた。トゥハンも、少し同情気味の表情を浮かべているように見える。


 結局、土壇場では自己アピールより泣き落としが有効なのだろうか。なんとかほんの少しの希望を見出したところで、長老との最初の話し合いは幕を閉じたのだった。


 「良いか、くれぐれもヤケをおこすでないぞ。悪いようにはしないゆえな」


 部屋を出ていこうとする僕に、長老が声をかけてくれた。多分、長老にはよっぽどやばい感じに思われたんだろうな。大丈夫ですよ、気をしっかり持って2次審査に備えます。でも、不合格になった時のことも考えておくべきなんだろうか。あ、胃が痛くなってきた。

メリークリスマス!

今日の投稿が全然クリスマスっぽい内容じゃなくて恐縮ですが(汗

ちなみに作者の生活にも、ほとんどクリスマス感は無いです…

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