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8 話し合いのはじまり、そして精霊のおかげなんです

 「では改めて、シバ族の村の長老のスフトルという。それから、こやつはトゥハンだ」


 こやつと言われた若い男がうなずく。ちなみに、このトゥハンという男はけっこう爽やかな美形だ。長老も割と彫りが深い渋めの顔だが、それに柴犬の耳がついていたりするから、僕的にはちょっと面白顔に見えちゃうときがある。


 「僕はケースケといいます。この度は、助けていただきありがとうございました」


 「うむ。それで、ケースケ殿はなぜこの地にいるのだ?」


 早速来たな。この質問が来たらどう答えるか、さっきまで頭を悩ませていたところだ。自分が異世界の人間であることも含め、これまでの事を全て話すか、それともごまかすか。


 正直、異世界のこともフウコのことも知られたら面倒になる気がしないでもない。この村の人たちは問題なかったとしても、国なりなんなりに知られた場合、僕のことを利用しようとするかもしれない。監禁されて実験動物扱いとか、いろいろと怖い想像が頭に浮かぶ。


 でも、ここの村の人たちは、どうも村の外とのつながりは少なそうな気もする。それに、変に嘘をついて信頼関係が壊れるのも怖い。助けてもらった人に嘘をつきたくないという気持ちもある。


 ということで、僕は正直に話すことに決めていた。


 「実は、僕はこことは違う世界で暮らしていたのですが…」


 うん、長老もトゥハンも「はぁ!?」っていう顔をしているな。まあ、無理もない。あと、フウコは頑張れっていう顔をしているけど、ちょっと集中力が削がれるかもです。


 「気付いたら、この荒野にいたんです」


 僕の話の一番の山場が1文で終わった。どうしよう、この話を聞いて「なるほどね」とか思ってくれるんなら、そのまま話し続けるけど…


 「ふざけるのはやめろ! 真面目に話してもらおう!」


 トゥハンが怒ったようにそう言った。まあそうだよね。真面目に質問してそんな回答をされたら、そんな反応にもなるよね。あと、フウコさん、「ふざけてなどいない! 真面目に話しているわ!」とか言っても、向こうには聞こえていないからね。


 「そう思われるのも無理もありませんが、嘘は言っていません。気付いたら、荒野の真ん中にいたのです」


 「そんな話が信じられるか!」


 いやまあね。なんなら僕も、いまだに信じたくない気持ちはあるしね。フウコさん、「信じられる!」って言ってるけど、どういう理由だい? あと、向こうには聞こえてないからね。どうしよう、おとなしくするよう頼んだ方がいいのかな。


 僕がいろいろと困惑していると(困惑の原因はフウコのような気もするけど)、長老も会話に加わってきた。


 「ケースケ殿、正直言って儂にも信じられん。ケースケ殿はどこかこことは違う世界に生まれ育った者だということか?」


 「はい、そうです」


 「それは、神であるとかそういうことか?」


 「いえ、違います。僕は、普通の人間だと思います」


 精霊は見えるけどね。フウコ、「ケースケは普通の人間じゃないよ! 自信を持って!」って応援してくれてるけど、今はそういう話じゃないよ。


 長老がじっと僕の顔を見て言った。


 「にわかには信じられんが。しかし、それ以外の答えを言うつもりは無いようだな。ともあれ、他にも聞きたいことがある。次の質問に移ろう」


 トゥハンが不満そうに長老を見る。しかし、長老はトゥハンを無視して言葉を続けた。


 「ケースケ殿はこの村に着いたときに疲れ切っていたと聞いている。それまで、何があったかを教えてほしい。恐らく、海で遭難したのであろうか?」


 遭難? 近くに海があるのか?


 「いえ、転移した場所は内陸でした。この世界に来てから、まだ海を見てはいません」


 「ふむ。その、転移したという場所の方向と距離は?」


 「南の方です。2日間歩いてここにたどり着きました」


 「南だと!?」


 黙って聞いていたトゥハンが口を挟んだ。


 「南には強大な魔物が多い。とても1人で2日も歩いて来れる場所ではない」


 「強大な魔物とは、砂漠イザドとかでしょうか?」


 「長老、やはりこの男の言っていることはおかしい!」


 トゥハンが長老の方を向いて言った。


 「他の世界から来たと言っていたが、ならばなぜこの世界の魔物の名前を知っているのだ! 荒野の真ん中に何の知識も無く出現して、ここにたどり着けるのもおかしい。それに、強力な魔道具も持ってなさそうだが、どのようにしてあの強い魔物のいる地域で生き延びられたのだ!」


 「それはですね…」


 はあ、緊張する。唾を飲み込む。フウコ、「さあ、言っておやりなさい」みたいな顔をしないで。分かってるから。


 「それは、精霊の力を借りたからです」


 「「はあ!?」」


 やっぱりそういう反応になるよね。トゥハンなんか、さっきまで怒った顔してたのに呆れた顔になっちゃってる。声もちょっと裏返っちゃったし、2重に恥ずかしい。でも、フウコは満足そうな顔だ。


 そう、精霊の事を正直に話すのは、さっき食事の時にフウコから言われたからなのだ。「ぜひ、精霊の力を知らしめたい!」のだそうだ。


 なんか、フウコは人々を観察しているうちに、みんなが精霊の事を全然知らないのを残念に思っていたらしい。そこで、長老との話し合いがあると聞いて、「これは精霊の力を知らしめるチャンスだ!」と思ったらしい。なんか、力が入っていると思ったよ。


 僕としては、精霊の事を話すのはかなり不安だった。何しろ、フウコの話を聞くと、この世界の人たちはあまり精霊の事を知らないみたいだ。


 「昔は精霊を信仰したり契約したりする人間も結構いたんだけどねー」とか言っていたが、今の人たちの多くは精霊のことをおとぎ話の空想の存在だと思っているらしい。


 ただでさえ、異世界人だとかいって、さらに「精霊を見たり話したり出来ます」とか言ったら、もうどう思われるか分からない。今は、どうしてもこの村の人たちの力を借りたい状況だ。だから、精霊の事も正直に話さないことも考えた。


 でも、フウコは僕の事をたくさん助けてくれた。フウコがいなかったら、僕はもうどうにもならず、この世界で孤独に死を迎えていただろう。


 そんなフウコのお願いは、できるだけ聞いてあげたい。


 それに、隠し事をしながらうまいこと交渉するとか、僕は苦手なんだよな。元の世界の上司も、交渉は誠実にやるのが結局一番いいんだと言っていたし、実際、僕もいつもそうやってきたし。


 そういうわけで、ここは一か八か、全て正直に話すことにした。まあ、はっきり言って他にいい方法も思いつかなかったし、ここの人たちはいい人たちな感じがするし、きっと僕の正直な気持ちに心が動いてくれると信じたい。


 というか、もう選択はしてしまったし、祈るような気持ちだ。本当に頼むから、この話し合いがいい方向に転がってくれー!

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