3-33 みんなから一言、そして新しい冒険へ
キッカの言葉を聞いて、リヨーナが言った。
「ちょっと、キッカちゃん。ちゃんと話したでしょう。これ以上、師匠を引き留めないって」
「うん、そうなんだけど… 考え直したりしないかなって」
キッカらしいな。ちゃんと決めたことでも、すぐ気が変わったりする。この自分の感情に素直なところは… まあ、キッカの魅力かな。
「キッカ、引き留めてくれてありがとうね。でも、このあいだ話した通り、僕は“虹色の綿毛”を卒業することにするよ」
そっか、とちょっと寂しそうにキッカが言った。
まあ、僕が“虹色の綿毛”からの脱退を申し出た時は寂しいどころの騒ぎじゃなかった。キッカたちがポンちゃんと契約してしばらくしてから、打ち上げの席で話したんだけど、3人とも泣いちゃって、食堂の周りの人たちからも何を泣かせているんだみたいな目で見られるし、3人をなだめるのも一苦労だった。
「キッカ、こないだも話したでしょう。師匠はこれから難易度の高い依頼を受けていくんだから、私たちでは力不足だって」
そうミアリーが言った。うん、そうだね、とキッカがまたつぶやくように言った。
そう、僕はこれから高難度の依頼を受けていくつもりだ。ゴミ処理や、それ以外にも僕たちの活躍を見て、冒険者ギルドもようやく僕が只者ではないことに気付いたらしい。
そして、先日ギルマスから指名依頼の打診を受けている。僕はその依頼を受けるつもりだ。
だけど3人は、別の道を歩んだ方がいいはずだ。僕と一緒に高難度の依頼を受けて、僕やフウコに守ってもらいながら一緒にいることもできるかもしれない。でも…
リヨーナが自分に言い聞かせるように言った。
「私たちは師匠から1人前って認めてもらったんですから。守ってもらうんじゃなくて、これからは自分たちの力でやっていかないと駄目なんです」
すごいな、リヨーナ。僕の心を読んだようなことを言った。そして、前から思っていたけど、リヨーナは芯はしっかりした子なんだよな。時々、信念みたいなものを感じるときがある。
「キッカ、そんなに悲しそうな顔をしないでよ。キッカたちはこれから冒険者としてガンガン活躍していくんだ。君たちがその気になれば、いろんなすごい事ができるんだ。もうそれだけの力は身に付けたんだからね」
「うん、そうだよね」と、やっぱりちょっと寂しそうにキッカが言った。
そんなキッカの背中を触り、リヨーナが言った。
「キッカちゃん、今日は師匠が私たちを1人前と認めてくれためでたい日なんですから、ちゃんとこれまでのお礼を言いましょう」
「そうだね」とキッカが言った。そして、深く息を吸ってまっすぐ僕の方を見て言った。
「師匠、ありがとうございました。師匠のおかげで、“虹色の綿毛”はちゃんとした冒険者になれました」
「うん、君たちの頑張りはしっかり見せてもらったよ」
実際、3人とも本当に頑張った。僕が思った以上に強くなった。そして、頑張る後輩を近くで見てサポートしてあげるのがこんなに楽しくてやりがいがあることっていうのもキッカたちに教わったことだ。
僕はキッカと笑顔を交わす。そして僕は、次にミアリーの方を見た。
ミアリーは潤んだ眼で言った。
「師匠が助けてくれなかったら私たちはどうなっていたか… そのお礼もまだ何も出来ていないのに。もっと一緒にいられると思っていたから… でも、ご恩は必ず返します」
「いや、お礼なんて考えなくていいよ。先輩ってそういうものだし。それに、僕も“虹色の綿毛”に入れてもらって助かったし」
「でも、いつかお礼をしたいです」
「じゃあ、もし出来たらでいいよ。でも本当にお礼なんてしなくてもいいからね。僕も昔、先輩に色々教えてもらったりしたしね。それは精霊魔法の事じゃないけどね。だから、気にしなくていいからね」
「…はい、わかりました。じゃあお礼は出来たらします」
「うん、それでいいよ。それから、また男爵とかが嫌がらせでもしてきたら、僕に言ってね。なんとかするから」
「はい、ありがとうございます」そう言ってミアリーは笑顔になって、深々とお辞儀した。
でもまあ、その男爵とかが“虹色の綿毛”にちょっかいを掛けてきたから、僕は3人とパーティを組めたんだよな。そういう意味では男爵のおかげでもある。絶対感謝とかしないけど。
次に僕がリヨーナを見ると、「じゃあ、私からも…」とリヨーナが言った。
「師匠のおかげで私も本当の冒険者になれた気がします。師匠に教わったことは私の宝物です。これからも私たちを見守ってください」
「そうか、わかった。じゃあ、これからも見守らせてもらうね」
そう言ったら、3人が嬉しそうにうなずいた。3人とも、本当にかわいい後輩だな、変な意味じゃなくてね。これまでみたいにずっと一緒にいることは出来ないかもしれない。でも、見守ってほしいというなら、できる限りは見守ろう。
「じゃあ、僕からも。僕はフウコと2人でこの国に来て、誰にも相手にされてなかったんだけど、3人のおかげでこの国に居場所ができた。だから、ありがとうって言いたいのは僕の方だよ。君たちと一緒にいるのはとても楽しかった」
本当に、“虹色の綿毛”に入ってからずっと楽しかったよな。この数カ月を思い出しながら、僕は話し続ける。
「さっきも言ったけど、もし君たちが何か助けが必要なら、いつでも僕に言って欲しい。すぐに駆けつけるから。そうじゃなくても、なにかアドバイスが欲しいとか、愚痴を聞いて欲しいとかがあれば、全然するし、そんなんも無くても、ただ打ち上げに来てとかでも行くし…」
「けっこう来てくれるんだね」とキッカが言った。
「そうだよ。僕だって君たちに会えたら嬉しいんだから。だから、会いたいと思ったらいつでも会えばいいんだよ。だから悲しまなくてもいいんだ。キッカ、分かった?」
「うん、まあそうかも」とキッカが笑った。切り替えの早い所もキッカのいい所だな。
「だから、冒険者同士、これからも助け合っていこう。僕が君たちの助けを必要とすることもあるかもしれないし。だから、これからもよろしくね」
「うん、師匠、よろしくね」「はい」「はい、よろしくお願いします」
そういうわけで、3人と僕の卒業式も終了だ。そう思った時、もう一人のパーティメンバーも話し出した。
「じゃあ、フウコからも」
あ、フウコも話すのね。まあそうか。こんなイベントでフウコが話さないことはないか。大丈夫かな、変なことを言い出さないといいけどな。
僕の心配をよそに、フウコは楽しそうに話し始めた。
「フウコも3人と一緒にいれて、とても楽しかったし嬉しかったよ。だからフウコからもプレゼントを上げるね」
フウコはそう言って、大きく息を吸った。え、フウコ、何をする気? 大丈夫なやつだよね、暴走して面倒な事態を引き起こさないよね? そう思っていたらフウコは静かに息を吐きだした。おお、息がキラキラとしているぞ。なんか息の中に小さな星でもあるみたいだ。
フウコが吐き出した息は、3つに分かれて3人が手に持っている銀の腕輪に向かって行った。そして、腕輪に吸い込まれていき、一瞬腕輪がピカって光った。
ん、何がどうなった。キッカたちもキョトンとしている。多分、キッカたちにはフウコの息なんかも見えてなかったんだろうし、状況が何もわかってないんだろうな。まあ僕もほぼ何もわかってないけど。
僕はフウコに「何が起こったの?」という気持ちを込めて視線を送った。フウコは、「よし、いい仕事をしたぜ」みたいな顔をしている。そして言った。
「その腕輪にみんなの魔力を通したら、1回だけ私の魔法が使えるから。どんな感じの風を作りたいかイメージしながら魔力を通すんだからね」
え゛、それけっこう危ないんじゃ… 心配だけど、プレゼントしちゃったもんはしょうがないよな。
フウコの声が聞こえていない3人にフウコの言葉を伝えると、キッカは「え、すごっ」と言い、目を見開いて腕輪を見た。ミアリーとリヨーナもまじまじと腕輪を見つめている。
「どれだけ制御できるか分からないし、本当にいざっていう時まで使わない方がいいかも」と言っておいた。正直、かなり危ないもののような気がする。フウコは、「えー大丈夫だよー。ちゃんと大丈夫なようにしたもん」と言っているけど、これは多分信用したら駄目な奴だ。
そんなわけで、今度こそ本当に3人と僕の卒業式も終了だ。
「じゃあ、街に戻って打ち上げでもしようか。森の精霊さんもポンちゃんもありがとうございました」
「キゥー」「うむ、小娘どもはいつでも来るがよい。ケースケも、またいつでも来ても良いからな」
「はい、近いうちにまた来ると思います」
ということで、僕とフウコは“虹色の綿毛”を抜けた。ひょんなことから始まった僕とキッカ、ミアリー、リヨーナ、そしてフウコの冒険者パーティ生活だったけど、なかなか充実した時間になった気がする。寂しさがあるのは、それだけ仲良くなれたからだと思うし、僕も先輩として少しは成長できたかもな。
そしてこれからも、キッカたちとはなんだかんだ長い付き合いになりそうだ。だから、寂しがることは無いんだろうけど、とりあえず一旦僕たちと“虹色の綿毛”の冒険は完結だ。3人は、もう自分の力で活躍できるし、自分たちで頑張っていくだろう。僕も負けないように頑張らなきゃな。
そんなことを思いながら、僕は3人とフウコと一緒に、街の方に向かって出発した。
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その2日後の朝、僕とフウコはエンガルトの街を出るため、門のところに来ていた。
「さて、じゃあこれから新しい冒険だね! 張り切っていこうか!」
そうフウコが言った。そう、僕たちは“新しい冒険”に出発することになっている。具体的には、依頼で東の方にある山までレアな素材を採取しに行くところだ。
「いやまだ出発するところだから、そんなに張り切らなくても大丈夫だよ」
「なんだよノリが悪いなあ。楽しくいこうよ!」
「まあまあ、山の方に近づいたら気合を入れるからさあ」
実際、フウコのテンションに合わせたらそれだけでバテちゃいそうだしね。
「まあでも、“新しい冒険”っていい言葉だね。僕も“新しい冒険”が楽しみではあるよ」
「ね、そうでしょう! ワクワクしながら楽しく冒険しようよ!」
まあ、そうだな。どうせ色々大変なことが起こるんだろうけど、今からそんなこと言っていても仕方ないもんな。
「よし、分かった。張り切っていこう!」「おー!」
そして僕たちは門をくぐり、街の外に出て行った。フウコも一緒にいてくれるし、きっと楽しい旅路になるだろう。そんな感じで、僕たちの新しい冒険が始まったのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。中途半端ではございますが、この物語はここで最終回とさせていただきます。
まだ当初の構想の半分ぐらいですし、伏線も張りっぱなしで回収せずで、読んでいただいた方には申し訳ありませんが、この作品を書くことで得た学びを生かして、次回作を頑張りたいと思います。
活動報告に後書き的なことを書こうと思いますので、もし気が向いたらそちらも読んでいただければ幸いです。
評価、ブックマーク、リアクションをくださった皆様、なにより少しでも読んでくださった皆様に感謝いたします。もし少しでも面白い作品と思ってくださいましたら、作者冥利につきます。
また別の作品でお会いできれば幸いです。




