3-29 キッカたちの連携攻撃、そして戦いの行方
僕が固唾を飲んで戦いを見守っていると、フウコが「キッカちゃんたち大丈夫だよね?」と言った。僕が返事する前に息子さんが「キウー」と言った。僕には意味が分からないけど、フウコが「うん、そうだよね」と言っているので、前向きなことを言っているのだと思う。
戦いの場では、ビッグバボヌが目を見開いて「ギャー」と叫んで両腕を広げていた。怒っているのか、それとも威嚇のつもりか? だが、キッカたちは恐れていないように見える。キッカが剣を前に突き出して「どうだ、僕たちを舐めるからそうなるんだ!」と叫んだ。
ビッグバボヌはそれを挑発だと思ったのか、「ギャッギャッ」と言いながら怒ったように地面を踏み鳴らした。そして、キッカに向かって右腕を振り上げながら飛び込むようにジャンプした。
キッカはバックステップで距離を取った。そのため、ビッグバボヌの攻撃は空を切った。だが、ビッグバボヌはお構いなしで左腕、右腕と交互に振り下ろしながら前進する。キッカは後ろに下がりながら丸太のようなビッグバボヌの腕を躱していく。その時、いつの間にかキッカの後ろに位置を取ったミアリーが、「キッカ、ジャンプ!」と叫びながら、地面を払うように紐のようなものを投げつけた。
すかさずキッカがやや後ろに大きく飛び上がる。ビッグバボヌは前に出ながらキッカの動きを追うように顔を上げたが、それと同時にジャンプしたキッカの足の下をミアリーの投げた紐がくぐり抜け、ビッグバボヌの足に絡みつく。
あの紐は、この世界の猟師が使うものだそうで、紐の両端にかぎ爪のようなものが付いており、紐にはとげのような突起が沢山ついている。そして、うまく投げると両端が広がり両足に巻き付いたあと、突起同士が絡まり合いほどけなくなる。
その効果はビッグバボヌにも有効だったようだ。ビッグバボヌは足をとられ前に倒れていった。その少し前から、ミアリーのさらに後ろにいたリヨーナが詠唱を始めていたが、ビッグバボヌが足を取られたタイミングで詠唱を完成させた。
「…されば大地よ、そのもっとも深き闇まで悪しき者共を飲み込め!」
リヨーナはその言葉と同時に、苦無のような短剣をビッグバボヌの前の地面に投げつけた。
足を取られたビッグバボヌは前に倒れながら、両腕を大地に叩きつけるようにしていた。恐らく、その反動で起き上がろうとしたのだろうか。しかし、その腕は地面を打たず、バシャンという音を立ててそのまま沈み込む。リヨーナの投げた魔道具の効果で、小さな泥の沼が作り出されたのだ。
小さな沼に倒れ込むビッグバボヌ。そして、キッカがうつぶせに倒れた魔物に攻撃を加える。
「えい!」
キッカは剣を地面に叩きつけるようにビッグバボヌの後頭部を攻撃した。魔物が「ギャー」と言った。これはクリティカルヒットだろう。だが、この魔物はこれでも仕留められないようだ。横に転がるようにして沼を抜けようとする。しかし、さらにそこにミアリーが投網のようなものを投げつけた。
ビッグバボヌは気にせずに横に転がっていく。転がることによってどんどん投網に巻き込まれていく。しかし、ビッグバボヌはお構いなしに網に絡まるようになりながら起き上がってきた。
さすがにしぶといな。だが、ビッグバボヌはふらついている。さっきのキッカの攻撃が効いているようだな。
「チャンスだ!」とキッカが叫んだ。僕の横でも息子さんが「ギィー」と叫んだ。フウコも「行けえー」とハイテンションで叫んでいる。
キッカが「ミアリー!」と叫んだ。「分かってる!」とミアリーが先ほどの紐と同じものを、今度は鞭のように打ち付けた。その紐は、ビッグバボヌの足元に飛んで行く。そしてビッグバボヌの体にまとわりついている網に絡みついた。
「えいぃ!」と言いながらミアリーが紐を引っ張るのとほぼ同時に、キッカが体をぶつけるようにビッグバボヌに剣を振るった。ビッグバボヌは網の中で何とか腕を曲げキッカの剣を受け止める。だが、足をミアリーに手前に引っ張られ、上半身にキッカの体重が乗った剣が叩き込まれ、ビッグバボヌは今度は仰向けに倒れ込む。
倒れたビッグバボヌだが、腹筋運動のような感じですぐに上半身を起こし、網を引き延ばすようにして無理やりキッカに腕を叩きつけようとする。しかし、その腕が振られたときにはキッカはすでにバックステップで下がっており、ビッグバボヌの腕は空を切った。
ビッグバボヌは今度はミアリーを睨み、芋虫のように寝転がったと思ったら網と紐ごと足を大きく横に振った。ミアリーが握っていた紐が引っ張られるが、ミアリーは手を離し、今度は腰に下げたバッグから小さな瓶を取り出し、その中身をビッグバボヌにぶちまけた。
瓶からは透明な液体が飛び出て、ビッグバボヌの上半身に降りかかった。ビッグバボヌは「グヤオン」と叫び声ともくしゃみともつかない声を上げた。
「うわあ、あれすごい臭い奴だ」とフウコがつぶやいた。森の精霊さんが「妾の森で野蛮なことをしよって」と言った。
僕は、「勘弁してやってください。あの子たちも必死なので」とキッカたちを弁護しておいた。森の精霊さんも、そこまで怒ってはいないと思うけど、後でキッカたちに謝らせておこう。
僕たちが話している間にも戦況は変化している。四つん這いのようになったビッグバボヌにキッカが迫った。キッカが剣を振り下ろす。
「はあ!」
それに対してビッグバボヌは横に転がるように体をねじり剣を左腕で受け止めた。だが、キッカもここがチャンスだと思っているのか、再度剣を振り上げる。その時、ミアリーの鋭い声が飛んだ。
「キッカ、下がって!」
キッカはその声が響くとすぐに大きく後ろにジャンプした。その後ろでは、リヨーナが首から下げたアクセサリーのような魔道具を魔物の方に向け、詠唱をしている。
「…そして巨大な怒りよ、地を駆けるイナズマとなりてそなたの敵を貫き、空に出づるイカズチとなりてそなたへの災いを振り払え! はああー!」
リヨーナの魔道具からビッグバボヌに向けて激しい電撃が放出さた。ビッグバボヌは身をよじって避けようとするが、まったく間に合わずその胸のあたりに電撃が直撃した。バリバリバリ…という音がしばらく鳴り響く。その音が治まった時、そこには黒焦げになったビッグバボヌが倒れていた。
「だぉうだあっ!」とキッカが叫んだ。キッカたちはまだ警戒を解いていないようだが、ビッグバボヌはピクリともしない。どうも倒したようだな。
僕は「終わったね」と言って、小走りでキッカたちの方に向かった。僕の前を息子さんとフウコがすごい勢いで進んで行った。
「キュオーン」「すごいよみんな! カッコ良かったよお!」息子さんとフウコがそう言いながらキッカたちの周りを飛び走り回っている。でも残念ながら、君たちの声も姿もキッカたちには分からないんだよ。代わりにキッカたちは、ようやく緊張を解いたように、僕の方を見た。
「やったな! 3人ともすごかったぞ!」と僕は言った。キッカたちは口々に言った。
「ししょお、やったよお」「やりました、私たちやりました!」「はい、ありがとうございます!」
3人とも嬉しそうに目を輝かせている。いやあ、本当に良くやったな。見事な戦いだった。




