3-25 森の精霊さんは優しかった、そして大人の交渉
僕たちが山の調査から帰って来てから数日後、僕たちはまた山の方に来ていた。というか、なんなら帰ってきた次の日には山に行き森の精霊さんに会ってるし、戻って来てギルマスに会って、そしてまた山に来るという感じで、山と冒険者ギルドを行ったり来たりしている。
なぜかというと長くなるが、まず、僕たち“虹色の綿毛”はごみ処理をやることに決めた。僕が“修行”という言葉を口に出したら、3人とも口々に“ぜひやりたい”という感じになったので、そのまま決定した。
3人とも、成長する機会に飢えているんだなあ。まぶしい、そしてなにか懐かしい気持ちだ。僕も会社に入った時にはこんな感じだったのかなあ。今の僕は、成長の機会とかいうだけではここまで熱が入らない。ちゃんと評価につながるんですよねとか、バックアップは大丈夫ですねとか、すぐ考えるようになってしまった。
社会人生活も4年目、自分ではまだまだピチピチの若手だと思っていたけど、気付かない間にずる賢いおっさん会社員に近づいてきていたのかなあ。いや、でもそういうずる賢さも社会を生き抜くうえでは必要な能力のはずだ。だから、僕はキッカたちよりも1歩先に大人の階段を登ったんだと前向きに捉えよう。
それはそれとして、やる気になったんだから次は実現可能かどうか裏取りだ。というわけで、次の日には山にとんぼ返りして、森の精霊さんに面会した。ちなみに、山に入ってフウコに頼んだら、フウコが飛んで行ってすぐに森の精霊さんが出て来てくれた。どうやってコンタクトしているとかはよくわからないんだけど、こういう時に精霊ネットワークは便利で助かる。
そして、森の精霊さんとの交渉だけど、荒野の方に森を広げられますよみたいなアピールをしてみたら、僕の予想以上に刺さったみたいで、簡単にOKが出た。なんでも、「森が広がった所は我が息子に任せることにするぞ。この子も、そろそろ独り立ちの時期じゃ」ということだ。
そして、その後しゃがんで息子さんじゃれ合いながら「なんじゃお前、甘えたことを申すな。いつまでも妾のそばにいられるものでもあるまいに。なに、いつまでも妾のそばにいたい? うーん、愛い奴め。じゃがな、妾もいつまでもお前と共に…」とかって長々といちゃついていたけど、そこは割愛する。まあともかく、過保護というか何というか、よそ様の家庭の事だから口出しはしないけど、ちょっと心配になるレベルだ。状況が分かっていないキッカたちにも、「何ボーとしてるの? ちゃんと交渉しなくていいの?」みたいな目で見られたし、もうちょっと何とかしてくれるといいんだけどな。
だが、予想以上に簡単にOKが出たのはよかった。僕が考えた一番の不確定要素は森の精霊さんの意向だったからな。やっぱり、一見怖く見えても、精霊さんはチョロ、もとい、優しいという法則はここでも有効だった。
そして、それに気を良くした僕は、興奮とか不安とかが入り混じっているようなキッカたちと、なんかわからないけど楽しそうなフウコと共に、今度は街にとんぼ返りし、翌日の朝に早速ギルドマスターに再び面会を申し込んだのだった。
ギルマスに会う目的は2つ。まず1つは僕たちによる魔石ゴミの処理を認めさせること。迷惑なゴミなんだから、僕らで処理するのは歓迎されるだろうとは思うが、一応、所有権とかの問題もある。あれがゴミじゃなくて落とし物だということになっちゃったら、僕らはネコババ犯罪者扱いもされかねない。そうならないように事前に根回ししておきたい。
そして、その要望は簡単に認められた。僕たちが魔石のゴミ処理をやりたいと申し出たら、ギルマスはもうニコニコで「いやあ悪いなあ。お前たちには見所があると思っていたんだよ」とご機嫌な返事をしたので、すかさず「ネコババ扱いは困りますよ」と言ったら「あたりまえだろうが。冒険者ギルドが全面的に責任を持つ」と言ってくれた。やっぱり、この問題にはギルマスも相当頭を悩ませていたんだろうな。
そんなわけで言質は取った。この勢いで次ももらうぞ、ということで、2つ目の目的は、はっきり言っちゃえばお金だ。
まあ、この案件はお金目的ではない。とはいえ、貰えるものは貰わないとね。そういうわけで、ギルドマスターと頑張って交渉した。ギルマスは渋っていたが、僕たちには魔石ゴミの処理をやるのは今のところ僕たちしかいないという強みがある。成功報酬として冒険者ギルドからいくばくかのお金が出るというのと、もし責任の所在が明らかになって賠償金などが支払われる場合、その一部が僕たちに来るよう冒険者ギルドが働きかけるということで合意した。
ふう、久しぶりに大人の交渉をしちゃったな。まあ、まずまずの成果といえるんじゃないかな。ミアリーも、帰りがけに「師匠って、交渉事とか頑張るタイプだったんですね」って言っていたし、彼女らの評価も上がったことだろう。なにしろ、僕も社会人経験3年以上はあるのでね、これぐらいはお手の物なのさ。
というわけで、街と山を何度も行き来し、関係各所への調整をすませ、僕たちはようやく廃棄された大量の使用済み魔石の前に立った。
「し、師匠。本当に呼吸をしても大丈夫なんですね?」
「うん、さっきも言ったけど、フウコの魔法で毒を吸わないようにしてあるから」
というか、使用済みの魔石が毒を出すっていうのもびっくりなんだけどね。なんでも、魔石が壊れてから10日ほどしたら、魔石が“腐って”毒を出すようになるらしい。
そういえば、シバ族の村でも魔石の捨て方は決まっていた気がするし、冒険者ギルドの初心者講習でも魔石の捨て方は丁寧に説明があった。僕は、異世界でもリサイクルがしっかりしているんだなあとか呑気に考えていたけど、毒を出すんならそれは慎重になるよね。
そして、大量の魔石の処理に莫大な費用が掛かる理由の1つがこの毒のようだ。なにしろ、普通は近づくのにも高価な魔道具を装着する必要があるらしい。多分、ガスマスクみたいなものかな。
だけど、僕たちの場合、フウコの魔法で対応できてしまう。というか、この仕事はフウコありきだったんだよな… 最初に考えた時は気付いてなかった。あとでフウコにお礼を言っておこう。
さて、それじゃあ始めるかな。まずは僕が見本を見せるとしよう。




