3-22 ポマズ山の森の精霊さんと息子さん、そしてお茶目な精霊ジョーク
そして、僕は大きな精霊さんが消えた木々の方の見つめながら、彼女が来るのを待った。すると、しばらくして精霊さんが木々をすり抜けるようにして現れた。うお、小さくなったとはいえ、けっこうデカいな。2メートルぐらいはありそうだ。
「改めて、風の精霊よ。そして、珍しいことに精霊と強い契約を結んでいる人間よ。妾はこの森を縄張りとする木の精霊じゃ。ポマズ山の森の精霊などと呼ばれておる」
「さっきも言ったけど私はフウコだよー。ポマズ山の森の精霊ちゃんにはだいぶ前に会ったよねえー」
「うむ、お主とはなんとなく見覚えはあるな。何度かこの辺りを通り抜けたことがあろう」
「うん、そうだねー。だいぶ前だけどねえ」
「フウコとは、珍しい呼び名じゃのう。由来はなんじゃ」
「んー? ケースケが付けてくれたあだ名!」
「ほお、最近の呼び名はそんな感じか。ずいぶんいい加減じゃのう」
「そうかなあ、いいと思うけどなあ」
出た。精霊さんの由来トーク。僕ももうちょっと、フウコの名前を考えるときに由来とか考えた方がよかったのかなあ。そして、このトーク、割って入ったら失礼だよなあ。終わるまで待った方がいいよなあ。そう思ってたら、突然、森の精霊さんがこちらを向いた。
「それでは、そちらの人間にも名乗りを許そう」
うわ、急に来た。僕は慌てて話し出す。
「ばい、ゴホン、はい、えー、私はケースケと言います。冒険者をやっており、この度は調査のために森に来ました。偉大なポマズ山の森の精霊さまにお会いできて光栄です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
急に話したから、変な声が出ちゃった。一応、社会人スキルを生かして丁寧に話したつもりだけど、どうだろうな。
「うむ、よろしゅうにな。それから、そなたの敬意は十分に伝わったゆえ、普通に話すことを許そう。その話し方はまどろっこしくてかなわん」
あ、好評かと思ったけど、そうでも無かったみたいだ。精霊さんとの話し方も、なんか癖があるんだよな。
でも、普通に話すとはいえ、一応敬語の方がいいよな。丁寧すぎないような敬語のラインでいこう。
「はい、ありがとうございます。それで、今日は…」
と、話しかけた時に、森の精霊さんの後ろの方から何かの鳴き声が聞こえた。そしたら、森の精霊さん振り向いてしゃがみ、その何かを抱きしめるようにして話した。
「おうおう、お前を忘れてはおらぬよ。拗ねるな、拗ねるな」
そして、森の精霊さんがこちらを向いて言った。
「こいつはな、妾の息子じゃ」
息子さん? 森の精霊さんが抱いている何かを見ると、そこには丸っこい動物がいた。犬? いや、タヌキか?
「えー、すごーい! 森の精霊ちゃんは息子ちゃんがいるんだあ!」とフウコが興奮したように言った。
え、ということは精霊だよな。色々びっくりだ。精霊は子供ができるのか。ということはフウコもいずれは子供を産むってことだよな。実はもう子持ちってことは無いよな… それから、動物型の精霊っているんだ。なんか、初めて見たかもしれない。
「うむ、親離れができぬ子での。こうして妾といつも一緒にいたがる。まあ妾もこの子がかわいくてたまらぬゆえ、相思相愛ではあるな。ちょっと気が弱いところがあっての、まあ優しさの裏返しなどとも思ってはおるのだが…」
あ、お母様の長いお話しが始まっちゃった。これは絶対、遮ったらダメな奴だ。でも、貴重な精霊のお話しとは言え、知らない子の話は聞いてはいられないかも。フウコが何とかしてくれないかな。あ、だめだ、すごい真剣な顔で話に聞き入っている。めちゃくちゃ興味がある話題だったみたいだ。
困ったな。対応策が思いつかない。ふと、後ろから視線を感じたので振り返ると、テントからミアリーだけじゃなくてキッカとリヨーナも顔を覗かせている。キッカとリヨーナも起きてきたんだな。
なんか、3人が心配そうに見ているのがいたたまれない。精霊が見えない3人にしてみれば、僕が棒立ちしているだけに見えているだろうしな。事情を説明したいけど、森の精霊さんが話しているのに別の人に話しかけるのも失礼な感じだし、対処の仕方が思いつかない。
タヌキを撫でてやりながらフウコに向かって話し続ける森の精霊さん。撫でられて気持ちよさそうにしているタヌキ型の精霊さん。森の精霊さんの話に真剣に聞き入るフウコ。そして、それを眺めている僕。これ、僕はいらないよな。このまま立ち去っても気づかれないんじゃないかな。そんなことを考えていた時、森の精霊さんがいきなりこっちを向いた。
「それで、人間よ。そなたは妾に会いに来たのであろう。願いなどがあれば言うがよい」
え、願い? 何のことだ? 突然話しかけられてびっくりして、何も思いつかない。精霊さんたちって、なんか自分たちで盛り上がっていると思ったら、突然こっちに話しかけてくるよな。
そんな感じで一瞬黙っちゃったら、フウコが僕の代わりに森の精霊さんに答えた。
「えー、ケースケたちは森の調査に来ただけだよお。願いとかあるの?」
そういって、フウコは僕の顔を見た。え、願いとかじゃないことを言った後で僕に振るの?
「え、あ、あの、森には調査のために来た感じです」
「な゛にいぃー。願いでもあるのかと妾がわざわざ足を運んでやったのに、別に妾に用などないと申すかあ!」
え、ちょっと体が大きくなった!?
「貴様ぁ! 妾に恥をかかせよってえ!」
え、え、え、いや、そんなつもりは毛頭無いんです! え、そんなに睨みつけて、何するの、やめて!
「…などと申すわけがなかろう、そう怖がるな」
「て、ちょっと!」
「お茶目な精霊ジョークではないか。寛容な精霊がその程度のことで機嫌を悪くしたりせぬ。落ち着くがよい」
おい! ふざけんな! すごい怖かったんだけど。フウコ、「ケースケ涙目じゃーん」とか言ってめちゃくちゃ笑ってるんだけど、ちょっと勘弁してくれ。あ、タヌキ精霊も笑ってるし、てめえふざけんなよ。
「お主も精霊と契約している割には、まだまだ精霊のことを分かっておらぬな。精霊なんぞ、たいがいいたずら好きで気まぐれでふざけるのが好きなものじゃぞ」
ぐうの音も出ない。だけど、初対面でそこまで見抜くのは難しいと思うけどなあ。




