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3-18 師匠ではないけど、そして僕たちの快進撃

 うん、そうだな。やっぱりどう考えても、僕は師匠じゃないよなあ。


 だけど…、そうか、この子たちは教育係がいない新入社員みたいなものだったのかな。


 何が正しいやり方で何が間違った方法なのかも分からないまま、勢いだけでやっていたのに、なぜか成果だけは出ていた。そして突然壁に当たって、どうすればいいか分からなくなっていたんだな。


 その時に僕が現れて、問題点を指摘したり改善方法を考えたりしたわけだ。僕からしたら当たり前のことを言っていただけなんだけど、この子たちにしてみたら、初めて考えさせられることばかりで目から鱗という感じだったのかもな。


 そっか、僕も新入社員の時に、教育係になってくれた先輩に色々教えてもらえなければ、何もできなかったかもしれないもんな。この子たちに必要なのは、きっと、師匠みたいな偉大な存在じゃなくて、あの時の先輩みたいな自分たちよりちょっとだけ先に進んでいてちょっとしたアドバイスとかをくれる人なのかもな。


 もしそうなら… うん、他にいないのなら、それぐらいの事だったら僕にだってできるかもな。しばらくそばで見守って、成長できているならそこを褒めて、あんまりひどい間違いをしそうになったら手助けをする。あの時の先輩が僕にやってくれていたことを僕がやればいいんだ。


 「そうか、わかった。そこまで言うのなら、しばらくは僕が君たちの事を見守らせてもらうことにするよ。そして、君たちの活躍を見て、何か思ったことがあれば君たちに伝える。それでいい?」


 「はい、よろしくお願いします!」


 3人がそう言って頭を下げて、こちらを笑顔で見る。3人とも、いい顔をしているな。


 「だけど、さすがに師匠になるのは無理だからね」


 「「ええー?」」と3人の声がそろった。いや、フウコも声を出してた気がするし、4人の声がそろったかな。


 「やっぱり、僕にはそこまで大したことは教えられないしね。僕になれるのは、せいぜい先輩ぐらいかな」


 まあ、実は3人の方が冒険者の先輩なんだけどね。でもまあ、人生の先輩ということで。


 「でも、師匠じゃなくても頼りにはしてくれていいよ。できるだけの事はしてあげるから」


 「うーん、まあじゃあいいか。師匠、先輩としてこれからよろしくね!」


 「いや、だから師匠じゃないって」


 「呼び名ぐらいいいじゃないですか。なんか、先輩ってだけだと頼りないし」


 え、そうかなあ。僕の先輩はすごく頼りになったけどなあ。経験の差かなあ。


 そんなわけで、僕はキッカ、ミアリー、リヨーナの先輩になった。これまでと何が違うのかはよくわからないけど、まあ、頼りにされているのは素直に嬉しくはある。


 考えてみると、社会人になった後でいうと、初めてできる後輩だな。うん、信頼を裏切らないように頑張ろう。とりあえず、一番心配なのは無意識のセクハラかな。あとは…、パワハラみたいな言動も駄目だし、ちゃんと見ていていい所があれば褒めなきゃだし、気を付けることはたくさんあるな。まあ、頼りない先輩だと見放されないように、頑張ることにしようかな。


--------------------


 僕がキッカたちの先輩(師匠ではない)になってから数日。僕たち“虹色の綿毛”は、順調に依頼をこなしている。もちろん、すべての依頼に成功したし、キッカたちの借金返済も順調だ。


 依頼は、まあ余裕だったな。面倒なところはほぼフウコにまかせっきりで成功した感じだ。フウコも「私もキッカたちの先輩みたいなもんだからね!」とか言って張り切っているけど、“先輩みたいなもん”なのか? まあ、フウコが満足そうだからいいけど。


 借金も、僕が口うるさく言ったため、色々なところの借金をまとめて冒険者ギルドが貸主になるような形に統一した。キッカは「ええー、冒険者ギルドは利子がちょっと高いのにぃ」とか言っていたけど、こういうのは信頼できるところから借りるに限る。そうしないから、ベーラゼ男爵だかなんだか悪徳貴族にスキを見せることになるんだ。借金の恐ろしさを舐めるなよ。


 そんなわけで、借金の恐ろしさを熱弁して、ミアリーとリヨーナも仲間にして、なんとかキッカを説得した。ミアリーとリヨーナは僕の言うことをよく理解してくれたと思う。というか、奴隷落ちすれすれまで行って、まだ借金を舐めているキッカがおかしいのかもしれない。一応、フウコもよく理解してくれたのか、「人間の世界には、そんな恐ろしいものがっ」って絶句していた。だから、フウコも将来借金で苦しむことはないだろう。


 まあ、冒険者ギルドに金を貸してもらうのも大変ではあった。一応、制度としてはあったんだけど、保証人がどうこうとかいろいろ言われた。まあ、僕の魔石のストックとか貯金とかを見せて何とか保証人として納得してもらった。


 そんなわけで、依頼も成功続きだし、借金も目途がついてこのままのペースならちゃんと返せそうだし、“虹色の綿毛”は順調そのもののはずなんだけど、今僕の目の前にいるキッカは少し浮かない顔をしている。


 ちなみに、今は依頼の成功を祝って打ち上げの場。なんか、打ち上げが好きって話をしたせいだと思うけど、みんな気を使ってくれているのか、依頼が終わるたびに打ち上げをやってくれるんだよな。「打ち上げが好きなのはそうなんだけど、毎回じゃなくてもいいんだよ」とは言ったんだけど、キッカには「いいからいいから」とかおっさんみたいなことを言われたし、ミアリーには「大丈夫ですよ。私たちも楽しんでいますから」と言われたし、リヨーナはニコニコしているし、そんなわけで僕も結局うきうき打ち上げに参加している。


 そんな依頼成功を祝った打ち上げの席なのに、なぜか浮かない顔の獣人美少女が1人。もちろんキッカだ。どうしたのかなと思っていたら、キッカが僕に言った。


 「ねえ師匠、僕たち全然成長してないよねえ」


 「ちょっとキッカ。まだ師匠とパーティを組んだばかりでしょうが。そんなにすぐ成長できるわけないじゃない」


 「そーなんだけどぉ」


 うーん、まあ言いたいことも分かる。なにしろ、依頼はほとんどフウコがやっちゃってるに近い状況だ。僕たちがやっているのは、フウコの指示のもと移動して、フウコが魔物に対処し、僕たちは魔石を取ったり薬草を採取したりするだけだ。なんなら、素材採取がセットになったピクニックぐらいな感じだ。


 まあ、フウコが優秀すぎるんだよなあ。冒険者になって初めて気づいたんだけど、風の精霊と冒険者の相性がえぐい。戦闘力はもともと分かっていたし、索敵能力が高いのも知っていたけど、素材の探索、歩きやすい道を探すこと、森の中での方向感覚などなど、冒険者に必要なことはだいたいフウコができちゃうんじゃないかと思う。


 僕は楽でいいんだけど、結果として、キッカたちはほぼ何もやっていないことになる。


 このあたりが新人教育の難しい所だよなあ。あんまり大変な仕事を与えるとつぶれちゃうかもだけど、やりがいの無い仕事ばかりでも嫌になったりする。ここは先輩として僕がしっかりしなくては。

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