表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6 初めての人里、そして全力の物乞い

 「フウコ、あれが人がいるところだよね!」


 「そうだよー、確実にあそこに人がいるよー」


 まだかなり遠くだが、小さな小屋がいくつか並んでいるところが見える。


 そう、僕たちはようやく人里が見えるところまでたどり着いていた。ただ、最初は何日間も歩き続けるかもと思っていたのが、この世界に来た次の日の夕方にはここまで来れたのは本当に大きい。


 理由はいろいろあるけど、一番はフウコがいい加減、もとい、フウコの見通しがちょっと不正確だったこと。もともと、何日もかかるかもと言ってたが、歩き始めてみたらフウコが思っていたより速かったらしい。やっぱりフウコは人間の事はあんまりわかってないんだな。


 それから、魔物をほとんどフウコに任せることにしたことも早く移動できた理由だろう。あと、フウコは涼しい風を吹かせてくれたりとか、僕が気付かないうちにサポートをしてくれていたらしい。


 根は優しくていい子なんだなあと思って、大げさにお礼をいったらすごくうれしそうにしていた。何気に、フウコがうれしそうにしたり楽しそうにしたりで気がまぎれることも頑張れた理由かもしれないと思っている。なんか恥ずかしいから言わないけど。


 ただ、フウコでも探知できない魔物もいて、あれはやばかった。足元からのでかいミミズみたいな魔物の襲撃。フウコが素早く助けに来てくれたから助かったけど、あれはいま思い返しても背筋が冷たくなる。


 ちなみに、戦闘後に聞いたんだけど、地面の下とか風が届かないところのことはフウコにも分からないとのことだった。それからは、とにかく下を見て歩くように気を付けたんだけど、そのせいか首のあたりも妙に痛くなっている。


 その後、初日の夕方ぐらいに、フウコが「もしかしたら頑張れば明日に人のいるところまで行けるかもしれないかもよー」と教えてくれたので、そこからは無理してでも移動することに決めた。といっても夜の移動は怖いので、完全に日が暮れてから明るくなるまでは岩陰で横になって休んだ。


 ここもかなり辛かったな。まず、いつ魔物が襲ってくるかと考えるだけで怖いし、おなかも減ってるし、泣きそうになった。そのくせめちゃくちゃ疲れているから、気付いたら意識はなくなっているし、でも、夜中に魔物が近づいてきたとかで、2回フウコに起こされて魔物を倒した。


 まあ、魔物を倒したといっても、フウコにお任せなんだけど。だから、起こさないで欲しかったんだけど、魔物を倒すためには僕の魔力が必要で、それはフウコが勝手に使うことができないらしい。つまり、僕の魔力が吸い出されるのを僕が意識的に許可しないことには、フウコは強力な魔法が使えないということみたいだ。


 そして、日の出前から頑張って歩き続けて、人里近くまでたどり着いたというわけだ。砂丘みたいなところもあったし、岩場もあった。上り下りも結構あった。転移する日、歩きやすいスニーカーを履いていて本当に良かった。


 もちろん、手持ちのお菓子ももう食べ終わったし、お茶も昼過ぎに全部飲み干した。小腹がすいた時のために、カ〇リー〇イトを買っておいて良かった。想定していたのは、こんなに危機的な状況のためじゃなかったんだけど。


 それから、途中で一度、雨が降ったのもよかった。あれもフウコが助けてくれたんだよな。突然、僕から魔力を貰ってどこかに飛んで行ったら、しばらくしてスコールみたいな大雨が降ってきて、多少は水を飲むことができたんだよな。


 戻ってきたフウコに聞いたら、近くに力の強い水の精霊がいたらしくて、お願いしたら雨を降らせてくれたらしい。いつでも雨を降らせられたら便利だと思ったけど、そういうわけにもいかないらしい。


 あと、「もしあの水の精霊に会うことがったら、ちゃんとお礼をするんだよ!」と言われた。大げさじゃなく命の恩人、いや命の恩精霊なんだから、お礼するのはやぶさかではないけど、会った時にわかるんだろうか? まあ、「私はあの時の水の精霊です」みたいなことを言う精霊と出会ったら、ちゃんとお礼を言わせてもらおう。


 そういうわけで、なんとか魔物の血を飲むことなく、人の住まう地まで到達することができたわけだ。


 もう疲れ切っているし、足が棒どころか体中が棒みたいだし、空腹感も半端ないし、もうこのまま倒れこみたいぐらいぐらいだけど、もう一度気合を入れなおそう。なにしろ、受け入れられる保証はなにもない。集落の感じを見るに明らかに貧しそうだし、僕を助ける余裕もないかもしれない。


 でも、あの集落の人たちに受け入れてもらう以外には、恐らく僕に生きていく方法はない。善人か悪人かもわからないが、それを探る余裕もない。一応、道中でフウコが魔物を倒してくれたおかげで、魔石はけっこう持っている。確か、魔石は売れるはずだし、食料との交換材料になるはずだ。


 鬼が出るか蛇が出るか、いやこの言い方はまだあったことのない人たちに失礼だな。ともかく、出たとこ勝負でいくしか道はない。ここまで来たんだ、頑張って何が何でも生き延びよう!


 「フウコ、友好的に話したいから、いきなり攻撃したりしないでね」


 「そんなの当たり前でしょ! 私をなんだと思っているのよー」


 いや、この短い間でも、けっこう暴走しがちだった気がしたもので。念のためだよ。でも、ちゃんと僕の意図を伝えておくのって大事だと思うんだよね。


--------------------


 集落に近づいていくと、粗末な柵で集落が囲われているのが分かった。そして、その入り口にあたるのだろう柵が欠けているところに、腰に剣をさげた男が座っている。


 男がこっちに顔を向けて立ち上がった。こっちに気付いているよな。僕は、敵意がないことを示すため、ゆっくりと歩いて近づく。両手を上げて武器を持っていないことを示したりした方がいいのかな? でも、それも不自然だし、とりあえず微笑んで会釈し、ゆっくり近づいていく。


 「ケースケ、お待ちかねの人だよ? なんで喜ばないの?」


 フウコ、まだこの人が敵か味方か分からないんだよ。さっきフウコに聞いてみても、集落の人がどんな人たちは分からなかった。「人がいることぐらいは分かるけど、その人が何者かとか知らないよー。フウコは精霊だよー」ということらしい。


 でも、フウコはこの男からは見えないんだよな。フウコに返事をして、この男から変な風に思われないかも心配だ。フウコには悪いけど、返事はせずにただフウコを見てうなずいておく。


 悪い想像も浮かんでる。例えば、盗賊とかだったりするかもしれない。その場合は、良くても奴隷とかだよな。最悪、殺されることもあり得る。でも、ともかく、飲み物、食べ物、寝床。これを確保できなければ生き伸びることなどできない。


 はあ、息がつまる。人に話しかけるのにこんなに緊張するのは初めてかもしれない。


 それに、男の頭の上に…いや、それはとりあえず考えないようにしよう。それの事を考えると、集中力が削がれる。


 とにかく、微笑みを浮かべることを意識して、ゆっくりと進んで行く。すると、5メートルぐらいの距離まで近づいたところで男から誰何された。


 「何者だ? どうしてここにいる?」


 ここだ、なんとか友好的に、哀れっぽく訴えかけるように返事する。


 「こんにちは。僕はケースケと言います。気が付いたらこの荒野にいました。飲み物も食料も無くて困っています。魔石を差し上げますので、水と食べ物を恵んでいただけませんか?」


 「ちょっと待て、長老を呼ぶ」


 そして男は集落の方を振り向いて、「誰か、長老を呼んできてくれ。それから飲み水を持ってきてくれ」と叫んだ。


 水を恵んでくれるのか? どうも悪い人ではなさそうだ。そう思ったら、体中から力が抜けた。


 「お、おい、大丈夫か?」


 僕が座り込んだのを見て、男が走り寄ってくる。ああ、優しい人みたいだ。やばい、涙が出そうだ。もう、この人たちに任せよう。色々心配なこともあるんだけど、ちょっとだけ休むことにしよう。


 「ケースケ、よがったねぇ」 うん、フウコが泣きそうになっている。感動の最終回みたいな感想だけど、問題は山積みなんだよ。ちょっとお休みできると思ってほっとしているだけだから。明日にはまた頑張んなきゃいけないだろうから、感動しすぎるのは止めてほしいかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ