3-14 フウコ大活躍! そしてとても危険なタスク
僕たちとビッグバボヌたちの距離は30メートルくらいかな。僕たちの方が小高いところにいることもあるのか、まだ向こうには気付かれていないっぽい。
さてどうするかな、と考えていたら、後ろから僕の服のすそが引っ張られた。振り返ると、ミアリーが死にそうな顔をしていた。
「し、師匠… 本当に大丈夫なの?」
ミアリーはビッグバボヌ1頭に殺されかけたんだ。6頭もいれば怖くもなるよね。ここは大人として、安心させるような言動を…
「大丈夫だって! フウコさんに任せておきな!」
あ、フウコが飛んで行っちゃった。まだ僕がミアリーたちを安心させていないのに。
そしてフウコはビッグボバヌの真ん中に飛び込むと、両腕を大きく広げてコマみたいにぐるぐる回った。
「えーい!」
バシュバシュッという音がして、全てのビッグバボヌの首が斬り落とされていく。そして、フウコはビッグボバヌの首から下が倒れていくのを見もせずに、笑顔でこちらに飛んできた。
「終わったよー! どう、フウコの活躍は見てくれたあ?」
そう言われて、ミアリーたちの方を見てみる。ミアリーは…、血の気の引いた驚いた顔のまま固まってしまっているな。リヨーナも、「ええー」みたいな表情で倒れたビッグバボヌの方を見ている。その横で、キッカが「すごっ」と言っていた。
うーん、どうだろうな。フウコの活躍はみんな見ていたと思うけど、どちらかというとフウコの望んだ感想は貰えないかもね。感動するとかより、引いちゃってるかもしれないな。
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ということで、フウコの大活躍のせいで、キッカたちはかえって怖がらせちゃったかもしれないが、まあ成果は上々なので許してもらいたいところだ。ちなみに、ビッグバボヌの魔石はけっこういい値段で売れるらしく、大成果だってキッカが興奮した顔で言っていた。
そして、そのままフウコに案内されて山中を進む。一応、レモケビ草の群生地という情報があった場所にはいってみたけど、やっぱりそれらしい草は生えていなかった。
そして、僕たちは崖の下に案内されてきた。
「うーんとねえ、この上に生えているのが、レモケビ草ってやつだと思うよ」
僕はそれをキッカたちに伝えた。だけど、キッカたちは難しい顔をして崖を見上げている。
「師匠、私たちこれを登るのきついかも…」
うーん、そうだよな。僕も魔法無しじゃとても登れない。ほぼ垂直に切り立っていて、足を置くような突起もほとんどなさそうだ。
「フウコ、回り道できる所とか無い?」
「ええー? えっとおー、回り道はけっこう大変だったりしたりするかもしれないかもしれないねえ」
ん? なんだその変な話し方は? なんか変なことを考えてるんじゃないか?
「でもおー、ケースケがみんなを抱えて飛んじゃえば、このぐらいの崖は簡単に登れるよねえー」
フウコがそう言って、僕にウインクをした。あ、フウコ、またよく分からない気の回し方をしようとしているな。だから、そういうのは良くないからね。
うわ、どうしよう。僕は一瞬固まったけど、キッカたちが真剣な目でこちらを見ている。キッカたちにはフウコの声は聞こえていないんだから、僕が何か言わなきゃな。
「ええっと、フウコが言うにはだけど、この崖を登らなきゃいけないんだって。僕とフウコだけで登って薬草を取ってきちゃうことはできるけど。それか、一応、僕がみんなを抱えて上まで飛んで行くこともできるけど…」
「え、そんなことできるの!?」とキッカが目を輝かせて言った。
いや、でも若い女性を抱えるって、それだけでセクハラになりそうだ。いや、これは冒険者の仕事の一環だ。だけど、変な感情を持っちゃうと、なんか嫌らしい感じになりそうだよな…
これは冒険者の仕事、だけどセクハラにならないように努めて紳士的な行動を心がけなくては。紳士的、紳士的と頭の中で唱えながら、僕はできるだけ感情を乗せずに言った。
「うん、まあ、安全だし確実だとは思うよ」
「じゃあ、お願い!」
キッカは僕に抱えられるのに抵抗はないみたいだ。いや、キッカは体は大人だけど気持ちはまだ子供っぽいところがあるし、飛ぶって言うことに純粋に興味があるって言うことで、僕に心を許したとかじゃないから油断するな。そう自分に言い聞かせながら、他の2人に聞く。
「ミアリーとリヨーナはどうする? ここで待っていてもいいけど」
ミアリーとリヨーナは、「え、どうしよう」みたいな顔をしたけど、まずミアリーが言った。
「こんな危険な場所でパーティを2つに分けたくはないです。私たちも連れて行ってください」
「一応、ここにいても僕とフウコで守れるとは思うよ」
「いや、でも、やっぱり同じ場所にいた方がいいと思います。あ、師匠の負担が大きいとかだったら、何とか我慢して下で待ちますけど、できれば連れて行ってもらいたいです」
ミアリーまで師匠って言い出したな。ただのあだ名ならいいんだけど、一応、あとで師匠ではないって釘を刺しておこう。僕に教えられることなんてないし、責任も取れないし、師匠なんてとても務まらないからね。
「いや、負担とかは無いよ。リヨーナはどうする?」
「はい、私も上に連れて行ってください」
リヨーナはいつもの笑顔で言った。僕に抱き抱えられるのは気にならないのかな。それとも、笑顔で嫌な気持ちをごまかしている可能性もゼロではないし、こちらも油断をしてはならない。
まあともかく、そんなわけで全員の合意が取れたので、僕たちの崖のぼりが始まることになった。フウコがサムズアップしているのに激しく突っ込みたいんだけど、それでキッカたちに違和感を持たれるのは嫌だし、無視を決め込もう。
でも実際、僕はけっこうピンチなのかもしれない。これで変な感じになっちゃったら、僕はセクハラ野郎扱いされてパーティは崩壊にまでいたるかもしれない。そして、ミアリーあたりに裏でボロクソに言われることになっちゃうかもしれない。そんなことになったら、僕は再起不能になるかもしれない。
大切なのは紳士的であることだ。そして、これは変なことじゃないんだよという雰囲気で冷静に物事に取り組むんだ。
「じゃあ、まずはキッカだね。一応、僕の首を抱えるようにして」
そう言いながら、僕はキッカの腰に左腕を回す。紳士的、紳士的…
「なんか照れるにゃん」ってキッカが言ったけど、ほんとに止めて! このシチュエーションとその言葉遣いは破壊力がすごいから! 僕は平然とした風を装いながらできるだけ落ち着いた声で「確かにね」って言って冷静さを示し、キッカの膝のあたりに右腕を回して、いわゆるお姫様抱っこの形でキッカを持ち上げた。
考えてみると、お姫様抱っこって初めてやるな… いや、考えるなケースケ。これは荷物を持ち上げるのと同じだ。お前が持っているのは美少女獣人とかじゃなくて、壊れやすくて大切に扱わなくちゃいけない人形みたいなものだとおもい込め。
紳士的、紳士的と頭の中で唱えながら、僕は「じゃあ、飛ぶからね」とお人形さん(仮)に声を掛けて魔力を使い、できるだけゆっくりと空中に浮かんだ。
空中に浮かんだら、お人形さん(仮)が、「すげええー、浮かんでるー!」と叫んだので、思わず顔の方を見たら、お人形さん(仮)は興奮したように僕の方に顔を向けて、「師匠、これすごいよ!」と言った。
うわ、目がちょっと潤んでいるみたいで可愛い… じゃない、可愛いお人形さん(仮)だな。実はゆっくりと飛ぶのはけっこう難しくて集中力を使う。だから飛ぶことに意識を向けたいんだけど、お人形さん(仮)を優しく大切に運んで飛ぶのがこんなに難しいとは。僕はできるだけ表情を変えずにキッカに頷いて、無理やりキッカの顔から目をそらし崖の上の方を見る。
はあ、やばい。あともうちょっとで上に着くけど、心臓の鼓動がすごい激しくなってきている。これ、キッカに気付かれちゃってないよな。はあ、なんか、僕の首筋に回された腕の感触も気になるし、なんかいい匂いがするし、お人形さん(仮)の体の柔らかさも気になるし、顔も近くて僕がちょっと顔を寄せたら、どうにかなってしまいそうな…
駄目だ、ケースケ、落ち着け! お前は今、危機に瀕しているという自覚を持て! 冷静、冷静、紳士的、紳士的。そう頭の中で唱えながら、僕はゆっくりと崖の上に飛んで行った。そして、崖の上の平らになっているところにゆっくりとキッカをおろす。
キッカは、ぴょんと飛び降りるように降りて、言った。
「はあー、面白かった!」
よし、キモがられたりしていないな。はあ、ほっとした。これはかなりきついタスクだ。これがあと2人分あるんだよな… いや違う、崖から降りるときもあるから、あと5回これをやらなきゃだめだ。
うわあ、これは大変だ。僕は今日、この依頼から無事生還できるだろうか? もしかしたら、無理かもしれないな…




