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5 お互い謝罪、そして決死のチャレンジ

 しばらくして、ようやく体に力が入るようになったので立ち上がって横にいるフウコを見る。


 フウコもやらかしたことに気付いたみたいで、シュンとしている。


 「いやーごめんね。まさかそんなに怖がってるって思わなかったんだよー」


 「ああ、うん。ちょっとびっくりしただけだから大丈夫。元の世界にはあんなのいなかったからね。まあでも、今度からああいう時は、ちょっと相談してくれると助かるかな」


 先に謝られちゃったし、強くは言えなかった。フウコは見た目は可愛らしい女の子だし、そんな子が落ち込んでる感じだったら強く怒るとかはできないよね。


 まあ、こちらにも非があると思うことにしよう。事前にもっとちゃんと相談しておけば、フウコもああいう無茶な、いやフウコにとっては無茶じゃなくて自信があったのかもしれないけど、僕にとっては無茶苦茶な行動には出なかったのかもしれない。


 相談は大事。元の世界でも上司にさんざん言われてきたことだけど、こんなファンタジー世界でその大切さを強く実感することになるとは思わなかった。


 「まあ、僕の方も、あらかじめちゃんと言っておけば良かったよ。怒ってるとかじゃなくてびっくりしただけだから、心配しないで」


 「うん、今度からは気を付けるよー」


 「うん、よろしくね」


 ということで、フウコとはお互い謝る感じで平和に話し合ったが、さて、問題は目の前に横たわっている巨体だ。


 「で、でかい。魔物ってこんなにでかいのか」


 「あー、こいつは割とでかい方だね。人里の方の魔物はもっと小さいやつの方が多いかな」


 「酸を吐くんだっけ?」


 「そうそう。あと、しっぽを振り回して攻撃してきたりもしたかな」


 超怖いじゃないか。さっきこいつがこっちに向かって走ってきてたのを思い浮かべる。どう考えても、僕が走って逃げても追いつかれていただろう。


 本当にフウコが一緒にいてくれて助かった。フウコに会えてなかったら、まず詰んでいただろうな。でも、フウコのせいで怖い思いもしているんだよね。後でしっかり話すことを忘れないようにしなくては。


 そして、これからいよいよあれだ。血液を飲む… これの血を飲むのか? 考えただけで気持ちが悪くなりそうだ。でも、文字通り命に関わることだ。ここは覚悟を決める時だ。


 つばを飲み込み、魔物に近づく。まだ生きていて急に襲い掛かったりとかしないような? 一応、用心していつでも逃げ出せるようにしておこう。


 自分でもはっきりわかるぐらい腰が引けた歩き方で魔物に近寄っていく。傷口、というか断面層?をのぞき込むと緑色の液体がしたたり落ちていた。


 「ねえフウコ、これって飲んでも大丈夫かな?」


 「うーん、さっきも言ったけど、フウコにもわからないよ。人間の体の事とか担当外だし。でも、魔物の肉は人間がよく食べてるから、なんとかなるんじゃないかな」


 うーん、こういうことではフウコは頼りにならないか。どっちにしろ、これで飲めなきゃ詰んでるんだ。やるしかない。


 まずは血が滴っているところに近づく。指を付けて匂いを嗅いでみる。


 特に匂いはしない。触った感触は普通の水と同じだな。よし、いくか。呼吸が荒くなってくる。いくぞ、いくぞ…


 「ケースケ、飲まなきゃ死んじゃうんでしょ? だったらさっさと飲んじゃいなよ」


 フウコ、わかってはいるんだ。でも体が動かないんだ。


 「どうする? 無理やり飲ませた方がいい?」


 「それは止めて! 自分で飲むから」


 フウコさん、怖いです。フウコは善意でもって暴走するタイプだろうか。とにかく、自分のペースでやっていけるよう、後でしっかりとお願いしておこう。


 とにかく、フウコに無理やり飲まされるより自分で飲んだ方がいい。フウコとは短い付き合いだけど、それには確信がある。ええい、やるしかない!


 指を舐めた。そして唾ごと飲み込む。うっ。


 「ごほっ、ごほっ」


 「大丈夫? やっぱり死んじゃう?」


 「う゛、う゛ん、いや、大丈夫」


 フウコさん、簡単に人を死なせないでください。精霊から見て人は死にやすいかもしれないけど、けっこうしぶといので。


 そして、飲んじゃいけないものを飲んだという気がして、つい咳き込んだけど、味も意外なことに無味無臭という感じだった。お腹の調子を伺うが、今のところ異常なしか。


 大きく深呼吸して体に異常がないか確認する。やばいものを飲んだ時の血の気が引く感じとか吐き気とかは感じない。


 これはいけるのか? うん、いけそうだ。今度は、両手に血を受けて飲んでみよう。でも、ごくごく飲むのは勇気がいるので、とりあえずほんのちょっとだけ口に含む。


 ゆっくり飲み込んでみる。どうかな? うん、問題なさそうだ。というか、ちょっと喉が渇いてきていた分、体に染み渡る感じがある。この血が僕の体に染み渡るって嫌だな。


 でも、これは大きな前進だ。一番懸念していた飲み水について、一時しのぎとはいえ、目途が付いたかもしれない。これなら、なんとか人のいるところまでたどり着けるかもしれない。希望が見えてきたぞ。


 だけど… うん、やっぱり魔物の血を飲むのは最後の手段にするか。本当は、今もしっかり飲んでおいた方がいいのかもしれないけど、ちょっとそこまで覚悟が決まってないみたいだ。


 あと、貴重な手持ちのペットボトルのお茶だけど、一口だけ飲もう。こっちの世界の世界に来てからまだ手を付けていなかったけど、このままの口でいるのはなんか嫌だ。


 お茶は色々な意味で貴重品だ。飲みすぎないように気を付けて、ほんの一口だけ口に含む。いつもの香りと味がして、少し泣きそうな気持になった。この味を楽しめるのもあと何度かだけか。残りは…350mlってところか。


 大切に飲もう。ちょっとナーバスな気持ちになっていたが、フウコに話しかけられる。


 「血は飲めたみたいね。よかったじゃん! ところで魔石はどうする?」


 「魔石? 何それ?」


 「えっとね、なんだろ、魔物の中心みたいなもの? 人間達は売ったり買ったりしていたはずだよ」


 要領を得ないけど、人間の社会で売れるものなのか。じゃあ、持って行った方がいいな。


 「どうやって採るの? 解体とかできないけど」


 「そんなの簡単だよ」


 フウコはそう言うと、僕の腕をちょっと握ったあと、腕をぶんぶん振る。すると、ズバズバッとイザドの体が切り裂かれていく。


 「あの体の真ん中あたりの石が魔石だよ」


 あーあの黄色っぽいやつね。7~8センチってとこか。図体のわりに結構小さいんだな。


 イザドの体に指を突っ込んでその石を掴むと、簡単に引き出せた。これもフウコの魔法の力か。やっぱりすごいな精霊。


 「あとは肉も食べられるみたいだけどね。でも焼かないとさすがのケースケでも食べられないかもね」


 何がさすがか分からないし、火をおこす道具もないし、持ち運べる手段もないし、肉はあきらめだな。いつか、道具とかを手に入れたら食べてみようか。うーん、あんまり食欲がわかないけどな。


 まあでも、初めての魔物との闘いは一応合格点ってところだな。自分では何一つやってないけど、フウコに任せれば怪我せず倒せるみたいだし、ここは前向きに捉えることにしよう。よし、この調子でなんとか頑張っていこう。

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