3-6 冒険者たちの奮闘、そしてケースケも奮闘だ!
僕はフウコが示す方に向かって山を駆け上がった。
冒険者ギルドは低ランクがポマズの山に入るのを禁止しているので、規則を破っちゃったことになる。緊急事態ということで許されるだろうか。
あと、人間が魔物と戦っているとして、助けていいものだろうか? 魔物が多いこの山に入っているんだから、多分、冒険者だろう。だったら、魔物を倒したら「俺の獲物を…」とか「余計なことを…」とかって怒られることもあり得る。
もうこれ以上、イメージを下げたくないしなあ。やっぱり、様子を見て、助けに入るかどうか判断するか。
「フウコ、人間の人たちはすぐやられちゃいそう?」
「うーんと、今のところ頑張っているねえ。すぐにはやられないんじゃないかなあ」
「ちょっと離れた所から戦闘の様子を見れないかな?」
「ん? すぐ助けないの?」
「うーん、助けを求めているなら助けるけど、そうでもないのに助けるのは冒険者としてマナー違反かもしれないんだよね」
「ふーん、冒険者ってめんどくさいんだねえ。じゃあまあ、ついて来て」
そんなことを話しながら山道を駆け登っていく。しばらくすると戦闘の様子が分かるとこまで来た。
僕たちが向かった先は、ちょっとした崖の上だった。そして、その崖の下でまさに戦闘が行われていた。
「キッカ、無理しないで!」
「分かってる、けど、こいつけっこう速い!」
「見ればわかるわよ! リヨーナ、魔法は?」
「もうちょっと足止めを! 動きが早くて狙いが定まりません!」
冒険者は3人組の若い女の子たちだった。女の子っていうか、女性かな。1人はフードを深くかぶっているから顔とか年齢とかは分からないけど、後の2人は多分、20歳になるかならないかぐらいかな。
キッカって呼ばれたのが、大きな剣を持っているから前衛だよな。あれは獣人かな? ネコっぽい耳としっぽが見える。リヨーナって呼ばれたフードの子は、首から下げた大きなアクセサリーみたいなのを両手で持っている。魔法を使えって言われていたし、多分、あれは魔道具だな。フード付きのコートの下に来ているドレスみたいな高そうな服から考えても、後衛だろう。
もう1人は、背もあんまり大きくないしスレンダーな感じであんまり前衛タイプに見えないけど、今は魔物に近い位置でやや短めの剣を構えている。
向かい合っている魔物は、ゴリラよりもでかいチンパンジーといった感じの奴だ。そいつは、3人をあざ笑うかのようにバク宙で距離を取って、ギャッギャッていう気持ち悪い声で笑いながら変な踊りを踊った。
それを見て、短めの剣を構えた子が「舐めやがって」と言い、剣を下すと素早く右手を剣から離し、腰に携えた短い杖に持ちかえた。そして、杖を魔物の方に向けて叫んだ。
「炎よ、燃やし尽くせ!」
すると、小さな炎の玉が魔物の方に飛んで行った。うーん、でも、燃やし尽くせる感じじゃないなあ。大きさはサッカーボールぐらいかなあ、スピードも草野球なら打ちごろぐらいの速さだ。
案の定、魔物は余裕を持って腰を反らして炎をかわした。
「ミーちゃん、その魔法じゃ無理だって」
「じゃあどうするのよ! キッカも動きが悪いじゃないの!」
そう言いながら、ミーちゃんと呼ばれた子は杖を腰にしまって再び剣を両手で構えた。
うーん、判断が難しいなあ。キッカっていう子は、多分、怪我をしているな。剣を振るったりするたびに一瞬動きが固まる。だけど、苦戦はしているけど、戦えていると言えば戦えている。介入しちゃっていいのかなあ。
そう思っていた時、ふざけるように踊っていた魔物が突然、ミーちゃんの方に走り出した。
「危ないっ」
とっさにキッカが前に出て薙ぐように剣を振るった。間一髪、魔物がミーちゃんの方に振り下ろした腕がキッカの剣で弾かれる。だけど、キッカはそのまま自分の左腕を抑えてうずくまってしまった。
「キッカ!」とミーちゃんが叫んだが、魔物はお構いなしに弾かれた右腕をぐるぐる回して、キッカの方に向き直った。
よし、ここだ! さすがにこれは、助けに入ってもいい状況だろう。「とおっ」っと叫んで、僕は崖から飛び降りた。
崖の高さは5メートルぐらい。昔の僕なら飛び降りるなんてとても考えられないけど、僕もフウコとの飛行訓練を経て、これぐらいの高さなら全然問題ない。
そして、僕は飛び降りながら右手に力を集め、魔物の方にその力を放出した。あ、やべ、ちょっと狙いがずれたかな。
そう思ったけど、僕の右手から出たカマイタチはカーブを描き魔物の首を見事に切り裂いた。これはフウコさんが制御してくれたな。うーん、飛びながらの攻撃はコントロールが難しいんだよな。後でフウコにお礼を言っておこう。
そして僕は風を出して落下速度を落とし、崖の下に3点着地した。
よし、着地はかっこよくできたかな。そしてここでイメージアップの時間だ。変なトラブルにならないように、笑顔を作って…
「大丈夫、けがは無い?」
そう3人組に話しかけた。
3人は一瞬びっくりしたように僕を見て固まったけど、すぐにキッカと呼ばれていた獣人の子が叫んだ。
「にゃ、にゃんだ今のお! お前がやったの!?」
「魔物の事? それなら僕の精霊魔法でやったけど」
精霊魔法というところに力を込めて言った。みんなから信じてもらえないで折れるわけにはいかない。こっちには、精霊のすごさを知らしめるていうフウコの指示があるのだ。こういうところでアピールして、少しずつでもイメージアップをしていかなければ。
「せいれいまほおぉ!? それって…」「ちょっとキッカ、あなた怪我してるんでしょ。じっとしてなさい」
ミーちゃんと呼ばれていた炎の放出する魔道具を持っていた子が、キッカに言った。そして、その子は僕の方に向かって笑顔を浮かべて言った。
「助けてくださったんですね。ありがとうございました」
可愛い笑顔の子だな。そして、仲間に対して話す声と僕に向かって話す声の差がすごい。かなり裏表があるというか、猫を被るタイプだな。
「うん。それより仲間の怪我を見てやって」
「はい、ありがとうございます」
そうしてミーちゃんは小走りでキッカの方に駆け寄った。
「あーあ、骨が折れちゃってるよ。これは、今日はもう帰るしかないなあ」
「ううう、ごめんにゃ」
「まあ仕方ないですよ。まさかビッグバボヌが現れるとは」
リヨーナと呼ばれていたフードをかぶった子が慰めるように言った。
ミーちゃんが僕の方に向かって言った。
「私たちは冒険者パーティの“虹色の綿毛”です。お名前を伺ってもいいですか?」
「僕はケースケ」
「ケースケさん、助けていただいて本当にありがとうございました。私たちは山を下りることにします。お礼をしたいのですが、あいにく持ち合わせが無くて。大変失礼なんですが、ビッグバボヌの魔石をお譲りするので、それでお礼の代わりとさせていただけませんか?」
ミーちゃんが、ちょっと目を潤ませた上目づかいの真剣な表情で言った。
「ああ、それはいいけど。下まで送ったりしなくて大丈夫?」
「え? あ、ケースケさんは優しいんですね。でも、下まですぐですから大丈夫だと思います。お気遣いありがとうございますね」
そういってミーちゃんは笑顔を浮かべた。可愛いなあ。そして、「優しいんですね」とか言われたのは、会社の先輩にキャバクラに連れて行ってもらった時にキャバ嬢さんに言われて以来だ。なんか、このミーちゃんっていう子、かなりあざとい感じがするんだよなあ。
そして、“虹色の綿毛”の3人は、キッカの応急処置が終わるとそそくさと立ち去って行った。僕も急ぎの用事も無いし、本当に送っていってもよかったんだけど、なんか変な感じに警戒されちゃってないよな。
確かに、3人とも可愛かったし、女性だけのパーティなら他の冒険者とかから言い寄られたり、トラブルになったりする可能性も高いから、警戒心は強くなるかもな。でも、僕は優しく紳士的にふるまっていたと思うし、大丈夫なはずだよな。
その時、フウコが上から降りてきて言った。
「ケースケ、やるじゃん。なかなかかっこよかったよー。やっぱりケースケは可愛い女の子の前だと張り切るよねえ!」
え、フウコには張り切って見えてた? じゃあ、あの子たちにも勘違いされちゃってたかもしれないか!? え、それちょっと恥ずかしいんだけど。
あちゃー。イメージアップできるかと思ったけど、もしかして逆効果だったか? これで、冒険者ギルドで、「精霊がどうとか言ってたやつが女性パーティに付きまとってたらしいぜ」とかいう評判でも立ったりしないよな。もしそうなったら最悪なんだけど。
あ、そういえば、僕は冒険者ランク的に山に入るのは禁止されているんだった。しまった、あの子たちに口止めするのを忘れてた。
うわあ、イメージダウンする原因がまた1つ増えたかも。うーん、イメージアップは難しいなあ。精霊魔法を見せれば簡単に評判が上がると思ったんだけどなあ。




