3-5 依頼は退屈、そして誰かがピンチかも!?
そんなわけで、冒険者の1歩目、いや1歩目以前からつまづいたわけだが、一応収穫はあった。というか、実利的な面では相当の収入があった。というのは、手持ちの魔石が相当の価格で売れたのだ。
もともと、シバ族の村の長老からも、元から僕が持っていた魔石はもちろん、それ以外にも僕が狩った魔物の魔石など相当量を渡されていた。僕も、遠慮はしたんだけど、それでもけっこうな量を受け取る羽目になった。冒険者ギルドで魔石の買い取りができるというので、半分ぐらいをお金に替えたんだけど、それでもうひと財産という感じだ。
具体的には、多分だけど日本円換算で7、8百万円程度にはなったんじゃないだろうか。日本の僕の銀行口座の何倍だ? 確か友達の結婚式のご祝儀があって、ボーナスは出なかったから… いや、せっかく稼いだのに悲しくなるからこれは考えるのを止めよう。
でも、買取窓口的なところで、どうやって魔石を手に入れたのかと聞かれて、「精霊の魔法で魔物を倒して…」とちゃんと説明したけど、何言ってんだこいつ、みたいな顔をされて終わった。
本当は、冒険者登録の段階で、精霊魔法のすごさを示せたりするかなとか思っていたんだけど、そう都合よくはいかなかったな。まあ、それはおいおいやっていこう。冒険者として依頼をこなすなかで、自然と力を示すことになっていくだろう。
とりあえず、今日は、せっかく大金を手に入れたんだし、多少いい宿に泊まっていいベッドで寝ようかな。うん、そうだな、こんなことで落ち込んでいてもしょうがないし、今日は街に着いた記念ということで、豪勢な食事も食べて気持ちを上げることにしよう。
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エンガルトの街に着いてから数日。僕たちは良くも悪くも平穏な日々を過ごしていた。
冒険者登録をした人間向けの講習とかもあったんで受けてみたんだけど、どうっていうことも無かった。魔物の解体とか、やり方をトゥハンを始めシバ族のみんなに教わっていたおかげで、講師の人から褒められたしね。ただ、講習での魔法は使用禁止とか言われたせいで、戦闘訓練では何もできなかった…
だって、剣とか槍とか、触ったことも無かったし、藁人形みたいなのを攻撃しろって言われてもどうすれば分からないよね。講師からも、残念な子を見る目で見られた。なんか、この目も見慣れてきちゃったな。張り切って講習に参加したフウコも講習の途中でどっか行っちゃってたし、なんか散々だった。
そして、もしかしたら、可哀そうな目で見られる原因の1つになったかもしれないのが、僕が元の世界の情報を調べようとしたことだ。冒険者ギルドに図書室があるというので、ちょっと異世界人とかの情報があったりしないかなと思って調べに行ってみたけど、その話も職員の人づてに広がったかもしれない。
精霊魔法とか異世界人とか言って、空想がちな可哀そうな大人みたいな感じなんだろうな… 本当の事なんだけどな… ちなみに、図書室には特に情報は無かった。
そして、依頼も受けてみている。だけど、冒険者ランクが低いとかで、大した依頼は受けられない。どうも、近くの草原での薬草採取とか、そんな感じの依頼しか受けられないみたいだ。僕としては、強い魔物を倒したりとか、もっと派手でフウコが活躍できる依頼がしたいんだけどな。
ちなみに、僕の冒険者ランクはGだ。もちろん、GよりもFの方が偉くてEの方がもっと偉い。そういう順序のGであって、グレートとかジーニアスのGじゃない。なんか、どうも仮免みたいな扱いみたいで、まだ半人前みたいだ。
ランクアップするには、基本的には依頼の数をこなすしかないみたいだ。ただし、戦闘能力が高かったり強力な魔道具を持っていたりすると、ランクアップの際に優遇される可能性があるらしい。そしてもちろん、強大な精霊と契約しており強力な精霊魔法の使い手である僕は、優遇されるはずがないのである。なぜなら、僕の言うことなんて、冒険者ギルドの誰も信じてくれないからね。
そう、僕たちの強さ、精霊魔法が強力であることを示す機会はいまだに訪れていない。なにしろ、強い魔物と戦うとかじゃなければ、強い力を出す必要もない。そして、冒険者ランクが低いから、強い魔物が関係しそうな依頼は受けることが出来ない。
つまり、今できることは、ほとんど危険のない誰にでもできるような依頼を受け続けることぐらいだ。それを何年も続けて、ようやく冒険者ランクも上の方に上がっていき、フウコが実力を発揮できる舞台に上がることになる。
うーん、まどろっこしい。何年もかけて力を付けて重要な役割を任せられるようになるって言うのは、確かにちゃんとした仕組みかなとも思う。そういえば、日本にいた時の職場もそんな感じだった。だけど、今の僕はそうとう強力なチート持ちのはずだ。機会さえ与えてくれたら大活躍できる自信はある。
フウコもこないだ、「冒険者ってけっこう地味だよね」みたいなことを言っていた。僕も派手に活躍したいんだよ。でもきっかけがなあ。突然空を飛んでみたりしても、力は示せるかもだけど、変な人っていう印象は強くなるだけだろうし。
僕の当面の目標は、冒険者として活躍して、有力者との“伝手”を作ることだ。力を示すのは大事だけど、これ以上変人という印象がつくのは避けたい。街中で突然、僕やフウコの精霊魔法を使っても、頭のおかしい魔法使いぐらいの印象しか生まれないだろうしなあ。
他に出来ることはあるかなあ。一応、低いランクの冒険者が難しい依頼を受ける方法もある。それは、上位ランクのパーティに入ることだ。そうすれば、上のランクの難しい依頼を受けることもできるようになる。
これは、僕としては望むところなんだけど、なにしろ僕のイメージがなあ。妄想がちで戦闘力のない、解体とか料理とかがちょっとできるだけの若いとは言えない未経験者。これがエンガルトの街での冒険者界隈での僕のイメージだ。
そんなやつと組みたいと思う冒険者なんて、なかなかいないだろうしなあ。じゃあ、どうやってイメージアップをするかというと、やっぱり力を示すことかなあ。でも、そのためには…
そんな感じで頭の中で堂々巡りをしながら、僕はエンガルトの街の南の草原で薬草採取に励んでいた。
薬草採取は、Gランクでもできる数少ない依頼だ。なんでも、ポーションという傷薬の材料になるらしい。まあ、大事な仕事なんだろうけど、正直あんまり身は入らない。なにしろ、つまらない。あと、フウコの魔法が関係ないので、フウコも退屈だ。姿勢も悪いんだろうけど、腰とか足とかも痛くなってくるし。はあ、もっと派手な戦いとかがいいなあ。
ちなみに、薬草が取れる草原はポマズとかいう山の裾野にあって、山の深い方では強い魔物が出るらしい。強いっていっても、フウコに見に行ってもらった所、「うちらなら楽勝だよー。なんならフウコが根絶やしにしてあげるけど」というぐらいだから、そんなには強くないんだろう。
根絶やしは色々問題がありそうだからやらないとして、山には入ってみたいんだけどなあ。それで、強いとされている魔物を簡単に倒したりすれば、周りの見る目も変わるかもしれないし。でも、冒険者ランクがD以上じゃないと立ち入りすら禁止されている。無視して入っちゃうことも考えたけど、ルール違反がばれてイメージダウンになる可能性もあるしなあ。
うーん、なにかいい方法はないかなあ。そう思いながら、僕は薬草採取の手を休め、ポマズの山を見上げていた。なんか、ふもとから見上げたら、急峻過ぎないレジャーとかにもよさそうな山に見える。高尾山よりは高そうかなあ。山頂まで行ったら見晴らしもよさそうだなあ。僕がそんな感じでぼーっとしているとフウコが言った。
「ねえねえケースケ」
「ん? どうかした? 退屈したなら遊びに行ってもいいよ」
「なんかさあ、山の中で人間と魔物が戦っているみたいだよ。退屈だし、人間が負けそうだし、ちょっと覗きに行ってみない?」
え、えっ! 人間が負けるの? 退屈しのぎの内容じゃないよ、それ! どうしよう、きっと助けに行った方がいいよな。




