3-1 長い旅、そして人里に到着しました
シバ族の村を出発してから約1か月半、僕はようやく人里が見える所まで来た。
「ふおおおおおー!」「ふあああああー、人間だねえ!」
僕たちは小高い所から遠くの方を眺めている。実は、僕にはまだ人は見えなくて、建物らしきものが見えているだけだ。フウコには人が見えているのかな? それとも適当な事を言っているだけかもしれない。
だが、ともかく、僕は人の手の加わった物をひっさしぶりに、ほんとーーっに久しぶりに目の当たりにしている。はあ、感動だ。なんなら、シバ族の村はテントみたいな住居だったので、地面に固定された建造物はこちらの世界に来たから初めて、つまり、半年ぶりぐらいということになる。
ここまで、本当に長かった… 僕の脳内にこの旅の思い出が走馬灯のように駆け巡る。
最初は海の移動だった。シバ族の村人が作ってくれた小舟は、乗り心地こそいまいちだったけど、快調に進んでくれた。なにしろ、フウコのおかげで常に追い風、そして、水の精霊さんのおかげで、潮の流れもたいていは後ろから進行方向に流れている。
心配していた海の魔物の襲撃も全くと言っていいほどなかった。時々、フウコと水の精霊さんが舟の進路を変えて魔物を避けていたみたいだし、本当に精霊さまさまだな。
夜は上陸してテントを張った。無理をすれば夜の間も移動できるみたいだけど、慎重に行動したかったし、それに、舟の座る所も狭くて硬くて座り心地は良くないし、さすがに夜ぐらいはゆっくり休みたかった。
そして、昼は毎日舟で移動、と言いたいところだが、実は何日も陸にいる事もあった。というのは、水の精霊さんの引継ぎ待ちという不思議な時間があったりしたからだ。
もともと、海を住処にしている水の精霊さんには担当領域があって、その範囲内のみ一緒に行動してくれるというのは、マカナラ川の精霊のマカナから聞いていた。じゃあ、担当領域を外れるときにはどうするかというと、近くの陸地に上陸して、次の担当の精霊さんを待つことになる。
なるほど、しっかり考えられてると思ったけど、1つ想定外の事があった。精霊さんたちはけっこうのんびりしてたりするので、次の担当精霊さんが来てくれるまで何日も待たなければならないケースがあったりしたのだ。
そんなときは、精霊さん相手にイライラしても仕方ないしなと割り切って、魔物を狩って食料の備蓄をしたり、魔法の練習をしたりしていた。魔法も、多少はうまく使えるようになったかなと思う。フウコにも、「んー、まあ一応合格点?」という高評価?を貰えている。
そんな感じで、海の旅はそれなりにのんびりと進んだ。まあ、舟の床が硬くてお尻が痛くなったり、波が激しくなったら船酔いをしたりとかはあったけど、命の危機にも直面しなかったし、不測の事態も起きなかったし、まずまずのんびりしていたと言っていいだろう。
そのまま旅が終わればよかったのだが、残念ながらそうはいかなかった。シバ族の村の長老と相談した時に、海沿いを進んでたどり着く国を避け、内陸の国を目指すことに決めていたのだ。なんでも、海沿いの国は色々ときな臭い国らしい。
というわけで、慎重に山とか川の風景とかを見定め、僕がノートに書き写した地図とにらめっこし、目標にしていた川をさかのぼる所で、川の流れに逆らって舟で進むのは大変じゃないかということになり、そこで舟とおさらばすることになった。
そこからは、重い荷物を持って川沿いを歩いた。道も無いし、もちろん舗装なんてされてないし、これは普通に大変だった。まあ、僕の場合、フウコが様子を見てきてくれて回り道とかも教えてくれるし、水は川の精霊さんが補給してくれるし、魔物の対処もフウコにお任せできるし、精霊さんのおかげでずいぶん楽をしているんだろうけど、それでもこれだけ大変なんだから、やっぱりこの荒野は普通の人では移動すら困難な場所なんだろう。
そして、木1つ無い荒野から、少しずつ植物が生えている地帯に入り、川の精霊さんともお別れして川から離れてしばらく進んで、ようやく、ようーーーやく、人里の近くまでたどり着いたのだった。
はあ、感慨深い。もうずっとあの建物を眺めていたいぐらいだ。なんならちょっと涙目になってると思う。
だけどそういう訳にはいかない。これからは、あの村の人たちに受け入れてもらうという別の種類の戦いが始まる。シバ族の村の時もそうだった。あの時は、泣き落としをしたり土下座をしたり、大変だったなあ。今回は、もうちょっとスマートに行きたいなあ。
まあ、今回は受け入れられなければ別の村なり町なりに行けばいいだけだし、そこまで切羽詰まってはいないかな。それでも、トラブっていいことなんて何もないんだから、ちゃんと挨拶して、あやしい者ではないことを分かってもらって、できれば食料なんかを売ってもらって「ねえケースケ、あの村、魔物に襲われてるよー」
ん!? そうなの? え、ちょっとのんびり感慨にふけっている場合じゃないじゃない。フウコ、そういうのは早く言ってよ!
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僕たちがダッシュで村に向かうと、魔物の群れが村の柵に迫っているのが見えた。でかい熊みたいなのが1頭。それに、狼みたいなのも10匹ぐらいはいる。熊みたいなやつは四つん這いでも僕より高そうだ。
それに対して、村人は、柵の外で戦士みたいなのが3人。前衛の2人は剣と盾を構えており、後ろの1人は、小さな棒のような物を構えている。あれは多分魔道具だろうな。
柵の内側からも、矢とか石とかが飛んできている。だけど、魔物が素早く躱している。
「デカブツを狙え!」「分かってるよ! あいつ素早いんだよ!」
そんな切羽詰まったやり取りの最中に、後ろの1人が棒を振り下ろした。
ゴオォという音が鳴り、魔道具から炎が噴き出した。おおっ、すごいな。だけど、魔物たちはこれも躱した。
「ケースケ、どうする? やっちゃっていいよね?」
うーん、村人たちは苦戦しているみたいだし、参戦していいよな。「余計なことを」みたいな感じで怒られるパターンも考えたけど、この感じなら大丈夫だろう。
そして、「フウコさん、やっておしまい」的な感じでフウコに任せたら、多分一瞬で魔物がオシマイになるんだろうけど、ここはアピールのためにも、多少は僕も体を張った方がいいよな。それで、あわよくば少しは恩を売れればいいしな。
決めた。ここは戦闘だ。フウコと契約した僕の力を見せてやる!
この投稿から3章に突入します。
この章ではケースケが冒険者になって活躍したりしなかったりする予定です。
よろしくお願いします。




