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2-22 出発の日、そしてエインさんにお礼

 化け物の襲撃から約1カ月後、舟のテストも終わって、いよいよ出発の日を迎えた。


 この1カ月もそれなりになんやかんやあったような、まあでも平和だったかな。


 化け物の襲撃の直後は、契約病のことなんかで色々と大変だった。村も、林の復旧とか、同じような化け物に襲撃された場合の避難方法の検討とかでバタバタだった。だけど、みんな割とすぐに落ち着きを取り戻した。


 そして、その後も村は順調に発展していった。化け物の襲撃で長老も色々考えたんだと思うけど、1番の対策として、林の拡張をこれまで以上に進める事になった。林が大きくなれば、エインさんの力も増すし、村の守りも固くなる。もともと、村を囲むように林を拡張する予定だったが、さらにそれに厚みを持たせることにしたようだ。


 あと、この1月で他には何があったかな。えっと、フウコとの仲は進展していない。


 いや、進展とかじゃないのかな? 契約の特徴とかは分かったんだけど、結局、僕とフウコはどんな関係なのか。恋する人と書いて恋人? ま、まさか、け、結婚したということなのかな? 色々悩んだんだけど、聞いてみても、「契約は契約だよー」という、全然分からない答えしか返ってこなかった。


 そして、その後もフウコとの関係は特に変わらない。違いは、時々、フウコが頭を撫でてくれるようになったことぐらいかな。


 あと、フウコが気まぐれにそばに寄って来て僕を見上げるようにしているので、それは頭を撫でて欲しいのかなと思ってそうしている。なんか、ペットみたいになってきたな。


 そんなわけで、フウコとの関係がどうあるべきかっていうのはよく分からないんだけど、まあいいのかなって思っている。ただ、フウコの頭を撫でている時にマラマちゃんに見られて、マラマちゃんに口を両手で押さえて驚かれた。あの驚き方、漫画とかでは時々見るけど、実際に見るのは初めてだな。変なところを見られて、けっこう恥ずかしい。


 よりによってマラマちゃんに見られるかぁとも思ったけど、よく考えたら、フウコの姿が見えない普通の人にとっては、僕が1人で変な動きをしているだけなんだよな。精霊の理解がしっかりしているマラマちゃんに見られたのはましな方だったのかもしれない。ともかく、これからは気を付けよう。


 そして、もちろん、マラマちゃんとの仲も進展していない。というか、進展させる気なんかないんだけど、精霊の皆さんからは変な期待を感じる。フウコからは「フウコのことを大切にしてくれるのは嬉しいんだけど、人間の女の子との仲を深めるのも大事だからね。ケースケはそういうの苦手なんだから、その分頑張らないと!」っていわれたけど、いや苦手とかじゃないから。


 なんかそんな風にいろいろ言われるから、ちょっとマラマちゃんと話すのが気まずい感じもある。せっかく仲良くなれたし、出発までには楽しく話せるようになりたかったんだけどな。


 それから、長老とは何度も話した。何しろ、荒野を出て人が多いところに行くとしても、どこを目指すべきかということは長老の知識が頼りだったからな。


 長老も親身に相談に乗ってくれて、世界地図を見ながら何度も話した。なんか、村人たちがもともと住んでいた国なんかは、専制的で住みにくい国みたいだし、他にも紛争中の地域とかもあるみたいだし、だからといって遠い国や情報が少ない国には行きたくないし、そう考えると結局、行先は限られてくる。


 世界地図も元の世界から持ってきたノートに出来るだけ正確に書き写した。この情報が生命線になるかもしれないしな。ただ、村人たちがいたという大陸の東側以外は、あまり正確ではないらしい。


 長老は他にも、それなりのお金や魔道具なんかもくれたし、街に行ってからの行動なんかにも色々とアドバイスをくれた。


 もちろんお礼をいったんだけど、そしたら長老は居住まいを正して、こう言った。


 「ケースケには助けられてばかりだ。これぐらいのことは当然だ。ただ、もしこの村に好意を持ってくれているならば、頭の片隅に置いておいてほしいことがある。いつか、もしケースケが何かしらの立場を得たり力を持った時には、できることならば、この村と他の地域とのつなぎをつけることを考えて欲しいのだ」


 つなぎをつけるってどういうことか聞いてみると、村と他の地域との交流ということだった。例えば交易のようなものだ。


 確かにこんな荒野の村では、行商人も来ることが出来ない。自給自足で相当の物をまかなえるようだが、例えば薬なんかでも、かなり多く持っているようだが、入手する手段がなければいずれは尽きてしまう。魔道具などもいつかは壊れてしまう。どうしてもそれを入手する手段が必要なのだ。


 長老も、村の基盤を整えつつ、どうにかして他の地域との関係を繋げる手段を模索しようとしていたようだ。で、僕ならそれが出来るのではないかと考えたわけだ。


 まあ、僕にそんな力とか立場とかが得られるかは分からないけど、この村のためなら出来るだけの事はしようと思う。僕も助けられたし、何より村のみんなの事が好きだしね。


 長老にそう言ったら、目に涙をためて長々とお礼を言われた。


 お礼の長さには辟易だったんだけど、長老もいい人だったなあ。突然、荒野のど真ん中に来ることになって、どんだけ不運なんだって思っていたけど、この世界で最初にあった人(精霊を除く)がこの村の人たちだったのは、幸運なことだったのかもしれないな。


 もちろん精霊さんたちのおかげでもあるんだけど、たどり着いたのがこの村じゃなかったら、こんなにスムーズにこの世界になじめなかったのかもしれない。やっぱり村の皆さんには感謝だな。


 あと、長老からはシバ族の過去とか、なぜこの場所にいるのかとかも聞いた。色々と入り組んでいたけど、まあ要するに、国のいざこざに巻き込まれたためらしい。どうも、村の人たちがもともと住んでいた国は面倒な国みたいで、あんまり近づきたくはないな。


 さて、村を出発する前に挨拶しておかなければならない人、というか存在がまだ1人いる。だから、今日は朝ご飯を食べたらすぐに林に来た。


 「エインさん、マカナ、おはよう」「おはよー!」


 「ケースケさん、フウコさん、おはようございます」「おはよう。あなたたいは相変わらずのんびりしてるわね。こっちの準備は済んでるわよ」


 「大丈夫、エインさんへの挨拶が済んだら出発するよ」


 ちなみに、マカナには海まで一緒に来てもらうことになっている。


 「エインさんには、本当にたくさんお世話になりました。ありがとうございました」「エインちゃん、ありがとねー」


 「いえいえ、こちらこそお2人には、ひとかたならずお世話になりました」


 おお、さすがエインさん。「ひとかたならず」なんて言葉初めて聞いたかも。


 「そこで、ケースケさんにはお礼の気持ちを込めて、餞別(せんべつ)を用意しております」


 エインさんはそういうと、僕の右腕に手を伸ばした。精霊からの餞別か、わくわくするな。


 お、僕の手首を握ったエインさんの両手から、木の枝が伸びてきた。その枝は僕の手首から、らせん状に2周りぐらいして止まった。なんだろう、一種の腕輪かな。


 エインさんがふっと息を吐いてから言った。


 「これには私の力が込められています。ですので、ケースケさんの魔力を通すことで、一度だけ私の力のようなことができます。詳しい使い方はフウコさんに聞いてください」


 「りょうかーい。ケースケ、これはいいものだよ!」


 おお、すごそうだな。例えば、木を成長させたり出来るということかな。見た目も、紋章みたいな模様だし、ちょっと中二病チックだけどかっこいい。


 「ありがとうございます。大切にしますね」とお礼を言ったら、ニコッと笑ってくれた。この笑顔を見られるのも今日が最後か。フウコの無邪気な笑顔も可愛いけど、エインさんの上品で優しい笑顔も素敵なんだよな。マイナスイオンもりもりの幸せな気分になる笑顔だ。


 そんなことを考えていたら、「はい。あと、フウコさんの事も大切にしてあげてくださいね」と言われてちょっとヒヤッとした。なんか、精霊の皆さんにはけっこう心を読まれる気がするんだよな。そういう能力があるわけじゃないだろうな。


 それにしても、ここでフウコとエインさんと、時々マカナも混ざってお話しするのは幸せな時間だったな。もう少しおしゃべりしていたかったんだけど、マカナに「あなたたち、そろそろ行った方がいいんじゃないの。村の人たちが待っているわよ」と言われた。振り返ると、トゥハンが様子を見に来てくれていた。


 「うん、そうだね。では、名残惜しいですが僕たちは行きますね。もし土の大精霊さんに会うことがあったら、とっても感謝していたと伝えておいてください」


 「それはあの方は喜ばれるでしょうね。では、またお会いしましょうね」


 「はい! じゃあ行ってきます! マカナは後でね」「じゃあ、エインちゃん、またそのうち遊びに来るねー」


 というわけで、僕の癒しスポットだったこの林とも一旦お別れだ。別れって、なんか苦手なんだよね。エインさんにも、いつかまた会えるといいな。

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