2-15 化け物が来る! そしてフウコとの契約!?
「みんな、フウコでも無理だ。エインさんも逃げろと言っている。早く逃げよう!」
「しかしエイン様は大丈夫なのか!?」
長老が上ずった声で言った。
「あの化け物の標的は村人みたいです。僕たちが逃げたらエインさんも危険ではないはずです!」
「だが、村は蹂躙されてしまうぞ!」
「しかしどうする! 攻撃が効かんことにはどうしようもない!」
やばい、村人たちが逃げてくれない。せっかくいい感じに発展してきた村だ。簡単には放棄できないか。でも…
「ケースケさん、早く! 長くは持ちません。この魔物は足も速いです。村人が逃げても追いつかれるかもしれません」
エインさんの声が響く。
「みんな、エインさんの足止めが解けてしまうかもしれない。早く逃げなきゃ!」
村人たちがこちらを見る。みんな泣きそうな顔をしている。
「ケースケ、何か手は無いのか!?」
トゥハンが言った。時間が無い。早く逃げるべきだけど、あの化け物に対抗できる手段はあるか?
「フウコ、土の大精霊さんに援軍を頼めないか?」
「無理。近くに気配を感じない。それに、あいつは人間と魔物の争いには関わりたがらないはず」
くそ、大精霊さんならって思ったけど… だめだ、やっぱり逃げるしかない。
「無理だ。みんな早く…」
僕がみんなに呼びかけようとした時、林の方でズゴンと音がした。やばい、化け物が起き上がってこちらを睨んでいる。体に巻き付いたツタも、後ろ足以外は千切れるか解かれるかしてしまっている。駄目だ、このままじゃ皆殺しにされちゃう。
そう思ったけど、フウコが声を張り上げた。
「まだ話してるから、もうちょっと待っててー!」
そしてフウコが両手を前に突き出すと、太いビームみたいに見える風が化け物の方に突っ込んでいった。ビームは化け物の額のあたりにぶち当たり、化け物の頭を後ろにはじいた。
化け物にはすかさずツタが絡みつく。すげえ、巨岩みたいな頭が後ろにぶっ飛んだみたいに見えた。化け物ものけぞってちょっと後退したし、フウコはまだあんな技を持っていたんだな。
だけど、化け物は頭をぶんぶん振って、またこちらを睨む。くう、これでも倒すことはできないか。
「みんな、無理だ、早く逃げるんだ!」
僕は叫んだ。トゥハンが「くそっ」と言うのが聞こえた。
「長老、早く判断を!」
「分かった。皆の者、全力で逃げよ! エイン様のご尽力を無駄にするな!」
長老がそういうと、その場にいた全員が後ろを向いて駆けだす。僕も急いで逃げ出さなくちゃ。
しかし、走り出した僕にフウコが言った。
「ケースケ、無理かも。さっきケースケからもらった魔力も尽きかけてる。あいつがエインちゃんのツタから抜けたら、もう私じゃみんなを守れないかも」
「でも逃げるしか手は無いだろ!?」
「でもこのままじゃ、ケースケを守るだけで精一杯かも。もしかしたらそれもきついかもしれない。私じゃあいつを倒せないし」
え、嘘だろ。全滅? 僕もあんな化け物にやられちゃうのか?
「なんとかケースケだけは逃げれるように頑張ってみる。それか、あいつをやれるとしたら…」
「なんか手があるのか? あるならやってくれ!」
フウコ、頼む! 僕だって村まで走って来て体力はもう無いんだ。あいつに追いつかれたら一巻の終わりだ!
「ケースケが私と契約したら、多分何とかなる」
契約、でもそれって…
「かなり強力な契約じゃなきゃ駄目だろうし、ケースケの寿命がけっこう縮んじゃうかも」
うわ、急にそんな決断しなきゃなの!?
「どうしよう!? ケースケだけ逃がすなら、このままでも多分何とか出来るかも。でも、村の人間を全部守るのは無理な気がするー!」
フウコが泣きそうな声を出した。だけど、土壇場でそんなこと言われても決められないよー!
その時、後ろでブチブチっという音が聞こえた。走りながら振り返ったら、化け物がこっちに走り出している。速い! だめだ、すぐ追いつかれる!
えっ、前を走っていた村人が1人、振り返って立ち止まった? え、トゥハン、何してるの!? 早く逃げろ!
トゥハンは腰に下げた短剣型の魔道具を抜いて叫んだ。
「俺が足止めする! みんな走れ!」
長老が「駄目だトゥハン、お前も走れ!」と叫んだが、トゥハンは短剣を化け物に向けて詠唱を始めた。
トゥハン、駄目だ、その魔道具の威力じゃどうにもならない。
「トゥハン、無理だあ」
僕は走りながら叫んだ。こちらを向いたトゥハンと目が合う。トゥハンは詠唱を続けながら僕を見て、小さくうなずいた。
駄目だ、トゥハン、駄目だって。マラマちゃんに約束したんだって。僕が何とかするって。トゥハンだけは逃がさなきゃ、マラマちゃんに合わせる顔がないんだよお。
でも、トゥハンは覚悟を決めている。僕の説得で気持ちを変える奴じゃない。それは短い付き合いの僕でもわかる。
だけど、でもでも、トゥハン、それはだめだ。でも、寿命? 寿命ってどれくらいなんだ? じいちゃんは93歳まで生きた。ばあちゃんは95歳だ。僕の寿命ってどれくらいなんだ? 契約したら、あと何年生きられるんだ? なんなら、僕の人生、まだ始まったばっかりだぞ!?
「くそぅおうーーーーーーー!!!」
僕は訳の分からない叫び声を上げて、急ブレーキで止まって振り向いた。止まり切れず、勢い余ってすっ転ぶ。でもそれどころじゃない。もう僕の寿命の長さを信じるしかない! じいちゃん、ばあちゃん、ご先祖様、お願いします!
「フウコー! 契約するううーー!」
「いいの? ケースケ、寿命だよ!?」
「いい! 決めた! このままじゃ駄目だ! フウコ、契約してくれえー」
「分かった、絶対みんな守ろうね!」
フウコはそう言うと、尻もちをついている僕に両手両足で抱きついてきた。
え、フウコ? 僕もとっさにフウコを抱きしめた。あ、柔らかい。ああぁ、化け物が迫ってくるのが見える! 口がでかい! 喰われちゃう! フウコ!? 駄目だ、いろんなことが起こりすぎて脳の処理が追い付かない!
フウコはそのまま僕の頭を抱きしめるように抱え込んだ。うわ、フウコ、ちょっとその体勢やばくない!? 顔に柔らかいものが… え? フウコの体が淡く光っている!?
そしてフウコは僕の頭の後ろに回した手をほどき、今度は僕の頭を両手で挟み、自分の顔の方に向けた。あ、首がグキッていったけど!? え、フウコ!?
そして、フウコの顔がそのまま僕の顔に近づいてくる。え、これって!? フウコが目を閉じている。あ、フウコの口が僕の口に!? ちょっとフウコ、これって!? あ、僕の息がフウコに吸われる。うわ、フウコの舌が僕の口の中に入ってくる!? いいの? いや、違う、これ舌じゃない何かだ!
僕は口から魔力がごっそり吸われるのを感じた。そして、それを埋めるように、何かが僕の体に入ってくる。あ、熱い! これなんだ!?
フウコが両手を僕の頭から離した。フウコの顔も僕の顔の前から離れる。なんかもったいないか!? 違う、それどころじゃない! 今度は化け物の顔が迫ってくるうー!
「ケースケ、やっちゃえー!」
え、やっちゃえって何をするの? フウコ、説明不足だって! うわあ、化け物に食われるうううーー! フウコ、どうすればいいか教えてえー!




